原作を読み返していたらウルルの浦原への呼び方がキスケさんだったので、この小説では表向きは店長、素が出る時はキスケさんでいこうと思います。
「ここは……?」
目が覚めるとそこは浦原商店の地下では無かった。
遠くを見渡せば緑の竹林、空は夜空で薄暗い景色を月明かりがかすかに周りを照らしている。だだっ広い庭園の中央に位置するは寝殿造りの大きな屋敷。とても現実のものとは思えない様な光景があたしの前に広がっていた。
「もしかしてこれがあたしの精神世界ってやつなのかな?」
お兄ちゃんの精神世界とは全然違う、いかにも和風な感じの景色にあたしは圧倒される。特に真ん中を陣取っている古式ゆかしい屋敷は瀞霊廷にもそうそうなさそうな程立派な屋敷だ。
精神世界に来れたのはいいけど現実では今も虚の浸食が進みあたしの魂魄を破壊しているはず。つまり、あたしに残された時間はごく僅か。なぜあたしは虚の浸食に常人よりも耐えられないか、などの疑問を考えたいところだが今はやるべきことを優先しよう。まあ大方の予測はついてるしね。
「あのー!どなたかいらっしゃいませんかー!」
大きな声で呼びかける。ここがあたしの精神世界なら間違いなくあたしの斬魄刀が具現化した存在がどこかにいるはず、まずはそれを探し出し、死神になる方法について聞かなくてはならない。庭園に居るのか、
「出てきてー!出てこい!おいでませー!」
うーん、中々反応がないね、意外と恥ずかしがり屋さんだったりするのかなー?いくら精神世界とはいえずっと叫ぶの結構疲れちゃうんだよね、これは屋敷の中に行った方がいいのかな?なんて考えていると……
「そう何度も声を荒げずとも、聞こえております」
突如としてあたしの前に現れたのはあたしより六つくらいは年上そうな少女。和を感じる端正な顔立ちに癖一つないストレートに伸ばした黒色の髪は腰よりも長く、あたしを見つめる瞳は右目が真紅、左目が浅葱色と左右の瞳の色が違う。そして一番目につくのは纏っている衣服。彼女が纏っているのは黒い髪とは正反対の真っ白な着物、その姿から死装束のようにも見えるが、左から右に胸のあたりを通り過ぎる様に縫われている黒い揚羽蝶の刺繍がそのイメージを霧散させる。総じて評するのなら不思議な雰囲気の少女であった。
「えーと、もしかしてあなたがあたしの斬魄刀なのかな?」
当然の疑問をあたしは投げかけるが彼女はどう答えるべきか迷っているようだった。
「はてさてどうお答えすればよいやら、そうであるとも言えますし、そうでないとも言えます」
なんかあたしの力なのにどうにも胡散臭い子だ、とりあえず無駄だとは思うけど名前でも聞いてみようかな?あたしの力とはいえ、自己紹介はしておこう。
「あたしは黒崎遊子!もしよかったら、あなたのお名前を聞かせてくれないかな!」
「私の名ですか……失礼、私は生まれてから幾分の月日が流れたわけではありませんのでどう答えてよいものか……そうですね強いて申し上げるのであれば██と言います」
うーん、やっぱり肝心な所は聞こえないみたいだね。斬魄刀の名を聞くためには斬魄刀との対話と同調が必要だったはず、会っていきなりはさすがに出来ないか~
「おや、名は聞こえなかったようですね、ならばこれ以上は詮無きこと……」
あたしも高望みをし過ぎたみたいだね、今は名前よりも死神になる事が最優先。気持ちを切り替えていこう!
