サイヤン ハイスクールライフ   作:なごみち

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戦闘力の数値は適当に考えたのであまり間に受けないでください。


翌日

「なあ聞いたかゴハン。ニューヒーローがこの町に現れたんだぜ。金色の戦士じゃなくってさ」

 

眼鏡の少年はとびっきりのスクープだと、興奮気味に悟飯に話しかけてきた。

 

(僕のことだ……!)

 

正義の味方グレートサイヤマンが誕生した翌朝。

悟飯は家を出るなり変身装置を使い、舞空術で学校までやってきていた。

新たな装いでの登校は悟飯を高揚させたが、どうやら盛り上がっているのは悟飯ひとりだけではないようだった。

 

「格好はすげーダサいけどけっこう強いらしいぜ。えー……グレートタイヤマンとかいったかな」

 

「違います!グレートサイヤマンです!」

 

「そう、それそれ。なんだ知ってたのかよ」

 

「あ……その、直接見た人からきいたんですよ」

 

一番のりじゃないのか、と少し落胆した様子を見せた眼鏡の少年だったが、荷物を片付け終わったらしく教室の中へと入っていった。

悟飯も後に続こうと、ロッカーに向き直り鞄を確認する。時間割と照らしあわせ、持ち物に間違いがないことを確かめ終わった頃、二人の少女がやってきた。

 

「おはようゴハンくん、なんか楽しそうだね」

 

「あ、イレーザさん。そう見えます?ちょっといいことがあったんですよ」

 

軽い会話をしつつもイレーザはテキパキと授業の準備をする。ビーデルも同様で、二、三言葉を交わす間にすべてを終わらせていた。

これが学校生活のベテランの腕前かと悟飯は感心した。

昨日の学校生活の感想を聞かれ答えたり、これからの授業について尋ねたりしているとあっという間に十分ほど経過してしまった。

そろそろ教室に入ろうと促したビーデルに従って扉をくぐると、尋常ではない人物が教卓の上に鎮座していた。周りには何人か集まっており、その中心に近いところでは先ほど話した眼鏡の少年も混ざっていた。

 

「おい孫悟飯、グレートサイヤマンというのが現れたらしい。間違いなくサイヤ人だ。今から一緒に探すぞ」

 

彼女は自分の異常が気にならないのか平然と悟飯に声をかける。途端に周囲の視線は今教室に入ってきたばかりの悟飯に集まってしまった。

 

「悪いけど今から授業があるし、僕はやめておくよ」

 

いたたまれなくなった悟飯が断るとルコラは眉尻を下げたが、すぐに居直ると教卓を飛び降りた。

 

「地球人は勉強が大事らしいな。まあしょうがない。私は探しにいくが、もしそっちで見つけたら教えてくれ!」

 

いうことだけ言うとルコラはさっさと教室を出て行った。騒ぎの中心地にいたルコラがいなくなると、集まっていた人達もまばらになっていく。

ルコラから話を持ちかけられたあたり、おそらくグレートサイヤマンの話題で集まっていたのだとは思うが、いまいち状況が掴めない。誰か事情がわかる人がいないかと見回すと、眼鏡の少年はまだ教卓付近に残っていた。

 

「これ、どういう状況だったんですか」

 

「いや、ルコラにグレートサイヤマンの話をしてやったら一人で盛り上がっちゃってさ、これから探しにいくぞって、ついてくる奴を募ってたんだよ」

 

まあ誰も一緒に行くって奴はいなかったんだけどな、と彼は続ける。

 

「いつもサイヤ人の話してるからいい反応してくれるだろうって教えてやっただけだぜ。本当に教室出て行っちゃうとは思わなかったさ」

 

「あの子話の真偽はともかく本気で言ってるんだから、あんまりからかっちゃダメよ」

 

「ビーデルさんに言われちゃあね。ま、気をつけるよ」

 

ビーデルが嗜めると少年は自分の席に向かっていく。

 

「ところでグレートサイヤマンってなに」

 

ことを眺めていたイレーザが疑問を発した。

 

「昨日現れた正義の味方です」

 

「ふーん。なんか誇らしそうね」

 

「え!いや、そんなことは」

 

悟飯がとっさに否定すると、イレーザは新しいおもちゃを見つけた子供のように笑顔になった。

ぐいっと身を寄せ悟飯の肩に手を置く。

 

「ゴハンくん、グレートサイヤマンのファンなんでしょう」

 

「へ?」

 

「別に恥ずかしがることないわよ。そこのビーデルさんだって正義オタクなんだから」

 

「正義オタクって、ビーデルさんヒーロー好きなんですか?」

 

「そういうんじゃないわ。ただ警察に協力したりしてるだけ!イレーザも適当なこと言わないでよ」

 

ビーデルが軽く睨みつけると、イレーザは舌を出した。

それから悟飯にそっと耳打ちをする。

 

