やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス   作:おーり

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前にも書いたと思うけど、俺はシリアスというか、読み手側が不快に思うかもなー、といった内容を書こうとすると筆が止まる病気を持つ
長いこと書く暇あってこんな話かよ!という意見があったが、更新していない間は要するに書きたくないことを作っている間でもあるので、その間は大体他の作品とかを手掛けて気を紛らわせていたりするのである
結果、そっちが楽しくて筆が止まるという悪循環w
世の中は中々上手く回らない

元々やろうとしていたとはいえ葉山を完全に屑的に書いてしまった気がしたけど、実際彼のような人間は別段其処まで卑下される謂れは無いと思う
彼奴をフォローする気はないが、人から良く見られたく、評価が欲しく、そこへ手っ取り早くたどり着けそうな手段があるように見える
これくらいのことが揃えば割と誰でも手を出しそうなのではなかろうか
そうやって手を出して、初めのうちは上手くやれていたと思っていてもそれは本人だけの感想で、
間違っていることを自覚するというのは個人では中々難しいことでもある
そうしているうちに、己のキャパを越える事態に遭遇するというのも珍しいことでもなく
むしろ、分不相応なことにこそ手を出そう、というのが上昇志向(と自分では思っている)人間の落とし穴
そういうのは大抵碌でもない失敗や周囲を巻き込んで破滅する羽目になるのである

そんなことを書きたくて、お前の書く作風と違うんじゃね?と云われること必至で書き上げたこの物語
其処から続く彼らの最終幕は、はたしてどうなるのでしょうか……?




そんなことよりOPでも歌いますかね
こーのーせかいにーry



俺がいるぱにっく!

 

 夏休みには北川に誘われて、戸塚をはじめとした八王子の面子でクルーザーでの小旅行なんかをしたりした。

 別荘を持っていたりする何気にお嬢様であった雫ちゃんに、久しぶりに会う石島やレオ様といった顔なじみ。

 喫茶店の従業員一同までお呼びして貰い、中々に充実した夏休みを過ごせたと実感できる。

 やだ、俺人間強度下がり過ぎじゃない……? 此れがリア充というモノか……!

 

 ブランデッリはその間、生徒会の行事として群馬へと足を運んだらしい。

 一緒に連れ立った小学生らの問題が、とか愚痴っていたが、事件や事案になっていないご様子なのだし大した問題も無かったのだろう。

 もしもの時の為に、雪ノ下議員に遠巻きながらに話を通し、教育委員会が出張るようにと件の小学校への査問なんかを依頼しておいた。

 少し大袈裟かもしれないが、保険程度の口出しである。

 後々、ニュースにてイジメを見ぬ振りしていた小学校教師が教員免許を剥奪された、というニュースが話題に上がったが、俺とは別の問題だと信じたい。

 

 魔法科校で文化祭をやるとかで、何故か俺が裏方で仕事をしていた記憶がある。

 烏丸会長、仕事してください。

 俺、元亡国何某のIS部隊がようやく纏まり見せてきたから監督として立ち寄っただけの筈なのに、気づけば生徒会室で書類整理していた。

 ひょっとしてIS学園よりもウチの部隊の方が魔法科校の内部と親身にしてるのか?

 忍びねぇなぁ。

 連合形成国家間条約以上に個人所有の戦乙女愚連隊(ヴァルキリーズ)で戦力過剰保有しちゃってごめんねごめんねー。

 尚、頑張った文化祭はそこそこ盛り上がった。

 戸塚のシンデレラとか、反則過ぎだろ……ッ!?

 

 総武の文化祭は中止したらしい。

 俺が抜けた後、ブランデッリの報告では読み通りライオンくんが生徒会へと招致されたらしいが、仕事量はむしろ増えたらしい。

 俺という抑止力が居なくなったので、元より生徒会へ下職を廻していた教師らの悪癖が再発したようだ。

 経験になって良いんじゃね? と言えば、教師の下請けじゃねーぞォ! と口調が悪くなったブランデッリさんが其処に!

