一話、二話共にちょっとづつ修正しています
浦原喜助との交渉
空座町にある不思議な商店、浦原商店。
普段は普通の駄菓子屋を装っているが、その実態は現世に留まっている死神に対して霊的な商品を売る死神にとっては雑貨屋の様な店だった。その商品は多岐に渡り義骸や義魂丸等の現世で活動するには必須の物から、カタコラーヌαやセキレイX等の本当に役に立つのか分からない物まで取り揃えている。
そんな浦原商店で働く店員である赤髪の少年、花刈ジン太は普段は客が来ない浦原商店の前でいつも通りに掃除をしていると、珍しい物を見たかの様に店の中へと目を向ける。
「店長が昼過ぎに起きてるなんて珍しいっすね、何かあったんすか?」
すると店の中に居た帽子を目深く被った男、浦原喜助は、軽い調子で答えた。
「いやなぁに、最近アタシもサボり気味でしょーこのままだと太ってきちゃうんじゃないかと思いましてねぇ。こうして重い腰を上げて仕事をしてる訳っスよ」
浦原はダンボールを床に置き、肩を回しながらため息を吐く。
近くで話を聞いて居た身長2メートルにもなるメガネをかけた髭の巨漢、握菱鉄裁も手に持っていたダンボールを置き、何処から取り出したのか左手にカルガル君と書かれた薬を見せてくる。
「体重が気になるのでしたらいい物がありますぞ、これはバッタマークのテレショップで買った元祖減量カルガル君と言うものでして、効果の程はこのテッサイ自らめが実践し、体感してる程で…」
嬉々として語る鉄裁に対して浦原は微妙な顔をする。
「アタシそういうのは信用できなくって…」
「何を言いまするか、そこまで言うのでしたらこのテッサイ!今この場で薬を飲んでみせましょう」
言うや否や手に持っていた薬を大量に手に乗せ、それを一気に口に含むと飲み込む。
すると鉄裁は顔を青くし、お腹からゴロゴロと言う音が聞こえる。
「あの…鉄裁サン?大丈夫スか?」
「うぅ…仕事中に失礼、少々厠へ行って参りまする」
ジン太はその様子を楽しそうに見ていたが、隣の同じ浦原商店の店員である黒髪を二つに結んだ少女、紬屋雨に肩を叩かれると同時に注意をされる。
「だ、ダメだよジン太君お店のお掃除サボっちゃ…」
その声を聞いたジン太は怒り。ウルルの頭をバシバシと叩きながら。
「うるせぇなウルル!オレの方が上の癖に生意気なんだよっ!」
怒っているジン太にウルルは泣きながら抗議する。
「ち、違うもん!あたしが三つも年上だもん!」
「歳の話じゃねぇよ、レベルの話だ!」
浦原商店ではいつもの光景が繰り広げられていたが、そこにいつもとは違う来訪者がやってくる。
「あの…お店空いてますか?」
ウルルを叩く事を止め、ジン太とウルルは声をかけていた方向に目を向ける。そこに居たのは香色の髪を短く切り揃えたジン太と同じ歳くらいの少女であった。
(け、結構マブイじゃねぇか…)
ジン太は初めての感情に少しドキドキしながらも平静を装って軽く答える。
「おう空いてるぜ、ウチは結構色んな駄菓子があるんだ。まあ、ゆっくり見ていけよ」
ジン太は久しく見ない普通の客にこれまた珍しく真面目に接客をする。ウルルの方はというと初めての人に声をかけられずにオドオドしていた。
「あの…ゴメンなさい、今日はお買い物に来た訳じゃなくて。浦原商店の店長さんにお話があって来たんです」
「おまえが店長に?」
ジン太は少し警戒心を強める、浦原喜助に直接用があると言う奴に普通の奴は居ない、大体は死神である事を知っていたからだ。
しかし一応は浦原の客であるかも知れない為ジン太は店の中に居る浦原に声をかける。
「店長ー!なんか店長と話がしたいって言ってる子供が来てるけど」
「子供?はてさてアタシにそんな知り合い居ましたっけねぇ?」
突然の来客を疑問に思いながらも浦原は行っていた作業を中断し、店の外へと向かう。
店の外に出るとまだ小学生くらいの少女が不安げな顔で立っていた。
「こりゃまた可愛らしいお客さんで、アタシに何か御用がおありと聞きました、しがない駄菓子屋の店主ですけど困っているなら、微力ながらお力になりますよ」
