黒崎家の長女は兄の事を観察したい   作:青空の夜天

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誤字報告など助かっています


予想外

 

 

 

 

 

浦原さんのせいで大恥をかいたあたしだったが、気を取り直して再び白いハチマキを額に当てる。

 

するとハチマキがヘッドギアに変わりあたしの頭に装着される。

 

よし、これならウルルちゃんの攻撃が頭に当たっても死ぬ事はないはず。

 

 

十分(じゅっぷん)くらいはたっただろうか?ウルルちゃんの激しい攻撃から何とか逃げ回っているあたしだが、此処でふと浦原さんの言っていた終了条件を思いだす。

 

確かこのレッスン1の終了条件は浦原さんがよしと言うまで、後はあたしが身動きが出来なくなるくらいに捕まったらアウトと言っていた、これも終了条件とみていいだろう。

 

つまりは浦原さんが満足するまであの恐ろしい少女から逃げ続けなければならない。一体何時間なのかは検討がつかない、下手をすれば一日中ということもありえる。

 

ここであたしは考える。浦原さんが時間内に逃げ切ればクリア。なんて甘い条件をつけるだろうか?いや、目的は魂魄の身体に慣れることだから、確かに逃げ回ることも条件に入っていると思う。

 

だが、その先を浦原さんが考えていない訳がない。何かある、魂魄の身体でも出来る死神での戦いに必要な技術があるはず。

 

間違いなく言えるのはウルルちゃんを倒す事では無いということ。

 

人間の魂魄では対死神戦レベルの戦闘力を持つウルルちゃんにはどう足掻いても勝ち目がない。なので彼女に一発当てる。などの攻撃方面は切り捨てていいだろう。

 

仮に当たったとしてもそれに反応してウルルちゃんが覚醒しちゃったら大変な事になるしね。

あと出来ることといったら何があったかな?

うーん、魂魄の状態で出来ることってあんまり無いんだけど。

 

 

そうか!三分ほど激しい攻撃から逃げ続けながら考えていると、あたしは一つの可能性を思いつく。もし話し合いの場の時にあたしが夜一さんに勘づいてたのを浦原さんも勘づいていたんだとしたら……

 

 

 

 

危険だけどやるしかない、答えはそこにあるはずだ。多分だけど浦原さんがあたしに教えたいことはこれからの戦いでもきっと役に立つ事のはず。

 

問題は分かったとしてもあたしが上手く対応できるかだけど、まあいいや、とりあえずやってみなきゃ始まらない、向き合わなきゃ進まない。

覚悟を決めるとあたしは逃げ回るのをやめてウルルちゃんと相対する。

 

 

 

✳︎

 

 

 

「お、あいつ逃げるのをやめたぞ。何かするつもりか?」

 

ジン太が驚くと、皆が遊子とウルルが向かい合う姿に注目する。

 

「…どうしたんですか?止まっていたら危ないですよ…?」

 

「気にしないでいいよウルルちゃん、遠慮なくかかっておいで」

 

遊子がそう言うな否ウルルの拳が遊子の顔に迫る。しかし当たらない、顔を少し傾ける事で何とか躱す。次に足払いが、これはジャンプして避ける。次に右肩に蹴り、次に顎にアッパー、次にボディブロー、矢継ぎ早に繰り出されるウルルの暴力の連打を弾く、躱す、受け流すことで捌いていく。

 

「おい、どうなってんだ!?アイツ急に動きが良くなってウルルの攻撃を捌いてるぞ!」

 

ウルルの強さは筋金入りだ、死神にだって引けを取らない。

 

いくら今は覚醒している状態じゃあないと言ってもまだ人間である少女に捌けるとは思えない。

ジン太が驚いている中、隣の浦原は嫌な予想が当たったとばかりに呟く。

 

「どうやら彼女は霊覚を鍛えながら戦っているみたいっスね」

 

死神の戦いでは目で物を見る視覚の他に霊圧を感じとる感覚である霊覚が重要になってくる。戦闘に集中すればする程その比重は霊覚に偏ってくると言われている。

 

彼女は目でウルルの攻撃を追うのでは無く、霊圧を感じとって避けているのだ。

 

夜一を感じとることができる程の霊圧知覚、それを戦闘に応用出来れば死神を目指す彼女にとって大きな武器になる。そう思っていたのは間違いない。だが、それはあくまで理想。今の彼女はあまりにも出来すぎている。

 

現に最初は紙一重で躱し、息を切らしながら逃げるのがやっとだった彼女だが、今の彼女には余裕が見え、息も整ってきている。

 

