ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第9話:”まやかし”

ぎぇんぎぇんぎえええええええええん

 

 

 

 ──あたり一帯に不気味な叫び声が響き渡る。

 ムウマージの周囲に炎が浮かび上がる。

 魔力の炎によって相手を燃やす技──即ちマジカルフレイムだ。

 麻痺させられて追い詰められたことで、いよいよ本気を出してきたということだろう。

 軌道を見切ろうとした矢先、オドシシの身体に炎が燃え広がる。

 

「ッ……マジかよ!?」

 

 それは文字通りの自然発火。

 回避等、並みのポケモンに出来るはずもない。

 悲鳴を上げて仰け反るオドシシ。

 流石に元が高速アタッカーの種族値をしているだけあって、その威力は強烈だ。

 しかし、その身体はビクビクと痙攣しており、鈍い。

 次の攻撃を繰り出すまでに、まだラグがある。

 

(──それまでに何とかユイを助けたい……!!)

 

 ちらり、とレアコイルの方を見やる。

 エネルギーを磁石型のユニットに溜めてはいるが、放つ様子はない。

 表情からは何を考えているか分からないレアコイルだが、その様子から自分と同じく歯がゆい思いをしているだろうとメグルは考える事にした。

 

「えっへへへ……父さん……父さん……!」

 

 虚ろな顔でユイはぶつぶつと呟き続ける。

 死んだはずの父の姿が彼女には見えているのだろうか。

 そのまま彼女はぽつりぽつり、と何かをムウマージに喋りかけ始めた。

 

「……ねえ、お父さん。あたしにはやっぱり、キャプテンなんてムリだよ……本当は才能なんて無いの、あたしが一番分かってる……」

 

 それは、己の無力感の吐露であった。

 

「全然、お父さんみたいに出来ないんだ。あたし、失敗してばっかりで……皆にも迷惑かけて」

「……そんな事、ずっと考えてたのか……?」

「レアコイルだって、あたしの事、見放してるよね……いっつも無茶させちゃってさ。やしろに大きなオニドリルが出たけど、あたし……ヌシ様が居なきゃ、どうなってたか分からないし」

 

 メグルには思い当たる節が無いわけではなかった。

 やしろのもりでの出来事だ。彼女は、オニドリルとの戦闘の事をずっと気に病んでいるようだった。

 それほどまでに、レアコイルには信用を置いているし、置いているが故の過ちだったのだろう。

 最も、相手は初めて現れたリージョンフォームのポケモン。それがよりによって最も相性の悪い地面タイプだったため、一概に彼女が悪いとは言えないのであるが。

 

「……あたし、やっぱキャプテン向いてないよ。ヌシ様も、それが分かっててあたしを認めてくれないんだ。あたしの中で最高のキャプテンはお父さんだけだよ。また、あたしに色々教えてくれるよね?」

 

 ずっと急に亡くなった父への思いを抑え込んでいたのだろうか。

 周囲には気丈な「キャプテン代理のユイ」を演じていたのだろうか。

 メグルの前では「頼れる先輩トレーナー」として振る舞っていたのだろうか。

 だとすれば、心に綻びが出来るのは当然の帰結であった。

 

「……やっぱり悩んでたんだな」

 

 ──メグルの前では彼女は立派なトレーナーであった。

 彼女を通して、如何に先代のキャプテンが偉大かを伺い知れた気がした。

 

「休めば良いだろ、逃げて良いだろって言ったところで──それだけ責任感が強いから、今までキャプテン代理としてやってきたんだろうけどさ」

 

(辛いことがあったらゲームに逃げてきた俺には真似出来ねーよ)

 

 その重圧は、勝手に外野がとやかく言えるほど軽いものではない。

 偉大な父。周囲からの期待。想像を絶するものであっただろう。

 仮にも一度、おやしろめぐりを達成した実力者であることがプレッシャーを余計に重くしたはずだ。

 そこから逃げたいという思いを、亡くなった父にぶつけたくなる気持ちはメグルにも理解出来た。

 しかし。

 

 

 

「でも──これだけは言える。まやかし見せられて決めた選択なんて、クソ喰らえだろ」

 

 

 

 ──それはあくまでも、彼女の手で決めるべきだとメグルは考える。

 今の彼女はムウマージに惑わされ、正気を失っている。

 そんな状態の判断が、一体何の意味を持つだろうか。

 彼女の道は結局、彼女自身が決めるしかないのである。

 

「──それにレアコイルはお前を見放してなんかない。それを今から証明してやるよ──オドシシ、まだやれるよな!!」

「ぶるるるるるるぅぅぅ!!」

 

 オドシシの咆哮がその場に木霊する。

 脅かす者。惑わす者。両者がぶつかり合おうとしていた。

 しかし──麻痺が此処で効いてきた。ムウマージは起き上がることが出来ず、立ち上がりはオドシシの方が速い。

 地面を蹴り、急接近。

 そのまま角を目玉に見立てたかと思うと──

 

