やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス   作:おーり

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皆知ってる? これって18話目なんだってさ


這い寄る!束さん!

 

 

 篠ノ之束(天才にして天災)比企谷八幡(七人目のカンピオーネ)のことを知ったのは、ある意味必然であったとも言える。

 

 彼女がISの核を大量生産するに至った理由の一つに、宇宙開発への幇助の一つ、というものがある。

 それというのも、星を飛び立つ為には『人類を抑えつけている存在』を排除する必要性が第一にある、という“国”からのリークがあった為だ。

 魔術を知らなかった篠ノ之束はそれこそ眉唾な情報を信用もしなかったのだが、霊長類等と自ら名乗る進化の筆頭であるはずの現生人類よりも、より上位の存在が居る“可能性”程度の計測はしていた。

 そして、ISの台頭により女尊男卑社会になってゆく中で『正史編纂委員会』等の『裏の世界』を秘匿するシステムもまた次々と廃止されてゆき、計測上の可能性が事実であることも、そう間を置かずに理解する。

 その事実を知った篠ノ之束は、ISの軍事転用を各国が遂行するのにそれ程の抵抗をしなかった。

 むしろ自らの目的を目指すために、“人類の勝利”を目指すために、積極的に開発を推し進めた。

 ISの核を大量生産し、魔術を学び、魔法を計測した。

 その果てにISを対魔王用兵器、として再設計し直した直後に、件の誕生が起こる。

 それが、日本の高校生男子(比企谷八幡)のカンピオーネ化であった。

 

 その情報を最初に得て、彼の家族へと手を伸ばそうとしたのは他でもない篠ノ之束である。

 親友と自らの妹以外をどうでもいい砂粒程度の存在だと『理解』している彼女は、自分の夢の為ならば千葉の一家族がどのような結末を迎えようとも知ったことでは無い。

 彼の家族を拘束し足枷手枷の替わりとし、人類の勝利のための礎になってもらうべく、また同時に世界初の『男性IS操縦者』と成った彼を計測すべく、適当な女尊主張の人権団体を煽り実験台(モルモット)として捕縛する様子を遠隔的に観測した。

 

 

 ――その結果がアレである。

 

 

 カンピオーネの権能は、程度の差を比較するのにも烏滸がましい程の『神秘』だ。

 『魔術』の根源でありながら、それを易々と凌駕する。

 概念や認識と差し替えても過言ではないくらいの強制力(命令権)、否、絶対性(法則性)を兼ね備えているモノ。

 それは、本来行使していたモノが『神』という、『世界の根幹』を為す存在であったからこその当然性だ。

 その理屈は八幡が備えた『女性を従える』という『サタナキアの権能』にも、当然の如く当て嵌まる。

 

 『それ』が制御されることも無く、その様子を間近で見ていた女性たちの精神を揺さぶった。

 そして、その余波は観測していた束の元へもしっかりと届いていたのである。

 

 魔術的な知識は補充できたものの、それらを実行に移すための素養は無い。

 そんな篠ノ之束には、魔術に対する抵抗力は一切備わっていなかった。

 要するに。

 余波であっても強力な八幡の権能は、虫を誘惑するフェロモンの如く本能に作用していると錯覚する程度に刺激的に、“彼女”を誘惑したのである。

 

 

 これが普通の女性ならば、男性に対する相応の対応力を備えている何処にでも居る『普通程度』ならば、直後に出回った彼の個人情報との照らし合わせも相俟って、すぐにその効力も薄れていたであろう。

 何せ今の世はまさに『女尊男卑』。

 『誰か(女性)の為』に為っているような人間性を備えていない未熟そのものな学生の『身分』では、社会に合わせて盲目的になった『世間の目』からしても低いレベルに見定められるのが常である。

 更に彼の人間性は旧クラスメイト(他人)等の独善的な物の見方によって酷く低位置に収められていることだし、よっぽど近くに居るか比較的好印象をもっているかでもない人間が近接していない八幡では、社会背景の弊害も相俟って過剰なまでに悪役的(ヒール)な立ち位置へと押し留められるままであったのだろう。

 