「本当は三十分くらい逃げ切れれば終わりにしようと思ってたんスけど」

 

彼女が霊覚を鍛えることに気づくのに十三分、ウルルと打ち合う事二分、浦原の理想にたどり着くまでに僅か十五分。逃げ切る目標の半分の時間で彼女は今回のレッスンの理想にたどり着いてしまった。

 

「アレでは最早、鬼ごっこでは無いのう……」

 

夜一は呆れながらも二人の打ち合いから目を離すことはない。

 

「…す、すごい。同世代の女の子であたしについてくる事が出来るなんて…」

 

ウルルは驚いた。

 

自分と同世代の女の子、それが普通じゃない自分と対等に向き合ってくれている?初めての出来事に高揚する気持ちを隠せないでいた。

 

彼女はどこまでついて来れるんだろ?もう少し力を出してみようかな?まだまだあたしの力についてこれるかも?本来の目的を忘れかけているウルルは徐々にリミッターを外していく。

 

「…まだいけますよね?もうちょっと力を出しても大丈夫ですか?」

 

「ちょ、ちょっとウルルちゃん!?これ以上はあたし死んじゃうよ!」

 

ウルルがスピードを上げる事によって、遊子の顔から余裕が無くなっていく。

 

遊子は優れた霊覚でウルルの攻撃を先読みし、防いでいた。だが先読みしても身体がついてこれないスピードで殴られたら意味がない。ただの人間であるが故の限界が遊子には迫っていた。

 

「ウルルが興奮してきている。店長、これ以上は不味いのでは?」

 

鉄裁が心配の声を上げると。

 

「そうっスね、目標は達成できてるみたいですし、次のステップへと参りましょうや」

 

次に進む為にウルルを止めよう、そう思ってウルルを見ると、そこには目を見開いたウルルが全力のハイキックを遊子に叩き込もうとしている場面だった。

 

(アレはまずい……!?早くウルルを止めなければ!)

 

 

しかし、ウルルの行動は早く、地割れを起こす程の蹴りが遊子に迫る。何とか腕でガードしたようだが、遊子はそのまま十メートル程吹き飛ばされる。

 

しかし、岩に叩きつけられる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

「間一髪でしたな……」

 

吹き飛ばされた遊子を支えていたのは大柄な男、鉄裁。

何とか受け止める事には成功したが、遊子はウルルの一撃を腕にくらってしまった。

 

「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

 

正気に戻ったウルルは急いで遊子の元へと駆け寄る。

 

「大丈夫だよ!鉄裁さんが受け止めてくれたし、ほら!腕も何ともない」

 

言っている事は本当だった、蹴られた腕を見せる遊子、そこには目立った外傷は特に見当たらない。

 

「お前すげぇーな!今の蹴りは結構ヤバかったと思ったけどな」

 

ジン太も驚きながら一応は心配だったのか駆け寄って来る。

 

「…あ、あの、あたし同世代の女の子とあんまり関わる機会がなくて…そ、それで楽しくなっちゃって……本当にごめんなさい!」

 

ウルルは涙ぐみながら謝る。鉄裁は心配そうな顔を、ジン太も流石に空気を読んだのか静かに見守る。

 

「もぉー気にしないでよ、何も無かったんだし。あたしも成長してるのが実感できて楽しかったよ!また遊ぼうね、ウルルちゃん!」

 

「うん!」

 

二人の間に先程の様な殺伐とした雰囲気はなく、暖かい風が流れたかのような穏やかな空気へと変わっていた。

 

「あ、あの黒崎さん?それとも、遊子ちゃん……って呼んでも良いかな?」

 

「いいよ!いいよ!あたしもウルルちゃんって呼んでるしね、あらためてよろしく」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

遊子とウルルは歩み寄り固い握手を交わした…

 

 

 

間に合わなかったことに罪悪感を抱きつつも、浦原はその光景を微笑ましく見ていたが、同時に現実的なことも考えていた。

 

(腕が何ともなかった……?それはあり得ない)

 

浦原が思うに最後のウルルのハイキックはまともに受ければ致命傷、腕で防げたとしても骨が折れるか、最悪の場合は腕が使い物にならなくなっていた可能性がある蹴りであった。

 

そんな攻撃を食らって普通の魂魄である彼女が耐えられる訳がない。 しかし現実としては彼女の腕に外傷は無い。一体どの様なカラクリなのか?彼女の謎は深まるばかりだが、今はレッスンを進めることが先だと無理やり頭を切り替える。