 

 

「──オドシシ、ブチ破るぞ!! ”おどろかす”でアイツを怯ませろ!!」

「ぶるるるるるるぅぅぅ!!」

 

 

 

 ──渾身の霊気を纏った恐怖の叫びが放たれ、ムウマージは怯んでしまう。

 その一瞬の隙が最初で最後のチャンスとなった。

 さっきのマジカルフレイムでオドシシは大ダメージを受けている。

 

「んでもって──イチかバチかオドシシ、”さいみんじゅつ”だ!!」

 

 角を目玉に見立てることで強烈な催眠が発動する。

 しかし、既にムウマージは麻痺状態。

 ポケモンは一度に2つ以上の状態異常になることはない。

 何も起こらないことに業を煮やしたのか、再びマジカルフレイムの態勢に入るムウマージ。

 

(狙いは──!)

 

 ──尤も。そんな基本中の基本、メグルが理解していないはずがない。

 

 

 

()()()の方だ!)

 

 

 

 ぱたり。

 ユイの身体が地面に力無く倒れ込む。

 ムウマージの身体から彼女が離れた一瞬をレアコイルは見逃さなかった。

 再びムウマージがユイを取り込もうとする隙など与えない。

 既にエネルギーは溜めていたので、チャージ時間は不要。

 浮かび上がっていたので、射角と射線も確保。打ち下ろす形で、最大火力の閃光がムウマージの顔面目掛けて真っ直ぐ放たれる。

 

 

 

【レアコイルのラスターカノン!!】

 

 

 

 ──収束する光を避けられるはずもない。

 偽りもまやかしも全て晴らすかのように周囲は一際明るくなり、ぐるぐると回転しながらムウマージは崩れ落ちる。

 しかしそれでも辛うじて動ける様子であったが、

 

 

 

「──悪いな、ゲームセットだ。”ねんりき”!!」

 

 

 

 ──至近距離からの念動力を受け、漸くムウマージはその場に斃れ伏せるのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──ユイ。ユイ!!」

「……んぁ」

 

 

 

 外の月は、元の色に戻っていた。

 ユイは何が何だか分からないといった様子で目を開けると──真っ先に視界にメグルの姿が入るのだった。

 

「っ……何よ、どうしたの……あたし……頭、痛──ッ!?」

 

 妙な肌寒さで、漸く彼女は自らが置かれている状況に気付いた。

 上着こそメグルのものが掛けられているが、寝袋に入っていた時の下着姿のままだ。

 襲われたと思ったのか、彼女は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「ヘ、ヘンタイ!! あ、あたし、なんでこんな姿で外に──ッ!?」

「違う違う!! あれを見ろ、あれを!!」

 

 メグルは慌てて指を差す。

 そこには、レアコイルが瀕死寸前のムウマージを押さえつけている光景が広がっていた。  

 どこから生えてきたのか分からない野生ポケモンを、相棒が押さえつけているのを見て、ユイは目をぱちくりとさせていた。

 それを踏まえて経緯を話すと、漸く彼女も落ち着いて来たのか、頭を下げるのだった。

 

「おい、そこまでしなくても──」

「ごめん。本当にごめん!! 錯乱してたみたい。薄っすらあたしも……思い出して来た。助けて貰ったのに疑うなんて」

「いや、誤解を受ける状況でしかなかったからさ」

「テントの外に出たら、月が赤くて……死んだはずの父さんが出てきて。そして着いていってるうちに訳が分からなくなって……そこから先は覚えてない」

「……そうか」

「でも、夢を見てた。父さんが生きてる夢。ずっと、あたしの憧れのキャプテンで居てくれる夢を」

 

 彼女はムウマージに近付いていく。

 その体躯は一般の個体の5割増しで巨大だ。

 

「本当に一際大きな個体ね……特殊個体?」

「ああ。そこが気になるんだ。()()()()みたいなもんかなあって。でも、俺がボールを投げてもなかなか捕まらなくってさ」

()()、とは言い得て妙ね。特殊個体なのかもしれない。でも、目が赤く光ってる」

 

(……この反応。この地方ではオヤブンは一般的な存在じゃない?)