その言葉を聞くと少女は弾かれたかのように浦原の前へと近づき、深刻な表情で顔を見上げた。
「あ、あの…あたしの名前は黒崎遊子と言います」
「黒崎…!?」
浦原の顔は平静を保っていたが、心の中で少し驚いていた、黒崎と言う名前に聞き覚えがあった為、そして彼女の顔を見るに自分にする話が只事では無いと思ったからだ。
「何やら込み入ったお話があるご様子。どうです?立ち話もなんですし中に入ってお話しませんか♪」
そう言うと浦原は店の中に戻っていき、遊子も浦原の後ろについて行く。しばらく成り行きを見守っていたジン太だが様子がおかしい浦原を見ると。
「お、おい店長大丈夫なのかよ?」
「心配いりません、店番とお掃除の方は頼みますよ、あんまりサボっていると戻って来た鉄裁サンのキツいお仕置きが待ってますよ♪」
「さ、サボってねぇだろ!ちゃん接客してただろうがっ!」
あれこれ騒ぐジン太の声を聞きながら浦原と遊子は店の奥へと入って行く。
✳︎
遊子が案内されたのは古き良き日本の和室。畳は綺麗に保たれており、真ん中は大きなちゃぶ台が占めている。浦原と遊子はちゃぶ台を挟んで向かい合うように座るとまずは浦原が口を開く。
「では黒崎サンお話、聞かせてもらいましょうか?安心してください、ここで話を聞く人間はアタシ一人だけです。ですので遠慮なくおっしゃりたい事をおっしゃってください♪」
浦原は軽い調子だが遊子の表情は優れない。しばらくすると覚悟を決めた顔で遊子は語りだす。
「あたし、最近幽霊が見えるようになったんです。それ自体はあまり困ってはいないんですけど、ある日仮面をつけた化け物が見えたんです。あたしは直感で分かりました、この化け物に見つかってしまったらタダではすまない、最悪殺されてしまうと思いました」
「その時は運良く見つかる事がなく逃げられたのですが、またあんなのを見てしまったらどうしよう、次こそ見つかってしまったら?と思うと怖くなってしまって、何か方法が無いかとあなたを頼らせていただきました」
浦原は話を聞いて考える。なるほど、恐怖を感じた事は本当の様だ。最初は「何故しがない駄菓子屋の店長でしかないアタシにこんな話を?」などと、とぼける事を考えていたが遊子の真剣な顔つきを見て考えを改める。何故自分を頼ってきたのか?等の疑問は残るがそれは追々聞いていけばいいだろう。と、浦原は考えをまとめた。
「そこまで真剣な表情で語るからには何やら確信があるご様子…わかりました、お教えしましょう」
「まずあなたが見た仮面の化け物、あれは虚と呼ばれていてこの世界で死んだ人間が変異した姿。人間の魂、特にアナタの様な強い霊力を持つ魂を主食として食べて生きる。いわゆる悪霊っス」
浦原が語る事実に遊子は息を呑む。
「そして黒崎サン、アナタが虚に恐怖を感じた事は間違いない。ですがアタシを頼ってきたという事はそれに抵抗できる力をご存じのはずだ…アナタの目的をお聞かせ願いませんか?」
浦原の言葉で場が冷え込む、浦原の真剣な眼差しに晒されながらも遊子は表情を崩す事はない。やがて決意をしたのか遊子は浦原の目をしっかりと見つめ返すと。
「分かりました、単刀直入に言います。あたしを死神にしてください!あたし、あの化け物から自分の身を護りたいんです!」
その言葉を聞くと浦原は少し困った様な顔をする。
「死神についてはどこまで?」
「あの仮面の化け物、虚を倒す人達。そしてこの世界に彷徨っている幽霊を何処かに送る人達。とだけ…」
これは嘘だ。浦原は確信を持って言える、死神について語る時の緊張した顔、そして瞳の揺らぎ。全てが死神についてまだ隠してる事があるのを浦原に感じさせる。何か隠し事があるのならしょうがない、ここで浦原は一つの策に打って出る。
「なるほど、事情は分かりました。ですが残念ながらアタシではお力になれそうもない…虚から身を守る為の道具はこちらでご用意します。それで良いでしょう」
そう遊子に話すと浦原は部屋から出ようとする。
「ま、待ってください!あたしが死神になったら浦原さん達に協力します!虚の退治だって手伝う事が出来るはずです!」