 が、“それ”に罹患したのは他でもない篠ノ之束である。

 そろそろ30にもなろうというのに、恋の一つもすることなく、趣味のみに没頭し続けた、生粋の恋愛初心者である。

 その上、恋の駆け引きのいろはすら、微塵も経験に無い初心者の中の初心(うぶ)モノ。

 逸る動悸と、彼女の“年齢”という生物的(女性的)な本能として備わっていた背を突く謎の危機感が、女性としては逆に未熟そのものな彼女の精神を過剰に揺さぶる。

 また『世界的に特別な7人しかいない超VIP』という相手の立場が、自分に『釣り合っている存在』という可能性(光明)を知ら占めてしまっているのも意図せぬ追撃となっていた。

 

 知らぬうちに“雌”であることを自覚させられた彼女は、本能の導くままに彼へと没頭する。

 彼の過去を洗出し、彼の人間関係を測り直し、彼の趣味嗜好と、彼の写真と、彼の目標と、夢と、現状と、プロフィールと、好物と、身長体重と、小学校の作文と、成績表と、好きな娯楽と、入浴の際に躰の何処から洗うかと、等と言った個人情報を、完全とは言わないまでも万全且つ全力以上で庇護し保護し囲い建てし、電脳の世界からも完全に排除&封印(収集&保存)するに至ったのである。

 現状以上での彼の個人情報が漏れていないのは、偏に篠ノ之束の偏執的なまでの所業の結果だ。

 その結果、彼の人間性の計測する足を引く『彼の事情(体面)を知ってるつもりの者たち』が人知れずネット上より姿を消していったのは、当然ながら彼女の全力の擁護の結実なのであったことを八幡は未だに知らない。

 知られても愉快な話でもないが。

 

 

 さて。

 そんな彼女が『開発したて』の『最新鋭のIS(無人機)』を学園へと差し向けたのは、やはり偏に『八幡の為』を思ってのことである。

 そもそも、洗い直してみた彼の個人情報は不当なまでに貶められているし、彼の立場そのものも彼個人の意思とは裏腹に、彼を支えているかと言えばそうではない。

 ならば、と篠ノ之束は考えた。

 八幡本人が本当に欲している“モノ”を与えることこそが、この一世一代の大恋愛を成就するために必要不可欠な要素なのではないか?

 己にすら届かぬ立場でありながら彼を不当に貶めている小娘共以上に、自らは彼への『与える愛(アガペー)』を満たすことこそ、この“恋”を迸らせる証明に他ならないのではないか?

 そうして与えて然るべき自らの恋の証明を熟考した結果、篠ノ之束はある結論へと至ったのである。

 

 それならば、今以上の権能を納めてもらい、より一層搦め手の通用しない存在へとシフトして貰えばどうなのか、と。

 

 

 ISをIS足らしめる(コア)はブラックボックスである、と世の知識人は口にする。

 その製作者であるはずの篠ノ之束にすら解析しきれない、とも。

 しかしそれも彼女本人からしてみれば、実に可笑しな話であった。

 コアが科学で解析しきれないのは、中枢に張り巡らせた魔術的要素が劣化しないようにダミー回路でコーティングしてあるからに他ならないし、件の回路を解析したところで意味など無いからだ。

 完全解析されたとしても、算出されるその回路の役割は『ラジオの受信機』を遠回りに再現しているに他ならなかったりもする。

 しかも解析に必要とされる推考時間が、一体に付き延べ1800時間、というオマケつきで。

 大体二か月半それに付き合ってその結果しか出て来ないのは、実に遠回りな嫌がらせにしか思えない。

 そしてそこに意味を見出そうとする他の科学者たちが出した結論が、筆頭に並べた件の文句だった。

 

 だが彼女からすれば、それこそ論外な意見でしかない。

 科学者を自負する者ならば、しっかりと解析しきれないモノを世に送り出すべきでは無い。

 本当にそんな真似が出来るのならば、それは科学者では無く只の恥知らずでしかない。

 篠ノ之束はそう自負し、知識人の意見を一笑に付す。

 大体、解析しきれないで供給過多になるほどのコアを量産できるものか。と。

 尤も、そのうちの過半数は企業側のパッケージ推考が凝り過ぎていて、機体製作が追い付いていないという本末転倒な結果になっているのが現状なのだが。

 

