やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス   作:おーり

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一部地域の方に納得できない記載があるかも知れませんが、仕様の範疇と割り切ってください


そして、賽は地上高く投げられた

 ISは兵器である。

 女尊男卑の礎となった女性にしか扱えないパワードスーツ、という観点は有れど、その本質が銃器や火薬等と同等であることは免れようのない事実。

 まかり間違っても、そういったアイテムを抱えたまま一般人の跋扈する居住区域等に入り込む事などは、テロリスト志望でもない限りは決して実行してはならない事柄だ。

 そういった兵器を扱う以上、そこらの軍事基地以上に徹底された『完全に隔絶とされた地域』に、集合・管理させる必要性が生じたわけである。

 

 その実情を鑑みる為に、IS学園の立地条件については当然の如く難航を極めた。

 要するに、付近に民家や商店などがある街中に、『普通の学園』の如くに校舎と校庭を用意するだけでは収まらなかったのである。

 学園設立候補に挙がっていた日本国内での『学校の常識』をIS委員会より普通に否定されて、当時の政治を主導していた教育委員会なんかの『責任者』は色々と咽び泣いたと云う。

 人工島を太平洋上に製作する、という案も出たには出たが、それはそれで日本海域の問題とか、通学する生徒・教師らの不便さとか、そもそも何年計画なんだよ等と諭されて、早くの内に却下と相成っていた。

 『責任者』は咽び泣いたと云う。

 

 そんな状況の中、なんとか本島内に学園を用意したかったIS委員会側は、山間部に囲まれたとある陸の孤島を発見し、日本政府へと要求した。

 当然の如く、当初は政府側からも良い顔はされなかった。

 陸の孤島と銘打ちはする国営地だとしても、其処には地域住民も生活している。

 学校を作るので退いてください、とはそうそう簡単に要求することも憚られる。

 その上、交通の便を最適化するために海上をモノレールで市街地より交通可能なようにしてほしい、とも声が出る。

 女子校を建設する以上は、通学する彼女らの生活の為に充分以上の施設を要求されることは目に見えても明らかだ。

 人工島よりはずっと実現可能な命題だったがために、当初にかかる『学園建設用』以上の費用を日本政府は絞り取られ、その負債を補填するために効率と予算削減の名のもとに切り捨てられていった人や機関も数知れない。

 その中には、件の正史編纂委員会なども含まれていたが、まあ今はそれは置いておこう。

 

 さて。

 以上の点を踏まえたうえで、IS学園の存在する地域はある場所へと限定される。

 その場所とは、千葉県袖ヶ浦。

 それは彼の正史編纂委員会も関わった秘匿情報にしか記されていなかったのだが、其処は且つてとある名称で呼ばれたこともある、とある一族たちの棲み処でもあった。

 その頃の名を――、

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 別に、騙ったからと言って、悪いことをしているつもりなんてのは一切無かった。

 ただ、ちょっとした見栄を張った。

 そのくらいの気持ち(こと)、イマドキの女子高生なら誰だってあるでしょ?

 そもそも、内容が内容だし、いちいち調べて否定されるほどのモノでもない、って思っていたのも理由の一つ。

 私が、ヒキヤハチマンの、七人目のカンピオーネの彼女だっていう“嘘”を騙ったのは。

 ――だから、こんなことになるなんて思ってもみなかった。

 

 

「あっ、アンタたち! こんなことしてタダで済むと思っているわけっ!?」

「そうよ! 折本さんは“あの”魔王の恋人なんだからっ! すぐにやってきてアンタたちを粛正してくれるわっ!」

 

 

 同じクラスの私のオトモダチらが、私たちに銃を向けている男たちに悲鳴混じりの声で諌めた。

 でも、彼らはもう知っているのだろう。

 私とヒキヤとの関係を。

 

 彼らは授業開始に突然やってきて、担任の持っていたISを奪い取り、他にも居たクラス内の専用機持ち達からも次々とISを奪い取っていた。

 その方法は不明だが、無理矢理にでも剥奪する何かを使用した、としか思えない。

 いとも容易く無力化された私たちは、抵抗する暇も無く教室の端へと寄せ集められていた。

 