 

 

 

 

 

この時、ウルルの最後の攻撃を受け止めた瞬間、遊子の腕に浅葱色の模様が浮かび上がった現象。このことに気づいたのは本人の遊子以外には誰も居なかった……

 

 

 

✳︎

 

 

 

「それでどうスか?魂魄の身体には慣れましたか?」

 

「はい!もうバッチリです」

 

「それは良かった、ウルルの方はこれからも仲良くしてあげてください」

 

「もちろんです!それでなんですけど、あの〜浦原さん?勝手に終わりみたいな雰囲気にしちゃいましたけど大丈夫です?」

 

遊子が控えめに問いかけてくる。

 

「ええ、オメデトさんです。レッスン1クリアです。いや〜アタシの思っていたより早く終わりましたね〜」

 

「ホントですか!?やった〜!」

 

胸の鎖をジャラジャラと鳴らしながらはしゃぐ。

 

「安心するのはまだ早いっスよ、ここからが本番です」

 

すると鉄裁が何処から取り出したのか、大きな斧で遊子の胸に付いている鎖を断ち切る。

 

「鉄裁が今断ち切ったのは因果の鎖と言いまして、これが切れると切断面から侵食が始まりそれが胸にまで達すると虚となりジ・エンドです」

 

「貴方が助かる道は一つ、それは虚になる前に死神になるしかない。どうです?至極簡単な話じゃ、ありませんか?」

 

「えっと、それであたしは何をすればいいんでしょうか?」

 

特に意を唱える事なく、遊子は自分のすべき事を浦原に訪ねる。

 

「それはですね……」

 

 

 

 

 

 

「縛道の一・【(さい)】」

 

浦原が唱えたと同時に遊子の足が縛られた様に動かなくなる。

 

「わわっ、浦原さん!危ないじゃ無いですか!?」

 

遊子は文句を言うが、取り合おうとはしない。

 

「まあまあ落ち着いてください、確かこの辺に……」

 

そう言うと浦原は少し歩き、見つけたのか地面を杖で軽く叩く。するといつの間にか地面には大穴が空いていた。

 

「じゃあ、後はお願いしますね」

 

「はい、お任せを」

 

鉄裁は答えると上手く歩けないでいる遊子を摘み上げ、遊子と一緒に大穴へとダイブする。

 

「わぁぁぁぁぁぁーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たしてどれくらいの距離を落ちたのだろうか、気づけば遊子の周りは真っ暗になっており、その横には鉄裁が静かに佇んで居る。

 

「誠に勝手ながらこのレッスンの間、腕の方も禁じさせていただきます。」

 

「縛道の九十九・【(きん)】!」

 

すると遊子の腕に黒い帯が巻きつき、腕を後ろ向きにしっかりと固定する。これで遊子は足と腕を封じられた事になる。

 

「おーい、黒崎サーン!聞こえますかー!」

 

「はーい、聞こえまーす」

 

「これからレッスン2の説明をしますのでよーく聞いてくださーい!」

 

「レッスン2のクリア条件はどうにかして上まで登ってきてください!アタシの所まで来れたらクリアです」

 

ん?彼が何と言ったのか遊子には理解出来なかった。腕は全く動かない、足は腕程ではないが縛られた様にくっついて動きづらい。こんな状況の少女に登ってこいと言ったのか?

 

「あのーあたし、両手両足縛られてるんですけど!」

 

だが少女の虚しい抗議は浦原には届かなかった。

 

「期限は大体七十二時間これは常人が虚になるまでのタイムリミットでもあります。それまでに死神になって登ってきてください。でないと……」

 

 

 

 

 

「アタシ達が虚になった貴方を始末しないといけなくなります。」

 

「ですのでくれぐれもお気をつけて、これがレッスン2その名も絶望の縦穴(シャタードシャフト)

 

 

 

✳︎

 

 

 

絶望の縦穴が始まってからどれくらい経っただろうか、多分まだそんな経ってない、一時間くらいだろう。その間あたしが何をしていたかというと……

 

 

 

 

 

 

何もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

だって文字通り今のあたしは手も足も出ないんだよ。しょうがないよね?壁を登る所か、立って歩く事もまともにできない状態だ。

 

どうにかして死神になる為にあたしの精神世界に潜りたい、でもやり方がわからない。目を瞑って念じてみたりもしたけど何も起こらない。だからあたしは悪戯に時がすぎるのを待つしかないというわけです。

 