「ゴハンくんもヒーローファンならビーデルを推しておいて損はないわよ。あのミスターサタンの娘だし、一番身近な正義の味方なんだから」

 

「イレーザ?」

 

「えへへ、なんでもなーい」

 

イレーザはごまかすように笑うと悟飯から手を離した。ビーデルもため息をついてはいたが、たいして怒っているわけではないらしい。

 

やがて始業のチャイムがなり、三人も席に向かうこととなった。

 

───────────────────

 

五限の半ばといった頃。英語の授業は粛々と進み、黒板に英文が綴られていく。

悟飯の後ろの席は未だに埋まっていなかった。

 

「帰ってこないな。ルコラさん」

 

「見つかるまで帰ってこないでしょうね。もっともグレートサイヤマンが外で見つかるとは思えないけど」

 

悟飯の独り言に反応したのは一つ席を挟んだビーデルだった。

 

「どうしてそう思うんです?」

 

「だって『サイヤ人』の話をしてたのはルコラだけなのよ。そんな言葉を知ってるのは校内──それもこのクラスの人くらい。他に誰が『サイヤマン』なんて名乗れるの?」

 

経緯はともかく核心に近いところをさすビーデルに、悟飯はドキリとした。

 

「近所の人とかに話してたってことはないんですか」

 

どうにか疑いを逸らせないかと尋ねる悟飯だったが、ビーデルはゆっくりと首を振る。

 

「あの子の話を聞くようなご近所さんはいないわ」

 

「……結構くわしいんですね、ルコラさんのこと」

 

「まあ、ルコラはパパのやってる『教育を受けられない子ども』支援でうちの学校に来たから。仲良くしろって言われてたし、……むこうもすごく絡んできたし」

 

ビーデルは遠くを見ながら息を吐いた。

 

「あの子ひどいのよ。入学初日から変な片眼鏡をかけてきて『戦闘力7……地球人にしてはなかなかだな。地球人にしては』とか言ってきたの」

 

「へえ……」

 

悟飯の脳裏にスカウターを装着してビーデルに自慢げに言い放つルコラの顔が浮かんだ。言葉の末尾に「私の方が圧倒的に強いがな」とついていそうで少し憎たらしい。

 

「あのさ、人を挟んで長々と話さないでくれる」

 

悟飯とビーデルの席は一つ離れている──間に座っていたイレーザが不満げに漏らした。

 

「ごめんなさい」

 

「まあ、あたしも入れてくれれば──」

 

「別にそれくらい良いじゃないか。お前だってビーデルやルコラと授業中しゃべくってるだろ」

 

イレーザが自分も話に混ぜてもらおうと言葉を続けようとしたところに、シャプナーが横槍を入れた。手の上でボールペンを回しているあたり、授業に身が入らず暇だったのかもしれない。

 

「それとは別の話でしょ。間に人はいないじゃない」

 

「間にいなくても周りにいるだろう」

 

「アンタが言えた口?」

 

イレーザとシャプナーが睨み合っている。悟飯は場を収めなければならないかと慌てたが、二人に挟まれたビーデルはいつも通りだと平然としていた。

 

「静かにしなさい!」

 

教卓からチョークが飛ぶ。狙いは逸れ、悟飯の後ろの席に当たる。コロコロと転がったそれは悟飯の足にぶつかり、ゆっくりと止まった。

 

チョークが飛んでからしばらく、教室にはシャーペンとノートの擦れる音と教師の声だけが反響している。

悟飯やその周りの生徒たちも会話をせずに黒板の文字を追っていた。

心地良くも眠たくなってくるような空間。実際後方の不真面目な生徒の中には眠っているものもいる。その中に、突如軽い通信音が鳴り響いた。

 

「はい、こちらビーデル」

 

発信源の腕時計に話しかけたビーデルは何度か応答をすると、教師に断りを入れて教室を出て行ってしまった。

 

「ビーデルさん、どうしたんですか?」

 

疑問に思った悟飯が隣のイレーザに問う。

 

「今朝言ったでしょ。ビーデルは正義の味方だって。警察に協力して強盗なんかを捕まえたりしてるのよ」

 

「強盗って……危ないじゃないですか」

 

「そうでもないさ。ビーデルは少なくとも俺よりは強いし、ミスターサタンにだって匹敵するんだからな」

 

イレーザとシャプナーは安心させるようにいくつかビーデルのフォローをしたが、悟飯は気が気ではなかった。

 

(ミスターサタンと同じくらいの強さって……いや、戦闘力は7あるみたいだし大丈夫なのかな?でも7ってどのくらいの強さなんだ?強盗相手でも問題ないほどなのか?)

