見返してみたらリルトット以外にも、滅却師の軍帽被ってる人めちゃくちゃ居ました。
舞い降りた帽子を拾い、被り直すと、浦原は先程起きた出来事について考えを纏める。
油断していたつもりは無い、彼女の高速移動に自分は反応する事が出来ていた。現に遊子が目の前に移動し、斬魄刀を切り上げる瞬間、自身の身を半歩うしろに下げた。初見だが、斬魄刀のリーチを正確に把握できていただろう、それでも
だが、浦原もただやられた訳ではなかった。彼女が突如使ってきた高速移動、その正体を正確に見抜いていた。
今の移動技、あれは脚力に任せた強引な走りでも、死神が使う歩法である瞬歩でもない。大気中の霊子を固めて足場とし、それに沿う様に動くあれは……
「今のは
浦原の問いに遊子は少しバツが悪そうな顔をする。
「騙してた訳ではありません、あたしもこれを知ったのはつい最近なので……」
「なるほど……その目を見る限りだと、嘘ではないみたいっスね」
浦原は遊子の答えにとりあえず納得する。だが……
まさか黒崎遊子は死神と滅却師の力を両立して振るえる存在だと言うのか……?父親が死神で母親が滅却師、理屈は分かる。だが、そんな存在を浦原は今まで目にした事がない。それと…
今の動きを見るに、どうやら彼女は一晩で戦う術をある程度身に付けてきたようだ。ならば、今の彼女がどこまで戦えるのか?それを見極めながら黒崎遊子と言うイレギュラーについての考えを深めていくのも良いのではないだろうか?
浦原は今後の方針を定めると、遊子に死神としてのチュートリアル、最後のレッスンを言い渡す。
「実にお見事でした黒崎さん、もう半端な指導は必要なさそうだ。なので最後のレッスンです。これがクリアできれば晴れて一人前の死神、アタシ達の個別選択授業へと移れる」
「最後のレッスンはアタシと……斬り合いをしてもらいます」
浦原が言い放った内容に、遊子は不安げな様子で呟く。
「浦原さんとですか……」
「心配しないでください、これは言わばお遊び。クリアの条件はアタシに“まいった”と言わせてみること。どうです?とっても簡単でしょ♪」
それが簡単に出来たら苦労はないと。遊子は呆れ気味に浦原を見つめるが、文句を言っても話しが進まないので仕方なく提示されたクリア条件を飲む。
「分かりました……やれるだけやってみます!」
「よろしい、では……」
浦原は頷くと自らの仕込み杖に手を添える。
「
浦原が呟くと手に持つ杖の形状が変化し、柄の先が折れ曲がった一振りの斬魄刀へと姿を変える。
「お遊びとは言いましたが覚悟は決めた方がいいっスよ、でなければ──」
言い終える前に浦原は
「命を落としますから♪」
✳︎
岩場しかないだだっ広い空間、勉強部屋にて鳴り響くのは胡散臭い店主と、小さな死神の少女が刀を切り結ぶ音。
「良い動きだ……なんだかんだでついてこれてるじゃないスか」
浦原から繰り出される
「ちょっと、ちょっと!昨日死神になったばかりの女の子にこの仕打ちはあんまりじゃないですか!?」
初めての実践なのに!と、浦原に訴えかけるが、聞こえているのかいないのか、ニヤリと笑ったまま浦原は攻撃の手を休めることはない。
遊子は激しい斬り合いに耐えながら思考を巡らす。
なんて威圧感、飄々としているのに隙が微塵もない。あたしに打つ手がないと見たら本当に殺されかねないよ。
どうしよう、何か打開策はないか?このままじゃいつかは防ぎ切れなくなって致命的な一撃を食らってしまう。かと言ってあたしが闇雲に刀を振っても浦原さんに届くとは思えないし……
今あたしの使える手札はそれほど多くない、だけど、どれも浦原さんには初見の攻撃になるはずだ。
浦原さんは一度見た攻撃は完璧に対処してくる。だけど初めて見る攻撃には対処が遅れるはず。あたしが浦原さんに一矢報いるとしたらそこにしかないよね。それに、ふっふっふ……あたしにはとっておきの技があるのだ!