 そもそも神秘の根源とも言うべき『まつろわぬ神』や『神格簒奪者(カンピオーネ)』に対抗すべく、ビスマルクが八幡に前述した『仮想神格』を顕現するための必要術式を解析するには、どちらかと言うと理系(物理的論証)より文系(芸術的感性)の素養が必要不可欠となる。

 俗に言う、『魔術的素養』とは此れに当たる。

 それが備わっていればどのような『学問』でも全て履修可能、とは一概には言わないが、『やりたいことを実行するため』には再現するための『素養』もまた『必須科目』の項目には挙げ連なられる。

 それは学習に於いての必然であるが、実は社会的に於いては絶対では無い。

 何故ならば、社会とは『群れ』だからだ。

 役割分担が成され、総ての者に仕事があればシステムが不備なく回ることが実現できている以上、『1人』があらゆる分野に通じる必要性など存在しないからだ。

 だからこそ、IS開発に於いては『一騎当千』の名を欲しいままにしている篠ノ之束は、特別であり特殊(世界的なVIP)であるとも言える。

 そしてそんな彼女だからこそ、誰にも追従されることなく今回の事態を引き起こしてしまった、とも。

 

 

 さて、ようやく話を本題へと戻すが。

 IS学園へと送り込まれた無人機に備わっているのは、他のISにも備わっている術式補填核の『仮想神格顕現式』と、機体が必要な行動を選択しきれるように備え付けられた『敵機追跡回路(ホーミングシステム)』ぐらいしかない。

 神格を形成するにあたって篠ノ之束は、ソーシャルネットワークゲーム要するにモバ●スとか艦●レとかラブ●イブとかアイ●ツとかG●(仮)のシステムを立ち上げ、特に男子の集客効果をより際立たせた『偶像化し易いキャラクター』を優先的に形成顕現するように補填を促した。

 神格が女性型ばかりであるのは搭乗者に準的に神秘を備え易いように、というシンクロすることを目的としたお膳立ての推移であるが、世が女尊男卑であることも相俟って非現実女子(二次元ヒロイン)がより男子らの崇拝を収益する手にも一役買ったのは間違いが無い。

 そもそも昨今の女子が強すぎる、というのが彼らの逃避の一因ではあるのだが、それはともかく。

 歴史の浅い偶像であるからこそ、それは神格と銘打ってはいても『仮想』の域を脱しはしない。

 “それ”ではまつろわぬ神にも魔王にも一向に届きはしないのは、他でもないドイツでの『赤竜討伐』の結果にありありと見せつけられた。

 ならばこその無人機。

 そもそも、仮想神格の形成過程には搭乗者とのシンクロが必要事項である。

 専用機であるからこその搭乗者との相互干渉によって、それを補填するのに見合った人格(神格)が形成されるのは、いっそ育成と言い換えても可笑しくないくらいの推移だ。

 人の意志を介在しないからこそ、其処に形成される神格の上限を破棄する。

 いわゆる天元突破、という奴である。

 

 

 ――まあその結果は見ての通り、お察しなのであったが……。

 

 

 そして敵機追跡回路。

 これはその場にて稼働しているISを追いかける、というだけのシステムなのであるが。

 まさかのタイミングで稼働中なのがマドカの扱う『白式』のみであったことが、本日最大の要因。

 差し当たってとても最良とは言い難いタイミングと相性で、IS非使用独力戦闘女教師織斑千冬VS神格形成天元突破型無人機というカードが成立してしまったのは、もはや笑い話として見るのが吉であろうか。

 

 さて、結末や如何に。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「…………小町?」

「げっ」

 

 

 訝しげな声と共に、比企谷八幡がこちらを認識するのが見て取れた。

 思わず呻いた声が出てしまったが、訝しげであった視線からは若干の棘が数秒で消えている。

 そして続けるようにその視線が「いや違うか。目つき悪いし。他人の空似だな」と、雄弁に語る。

 どうやら私が彼の妹本人ではないことを推理し切ったらしいが、お前も人の事は言えない目をしていることを分かった上での思考なのかよ。とツッコみたくなる。

 