 そんな状況下で、ようやく『女性の立場』という社会的な物の見方を思い出したのか、オトモダチが余計なことを口走ると、唱和するようにクラス内の誰もが騒ぎ出した。

 銃を眼前に付きつけられているというのに、そこまで騒げるのは『IS程の兵器では無い』という前提がみんなの頭の中に残っているせいだと思う。

 簡単に命を奪い取れる、兵器であることには変わりないというのに。

 

 そして、そんな騒ぎ出した彼女たちを見て、男たちはただニヤニヤと陰険な笑みを浮かべているだけだ。

 それが中学の頃、偶に教室内でヒキヤが独りで本を読んでいるときとかに見かけたことがあるアレよりも酷く醜悪で、更に嫌悪感が増した。

 

 

「へー、魔王様の恋人ねぇ。じゃ、呼んでみろよ」

 

 

 男の一人が口にしたその言葉に、クラスの皆までも私の方を向く。

 無理だ。

 出来るわけがない。

 そのことを男は知っている。

 けど、クラスの皆は、私の話を聞いて来たオトモダチは、そのことに考えが至っていなかった。

 いや、ひょっとしたらもう理解していて、でも縋っているだけなのかもしれない。

 突然やって来た非日常に晒されて、それを覆せる非日常への窓口が私にあるのだと。

 

 

「ま、出来るわけがねーよなぁ。お前の恋人は、あー、なんっていったっけ?」

「五反田弾」

「そうそう、そいつだ。魔王様とはとっくに縁も切れてる、ただの中学の同級生だってだけだもんなぁ」

 

 

 気づいたら、男たちは私の目の前に居た。

 クラスの皆は、戸惑った顔で私たちを見ている。

 彼らは、きっちりと私のばら撒いた“嘘”を検証してからこの場に居るみたいだった。

 当然のことながら、その事実を隠してくれるような人たちではないことは、すぐに思い至る。

 後ろのもう一人に確認しながら、調べてきたのであろう事実をご丁寧に並べ立てる。

 

 

「本当に大変だったんだぜぇ、碌でもねぇ嘘を吐くからよぉ、それを検証するために随分と遠回りさせられちまった。なんせ、下手に魔王様の関係者に手出しなんて出来やしねぇからなぁ」

 

 

 後ろめたい私は、それを俯きながら聞くことしか出来やしない。

 

 

「おい、聞いてんのかよ小娘」

「ぁぅっ」

 

 

 髪を掴まれて、無理矢理に顔を上げられる。

 人を侮蔑する、私が彼にも向けていた酷く不愉快な視線を直視する。

 頭皮の痛みと共に睨み付けられた私は、抵抗することも出来ずに黙っていた。

 睨み返すことも出来なかったのは、制服越しにお腹に充てられていた冷たい銃口の所為でもあった。

 

 

「つまんねぇー、反抗的な態度とったらすぐに穴だらけにしてやろうと思っていたのによぉ」

 

 

 べっ、と唾を吐きつけられて、髪を離される。

 俯き直した私を、助けてくれるクラスメイトはもう居ない。

 男たちの情報が正しいことを理解できたのか、騒いでいた彼女たちは狼狽えたようになって、遠巻きに私へと恨むような目を向けていた。

 囁くように、怨嗟の声も響く。

 教室内にそれらは広がって、私が1人、彼女たちの悪意に晒される。

 でも、それは私の所為じゃない。

 だって、テロリストが学園に乗り込むのまで予想できる人間なんて、この世にいるはずもないのだから。

 私は悪くなi

 

 

「うるせぇぞお前らぁ!」

 

 

 ――一喝。

 男の怒声に、教室内は水を打ったように静まり返った。

 

 

「――さぁて、遠回りさせられたお詫びに、お前にはちょっとした罰ゲームをしてもらおうじゃねーの」

 

 