調子良く考えを纏めた所で、遊子は迫り来る刀をバックステップで躱す。更に詰めてこようとする浦原を見ると青白く光る霊子を足場にし、浦原との距離を十分にとる。
「おや、距離を取られちゃいましたか。で、どうするんです?そこから戦う術があるとでも?」
浦原と遊子の距離は軽く十メートル程は離れている。どう見ても刀が届く距離ではない。何か策があるのか?と、浦原は遊子の様子を注意深く観察する。
「ええ、まずはあたしの斬魄刀の能力をお見せしようかと思って」
そう告げると、遊子は目を瞑り集中し、斬魄刀に霊力を流し込む。そうすると見る見るうちに新月の刀身が青白い光に包まれる。
「いきますよ……怪我しても知りませんから!」
言うや否や遊子は青白く光っている新月を浦原に向けて振るう。すると纏っている光が伸び、しなりながら浦原の元へ。
「これは!?」
迫り来る光に少し驚きつつも浦原は斬魄刀で防ぐ。しかし、遊子が刀を振るう度に光はまるでムチの様に不規則な挙動で右から、左から、時には対処がしにくい下から、と、執拗に攻めたててきた。
「どうですかあたしの斬魄刀は?少しは焦ってくれてますか?」
煽る様な遊子の口調、しかしその言葉を聞いても浦原のニヤケた表情が変わる事はない。変幻自在に迫る青白い光、それを涼しい顔で捌きつつ目で測りながら、距離を取ったり、離したりを繰り返す。
時間にして三分程の時を攻防に費やす二人だったが、急に浦原は忙しなく動いていた体をピタリと止め、立ち尽くす様な格好をとると、構えもとらない無防備な姿を遊子の前に晒す。
遊子は一瞬考える。アレは攻撃を誘っている、つまりは罠だと。だが遊子に他に策があるわけではない、ならば、敢えて策に乗り、無防備な姿の真正面へと攻撃を加えよう。そう結論づけると刀を大きく振りかぶりそして振り下ろす。浦原の胸の辺りを狙って刀身を覆っている光が凄まじいスピードで伸びていく。
ふぅ……と、息を吐くと、浦原は斬魄刀である紅姫の鋒を自身の体を切り裂こうとする光のムチに突きつける。すると……
「す、すごい……」
鋒に当たった光はパリンと言う音と共に砕けちり、あたかも最初から存在してなかったかの様に刀身を覆っていた光が消え去っていた。
「『
たった数分で相手の能力が隅々まで分かってしまうその解析力。やはり、研究、対応策を出す事に関しては彼の右に出る者はこの世界に居ない。
「能力の根源は至極簡単です、それは────」
「霊圧っス」
能力の正体を突き止めると、さらに言葉を紡いでいく。
「アナタの斬魄刀は自身の霊圧を刀身に纏わせそれを様々な形に変えて武器とする能力。最初にアタシの帽子を落としたのも刀の鋒が当たったのではなく纏っていた殺傷能力のある霊圧が当たった……違いますか?」
次々と話される考察、それに遊子は調子に乗った様な意地の悪い笑みで肯定の言葉を口にする。
「──ご名答、あたしの新月は刀身に纏わせた霊圧を武器にします。霊圧だからどんなに大きく長くしても重量は変わりません(その分燃費は悪くなるけど)内からの霊力を武器として戦うなんて、なんとも死神らしい能力だと思いません?」
「そうっスね〜しかも、発想次第では色々な使い方ができそうだ」
「斬魄刀自身の形を変えたりは出来ないんで、ある程度の制限はありますけどね」
やりとりを終え一息つく両者。安心するのも束の間、ここで浦原の霊圧が徐々に上昇していく。
「まだ終わりじゃないでしょう?今度はこっちからいかせてもらいますよん♪」
浦原は自身の斬魄刀を振りかざす。
「
刀を振り下ろすと飛来するは紅い斬撃。鋭く正確な飛ぶ斬撃がその身を切り裂こうと遊子の元に迫る。
この技に彼女がどう対処するか浦原は注目していた。普通であれば避けるか、斬魄刀で防ぐか。様々な予想を立てる浦原であったが遊子の取った行動はそのどれにも当てはまらず、そしてあまりにシンプルな、左腕を差し出すという行為であった。
「馬鹿な!?」
確かに加減はした。だが、今の彼女に素手で弾ける程甘い技ではない。腕で弾こうとすれば最悪の場合、腕が吹き飛ぶことになる。焦る浦原であったがその心配は杞憂となった。
「ぐぎぎぎ、えいっ!」
紅い斬撃が左腕に当たる直前、遊子の左手に煌びやかな模様が浮かび上がりそのまま手で斬撃を掴むと少しの拮抗の後弾く。
「いったーい!けど、なんとか弾けた!」
手にふーふーと息を吹きかけている少女に対して、浦原は息を絞り出しながら先程の事を問う。
「黒崎サン……今のは……?」
「あれ?敵を目の前にして質問なんて浦原さんらしくないですね。知りたければ自分の目で!じゃあないんですか?」
質問に対して笑顔で答える遊子、浦原の方も未知への興味からか自然と口元がニヤける。