 話を戻すが、文化祭運営では実行委員会へは実質手伝いとして顔を出すはずの生徒会が主力で出張り、仕事量の多さに嫌気が差していたのか委員長並びに実行委員の3分の2がサボタージュを頻繁にやらかしていたとか。

 ライオンくんは最後まで手伝うことを主張したらしいが、委員会が働かないのに生徒会が動く道理はあるわけがなく、更に先生方からの下職までライオンくんが受け狙いで請け負っていたわけだから仕事量に関しては完全にキャパオーバー。

 で、最終的に実行は不可と断念。

 実行委員長が文化祭前日、遅まきに作業室へとやって来てようやく総てが発覚し、実行委員長の彼女(名前は不明)の不始末という名目の元、文化祭は中止となったそうな。

 そういえば、元々生徒の手伝いをどうのこうの、っていう部活だか部下だかが俺の下にあった気がしたが、そいつらはどうなったのだろう。

 やはりライオンくんの主導の下で働いて居たりしたのかなぁ。

 

 そして現在、魔法科校が修学旅行と似たような行事を画策しているらしい。

 義妹に話を聞いたが、魔法科校へ今期になって海外よりの編入学生が何人か入ってきているので、日本の良さを知ってもらおうと京都旅行を画策しているとか。

 俺も誘われたが、現状総武に転校扱いである俺が混じって本当に問題はないのだろうか。

 

 さて。そんな話はさて置き、ちょっと真面目な話である。

 

 

 「――スンマセン、もう一回言ってくれます……?」

 『だからね。――総武校の修学旅行生が乗った飛行機がハイジャックされて、乗っ取ったテロリスト共に連れられてロシア方面へ逃亡。日本政府から救出要請が来るはずだけど、キミどうする?』

 

 

 電話先の更識さんが明日の献立を聞くかのような気軽な口調で、割と弩級の爆弾を落としてくれた。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 「つーか、あの学校は行き先国内の筈だったんじゃ……?」

 「あ、それ、文化祭が中止になったから、って件のライオンくんが学校へ掛け合ったんですよ。足りない分は自分のうちが出すから、生徒たちに楽しい思い出を作らせてほしい、って。行き先はハワイだったかしら……?」

 「てか、お前は行かないの?」

 「付き合い切れなくなったので自主的に遠慮させていただきました。こうして魔王様のご自宅へとお邪魔させていただきまして本当にありがとうございます」

 

 

 更識さんとの会話を終え、独り言ちたところへブランデッリの言が飛ぶ。

 まあ、コイツには此処半年ほどストレス貯めさせちまったっぽいし、ここらで解消を促すのも主として吝かでもない。

 ホームパーティ程度でどの辺りまで解消できるのかよく知らんが。

 

 

 「それで、如何しますか魔王様」

 「行かねーよ。立場を保有している今となっちゃ一々矢面に立つ義理も無い」

 

 

 政府から打診されたとしても、それをいつでもホイホイ云う事聞くと思われるのも後々面倒の種になる。

 つうか、こっちが働く以上はその対価を支払うのが国としての義務であり、俺に無料(タダ)働きをさせるのが例え国民の総意であったとしても、いや“そう”であるのならば尚更見逃してはならない。

 国家が動く以上は『舐められたらお終い』であるが故に、それと拮抗することすら可能な『魔王』という『人類以上』の立場を勘違いさせては絶対にいけないことであるからだ。

 それは俺個人の問題では当然無く、下手に魔王を舐めた『(厚顔無恥)』が馬鹿を遣らかして、『そいつ以上』の被害が出張ることを事前に防ぐためでもある。

 例えるならば、――ヴォバンの爺様の戦力を舐めたEUがIS部隊で強襲を仕掛けて返り討ちに遭った、みたいな。

 

 ブランデッリもそこは理解しているのか、はたまた俺を理解し始めているのか、特に言及することもなく視線を下げる。

 武力交渉をするのは政府の役目で、国民の1人が勝手に解決へ動こうとするのは機の見方としては間違っているのだ。

 それが如何に戦力を過剰保有していようとも、いや、しているからこそ、勝手に動かして勝手に解決して後になってから対価を請求するのでは、……完全に詐欺師の手口である。

 動いて叛意を買う可能性があるのなら動かないのが吉。

 そもそも、政府側は俺には未だに声をかけていないし。

 これは、同じように俺に借りを作りたくない、と考えている可能性だってあるしな。

 

 