 下卑た声が、ねっとりと耳に絡みつく。

 こういう男たちの考えることは容易に想像がつく。

 IS学園の顔面偏差値という奴は、総じてレベルが高い。

 それは、IS搭乗者がメディア媒体や企業の看板等にも選抜されるために、見栄えの良いレベルを自然と要求されるためだ。

 まあそこには、生徒である私たち側からの『意識の高さ』も相俟ってそうなっている、という部分もあるけれど。

 そんな私たちに、彼らが『そういう要求』をしないわけがないはずだ。

 

 だが、それは隙を見つけるチャンスにも繋がる。

 下手なことをやらされても、従順な振りをしながら要求を素直に聞いておけば、すぐに取り上げられた武器を奪い返して――、

 

 

「まずは、服を脱げ。撮影会の始まりだ」

「わかり、ました……」

 

 

 ――そらきた。

 ただ、こういうこと(初体験)は弾くんとの方が良かったなぁ……。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 テロリストはビデオ撮影が趣味なのかね?

 

 どうやらIS学園を剥離剤(リムーバー)と数の暴力で蹂躙しだした、シャルロット先生曰く『亡国機業(ファントム・タスク)』というテロ組織。

 そんな方々には学園に予め備わっている戦力では相性が頗る悪いことは目に見えて明白で、そこを100%の善意でもって対処に臨んであげよう、と自ら手を貸すことに惜しみの無い、俺です。

 シャル先生は微妙に目線を明後日の方へと逸らしていたのだけど、一体どうしてそういう心境になったのか。

 心苦しいとはまた違ったようにも見えて、なんだか喉に小骨が刺さったような、そんな感覚。

 

 ともあれ、各教室を疎らに制圧している目に見えて分かりやすい『外部』からの侵入者であるであろう相応の格好をした男性らを、各個撃破で撃墜してゆくゆるふわゲーム。

 魔法科校生は学園側の直前の采配で一カ所に集められているみたいだし、基本的に男を見かけたらスッ……トン(背後に回り込んで首筋への一撃)で漫画みたいに気絶させ続けていたのだが、ある教室で見かけた光景に冒頭の疑問を抱かざるを得なくなってしまったわけである。

 その光景とは――、

 

 

 

 ――泣き腫らんだ女生徒らに、スリットの鋭いチャイナ服や超ミニのメイド服を着させて、ハンディカムで撮り続ける。

 

 

 

 という、『変態的』と真っ先に感想が思い至る光景である。

 そんな男らの背後には“次の衣装”なのであろう、数々の異色系コスチュームがハンガーに掛けられてずらありと並んでおったとさ。

 ……まあ、男の欲望という部分には疑念は持たないが、其処はもっとこうさぁ……、と色々益体も無い感想を抱かずには居られなくもないよ?

 むしろIS学園制服やISスーツだけでもニッチだと思う俺は、間違っているのであろうか。

 

 カオスな教室内の状況を一新すべく、ヴィルヘルム……? ヴィルムンスト? クロウェ? 名前が思い出せないがともかく、我がISクロエ(仮)に新設されたスタングレネードを放射。

 愛宕とかビスマルクとかで呼んでも構わない気もするが、基本状態と会話が出来るわけでもないのでそこはお察しプリーズである。

 呑気な感想を抱いている間に、阿鼻叫喚な室内。

 フルフェイスタイプのバイザーで顔を隠しながら侵入し、背後からの一撃が男たちを襲う!

 

 逆制圧は簡単に終了し、俺に胡乱な目を向けてくる女生徒らには「通りすがりのプリキュアだ」と名乗っておく。

 いや、男がIS使えたら変じゃん。

 素顔が見えないのだから女子だと名乗っておけば平気の筈だ。多分。

 

 占拠された学園内で下手に動かれればまた捕縛される恐れも在るので、籠城することを勧めつつ次の場所へ。

 その際に男らから奪取したハンディカムの中身を確認しておくと、どうやら本当にコスチューム着せ替え撮影会のみを行っていたようで一安心。

 良かった……、タグにR-18と入れる必要性が無さそうで……。

 

 ……ところで、今の教室に見知った顔があったような気がしたけど、気のせいだよな。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ――いつからクロエ(仮)の新装備が、スタングレネードだけだと勘違いしていた……?