 

ビーデルの強さについて考察する悟飯だが、判断材料に乏しい上に通常の人間の強度がいまいちわかっていない彼には結論を出すことが出来なかった。

数秒思い悩んだ末、ビーデルを信じきれなかった悟飯は行動に出ることにした。

 

「先生!便所に行ってきます!」

 

────────────────

 

悟飯はビーデルの気をたどって、まちはずれの工業地帯にまでやってきていた。いくつもの倉庫や工場が立ち並ぶその場所で、すでにビーデルと強盗たちとの闘いは始まっていた。

 

「案外強いな、ビーデルさん」

 

二人の強盗を相手にしたビーデルだったが、大の男相手にまったく物怖じせず、その攻撃を軽くいなし反撃さえしていた。

 

(これは僕の出番はないかも……)

 

この様子ではビーデルはまったく問題なく対処してしまうだろうと考えた悟飯は、空を飛んでいたのでは目立つと考え、少し離れた物陰から様子をうかがうことにした。

 

二人組の大きな方と立ち合いを演じるビーデル。男の隙を突き、強烈なアッパーを顎に入れる。一度は倒れた男だったが、男の方も根性があるようで再び立ち上がった。大ぶりなパンチをビーデルにくらわそうと突進をするが、これはかわされ、むしろビーデルからの更なる攻撃を受ける一因となってしまう。

 

「アニキ〜!」

 

もう一人の小柄な男が懐から拳銃を取り出しビーデルに向ける。ビーデルは大柄な方との競り合いに夢中で気づいていないようだった。

 

(危ない!)

 

ビーデルを助けようと悟飯が飛び出そうとした刹那。上空から隕石のごとく飛んできた女が男の拳銃を蹴り飛ばした。

 

「え?」

 

悟飯を含めたその場にいる全員が呆気にとられ、女を見つめる。

 

「危ないじゃないかビーデル。もっと後ろにも気を配るんだな」

 

苦言を呈した女は後ろ手で軽く男を締め上げ、落としてしまう。その様子を見た大男も腰を抜かしたのかへたり込んでしまった。

 

「ルコラ……アンタ今どこから」

 

「空からだ。当たり前だろう、サイヤ人だぞ」

 

ビーデルはルコラをまじまじと見つめた。

 

「それにしてもまさか騒ぎを起こしていたのがビーデルだったとはな。空から町中を見渡していればいつかグレートサイヤマンが出てくるだろうと思っていたのに」

 

「ア、アンタねぇ……私はサイヤマンの二の次ってわけ」

 

「そりゃあサイヤ人が一番だからな。ビーデルは地球人の中では上の方だが」

 

さっきまでの緊張感はなんだったのか。言い合いを始めた二人を見ていると悟飯は気が抜けてしまった。浮かび上がった体をゆっくりと地面に降ろす──と、足元にあった缶を思いっきり踏みつける。

缶の潰れる大きな音と共に、悟飯はすっ転んだ。

二人の視線が悟飯の方へ向く。

 

「あはは……どうも……」

 

「……誰だ?お前」

 

名を問われては答えないわけにはいけない。転んでしまって無様な姿を晒してしまった状況でも、悲しいかな、変身した悟飯はすぐにスイッチの入ってしまう性だった。

 

「私は……」

 

すぐに立ち上がると両腕をあげ、ステップを踏む。いくつかポーズを交えたそれは、昨夜二時間練った悟飯の力作だ。

 

「悪はぜったい許さない正義の味方!!グレートサイヤマンだ!」

 

「かっこわるい……」

 

「グレートサイヤマン!?」

 

ビーデルはげんなりとしたが、ルコラは反対に目を輝かせる。

 

「さすがビーデルだ!ちゃんとグレートサイヤマンを呼び寄せるとはな!」

 

ルコラはビーデルの背中をなんどか叩いたのち抱き寄せる。ビーデルは抵抗こそしなかったが、眉をひそめていた。

 

「おい、グレートサイヤマン!顔を見せてくれないか。私も将来結婚する男の顔は知っておきたいからな」

 

「……ダメだ!ヒーローは顔を明かすものではない!」

 

ヘルメットを外しては正体に直結してしまう。さすがの悟飯も承諾するわけにはいかなかった。

 

「そうか!貴様が自分で明かさないのならば無理矢理見るだけだ。そこで待っていろ」

 

ルコラはまったく引き下がる気がないのか、悟飯の方へ飛んでくる。ヘルメットを取られては困る悟飯も飛んで後ずさった。

 

「なぜ逃げる?私が見るだけだったら良いだろう。結婚するんだからな」

 

「ダメだ!そもそも君と結婚する気はない」

 

「とっくに生き残りもほとんどいないんだ。他の選択肢なんかないだろう」

 

話してわかる相手ではないかもしれない。

そう悟った悟飯はこの場から退くことにした。

マントを翻してサタンシティの方向へと飛んでいく。しかしせっかく見つけたサイヤ人の逃走をルコラが許すはずもない。彼女も悟飯を追いかけて飛び去っていった。

 

工業地帯にはビーデルと、ふぬけてしまった強盗の二人だけが残された。

 

「サイヤ人ってなに……?」

 

遠くから警察車両のサイレンが鳴るのが聞こえた。

 




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