 「――だから、俺が動かないのはアンタらの事が嫌いというわけじゃ無い。どうでもいいから動く気はない、ってだけだから。勘違いすんなよ」

 「――っ、お願いします、雪乃ちゃんを、助けてあげてください……っ」

 

 

 聞いてねぇなぁ、このおハルさん。

 前にも嘯いたことだが、彼女は雪ノ下さんちの姉だとか。

 一時はおっさんの秘書役をし、一時はハウスキーパー要するに掃除婦をし、その正体は元総武校出身の短大生、雪ノ下陽乃だと云う。

 今では俺に土下座で懇願している女子(J)大生(D)でしかないが、俺とその周囲の状況に無駄に詳しくなってしまった憐れな隣人でもある。

 父親の命令なのか自主的なのかは知らんけど、此れだけ俺んちの情報を把握していて真っ先に世の大悪に身柄を狙われそうなお人になってしまったことには同情を禁じ得ない。

 しかも結構な美人だし、此れは女尊男卑の社会じゃ益々危険値高いんだろうなぁ。

 

 

 「話聞いてた? 動く義理はないって言ってんの」

 「で、でもっ、同じ学校のお友達だっているんでしょっ!? 見捨てるのっ!?」

 「先に見捨てられたのは俺だしなぁ」

 「……っ、それは……っ」

 

 

 顔を上げたおハルさんに飄々と告げれば、彼女も事態を把握している者の1人であるので苦々し気に顔を顰める。

 ライオンくんとは幼馴染らしいよー。

 八幡知ってるよ。

 幼馴染が遣らかした所為で、今とっても苦境なんだよねー。

 

 

 「お友達、とやらにも心当たりは無いな。俺、元々ボッチだし」

 「そ、そんなことないでしょっ? 総武では女の子が周りに居たらしいじゃないっ」

 「それもみんな離れたけど、なにか?」

 「……~~っ、お、同じ日本人が酷い目に遭ってるのよ!?」

 「むしろ、一個人からしたらテロリストなんてテレビの向こうの話だし。どうにも出来ないのが日本人、って奴だよな。いやぁ、心が痛む痛む」

 「貴方にどうにもできないわけがないでしょ……っ!?」

 

 

 そもそも、第一に今の俺は日本人とは言い難い。

 この半年で部下らの人材としての資質は把握し、『俺がいない場合』でも十全に機能し得る『武力』としてIS部隊も万全に稼働している。

 戦闘以外にも対応し得る『()』という形式も樹立し、運営のノウハウも纏まってきている。

 ――要するに、新国家の形成が目前に迫ってきているのだ。

 あとは、国土の取得と独立の宣言。

 資金の方は俺の権能を働かせたスコールたん改め仁輪さんがそこそこ上手く把握してくれているし、『うち』の国家目標はそもそも『生存と進歩』では無く『救われぬ者に救いの手を』という彼女指導の何処かの何某かおりさんじゅうはっさいみたいな『善性』の指標だ。

 国家目標に沿った後添えをして『期待して』くれる他国なんてのも、いざとなったら幾つも見つかる。

 見つからなかったら強襲し掛ければそれで良いし。

 

 というか、口調が乱れてるぞぅ(^^。

 

 

 「大体日本政府からの打診も無しに動けるかよ。勝手に動いて勝手に対価を要求して、それで割を食うなんて俺は嫌だし、そこらの保証も無しに大多数が『仲間でもない』奴らの為に働いてられるか」

 「対価なら、私がなんとか用意します、だから……っ!」

 「小娘1人に何が用意できるって?」

 「お、お望みの物を用意します! なんとしてでも払います、だからお願いです、雪乃ちゃんたちを、助けて……っ!」

 

 

 学内の状況改善、という当初掲げていた目標は此の為の布石。

 『学校』とは一種の社会形成の場であり、その場に在るモノを極力変化させずに『上手く歯車が廻る』ように動かすことは、イコールで国家経営の雛型へも繋がる。

 国とは所詮『人の群れ』であり、其の船が大きいか小さいかは問題では無く、引き連れる先頭(船頭)が全体をきちんと『把握』して状況改善に努められるか、が重要視されるわけだ。

 善も悪も中庸も高慢も底辺も凡庸も、総てが全て動かし方を把握するのではなく、上手く棲み分けてそれぞれが稀に『交じる他』との関係性を勘違いしなければ、それぞれの『群れ』がそれぞれの形でどう動こうとも、それは各個の勝手なのである。