「名前はまた今度聞くとして、今はあたしに力を貸して!時間があんまりないみたいなの」
あたしの必死の訴えに少女は神妙な面持ちでうなずく。
「遊子、貴女の状況は概ね把握しております。死神になる為には私が所持する斬魄刀を見つけ、引き抜いてもらう必要がございます」
「そして今、貴女の目の前に居る私は本体では無く幻の様なもの。私自身はこの世界の何処かに存在しています。ですので、遊子には私と斬魄刀に会いに来ていただきたいのです」
なるほど、つまり鬼ごっこの次はかくれんぼってことだよね?それなら今のあたしにも何とかなりそう。
「一応聞いておきたいんだけど、何処に居るのかを教えてもらうことは……」
「────なりません」
ですよね〜ちょっと言ってみただけ。まさか顔色一つ変えずに否定されるとは。
「ご存じの通り今は時間がありません。外の者達がどれほどの時を稼げるかは分かりませんが限度がありましょう。ですので長居はできませんのでお忘れなき様……」
そうだよね、くだらない質問をしてる場合じゃない。外では浦原さん達が頑張ってるかもしれないんだから早くこの子を探さないと。
「よーし!待っててね、すぐに見つけてあげるから!」
「ええ、楽しみにしております」
そう答えると不思議な少女は霧の様に消えていった……
✳︎
遊子が精神世界で少女から説明を受けている頃、浦原商店の地下でも変化が起きていた。
「浦原殿ぉ!これ以上静観することはできませぬ!」
先程叫び続けていた少女を見ながら鉄裁は焦る。それもそのはず、虚の侵食はまだ続いているのに今は声を上げず、ぐったりとしたまま動かなくなっている。
「キスケさん!このままじゃ遊子ちゃんが……」
「ああ、あれはマジでヤベェ感じだぜ」
ウルルとジン太は心配そうな表情で浦原に問いかける。浦原は俯き、何やら考え事をしていた様だが、顔を上げると……
「テッサイ!何とか虚の侵食を遅らせてください!どんな手を使ってもいい。それと夜一サン!テッサイのサポートを、手伝ってもらいますよ」
「全く、世話の焼ける奴じゃのう」
そう呟くと、煙に包まれた黒猫が褐色肌の女性へと変貌を遂げる。そのまま穴の中に飛び込み倒れ込んでいる少女を一瞥し、鉄裁の隣まで近づいて来る。
「して、どうする?」
「致し方ありますまい。今から禁術を使用いたしますのでどうかご内密に。時間停止の鬼道を応用し、虚の侵食を遅らせてみせます」
「この鬼道は範囲を絞るのに少々手間がかかり、力の加減を間違えれば周りにも影響を及ぼしかねません。ですので、夜一殿には彼女を覆う結界を構築していただきたい」
「相分かった」
夜一は少女に近づくと地面に手を置きながら唱える。
「縛道の七十三・【
遊子の周りを青白い四角柱が覆っていく。
「これでどうじゃ!」
「お見事です夜一殿。この結界の中に鬼道を流し込みます」
鉄裁が手をかざすと結界の中が黄緑色の光で満たされる。すると、遊子の因果の鎖を侵食していた虚の動きが鈍っていく。
「効果はあったみたいですな。ここからは持久戦となります、夜一殿は大丈夫ですかな?」
地面に手を置き、結界に絶えず霊力を流しながらも夜一の顔には余裕が見えた。
「儂を誰だと思うておる、これくらい余裕じゃ」
「頼もしい限り」
二人の仕事ぶりを見ながら浦原は考える。一応、虚の侵食を遅らせる事には成功したようだが、二人には、特にテッサイにはかなり無理をさせてしまっている。どれくらい保つのかはわからないが、日にちを跨ぐ事はないだろうというのが浦原の見解だ。
そして浦原自身に出来ること。それは万が一が起きた場合の責任を取る。彼女が虚化し、強大な力を付けて外にでた場合は自分が始末をつける。近くにいるウルルとジン太を護り通し、浦原商店の外にも絶対に出さない、その覚悟を浦原は決めていた。
(アタシ達が出来ることはやりました。後は黒崎サン、アナタ次第ですよ……)
浦原が倒れ込んでいる幼い少女を見つめる目はいつにも増して、真剣な視線であった。
✳︎
「もぉーー!この屋敷広すぎ!全然みつからなーい!」
不思議な少女と斬魄刀を探すことになったあたしだったが、まず始めに行ったのは屋敷の中の探索。外を探すよりも効率的だと思ったんだけどこれが大苦戦。この屋敷、どう考えても不必要な程に部屋の数が多すぎる。手当たり次第に襖を開けていくがあたしを出迎えるのは刀ではなく、何もない殺風景なお茶の間ばかり。
途中で他の方法に気づいて少女の霊圧を探ろうとしてみたけど全然上手くいかない。探ろうとするたびに何かノイズの様なものが邪魔をしてくるので上手く探る事が出来ない。なのであたしは広い屋敷の中を駆け回っているという訳だ。
「だ、ダメだ〜闇雲に探したんじゃ見つかる気がしないよ〜」
あたしは思い悩んでしまう。あの子も何かヒントくらいくれても良いのに!意味深なことだけ言って消えてしまった少女に対しあたしは少し怒りをぶつけてみる。
とにかく他の方法を考えてみよう。ここに来たばかりの頃の様に大声で呼びかけてみる?いやダメだ、確かにやってみる価値はあるかもしれないが最初に出てきたのは多分、彼女が姿を見せたいと思ったから。それに今あたしが声を上げて彼女に届くのか?という疑問も残る。
後は、あとは、えーっと何かないのか?あたし!ここをクリア出来なかったら何も始まってないのに全てが終わっちゃうぞ。襖を開ける作業を中断して立ち止まり、両手を頭に当ててあたしは考え込む。
何かないか?こういう時は?今の身体でも出来ることは?あたしだけの理は?深く深く考える。時間にして五分も経っていないであろう間考えた結果……
閃いた!
