黒崎家の長女は兄の事を観察したい   作:青空の夜天

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正義装甲

 

 

覚悟を決めた遊子の返答を聞いた浦原は霊圧を引っ込めると、満足げにニヤリと笑う。

 

「じゃあ覚悟も決まった所で、今日から死神になる為の修行を始めます。よろしいですか?黒崎サン」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

子気味良い返事だ。その顔は一安心というようなホッとした顔をしている。

 

「アタシはお手伝いしてくれる皆さんを呼んで来るので、黒崎サンは少しここで待っててもらえますか?」

 

そう言って部屋を出ようとする浦原に遊子から待ったがかかる。

 

「ちょっと待ってください、一つ大事なお願いを…」 

 

「なんです?」

 

「成功するにしても失敗するにしても、先程話した事やあたしが死神として活動することを時が来るまでは、協力してくれる人以外には秘密にしてもらえませんか?特にあたしの家族には…」

 

遊子からの願いは至極真っ当なことであった。浦原としてもこの話を他人にするつもりは全くなく、いずれはバレるであろうがもし一心の耳にでも入れば一生恨まれてしまう。なので仮に向こうが家族に相談したいと言っても反対するつもりでいた。

 

「分かりました。お約束しましょう、アナタの事はこれから協力してもらう仲間以外には絶対に喋りません。誓ってもいい」

 

「ありがとうございます!」

 

約束をすると浦原は襖を開け部屋から出ていった。

 

 

✳︎

 

 

浦原が店の前に向かう途中、後ろから鮮やかな毛並みをした黒猫が追随してくる。

 

「喜助、本当に彼奴の面倒を見るつもりなのか?恐らくじゃが奴は儂の気配に気付いておったぞ。流石に儂の正体までは分かっとらんだろうがな」

 

「人間の身でありながら夜一サンを感じる事が出来るとは…いやはや恐ろしいまでの霊圧知覚っスね」

 

あまりに異端、いくら霊力が高いと言っても所詮は人間。本調子では無く、猫の姿とはいえ元護廷十三隊二番隊、その隊長であった夜一に勘付く事が出来るとは…

 

「儂が昼寝してる所にズカズカと入ってきてあんな話をするとはな、邪魔をしたツケは高く付くぞ」

 

「いやすみませんねぇ、なんか深刻そうな話し合いになると思ってたらつい、夜一サンが寝てる部屋に案内しちゃったんスよ」

 

「まあよい、して喜助よ彼奴に何を感じる所があった?」

 

浦原が誰かに手を貸す事は珍しい事では無い。だが、あの少女を死神にするのは危険な道、取り返しがつかない事になるのではないかと夜一は考えていた。なのでまずは浦原喜助の考えを聞く、浦原の言葉では仲間にも頼むと言っていた。それは夜一にもあの少女の面倒を見ろということになる、ならば自分にも聞く権利はある筈だ。

 

「アタシはねェ、科学者としてあの子という存在に興味があるんス。そして同時に恐怖している…」

 

「恐怖?彼奴は人じゃろ?」

 

死神が何を人間に恐れることがある。

 

「人間だからこそっス。彼女は人の身である限りでは絶対に知りえない事を知っていた。何故知っているのか?本当の目的はなんなのか?それがまったく分からない」

 

浦原は珍しく焦った表情で続ける。

 

「未知とは興味であると同時に恐怖でもあるんス、もし異常な存在である彼女を失ってしまったら?彼女を失った後に世界にとって彼女が必要になったら?考えれば考える程、彼女の異常性に頭が引っ張られてしまう…」

 

そこまで言うと顔を上げる。

 

「だから生かす!失ったら戻らない、なら失わない様にする!それしかこの問題をどうにかする方法が思いつかないんスよ…」

 

浦原の言い分は分かる。実際に彼女は夜一でも知らない事を知っていたし、そもそも小学生くらいになる人間の少女が浦原と対等に話し合っている事自体がおかしいのだ。何か特別な物を感じて浦原が慎重になるのも無理はない、彼女の正体を探る為にも手元に置いておくのが一番いいかと思い始めていた。何やら随分と悩んでいる浦原に夜一はここで意地の悪い質問をする。