 

 

「爆 竜 の () () () ! ! !」

 

「「ぐぁあああああああっ!!?」」

 

 

 新設されていたのは『超高機動式(ハイパークロックアップ)』という装着者の体感時間を間延びさせる新システムで、要するに「――残像だ」とかも出来るようになったということで。

 学園内の逆制圧が簡単に済んだのは、大体これのお蔭だ。

 気分はすっかり音速の剣(シルファリオン)だったので、竜化の権能と併せて擬似RAVEごっこである。

 流石に爆発まではしないが、拳による見えない速度での十二連撃の前にはISの絶対防御も役立たずだったらしい。

 

 というか、それ以前にISと戦うことになるとは思っても無かったが。

 なんでかというと、午前中に会った水色髪の生徒会長と、たった今ぶちのめした2人が敵対していたからに他ならない。

 生徒の可能性も考えたけど、こんな状況下で戦っているようならば斃しても問題なかろう、と判断してのツッコミ。

 あと片方が人の顔見て「なっ、なんでテメェが此処に居やがるっ!? ヒキヤハチマンっ!?」とか驚いていたから、と言うのもあるけど。

 ヒキガヤ、だ。間違えるな。

 

 

「……あー、助かったわ。強いのね、貴方」

「ああ、いえ」

 

 

 呆然としていた会長さんが思い出したように声をかけてきた。

 今更だけど、こいつらぶちのめしちゃっても良かったんですよね?

 

 

「うん。彼女たちは亡国機業のテロリストだから。……というか、なんで貴方が平然と出歩いているのかを聞いてもいいかしら?」

 

 

 あ。

 ……どうしよう、シャル先生が簡単に負けたことは、言っても構わないのだろうか……。

 ちなみに、今更ながら鈴はそっちの付き添いだ。

 出て来られると対処が難しいだろうから、とのことで籠城を頼んである。

 いや、だって俺、現在某緑のハゲMask並みのスピードでコミカルに動ける№009だし。単独行動の方がずっと楽だと言うか。

 

 結局色々とかいつまんで、隠すべきところは隠しながら、学園内の逆制圧をほぼ終了させたことをお伝えしたら呆れられた。

 解せぬ。

 

 

「まあ、それ以前に俺が出張っちまったんで、彼女らにとっては作戦はもう終了ってことでしょうけど」

 

 

 そんなことを言いながら目線をちらり。

 捕縛された2人の女性が、ビクンッ!と震えるのが目に見えて分かった。

 解せない。

 

 

「……まあ、そうでしょうね。一応、魔法科校生側にも仲間が確保に向かっているけれど、そんな人質が通用しない相手だっていうのは……、よくわかるわ」

 

 

 女性の片方がそんなことを口にする。

 つうか、ナチュラルに俺が戸塚を見捨てる外道みたいな発言、止めてもらえません?

 

 

「はぁっ!? おいおいスコールっ!? そんな簡単に諦めんのかよっ! アタシらはまだなんにも結果を遺せちゃいないんだぜっ!?」

「黙りなさいオータム。というか貴女は暴れ足りないだけでしょうに」

 

 

 憔悴し切った片方の決断に、不満が残るらしきもう片方が唾を飛ばして食って掛かる。

 が、それも斬って捨てられた。

 窘めるように、言葉は続く。

 

 

「よく考えなさい。世界の総てを見通せる権能に見張られて、そのあらゆる場所へと転移できる権能が控えていて、更にISの速度を上回る機動速度の機体を所持されているのよ? これに貴女はどうやって抵抗できるというの?」

「うぐ……!」

「組織が潰されても私が生きている限りは、私は私の目的を諦めない。その気概を貴女も持つのなら、今は伏せてでも生き延びなさい」

 

 

 まさか自分が死なないとでも思ってるんじゃなかろうなぁ……?等とは口にする気は無いが、自身の命を脅かすほどの相手ではないということまで判別が付いているのか、それとも舐められているのか。

 眼前に居るのは俺だけでは無くて、俺からも判断のつかない会長さんも居たりするのだけど。

 まあ、根本的にIS学園も人の生き死にを好き勝手に出来るほどの権力を備えているわけじゃなかろうから、強ち間違いな判断でもない、ということになるのであろうか。

 