浦原は足を止め振り返ると突然、持っていた杖の鋒を遊子の顔の前に突きつける。ここで浦原は今までに思っていた疑問をぶつける事にする。
「いい加減にしてくださいよ。アナタ、言ってる事が無茶苦茶だ。先程は虚から身を守りたいと言っていたのに、お次は虚退治に協力する?矛盾してるんですよ。それとアタシが聞きたい一番の疑問をぶつけておきます、なぜ死神の事を知っている?なぜ浦原喜助を頼った?」
先程よりも真剣な眼差しで遊子の顔を睨む。そこでお互いは沈黙する。時間にして一時間にも二時間も感じる様な静寂、それを破ったのは遊子の方であった。
「分かりました。ですが全てをお話する事は出来ません。この世界にとって良くない事が起きる、均衡を乱すことになるかも知れませんので…」
浦原はそれを聞くと突きつけていた杖をおろし、もう一度向かい合う様に座り直す。
「良いでしょう、お聞きします」
「ありがとうございます、まずは先程の質問、何故死神を知っているのか?何故あなたを頼ったのか?については同時に答える事が出来ます」
「あたしは観たんです」
すると浦原は咄嗟に返した。
「見た?何をっスか?」
「死神の事もあなたが死神に手を貸している所もです」
「一つあたしが観た場面をお話しします。それは部屋であなたと若い頃のあたしの父、黒崎一心と白髪の青年が話をしている所です。青年の腕には胸に孔が空いた若い頃のあたしの母、黒崎真咲が抱き抱えられてました」
浦原は驚愕した、彼女が語る場面には思い当たる節がある。しかし、自分はそれを誰にも話してないし、黒崎一心も誰かに話す事なんてないだろう、ましてや自分の子供には絶対に話さないはずだ。つまり見たと言う彼女の話しには信憑性があると。
「話している内容の殆どは分かりませんでした…ですがあなたの提案に対してお父さんは何かを決意した表情を、青年の方は後悔している様な表情をしていました。そこで知ったんです。お父さんが死神という存在だと言う事、あなたが死神に手を貸し、霊的な存在に詳しい人物だということを」
「何処でいつ?なにで観たのか?そこはあなたに想像してもらうしかありません、実際に見ていたのかも知れませんし、夢で見たのかも知れません」
なるほど、と浦原は一応は納得し、止まっていた思考を再び回転させる。
(これは驚きましたねぇ、少し揺さぶってみたらとんでもない爆弾が出てきたもんっス。真咲サンの中に入っていた虚が子供の魂魄に影響を及ぼした?それとも彼女は生まれながらにして叡智を与えられた人間?考えても全く答えがでそうにない問題っスね)
考えながらも結論が出ない、ならばと浦原は一つの決意をする。
(この子の面倒、見るしかないっスかねぇ、彼女を死神にする事に成功したら尸魂界が、成功しても失敗しても一心サンに何を言われるか分かったもんじゃないっスけど、最悪の場合は一心サンにアタシ殺されるかも…)
頭の中では引き受けたらどんな面倒な事になるかを考えつつ、その実、久しぶりに感じる科学者としての未知への興味を感じていた。この子の正体を完全に知るまでは死なせてはならない!
「よろしい!アナタの死神化アタシがお引き受けしましょう♪ですがそれは茨の道、知ってるでしょうけど死神になる事も死神になった後も命懸けです。ですのでうんと強くします。アナタが死なない為に死ぬほど準備します。アタシの仲間にも声をかけてアナタを見てもらいます。ですから…」
浦原の覚悟は決まった、後は遊子に、この幼くも聡明な少女に命を賭ける覚悟があるかだ。
「半端な覚悟だったらドブに捨てて今すぐ家に帰ってください。これからアタシ達と…」
「命のやり合い…出来ますか?」
浦原は鋭い視線と強力な霊圧で少女を威圧する。普通の人物なら白眼を剥き、気を失ってもおかしくない威圧感を放っている。
強烈な霊圧に遊子はかなり当てられて疲弊している様だが目はしっかりと浦原の顔を見据えて言い放つ。
「当たり前です!」
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こんにちは、黒崎遊子です!