 先ほどからの無線の反応で、他のメンバーも捕獲又は無力化されたと理解するのに時間はかからなかった。

 特にフリーハンズで繋がっていたIS所持のスコールとオータムの会話ログを確認してみると、目の前の魔王に直接潰されていることがわかる。

 丁度その時、こちらはこちらでまつろわぬ神が顕現していたので相手取ることが出来なかったが、だからこそそれを確認しにやって来た彼の目に真っ先に私が入ってしまったのは失態としか言いようがない。

 しかし幸いなことに彼にとって私は現時点では最前の目的では無く、それより先に彼が注視していたのは、まつろわぬ神の顕現に伴って無力化された『魔法科高校の生徒ら』であった。

 

 

「――って、戸塚!? おいどうした無事なのか!?」

 

 

 意識不明で頭を抑え呻いている、銀髪の少女に真っ先に駆け寄り、抱き起そうと手を添える。

 というか『妹』じゃないのかよ。

 お前シスコンって話だったはずなのだけど、あれもガセネタだったの?

 

 

「下手に動かさないで。呪力の過剰摂取で昏倒しているから、刺激を与えない方が安全だわ」

「はぁ!? なんでそんな事態になってんだ!?」

「なんでって……、まあ、アレの所為よ」

 

 

 IS使用者にも少なからずの影響が出ているらしく、私も少しだけ頭痛が酷いのだが、想子を取り込む『受容体(受け皿)』が常人以上に出来てしまっている彼らにとっては抑制(セーブ)の難しい仕様であったようだ。

 腕を振るうのも難しいので、目線で向けてやれば――、

 

 

「――ウォオオオオオオオオっ!!!」

『てっけりりぃぃぃぃいいいっ!!!』

 

 

 ――黒い鎧を纏いつつ、その『中身』が不定形粘菌のように変形しながら、振るう手足(触手)が出席簿と鍔迫り合いを見せる光景が、彼の腐った目にもはっきりと映ったであろう。

 じっと数十秒ほど、思わず見入っていたであろう彼が、現実逃避しているかのような遠い目で、こちらに向き直った。

 

 

「…………どっちが、まつろわぬ神だ……?」

「一応、あっちの黒騎士の方。相手してるのは織斑千冬よ」

「……ああ、ブリュンヒルデか。納得したわ」

 

 

 魔王に納得されちゃったわ……。

 

 

「それよりも倒れている私には何も言葉が無いのですかお兄様っ!?」

 

「え、お前居たの? 最近全然描写が無いからてっきり留守番してるのかと思ってた」

 

 

 無理に起き上がって激昂する司波深雪に、メタな台詞で目を見開く比企谷八幡。

 ふむ、お兄様、ね。

 やっぱり『そういうこと』になっていたみたいね、あの家は。

 

 そして、私が納得したのも束の間、司波深雪はふらりとそのまま群衆の中へと倒れ伏す。

 そして這い蹲って比企谷の元へと。怖っ。

 

 

「うぅ……、おにいさまがきちく過ぎてみゆきは日常がるなてぃっくです……」

「無理に起き上がるからそうなるんだろうが。つうか、ほんとになんでこんな事態になってんだ? 呪力の過剰摂取って聞いたが、なんで魔法科校(うち)のやつらに影響が出てんだよ」

 

 

 幾分か冷静になったのだろう、這い蹲って近寄る『妹』にドン引きしながらも、事態の解説を要求する魔王。

 説明する役割は請け負いたくはないが、今此処で私が語らなければ納得もしないだろうし、そもそも解決のためには彼に出張ってもらう必要性もある。

 今回顕現した神格をあの織斑千冬に簒奪され、新たに『8人目のカンピオーネ』にでもなられたりしたら目も当てられないのだから。

 幸いにも、死闘は両者互角を見せている。

 たっぷりと余裕をもって説明することが出来そうであった。不服ながらも、

 

 

「想子と呪力は同質のモノ、とアテナさんからお聞きした記憶があります。それのオーバーフローが原因であるならば、普段使用する以上は個人で捌き切れるのは一朝一夕では難しいのですから……」