思えばすごく簡単な話。あたしだけの理とは広い霊圧知覚ではなく原作を観ているという知識、何のことはない、早い話は先人に倣えば良いんだ!
原作ではこの方法を使って死神の力を取り戻した人物が居る。言うまでもないがその人とは黒崎一護、あたしのお兄ちゃんだ。
確かお兄ちゃんの時は斬月のおっさんに無数の箱を提示されてその中に一つだけある死神の力を探せって言われたんだっけ。それでお兄ちゃんはあたしと違って霊圧を探知する事が苦手だから他の方法を探そうとしてある人が言った言葉を思い出したんだ。
あたしは目を閉じて集中し、そして目を開ける。すると周りに白い無数の帯が現れる。霊絡が見えることに安堵しつつ、あたしはお兄ちゃんを助けた言葉を思い起こす。発言した人物は
『
「
あたしは無数にある帯の中から一つの色が紅い帯を掴み取ると、その帯を辿りながら屋敷を駆ける。
これだ!この色が紅い帯を辿って行けば、あの子が待つ部屋へとたどり着ける!時間を無駄にしてしまった分、急がなくては。
時間にして三分くらいかな?手に紅い帯を持ちながら走っていると、あたしは明らかに他の部屋とは雰囲気が違う襖の前に立っていた。この襖の奥からは息が詰まるような気配をかんじる。間違いなくここにあの子とあたしの斬魄刀があるはず。あたしは息を呑むと意を決して襖を開ける。そこには……
「お見事です。お待ちしておりました遊子」
刀を前に正座をしている、先程出会った不思議な少女が柔らかな笑みであたしを迎えた。
「やっと会えたよ、こっちは苦労したんだからね」
目的通りの少女に出会えたことをあたしは安堵する。
「ええ、心中お察しします。ですがこれも必要なことでしたので」
少女は本当に思っているんだか分からない事を口にする。
「お分かりだとは思いますがこれは貴女の死神の力、貴女にはこの刀を受け取って頂きます」
少女は前に置いてある刀を掴むと、遊子の前に差し出してくる。何か特別な仕掛けがある様には見えない一般的な死神が持つ、サイズも普通の浅打だ。
「これがあたしの斬魄刀……」
あたしは初めて持つ斬魄刀の重みに感動すら覚える。
「じゃあ早速!」
「お待ちください!」
刀を引き抜こうとすると少女が呼び止める。
「どうしたの……?」
遊子が少女を見るとその顔は困惑しているように見えた、まるで今言うべきなのかそうでないのかを迷っている様な素振り。やがて決心したのか少女は
「これも持っていってください。これも貴女の力、このペンダントが何であるかはとっくにご存じなはず、いずれ必要となる日が来ましょう。その時までに然るべき者に教えを乞い、力を使いこなせる様になってください」
あたしは渡されたペンダントを慎重に受けとる。このペンダントの名前は
充分に驚いてはいる。だけど、これが渡された事によってあたしの中の予想が現実だったんだと納得させられる。特に謎であった、あたしの魂魄が虚の力に耐えられなかった理由。これは滅却師であったのなら説明がつく。滅却師は唯一、虚に対する抗体がない種族である。だから耐える事などできる訳がない。いつからなのかはわからないが、あたしは
「これで準備は整いました。刀を引き抜いてください。外の者達も健闘はしていますが、これ以上はもたないでしょう」
もしかしてだけどお兄ちゃんの時にあった様な精神世界の崩壊が起こらなかったのは浦原さん達のお陰なのかな?だったら、頑張ってくれている浦原さん達に礼を言わなくては。