何とか浦原さんとの交渉は成功したけど危なかったぁ〜
ここで少しあたしの視点からさっきの話し合いを振り返ってみる。
まずは虚の事についてだ、実際にあたしは虚を目にした事がある。今朝の事だ、学校に行く途中に偶然見かけた。ちょうど魂魄を捕食している虚に…捕食されている魂魄の方は悲鳴をあげて助けを求めていたが食べられたのか右腕と左脚がなかった…あたしはかなり驚いたし、正直死ぬかも知れないとも思った。残念ながらまだあたしには戦う力は無いし、逃げる方法もなかった。しばらく息を潜めていると、虚が魂魄を丸呑みにしたタイミングでジン太君とウルルちゃんがやってきてジン太君が「ジン太ホームラン!」とか言って持っていた棍棒で虚を殴り、そこにウルルちゃんが馬鹿でかい銃器で追撃する事で一瞬のうちに倒していった。
運が良かったと思う、まさに不幸中の幸いというやつだ。空座町ではいつ虚に襲われるか分からない、更にあたしは霊力が高いから襲われる可能性が高くなる。初めて目にした虚はめっちゃ怖かった、結構な大きさで腕が長くて魂魄を…人間を食べる姿はまさに化け物。
虚を見た事によってあたしの中で焦りが生まれた、早く死神にならなければお兄ちゃんを観察する所か原作開始まで生きられないかも知れない…心の何処かで楽観視していた部分はこの出来事で完全になくなっていた。だから初めて浦原さんと顔を合わせた時に浦原さんがすぐに中に入れてくれるほど深刻な顔ができた。実際に深刻な問題だったからね、あの顔は本音100%だったのです。
だけどその後、本格的な話し合いの時はグダグダであった。今朝の出来事のせいで学校に居る間まともに考える事が出来なかったからだ。でもあたしには先延ばしにするという選択肢はなかった。プランがまともに固まって無いまま話したせいで嘘を見抜かれ浦原さんに話を終えられそうになった時は本気で焦った。それで急に虚退治を手伝うなんて事を言ってしまいボロを出してしまったのだった。杖を突きつけられた時は泣きそうになった。
だからここで切り札を切る事にした。あたしが知っている事で浦原さんが一番動揺する事、お父さんがお母さんの為に霊力を失う事を決意したシーンの事を真っ先に話した。ついあたしの全てを話す事によって世界が良くない事に〜とか、均衡を乱す〜とか適当な事を言っちゃったけど大丈夫なはず。
お父さんとお母さん、竜弦さんの事を少し話すとあたしの目論みは成功したみたいで浦原さんの興味を引く事が出来た。漫画の事は観るとも一応は表現出来るはずだし(漫画は読む物だと思うけど…)あたしはアニメも観ているので嘘は言っていない。更に浦原さん自ら強くしてくれると言ってくれて、他の人からも見てもらえる事になった。これは僥倖だ。
最後の霊圧はかなり苦しかった、現世でこんな霊圧出していいの?浦原さん!?とも思ったが、想う力は鉄より強い。あたしのお兄ちゃんを観察したい想いと、アニメで言っていた「命のやり合い出来ますか?」が聞けた事で何とか踏み留まれた。
結果だけを見れば交渉は大成功!あたしは知識をあまり見せずに死神になる協力を取り付ける事が出来た。まだスタートラインにも立ってないから安心は出来ないが、ほとんどアドリブでやったにしては良い結果じゃないかな!
但し油断ならない事もあった。それはあの部屋に居たのはあたしと浦原さんだけでは無かったということ…
浦原さんは言った、ここで聞いている人間は一人だけだと。意識的に出来た訳じゃない、だけどあたしの霊圧知覚には微かにだけど部屋の隅にあるタンスの影から反応があり、目をよく凝らして見ると黒い猫の尻尾が見えた。あれは間違いなく夜一さんだ。確かに人間は一人だけ、なんだけど猫が居るよね!?聞いている猫が居たんだよ!?
気付いたとしても指摘出来る筈もなく、あたしはそのまま話をするしかなかったのでした…
浦原喜助、やはり侮れない人だ…
というのがさっきの交渉という名の話し合いの全てになる。スタートラインには立ってないけど最初の一歩くらいは踏み出せたのではなかろうか?あたしが死神になる方法は多分だけどお兄ちゃんが死神の力を取り戻した方法と同じになると思う。危険だが、かなり効率的なやり方だ。あたしとあの時のお兄ちゃんとでは歳や体格、共にかなり違ってくるが、今のあたしは死神にとって急所と言われている霊力のブースターである鎖結と霊力の発生源である魄睡が残っている。作中のお兄ちゃん程は苦労しない筈だよね。
よーし、やったるぞー!えい!えい!おー!
この時のあたしは考えてもみなかった、あたしの中にあるお兄ちゃんとは異なる才能…そのせいで死神になる為の修行であんな思いをする事になるとは、今のあたしはまだ知らない…
浦原さんが8歳の少女に詰め寄る所は大人げなく見えるかもしれませんが、それだけ浦原さんは警戒しています