「俺が聞いてるのはその“呪力が際限なく場にある”っつーことなんだけど?」

「それは……」

 

 

 ……私が説明するまでもなく司波深雪が解説したのだが、そこにツッコミを入れる彼の鬼畜っぷりにややドン引き。

 妹が体調不良を惜しんで語るのにこの魔王、鬼か。

 

 

「――まつろわぬ神の顕現に伴った神域飽和、それがこの場に於いても引き起こされているからに他在りませんわ」

 

 

 ふらり、と倒れ伏す群衆から更に立ち上がったのは、司波深雪に負けず劣らずの美少女。

 射干玉の黒髪と言うには茶色の強いのは、染髪では無く色が薄いためとも聞く。

 ……で、なんでこいつまで此処にいるの?

 

 

「お初にお目にかかります魔王様、私は――」

「ああ、そういう“挨拶”は今はいい。先ずはアンタの知ってる事情を口にしてくれ」

 

 

 デヤンスタール・ヴォバン襲来時に終始空気扱いだったと噂に聞く巫女(ヒロイン)『万里谷祐理』を一蹴し、魔王様は

それらしく(・・・・・)命令を下す。

 ……人外に片足突っ込んだからこそ、そういう所作を敢えて作ろう、という思惑があるのかもしれない。

 情報によれば、こいつも元々はこんな慇懃無礼な態度を取る人間じゃ無かった筈だし。

 あと個人的な意見だが、美人相手なのに色目を使おうとしていない辺りはポイントは高い。

 識ると観るとじゃ大違い、とはまさにこういうことを云うのであろうなぁ。

 

 

「し、失礼しました。では、僭越ながら、

 ――まつろわぬ神が顕現するとき、彼ら彼女らは周囲の世界に少なからぬ影響を及ぼします。程度の差は有れど、そこに呪力が飽和するのは間違いのないことなのです。

 云わば根源的な神秘の顕現で御座いますから、昨今の魔術や魔法が処理出来得る領域を過剰に覆すのは自明の理です。

 特に、魔法師の方々の技術は未だ発展途上ですから、呪力を扱う事に関しては未熟と言わざるを得ません」

「なるほど。つうことは、それを制御出来ているであろうアンタは魔術師の“側”か」

「はい。申し遅れました、万里谷祐理と申します。先日は真に有難う御座いました」

 

 

 ようやく言い切ったであろう言葉に、小首を傾げる魔王様。

 そこを突くのはジト目になった司波深雪であった。

 

 

「……お兄様? この方とどのようなご関係ですか?」

「いや知らん。(姿を)見たことも(名前も)聞いたことも無い」

「――ぅぇえ!?」

 

 

 あちゃー、これはアレね。自分がそこそこ人目を引くことを自覚しているから、知って貰えているって勘違いしていたみたいね、この娘。自意識過剰なんじゃないのー?(棒)

 狼狽えた声で慌てた万里谷祐理を放置して、兄妹喧嘩が始まる。――かと思いきや、

 

 

「罰としてお、おおお、お兄様のひ、膝枕をご所望します。見も知らぬ女性を誑かしたのですから、どのような立場であっても信賞必罰は至極当然のことなのですから」

「なんだその風吹き儲かる桶屋理論。それでお前に奉仕するってのは整合性付かないんじゃねーの?」

「そんなことはありません、家族を蔑ろにしたのですから、その差分は当然の如く私に授けられるべきなのです。さぁさぁはりーはりー」

「(この義妹(いもうと)うぜぇ)」

 

 

 と、魔王様の目が再び雄弁に語る。

 どうでもいいけど考えていることが顔に出過ぎだと思う。サトラレか何かか、この魔王は。

 

 

「とにかく、そういうことならあの軟体生物もどきをぶっ潰せばいいってことだな。まつろわぬ神を潰せば、飽和した呪力も霧散するんだろ?」

 

 

 司波深雪も放置して、好戦的に向き直ろうとする。

 神と戦おうとするのは『カンピオーネ』の本能だと聞いた記憶はあるが、それにしてはその眼の色は変動していない。

 ……まさかこれも形式のみ(ポーズ)なのか?