「また、会えるよね?」
「もちろんです、その時には私の名が聞けると良いですね」
あたしは五角形の滅却十字を仕舞い、浅打の鞘と柄に手をかけると一気に刀を引き抜く!瞬間、あたしの周りを青白い光が包んでいくと、そこであたしの意識は静かに途切れた。
「行ってしまいましたか……」
誰も居なくなった部屋で少女は一人呟く。
「ふふっ、『
部屋に少女以外の人の気配はない。それでも少女は自身の心に語りかける。
「私は貴方であり、貴方は私。案ずる事はありませんよ、元はと言えば
そこまで言い切ると少女は目を閉じ、再度静かに言葉を吐く。
「ですから共に観察しようではありませんか。彼女の行く末を……」
✳︎
浦原商店の地下にある勉強部屋、そこで鉄裁達が遊子の虚の侵食を抑え始めてから三十分は経とうとしている時に変化が起きた!ぐったりとしている遊子を見ながら夜一は驚く。
「どうなっておる!?此奴は最早死にかけ、そのはずなのに霊圧が爆発的に上昇してきとるぞ!」
周りの人、特に近くに居る夜一と鉄裁に重い霊圧がのしかかる。霊圧の高さだけなら隊長格を超えるかもしれない程の霊圧。その高さに結界を維持しようとする夜一は苦悶の表情を浮かべる。
「くっ!このままではもう持たん。儂の貼った結界が砕け散る!」
「夜一殿、辛抱してくだされ!ギリギリまで耐え忍ぶのです!」
その姿を見て浦原は焦る。成功しているならいい、しかし、この霊圧の量は異常だ。もしかしたら危惧していた万が一の最悪な事態、黒崎遊子の虚化が迫っているのか!?
「何が起きている?まさか!?」
浦原は一つの考えにたどり着く。理由はわからないが、本来であれば彼女の魂魄は虚の侵食に耐えきれず消滅していたはず。それを自分達が手を加え、破壊を遅らせる事によって侵食に手を貸してしまったのか?
これは急遽考えついた根拠もない仮説。だがもし、当たっていたとのだとしたらこれ以上に悪い話はない。彼女から感じる霊圧の量は低く見積もって隊長格クラス、もし戦闘になるとすれば激戦となる。
嫌な考えをしながら黒崎遊子を見るとそこに更なる変化が訪れる。霊圧が上昇し続ける少女、その身体から突如噴き出した青白い光が少女を包み穴の中でさらに重苦しい霊圧がのしかかる。
「これ以上は危険じゃ!離れるぞテッサイ!」
「最早限界ですか……」
夜一と鉄裁が離れようとした瞬間!遊子を覆っていた結界が粉々に砕け散り、穴の中は青白い光で満たされ大きな光の柱となって立ち上る。身を切る様な暴風が近くの者を襲う。夜一と鉄裁はなんとか耐え、浦原は二人の子供を庇う様にして耐える。
しばらく耐えていると光の中から何かが凄まじいスピードで、浦原の前へと降り立ち激しい砂埃を上げる。浦原は自身の斬魄刀である仕込み杖に手をかけながら砂埃に向かって問いかける。
「……アナタは
自分の前に居るのは人間なのか?次第に砂埃が晴れていきそこに居る人物の姿が露わになっていく……
「名前は
その後ろ姿は小さい、幼い少女に見えた。
「好きな物は可愛いもの」
しかし今までと着ている服が違った、彼女が纏うは黒い袴、その名は
「大切なものは家族」
彼女が右肩に担いでいるのは普通のサイズの刀、全ての死神が手にしている刀である浅打。
「職業は
少女、黒崎遊子は振り返ると浦原に向かって満面の笑みを浮かべながら左手でVサインをしつつ答える。
死神♪