 学内の改善に託けて、出来れば『その先』を想定可能な慧眼を身に附けておきたかったのだが、運営上のデータがブランデッリのピーピングトム役のお蔭で色々入ってきていることだし、そもそもライオンくんの『失敗談』はまさに『自分を担保にしない勉強(犠牲学)』だ。有り難いことこの上なかったね。

 

 あ、ところでなんかおハルさんが涙ながらに要求してるな。

 まあ俺は共感性とかいうモノが多分に足りてない身の上らしいから、そういうお涙頂戴ものってぶっちゃけ気に入らねえんだけどな。

 

 

 「っ、それで足りなければ、私自身でも構いませんっ! なんでも云う事を聞きますから、お願いだから……っ」

 

 

 

 「――よし、言ったな?」

 

 

 

 「………………えっ?」

 

 

 此処で、トラップカードopen!

 ギアス発動! 雪ノ下陽乃の言質を元に、支配と契約の権能!

 

 

 「欲しかったんだよね、丁度いい人材が。アンタなら政界にもコミュニティ的にも顔が広いし、使い捨てても心が痛まないし。――『俺の奴隷に成れ、雪ノ下陽乃』」

 「な――――――了解しました、ご主人様♪」

 

 

 カンピオーネとなって早一年半、従えた権能は自身に最も使い易い形へと変貌し、効果を完全に十全に万全に持続させる、女性限定且つ相手の了承も必要だが、『完全隷属化』という呪言まで完成させた。

 いやぁ、サタナキアってほんと便利ですよね(悦。

 

 

 「で、茶番は終わったの?」

 

 

 マイシスター小町がぐるぐるお目目の陽乃へと微妙に冷めた目で問いかけて来た。

 ゴメンネ変なことに付き合わせて。

 お前もこの半年ばかりずっと苛立ってたもんなぁ、総武の連中には。

 

 

 「いやいや、これからこれから。対価を支払ってもらったわけだし、キチンと助けるさ」

 「はいっ、ありがとうございますっ♪」

 「おハルさん1人で割に合うの? 捕まっているのって、2年生の全員なんだよね?」

 「其処は後払いだ。こうして雪ノ下家のアキレス健をこっちが確保した以上、後々色々と遣り易い話を持ち掛けることも出来る。外交役として繋ぐ顔を、他にも増やしたり、な」

 「はいっ、ありがとうございますっ♪」

 「うわぁ、お兄ちゃんてばキチクだぁ」

 

 

 なんだよ、キチク系好きだろ? 流行りだろ? 最近の。壁ドンとか。

 

 

 「ちょっと早いが卒業式だ。俺は一足早めに自分の人生を歩みださせてもらう代わりに、立つ鳥跡をなんとやら。最後に奉仕活動でも始めますかね」

 「はいっ、ありがとうございますっ♪」

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 独り引き摺り出され、殴られ腫れた顔を押さえることも出来ずに葉山隼人は苦悶する。

 味方は遠巻きに彼を眺め、誰もが助けようと立ち上がることは無い。

 それもそのはずだ。

 彼らの中で『ハヤマハヤト』は『才能のある魔術師』であり、自分たちを守るためにはどのような相手にでも立ち向かう『リーダー』であり、彼にどうしようも出来ないことは彼らでは当然覆すことも『不可能な命題』になるのだ。

 学校の為に身を粉にして働いた仕打ちが、この顛末。

 どうしてこうなった、と葉山隼人は切った口の中で歯を食い縛る。

 其処を蹴飛ばされ、もんどりうって転がせられた。

 あまりにも惨めなサンドバッグが、今の彼の全てである。

 

 

 『おいヴェロニーカ、やり過ぎんなよ。見せしめだし、適当でいい』

 『適度だぜナターリア。このクソガキは魔術師だ。魔力密度がそこそこあるし、隙をついてナニを発動させられてもメンドクセえんだろ? 歯向かわないように腕の一本くらい折っといて丁度いい』

 

 

 葉山には与り知れぬ言語で、自分を蹴ったのと傍で見ているのと2人の女子が嗤いながら囀り合う。

 それはロシア語で、彼には理解できないからこそ、余計に悪意が凝縮されたような錯覚すらも覚えさせた。

 