 そっちは個人的には気にならないとして、ちょっと引っかかった懸念がある。

 言質を備えて貫き通したいと言い張る、そんな彼女の信念とは一体なんだろうか。

 それは、口走った“目的”とやらに由来するのであろうか。

 それが、少しだけ気にかかった。

 それを尋ねてみようと口を開きかけた、その時、

 

 

 

 

 ――世界は強制的に『夜』へと転じた。

 

 

「――……は?」

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 それは、八幡が更識盾無と邂逅する僅か数分前の出来事であった。

 

 コードネームをMと呼ばれる少女は、現在絶賛困惑中。

 それというのも、魔法科校生を人質にと第一演習場へ足を運んだら、其処では織斑千冬が待っていた為である。

 それは宛ら、門扉を守る仁王の如く。

 ゲストである外部の学生らを守るのに、相応のお守り位は居るであろうとは予想は出来ていたが、まさか専用機すらも所持していない『学園最強』の出席簿で出足を阻まれるとは思いも寄っていなかった。

 

 

「――ちっ」

「ふん。いい動きをするな、うちの生徒に欲しいくらいだ」

 

 

 何度目かの鍔迫り合いの最中に、千冬の余裕そうに漏らされた言葉に舌打ちが零れる。

 『雪片』を翻し、生徒らを守るその隙を見つけようと、彼女は再び距離をとった。

 

 

「というか、いい加減に教えてほしいものだ。そのIS、一体何処で手に入れた?」

 

 

 捕縛も出来ていない相手に、口で質問をする。

 そんな素人丸出しの対応力に、Mは余計に神経を逆撫でられた心地となっていた。

 

 

「どうにも見たことがある……。場合によっては、手加減も出来ん。そうなる前に素直に口にするべきだと思うが……?」

「――ああ゛?」

 

 

 思わず、本気の殺意が眼前の残念アラサーに牙を剥いていた。

 この女郎(めろう)、挑発するには実に最適解な言葉を口にしおるわ。

 等と、いっそ一周して尊敬すら覚えるその怒気は、逆に彼女をより冷静な思考へと赴く。

 一瞬にして達人レベルの集中力を発揮したMの剣戟は、更に鋭く猛威を振るっていた。

 

 

「ぬっ、はは。なるほど、まだ強くなれるとは、恐れ入った。が、」

 

 

 だが、それでもまだ、人類最強(ブリュンヒルデ)に認定された彼女には、遠く及ばなかった。

 

 

「まだまだ、だな」

 

 

 一言の下に、『雪片』が出席簿の一撃に叩き折られる。

 そして、その出席簿を喉元に付きつけられ、身動きの取れなくなったMが其処に居た。

 

 ――普通に可笑しな現象が、此処に在った。

 

 

「篠ノ之箒よりは強いが、更識盾無よりは弱い。お前、この学園に通えばもっと強くなれるかもしれないぞ?」

「……っ! どんな人外魔境よ、此処は……っ!?」

 

 

 ごもっともな意見である。

 

 

「さて、先ずはお前の名前から聞かせてもらおうか。ああ、抵抗できると思うなよ?」

 

 

 現状を傍観していた魔法科校生までもが、件の出席簿に恐怖を覚える。

 逆らったら、何をされるのだろう……。と、やや絶望にも似た諦観が周囲から漂うのを感じて、Mは、

 

 

「……っ、司波マドカ、よ」

 

 

 

 

 

「「「「「……は?」」」」」

 

 

 その場に居合わせた数人が目を見開く、驚愕の爆弾を落とし、その瞬間、

 

 

 

 ――轟音を上げてアリーナの天井を突き破り、演習場の中心へと降下したとある存在の前に、総てが持っていかれた。

 

 

『――、――、――p、ggg、k、rkwqai――』

 

 

 唐突な闖入者に、誰もが対処を一瞬忘れる中、マドカと名乗った彼女は一足早くに行動を選択した。

 具体的に言うなら、折れた雪片を量子に戻し、再度元の形へと変換し直して、闖入者と千冬との距離をとった。

 