 

「おぬし、そんな事を言うておるがもっと単純な理由もあるのではないか?」

 

思い出すのは虚の話。

彼女が虚の話をしている時に僅かに感じた虚に対する恐れ、そこに嘘がないと分かった時には浦原の答えは既に決まっていた。

 

「はは、そうっスね…」

 

「小さな子供が恐怖を押し殺して、態々こんな店にまで頼みに来てるんスよ、手を貸してあげるのが大人ってもんでしょう♪」

 

その答えに納得がいったのか一人と一匹の会話はそこで途切れ、静けさを保ったまま店の前へと歩いていった。

 

 

✳︎

 

 

浦原商店の前にまで戻ってくるとジン太とウルルは掃除を、鉄裁は厠から戻って来たのか再びダンボールを運んでいる最中であった。浦原は手を二回叩くと皆に号令をかける。

 

「ジン太!ウルル!鉄裁!」

 

『はい!』

 

号令を聞くと店員は皆作業を中断し、店長の元へと集まる。

 

「先程いらっしゃった女の子は黒崎遊子さんと言います。訳あって彼女を死神にし、鍛える事になりました。仲良くしてあげてください。あ、あと何か質問がある方はどうぞー」

 

さらっと大事な事を決めてしまった店長に皆ポカンと口を開けて固まる。急展開すぎるし何よりまだ営業時間なのだが…

そう皆が思っていると肝心の店長は、店の入り口に『本日閉店。』と書かれた紙を貼って店を閉めてしまう。

 

「ちょっと待てよ、いきなり死神にするって大体アイツは何者なんだよ?」

 

ジン太は真っ当な質問をする。当たり前だ急にやってきた子供を死神にする?そもそも死神になるなんて簡単には出来ないし、あんな普通の子供に耐えられる訳がない。

 

「彼女は霊的濃度が非常に高い人間です。今はそれだけわかっていれば良い」

 

納得いかない様子のジン太だが、浦原は基本的に決めた事は曲げない、こちらが折れるしかない。ジン太の質問が終わると次にウルルが口を開く。

 

「あ、あの、死神になる為の修行って具体的に何をするのですか?」

 

「良い質問ですねェ、今回は彼女も急ぎみたいなんで絶望の縦穴(シャタードシャフト)を使おうと思ってます。なのでウルルにはその前のレッスン1に協力してもらう事になります」

 

浦原の答えに緊張が走る。確かに死神になる手段としては効率的だが一歩間違えば簡単に命を落とす危険な方法だと皆が知っていたからだ。

 

「私はまだ黒崎遊子殿という方には会ったことがないゆえ分かりませぬが、あれは才能が無い者が行えば成功する確率は限りなくゼロに等しいでしょう。そのあたりは大丈夫なのですかな?」

 

鉄裁は知っているが故に大事なことの確認をとる。

 

「ええ、大丈夫。彼女ほど大きな素質を持つ人間は居ないでしょう」

 

そこまで言うのならと、鉄裁、ジン太、ウルルはこれ以上の応答は時間を無駄にするだけになると考え、準備に取り掛かる。

 

「後、黒崎サンの事は他言無用でお願いしますね、じゃないとアタシ殺されちゃうかも知れないんで」

 

なんて物騒な、とは思いつつ店員一同は頷き了承する。

 

「ここが正念場です、皆さん張り切っていきましょう♪」

 

 

✳︎

 

 

浦原さんが戻って来てお店の皆んなと簡単な自己紹介をした後にあたしが案内されたのは店の地下、岩しかないただ、ただ広いだけの空間。ここは確か勉強部屋と言われる部屋で。浦原さんと夜一さんが尸魂界に居た頃に秘密裏に使っていた遊び場を真似て作られた空間だったような。

 

「すっごーい!店の地下にまさかこんな広い空間があったなんて!」

 