 魔王の本能を理性で抑えているのか……。

 自分と同じ(・・・・・)だからといって早くに見限っていたが、中身は全然違うじゃないか。

 ……ちっ、四葉家め。いい加減な仕事をしやがって……。

 

 

「お待ちください! 事はそう単純では御座いません!」

 

 

 私が『大元』に恨み節を抱いていると、万里谷祐理が待ったをかけた。

 が、魔王は、目の前に立ち塞がった彼女に平然と言葉をぶつける。

 

 

「退け。早くに事態を収めてアイツらを運ぶ必要が在るだろうが」

「っ、正史編纂委員会の解体に伴って、この地に秘匿されていた事情が御座います」

「あ? あの神がなんなのかを知っているってことか?」

 

 

 ほう。それは有益な情報足り得るはず。

 相手がなんであるかを知れば、それこそ『神殺し』なら手段を直ぐに用意できるだろうし。

 

 

「……、アレは、未だ顕現したわけではないのです」

「――は?」

 

 

 ん?

 

 

「この地にあった寄群(よぐ)という集落の崇めていた原始宗教、そこの主祭神足るソレこそが、今回の顕現に伴って現れるであろう神かと思われます……」

 

 

 図らずも彼と同じように首を傾げてしまったが、そんな私たちに構わずに、万里谷祐理は言葉を続けた。

 

 

「あの場に居るアレは、只の従属臣。

 呪言を重ねて共振を促しているのか、先程から呪力の飽和が一向に収まらないのは見て明らかです。

 起きている私は意識的に供給を留めていますが、この(IS学園)には、他にも魔術師の方がいらっしゃるのでは御座いませんか……?」

 

 

 言いつつ、こちらをチラ見する。

 これ警戒してるわね。

 まあ、襲撃噛ましたところはしっかりと彼女も目撃しているはずだから、今更口封じも考えちゃいないけど。

 というか、今頃連れてきた魔術師らってどうなってるのかしら。

 なんか彼女の話だと、一緒にヤバそうな気配がビンビンと。

 

 

「顕現喚起だけで“夜”が訪れたことからも、呼び出そうとしている存在が明白です。

 起きれば星辰が傾くモノ。

 まつろわぬ()神――」

 

 

 呼吸を止めて、その震える唇から、恐れ切った声を漏らす。

 神と対峙する、と言うことを知るからこそ、彼女は其れの恐ろしさを良く理解しているのだろう。

 

 呼吸を整え、それの名を告げた。

 

 

「――まつろわぬ、クトゥルー。

 

 それが、顕現しようとしている神です」

 

 

 ……マジ?

 

 

 

 




〜篠ノ之束
 云わずと知れた狂科学者の代名詞みたいなお人
 この世界線では本家本元を何気にdisる、元来の世界線以上にヤバさが飽和した女怪
 多分ディバインバスターとかも必殺技として備えているんじゃないかな(適当)

〜サトラレ八幡
 原作基準
 アイツ察せられすぎじゃね?

〜万里谷祐理
 本当は前々から出したかったのだぜ
 魔法科高校に通っていたっていう設定だったのだぜ
 急きょ出てきたみたいな突然のご登場なのだぜ
 ついでに言うと空気キャラ(予定)なのだぜ

〜司波マドカ
 なんか意味深な人称で事態を見守る少女
 伏線かっこわらい

〜クトゥルー
 クトゥルフ、とも表記するけど、万里谷さん発音が難しくて其処で止めちゃった設定
 従属臣は“ショゴス”という不定形の人間大のアメーバみたいな奴
 正確には“深きものども(ディープワンズ)”という魚とか蛙とかが混じった半魚人が従属種族らしいのだけど、シンクロした魔術師とか万里谷とかがインスマス顔になっては困るので
 いや、現在進行形で共振した捕縛済み魔術師らがIS学園の各所でいあいあ謳っているのだけどね?



なんだかスパイラルのカノン戦みたいな雰囲気で終わったなぁ
まあアレに比べればまだ短めになるはず。そうなると信じてる
アレ、半年くらい会話と推理だけで単行本一冊分くらい尺稼いだからね
次回はとうとう八幡の事情(マドカ目線)をやる予定
よーし、伏線回収しちゃうぞー!(やる気感

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