 それは応急処置のようなもので、正確には形を維持しただけの、雪片そのものの『性質』を備えていない竹光レベルの(なまくら)刀でしかない。

 だが武器が無いよりはマシなのだ。

 某研究所の隅っこに廃棄同然に鎮座していたこの『白式』というISだが、何故か武装が件の『雪片』しか備わっていなかった。

 これは何処かのマニアが冗談交じりに製作した試作品なのだろう、と当たりをつけて、それ故に足も付き難いであろうという打算で以て使っているだけの窃盗品でしかない。

 性能的にどうこうではなく、マドカにとってISは所詮戦えればいいだけの消耗品の意味合いしかなかったのだから。

 

 さて、件の闖入者であるが。

 全体的に黒い色彩で、全身装甲のパワードスーツを身に纏った、西洋の騎士を思わせるような謎のIS。胸部や脚部の装甲はがっしりとしたプレートメイルで隠されているのだが、僅かに覗くその腰部は内臓が収まって居ないレベルで細過ぎる。

 フルフェイスのヘルメットをかぶっている部分だけならば現在の八幡にも再現可能だが、その深奥に視得るはずの搭乗者の表情は一切が窺い知れなかった。

 それもその筈、件のISとは篠ノ之束が送り込んだ最新鋭の無人機なのであったのだから。

 

 

「……今日は随分と侵入者が多いな。貴様は誰だ? 其処の侵入者の仲間なのか?」

 

『――、――、――、』

 

 

 当然の如く、相対する『それ』は会話する術を持たない。

 篠ノ之束が件の『黒騎士』のAIに積んだのは、戦闘能力と魔術魔法の増幅装置に対処できる判断力程度のモノだ。

 まともな会話など、端から期待できるわけが――、

 

 

『――t、k、r――、――てけりり』

 

 

 ――……なんか、聴こえた。

 

 その次の瞬間には、言いようのない頭痛と重圧が、その場の総ての者へと襲い掛かっていた。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 千葉県袖ケ浦。

 東京湾に面したその地域を、IS委員会が目をつけたのは初めは偶然であった。

 だが、其処を占拠する際に、かつてその地域で棲息していた『一族』が何をもってしてその地域の地鎮をしていたのかまでは、終ぞ調査しきるには至れなかった。

 その一族は『ヒト』ではあったモノの、『人間』と呼ぶには一種異様な風貌を携えていた。

 そして、そんな彼らの崇める『神』もまた、八百万がデフォルトの日本国に於いても異彩を放つ海神であった。

 

 ――その地域のかつての名を『寄群(よぐ)』と呼ばれたことを、その学園の大半の者は未だ知らない。

 

 

 




~IS学園の現在地
 いろいろ考えて結果として袖ケ浦
 勝手にモノレールまで増設したけど、海ほたるとドイツ村がある処です
 大丈夫、とある漫画家さんの中では埼玉湾なるものも存在するらしいし!
 ソースはジャンプ系列の3巻で打ち切られたBL漫画

~BADだよ折本さん!
 誰得すぎる折本視点。超が付く独善(独り善がり)が深読みする人にとっての嫌悪感を催す!
 意識たかーいかっこわらいかっことじ

~「通りすがりのプリキュアだ」
 無限に分岐するガイル世界線を旅する比企谷八幡の冒険が今始まる
 仮面プリキュアディケイド。日曜朝8時より好評放送中!(嘘です

~爆竜の十二翼
 音速の剣×爆発の剣
 あと専用機の名前をそういえば聞いていない気がする八幡本人が勝手に命名してクロエたんに
 ルメール(仮)でも可

~司波マドカ
 世界線習合に伴っての改変
 やったね八幡!家族が増えるよ!

~寄群
 クトゥルフ神話では千葉の外房ってあった気がするけど…


お待たせしました17話
真面目なんだか不真面目なんだか、とりあえず香ばしい匂いが漂って来る展開が始まっているみたいです
色々な伏線を回収していたらこんな総量に
次はもうちょっとコンパクトに纏めたいです


…今更ながらガイルじゃねーな、この作品
次回、這い寄る束さん!
うー!にゃー!


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