「確かに♪」
知ったような口を聞く遊子であったが、浦原はそのとおりと納得すると先程の能力を使わせる為に脅威的なスピードで遊子に接近し、防ぎにくい突きを肩めがけて繰り出す。
だが浦原の行動を予測していたのか、今度は余裕を持った表情で迫り来る突きを煌びやかな模様が刻まれている左手で弾き返す。弾いた瞬間は痛むのか顔を少し
「もう!?煽ったのは謝りますからもう少し手心を、じゃないとあたし泣いちゃいます!」
「ありゃ、そんな顔をしてよく言う」
攻撃の手を緩めず何度も刀を打ち付ける。二度、三度、それら全てを左手一本で捌いていく。
「なるほど、ウルルの蹴りをどうやって耐えたのか疑問でしたけど、これなら納得がいく」
「偶然ですよ!」
やがて耐えかねるのか、遊子はまたもや浦原から距離を取ると両手でバツ印を作りながら主張する。
「もう終わりです!ダメ!これ以上は痛いんで使わないです!」
「そうですか…もう少し見てたかったですけど仕方ないっスね」
露骨にガッカリする浦原であったが、気を取り直すと再度刀を構える。
「それで?もう一度距離なんか取ってどうするんです?言っときますけど同じ手は二度、通じないっスよ」
一瞬にして空気が緊迫したものへと変わる。それでも、遊子は表情を崩す事はない。
「安心してください、さっきのとは違います。今から見せるは一つの技。そろそろこのレッスンを──」
終わらせます
✳︎
あたしが新月との鍛錬で覚えた事は色々ある。付け焼き刃であっても我ながら短い時間によく覚えられたと思う。
最初に覚えさせられたのは飛廉脚、歩法を教えると言うから楽しみにしてたのに新月が最初に「大気中に無数に飛び交う霊子を足元に固めれば踏み台とすることができます」なんて言ったのにはさすがに焦った。
死神になって最初に見せるのが飛廉脚なんてどうなの?それはもう死神なのかな?こんなのを見せたら浦原さんにさらに変に思われちゃうよ。
何度も抗議したが瞬歩なんて歩法、やり方は知らないし、使えないと言う。あたしが始解を覚えたとなると最終レッスンに浦原さんと直接戦うことは予想出来ていた。その為に何とか歩法の基礎くらいは覚えたかったあたしは苦渋の決断で飛廉脚を教えてもらった。原作でもマユリさんが使っていたから使い方さえ覚えれば滅却師にしか出来ない歩法って訳じゃないはず。だからセーフだよね多分。
次に覚えたのは
次に新月の能力を説明してもらったんだけどそこで大きな無駄と言うか、勿体ない部分があるのに気付いた。刀身に霊圧を纏わせて色々な形に出来るのは応用が効いて便利なんだけど、纏わせた霊圧はどうやらあたしの中に戻すことは出来なくて使い捨てになるらしい。
そこで纏っている霊圧を相手に飛ばして技とするのはどうだろう?と新月に相談したら可能だと言う。これにはあたしも大喜び!鍛錬の後半はその技をどうにか物にしようと時間を使いまくった。「最初から飛ばす為に霊圧を込めていては本末転倒では?」なんて言われたけどそんなの知らない、あたしはやりたい。
うおっほん!それで技は決まったけど肝心なのは名前だ。誰だったか、名前があるのとないのとでは力が違ってくるって言ってた気がするしね。名前についてはあたしの中で最初から決まっていた。新月にその名前を伝えると「はぁ……なんとも大それた名ですね」なんて言われた。しょうがないじゃん!あたしが考えたんじゃないんだからね!でもそんなことを言いつつも新月の口元は微笑んでいたから多分気に入ってくれたんだと思う。
今から使うのはその技。あたしは刀に少しづつ霊圧を込める。この加減が難しい、あまり込めすぎるとごっそり霊力を持ってかれるから少しづつ、イメージはあたしと言う霊力の塊からほんの少し削ぎ落とす様な感覚……
「いきますよ!加減は出来ないので上手く防いでください」
あたしはそう言うと、斬魄刀を上段に構える。その様子を浦原さんはただ観察していた。
これはあたしが憧れた技、黒崎になったからには打ちたい技、これがあたしの最初の技。
これがあたしの……
霊圧を込めた刀を一気に振り下ろす。すると纏っていた青白い光は三日月状の斬撃となって浦原さんの元に飛んでいく。
「紅姫!」
そう叫ぶと浦原さんの前に紅い盾が出現し、ピキリと言う音をたてながらもあたしの斬撃を防いでいた。
「ふぅ〜危ない危ない、この“
言い終わる前にあたしは更に刀を振る。三つの斬撃が飛来し盾に直撃、今度は紅い盾を粉々に粉砕した。
「なっ!?」
流石の浦原さんもこれには驚いてるみたいだった。あたしは追い討ちをかける様に月牙天衝を連発する。飛んでくる斬撃を逃げ回りながら浦原さんは躱していく。よーし今度は浦原さんが苦しむ番だ!さっきはいじめてくれたからね慈悲はないよ!