「ゔっ…い、痛い……」

 

待っている間も鎖の侵食は進む。これが行われている時は激しい激痛でまともに考えることもできなくなる。

あまり悠長にはしてられない、早く精神世界に行く方法を見つけなければならない。

 

 

 

✳︎

 

 

 

絶望の縦穴(シャタードシャフト)が始まってから五時間が経過。

とりあえず焦ってもしょうがないと自分に言い聞かせ、解決策が思い浮かばない遊子は動けないということもあり鉄裁と談笑をしていた。

 

「あのー、あたしの手足を縛っている魔法みたいなやつ、勉強すればあたしも使える様になりますか?」

 

「ほほぅ、もしや鬼道に興味がおありですかな?遊子殿が死神になれた暁には私がレクチャーして差し上げますぞ」

 

「本当ですか!?よーし、なら早く上に登らなくちゃですね!」

 

鉄裁の言葉を聞いて俄然やる気が出る遊子であったが、やっているのは芋虫の様に這いずり回るだけであった。

 

「あいつ結構余裕ありそうだな」

 

上から穴を覗くジン太は感心半分、呆れ半分で遊子の様子を伺っていた。鎖の侵食が進む度に激痛が走っているはずなのだが。

 

「店長…あの、遊子ちゃんは大丈夫なんでしょうか?」

 

ジン太とは対照的に心配な様子のウルル。

 

「大丈夫だよウルル、彼女の素質を甘くみちゃいけない。下手したら一日で這い上がってくるかもしれないよ?」

 

ウルルの事を優しく諭す浦原。

実際の所、浦原は彼女がここで死ぬ事は無いと半ば確信している。

 

彼女は黒崎一心の娘だ、まず間違いなく彼女の中には死神の力が眠っている。それにまだ計りきれない知恵を持つ彼女、このやり方をあらかじめ知っていたのかと思えるような落ち着きよう。恐らく彼女は穴から這い上がる方法をも知っているはず。

 

因果の鎖を断ち切った時にやたらと落ち着いていたから少し厳しくしてみたが、誤差の範囲内で順調にクリアすると浦原は思っていた。

 

 

後は彼女が3日程家に帰らない事を彼女の家族にどう伝えるか……

 

 

そんな難問を浦原が考えている時に変化は起こった!

 

「お、おい、あいつ急にすげぇ苦しみ出してないか?」

 

「何ですって!?」

 

ジン太が指を差す方を見ると、そこには先程と違い胸を押さえ苦しんでいる遊子。因果の鎖の侵食が先程とは違いかなりのスピードで進んでいた。

 

「まだ始まってから五時間くらいしか経ってねぇぞ!どうなってんだ!?」

 

「遊子ちゃん……」

 

不安を抱くジン太とウルル、さすがの浦原も予想外の事態にかなりの焦りを感じていた。

 

(どうなっている!?人間や死神、その誰しもは虚に対しての抗体を持っているはず、なのに三日所か、一日も侵食に抵抗できないなんて事があるのか?彼女程の霊力を持ちながらだ!それだけでは無い!もしこのまま行く様であれば……)

 

穴の奥から空気を切り裂く様な遊子の悲鳴が聴こえてくる。彼女はまるで体に異物を注ぎ込まれたかの如く拒否反応を起こしている様に見えた。

 

「気づいておるか?あの様子じゃと虚になる所ではない、その前に侵食に耐えきれず彼奴の魂魄が破壊されて完全に消滅してしまうぞ。」

 

近くで穴を覗いていた夜一の考えに浦原も頷く。

 

このままでは彼女が消えてしまう。浦原は絶望の縦穴(シャタードシャフト)という方法なら彼女が死神になれる可能性は高いと思っていた。

 

だが、結果は始めてから五時間で彼女の魂魄は破壊されようとしている。

何か見落としていることがあったのか?それとも彼女すら知らない何かがあるのか?いやそんなのは後でいい、まずはこの状況をどうするか……

 

「ここは下手に手をだすよりもギリギリまで様子を見る事にします」

 

「もしもの為にジン太とウルルは対虚戦を意識したまま待機!鉄裁はいつでも動けるように!必要とあらば夜一サンにも手伝ってもらいます!」

 

浦原の緊迫した指示に皆、緊張した面持ちで配置に着く。

 

(今アタシ達に出来る事は少ない。後はこの事態を引き起こしているであろう彼女の異常性、そこに期待するしかないっスね……)

 

 

 

 

 

果たして世界は彼女を必要とするのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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