浦原さんの機嫌を取る為にわざとらしく驚く。浦原さんは満足げな顔でうんうんと頷いている。今ここに居るのはあたしと浦原さん、鉄裁さんにジン太君、ウルルちゃんと猫姿の夜一さん。夜一さん以外はお兄ちゃんが力を取り戻す時に居たメンバーだ。

 

「十分に驚いてもらった所で早速死神になるレッスンの方を始めましょうか?」

 

「お願いします!」

 

すると浦原さんは持っていた杖をあたしの額に当てると押し込んで貫く。瞬間に感じる浮遊感…

あたしの本体は倒れ、あたしの意識は胸に鎖を付けた魂魄へと移っていく。

 

「どうスか?魂魄の姿になったご感想は?」

 

正直特に違和感はない、少しくらいは息苦しさを感じると思ったがそれは無い、強いて言うのならば胸元の鎖が邪魔だなーってことくらいだ。

 

「特に何も感じませんね…」

 

これは鎖結と魄睡がしっかり機能してるということなのかな?

 

「よろしい、ではまずレッスン1!おーい!ウルルー!準備はいいかい?」

 

ここでウルルちゃんが前に出て来る。

 

「まずは魂魄の姿に慣れる事から始めましょうか、ここにいるウルルと鬼ごっこをしてください」

 

お、鬼ごっこ?命懸けのバトルじゃなくて?

 

「黒崎サンが逃げて、ウルルが捕まえる鬼です。ウルルに触られるのはセーフですが、完全に身動き出来なくなるくらいに捕まったらアウト。時間はアタシがよしと言うまでです。まあ、死なない程度に頑張ってください」

 

触られるのはセーフ、つまりは相手の手を弾いたりするのはありってことかな?なんて事を考えているとウルルちゃんはあたしに近づき白いハチマキを手渡してくる。

 

「それ、一応付けてくださいね。殺したくはありませんから」

 

こ、このハチマキはまさか!?むりむりむりむり、あたしにこれはレベルが高いよぉー!

 

「では、よーい始め!」

 

浦原さんの掛け声ともに猛スピードで飛来してくるウルルちゃん、ウルルちゃんはあたしに対して完全な右ストレートを放ってくるが、あたしはそれを何とか紙一重でかわす。ちょっと、ちょっと!?鬼ごっこって言ってたよね!?何で普通にパンチしてきてるの!?

 

「う、浦原さん!どうなってるんですか!このままじゃあたし死んじゃいますよ!」

 

ウルルちゃんから放たれる打撃を何とか避けながら文句を言う。

 

「黒崎サーン!その手に持っているハチマキをおでこに当ててください!ヘッドギアになります」

 

言われるがままにあたしはハチマキをおでこに当てるが、これから言われる事は予想がついている。浦原さんは多分アレを言わせる気だ、アレは嫌だ!ドン観音寺さんの挨拶である。

「ボハハハハハ———ッ」なら笑顔で言う事が出来る。

でもアレは流石にあたしでも恥ずかしい。

 

「おでこに当てたらこう叫んでください!」

 

「受けてみよ!正義の力!正義装甲

 ジャスティスハチマキ装☆着!!」

 

いや言えるかぁー!

普通につければいいのこっちは知ってるんだからね!?でも言わなければ言わないで浦原さんの話が先に進みそうにない…

ええい、仕方ないこれもお約束って奴だ。黒崎遊子言わせて頂きます!

 

「…う………うぅ…っ受けてみよ!正義の力!

 正義装甲ジャスティスハチマキ装☆着!!!」

 

瞬間、辺りは嵐の前かの如く静けさに満ち溢れる。

浦原さんも鉄裁さんもジン太君もウルルちゃんも何も言わない…

夜一さんだけは大笑いしてる様に見える。

 

「何か言ってよ!なにかツッコんでよ!」

 

後に聞いた話だとこの時のあたしの顔は真っ赤に染まって唇が突き出たとても愉快な顔をしていたらしい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、店長は小学生くらいの女を騙して笑い物にする奴の事をどう思う?」

 

「ええジン太君、最低っスね。アタシも自分の行動に少し引いちゃってる所です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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