「ちょっと!?今のやつは決め技みたいな感じじゃないんスか!?」
「そんなの一言も言ってませんよ?月牙天衝は必殺技じゃありません、ただの牽制技です」
あたしの月牙天衝はお兄ちゃんのとは違う、お兄ちゃんのは斬撃の瞬間に持ち主の霊力を喰らって超高密度の霊圧を放出する技。あたしのは刀に霊圧を込めてただ斬撃の様に飛ばす技。なので月牙天衝をお兄ちゃんと同じように使うのには霊圧を込める調整が実戦では難しいし、そもそもお兄ちゃん程に化け物じみた霊力をあたしは持っていない。だから参考にしたのはホワイトお兄ちゃんの使い方。ホワイトお兄ちゃんの様に戦いとは呼べない圧倒した使い方は出来ないが、距離を取って連続で放つ打ち方はいい見本になった。
「まだまだあたしの霊力は尽きてませんよ!もっと、もっーと!撃ちますから」
そう言うとあたしは四つの斬撃を浦原さんめがけて放つ。無慈悲な斬撃が迫るが浦原さんは立ち止まるともう一度、血霞の盾で防ごうとする。四つの月牙が盾に命中すると、辺りは大きな砂煙に包まれた。
もちろんこれで決まったとは思ってない、なのであたしは砂煙の中、密かに飛廉脚で移動する。そして立ち尽くしている浦原さんを確認すると背後に回り首筋に刀をあてる。やはりというか、浦原さんの体には傷一つついてない様に見えた。
「これで終わりです。“まいった”って言ってくれますよね?」
刀を突きつけてるのに浦原さんは何も答えない。どうしたんだろう?何か策を練っている?いや、そんな時間はないはず……
なんて考えてると急に浦原さんの体が膨らんでいき、そして弾けた!
「しまった!?」
驚くのも束の間、気づけばあたしの首筋にヒヤリとした硬い感触。見なくてもわかる、あたしは今、浦原さんにやろうとしたのと同じ事をされている。
「携帯用義骸っス、入れ替わるタイミングが結構難しいんスけど、上手くいったみたいっスね〜」
油断した訳じゃない。だけど、月牙天衝を撃てたことに興奮し、霊圧探査を疎かにしたあたしのミスだ。有利だった戦況が一転、一手で命を取られかねない絶望的な状況になっちゃったな〜
こうなってしまったからには一か八かだ。首に静血装を集中して展開、そして振り向き様に月牙天衝を放ちながら距離を取るしかない。よし、やるぞ。まだ諦める訳にはいかない、これからの出来事に備える為にも浦原さん達に教えを乞うのは絶対に必要。どうにかして合格するしか道はないんだから。
あたしは覚悟を決めて振り向こうとする。その動作に入る直前、浦原さんは軽い調子でとんでもないことを口にした。
「まいりました♪」
「えっ……?」
合格したの……?急な出来事にあたしの頭は理解が追いつかない。喜びよりも困惑が先にくる。
「えっと……浦原さん?それはどういう……?」
「どうもなにも合格だって言ってるんですよ」
「でもあたし、まだ浦原さんに光る物を見せれたとは……」
絞り出す様な小さなあたしの呟きに、浦原さんは突きつけていた刀を下げて真剣に答える。
「ご冗談を、アナタは凄まじい力をボクに見せてくれました、想像以上のね。それに言ったでしょ、これは遊びだと。これ以上やるなら遊びじゃなくなる。そんなの黒崎サンも望んでないはずです」
そりゃそうだけど、こんな決着だと合格の実感が湧かない。それこそ終始、浦原さんに遊ばれてただけみたいな……
「とりあえず、喜んでいいんですよね?」
「もちろん♪」
浦原の優しい言葉を聞いたあたしは、斬魄刀を背中の鞘に仕舞うと、両手を上げて辺りを飛び跳ねる。
「わーい!やったー!」
大喜びで辺りを飛び跳ねてると、あたし達の元に夜一さんと鉄裁さんが歩いて接近したのかいつの間にか近くに来ていた。
そっか、二人もいたんだっけ、戦いに集中しすぎてすっかり忘れてたよ。