 

「そもそも、野生のムウマもムウマージもこの辺りに出てくるなんて初めてなんだから。異常事態よ」

 

 その瞳は未だに赤い炎が揺れている。闘争心や狂暴性がそこに現れているようだった。

 レアコイルで押さえつけていられるのも時間の問題だろう。

 しかし、メグルでは何度ボールを投げても捕まえる事が叶わなかったのである。

 大分弱らせたにも関わらず、である。

 これ以上はボールのムダと判断したメグルは、ユイが起きるまで、レアコイルにムウマージを押さえつけてもらうことにしたのだった。

 

「試練をクリアすることで貰える証を持っていると、強いポケモンでも捕まえやすくなるのよ。こいつデカいし……余計に捕まりにくいんじゃないかしら」

「じゃあ俺が幾らボール投げてもムダってわけか」

「そうね。それで君の手柄を横取りするようで悪いんだけど、この個体、あたしが捕まえた上で博士に調べて貰わない? お香を無視して侵入したことと言い、大きいことと言い……何か、このサイゴクで起こってる異変と関係があるのかも」

「正直俺も賛成だ。色々気味が悪くて」

 

(高速特殊アタッカーは惜しいけど……気になることが多すぎる。この”オヤブン”の出所が何なのか、そもそも俺の知っている”オヤブン”なのか?)

 

 メグルとしては、このまま強力なムウマージで無双したい気持ちもあった。

 しかし、今捕まらないポケモンはどの道戦力として運用する事が出来ない上に、このムウマージにはまだ不可解な点が幾つもある。

 それならば、博士に調べて貰うのが得策だと考えた。

 

(LEGENDSアルセウスでも”オヤブン”が何なのか、どうして現代には居ないのかは説明されてない。ヒスイのそれとは別物だとは思うけど……気になるんだよな)

 

 オニドリルのような正体不明のリージョンフォームのポケモンと何か関係があるのか、それともないのか。

 ひいては、この地方そのものに異変が起こりつつあるのか。現時点では分からない。

 それを調べるのはきっと、研究者である博士に任せるのが手っ取り早い。

 ユイはモンスターボールをムウマージに軽く投げ付ける。

 すぐさまその身体はボールへと吸い込まれていき、そのままかくん、かくん、と揺れて、完全に中へと納まったのだった。

 

「おーすげぇ、俺何回やっても入らなかったのに」

「……」

「どうしたんだよ?」

「……ううん、本当に不甲斐ないなって。自分が許せないわ」

 

 悔しそうに彼女は言った。

 掌は、ムウマージの入ったボールを強く握り締めていた。

 

「サイゴクのムウマージは、人の悲しい感情を察知して、その人を助ける事があると言われてるの。ただし、自分の持っている力の範囲で、だけどね」

「それが──催眠術でまやかしを見せる、か」

「……うん。それは大抵、その人の望むものよ。この子も悪気は無かったのかもね」

「じゃあやっぱり──」

「だけど」

 

 彼女はきっぱりと言った。

 心配など無用だ、と言わんばかりに。

 

「あたし、もう後戻りするつもりは無いから」

「大丈夫なのか?」

「父さんは……あたしの背中を押してくれたもの。もし途中でほっぽりだしたら、怒られちゃうんだから」

 

 あくまでもムウマージに操られていた時に言っていたのは、彼女のネガティブな一側面に過ぎないのだろう。

 メグルが思っていた以上に、彼女の中では折り合いがついていたらしい。

 

「君にはまた助けられちゃったわね。ありがと。何をお返しすればいいのやら、ね」

「相手が相手だったし仕方ないさ。それに、レアコイルが居なきゃムウマージは倒せなかっただろうし」

「そうね。レアコイルもありがとう」

 

 レアコイルは何も言わない。

 しかし、心做しか磁石型のユニットはくるくる、と嬉しそうに回転しているようにメグルには思えた。

 だが、ユイの顔は晴れなかった。

 ムウマージは捕獲したとはいえ、今後同様の事態が起こらないとも限らないのだ。

 

「ねえ、あの赤い月は──ムウマージの見せた幻影だったと思う?」

「……幻影にかかってない俺にも見えたんだ。きっと違う」

「そうね……悪い事の前兆じゃなければ良いんだけど」

 

 月は──もう、いつも通り白く輝いていた。

 

 

 

「──セイランシティに急ぎましょう。あそこのキャプテンなら、何か分かりそうな気がするから」




【メグル現在の手持ち(スタメンに限る)】

イーブイ LV16 ♀ 特性:きけんよち 性格:やんちゃ
技:たいあたり、でんこうせっか、すなかけ、つぶらなひとみ
正直、そろそろノーマルタイプ以外の攻撃技を覚えさせたいとメグルは考えている。相も変わらず、主人以外の相手にはヤンキーな態度を見せる。


オドシシ LV17 ♂ 特性:いかく 性格:さびしがり
技:ふみつけ、さいみんじゅつ、ねんりき、おどろかす
此度の活躍でスタメン確定となった。催眠術がかなり便利で、ポケモンの捕獲に役立った。種族値も序盤にしては高いので、重宝している。尚、サイゴク地方ではアヤシシに進化するらしいが、進化条件は現時点では不明。技マシンで色んなタイプの技を覚えるため、最終的には万能特殊アタッカーにしたいとメグルは考えている。
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