「なんじゃその顔は?もしや儂らが見てたことを忘れてた訳じゃあるまいな?」
うわっ、勘がいいな夜一さんは……
「どうでした?テッサイ、夜一サン?新人死神の黒崎遊子サンは?」
浦原さんの質問に鉄裁さんは豪快に笑いながら答える。
「ハッハッハッ!お二人とも良い戦いでしたぞ。これなら私の方は問題なさそうですな。斬魄刀の能力を見る限り、霊力のコントロールはバッチリ出来ているとお見受けします。私が現役だったのなら鬼道衆にスカウトしたいくらいでしたな!」
おお、鉄裁さんはあたしをベタ褒めだ。これは素直に嬉しいね。
「お主はいいのうテッサイ、こっちはダメじゃ。此奴が使う変な歩法を儂は知らぬ。故に此奴には瞬歩の技能を基礎の基礎から叩き込まねばならん。全く、ここは霊術院じゃないんじゃがのう」
鉄裁さんとは一転、夜一さんのあたしの評価は手厳しい。ごめんなさい夜一さん、あたしも瞬歩からやりたかったけど新月が知らないって言うから……
「さて、今後の方針が決まったところで今日はお開きにしましょう。黒崎サンも疲れたでしょう、今日はゆっくり身体を休めてください」
手を叩きながら浦原さんがこの場を締める。確かに霊力を使いすぎたのか気付いたら肩が重い、疲れがどっと押し寄せて来る。
「今日はありがとうございましたー!またよろしくお願いします!」
浦原さん達に大きな声でお礼を言ってあたしは浦原商店を後にした。
✳︎
「喜助よ、彼奴と刀を交えてお主は何を感じた?」
少女が立ち去り静かになった勉強部屋で夜一は浦原に質問をする。
「う〜んそうっスね。初めての実践だっていうのに、彼女の剣からは恐怖の感情がかなり少なかった……全くない訳じゃないんでそこは人間らしいっスけど……」
浦原の答えに鉄裁は興味をそそられたのか口を挟む。
「ほほう、恐怖を抱かない少女ですか。それはなんとも珍しいですな」
「ええ、誰しも初めは戦う事が怖いって思うのはごく自然な事なんスけどね、それが子供なら尚更、おかしな話でしょ?そのかわり流れ込んできた感情は喜び。まるでここに居るのが楽しくてたまらないとでも言いたげな感情……」
感じたことを話す浦原に夜一はすぐさま質問をぶつける。
「楽しいじゃと?彼奴は斬り合うこと、戦いそのものを楽しんでいるとでも言うつもりか?」
「うーん、何て言うかそういうのじゃないんス。戦いというよりもアタシとのやり取りが楽しいみたいな……」
浦原の曖昧な言葉に夜一と鉄裁は思わず吹き出してしまう。
「お主とのやり取りが楽しい〜?ふふっ、だ、ダメじゃ、こりゃいかん、そんな子供おる訳ないじゃろ〜!」
「あ、ひどいな〜夜一サン。アタシだって良い所いっぱいあるんスから」
嘘くさい泣き真似をする浦原に更に言葉の追撃がくる。
「そう言えばお主、隊長だった頃はちっこい副隊長を連れておったのうあまり仲良くは見えんかったが!」
どんどんと煽る夜一であったが、ここで行き過ぎない様にいち早く復帰した鉄裁の仲裁が入る。
「まあまあ、夜一殿その辺りでご勘弁を。それよりも今後の指導についてです、私めの方は大丈夫ですが夜一殿の方は何か考えがあるのですかな?」
「考えもなにも、基礎から徹底的に鍛えるしかなかろう。安心せい、霊術院の一回生でもわかる様な、超分かりやすい指導を考案中じゃ」
「へぇ〜それは楽しみっスね」
黒崎遊子については関われば関わる程謎が増えていく。それでも三人は彼女と関わる事を辞めない。それは未知への興味なのかも知れないし、これから育つ将来性への期待なのかも知れない。三人の指導を受けた彼女がどんな死神になっていくのか?それを語るには、まだ時期が早いのであろう。
実は設定だけは色々決まっていて、破面篇開始前くらいまではふんわりと構成があるのですが、形にするのが難しい