 

 『一人でも殺したら人質としての価値が下がるんだ。生きてねぇと金にならねえ。特にニホンジンは注意すべきだ、あの『魔王』が居るからな。下手に殺して人質扱いされなくなれば、直ぐにでもアタシらを抑えつけに来るぞ』

 

 

 全ては上手く行っていた筈だったのだ。

 不和を生むだけの目つきの悪い生徒は学校に来なくなったし、彼が出来ていたことなら自分にだって簡単にできると、自分や仲間の力を信じていた。

 例え出来なくても、頑張る自分を見ていてくれる人はいる。

 そうして、夏休みにも遭遇した、かつての自分の失敗を彷彿とさせるイジメ問題にも首を突っ込んだ。

 今度は間違えないと、そう信じていた筈だったのだ。

 

 ――歯車が狂ったのは、きっと其処からだ。

 

 結局、彼には何もできなかった。

 少女を救えなかったし、同行していた幼馴染にも冷淡な目で見られた。

 物事の傷も余計に広げたらしく、後味の悪い夏休みを終えた。

 

 文化祭は本当に悲惨だった。

 仕事はいつまでやっても終わらないし、良かれと思ってクラスで推薦しておいた女生徒は、よりにもよって自分の選択ミスだった。

 責任を果たしてくれると信じていた、新学期にも先立って自分のグループに加わってもらっていた彼女は、早々に仕事を放棄していたのだ。

 

 何が悪かったのか、本当に良く分からない。

 きっと、自分には知りえない、何か大きな力が働いて、この世界の問題をどんどんと引き出していたのだ。

 そうとしか思えなかった。

 それくらい、運が無かった。

 

 

 『はっ! ナターリア、お前あんなガキのナニに怯えてんだよ? 色狂いのクソガキじゃねぇか』

 『当たり前だ、アタシらの前身組織はアイツを筆頭に殲滅されたんだぞ。サンタかと思ったら魔王が来るって、ジョークにしても笑えねぇ……』

 『だから(・・・)ニホンジンの乗ったヒコーキを襲ったんだろ? 理不尽な暴虐の限りを尽くす魔王とやらが、こんなガキどもを狙った程度で動く筈がねぇ、ってのが上のイコウってやつ、だっけ?』

 『甘い気がするが、まあ、件の魔王サマもハイスクールらしいからな。上の『生き残り』からの報復だそーだ。此れで本人に責が及んでニホンで身動きが出来なくなりゃ上等だ』

 『そうウマク行くのかねぇ? ま、オレは好きに働ければバンザイだがな』

 

 

 女子らの口にする言葉がわからない。

 だが、決して自分にとって都合の良い事では無いのは確かなのだろう。

 

 彼女らは、自分たちの乗っていた飛行機をISにてハイジャックしたテロリストだ。

 

 先立って立ち向かい、返り討ちに遭って呻いている戸部や大岡らをちらりと睨む。

 彼らが立ち向かわなければ、自分が助けに出ることも無かったのに、地上最強の兵器であるISに、たかが魔術を齧っただけの男子高校生がどうにかできる筈も無い。

 きっと、最終的に自分が何とかするから、と勝手な期待を押し付けて突撃したのだろう。

 忌々しい友人らに、唇を噛むくらいの悔恨が滲む。

 そこを、更に蹴飛ばされた。

 

 

 『だからよー、いちいちナニか動作見せようとすんのヤメロや。オレは魔術師の発動条件なんか知らねえんだから、つい手が出ちまうダロー? ナルシストかっつうのオマエは』

 『出てんのは脚じゃねぇか。もう痛めつけてねぇで猿轡でも噛ませとけよ』

 『えっ? オンナノコの脚に頬擦りデキルのって、ニホンジンのゴホウビなんダロ?』

 『おい誰がそれ教えた? パーヴェルか? それともグレゴリーか?』

 

 

 ぐらり、と顎下を蹴られたことで、意識がぶれる。

 歪んでいた視界が更にぐるりと反転し、大の字になって葉山は倒れた。

 結局、彼は何も出来ないままに気を失った。

 何も、結果を残せないままだった。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 遊び半分で痛めつけられ意識すらも失った彼を見て、結局彼は何がしたかったのか、とこの半年のことを思い浮かべる。

 今思えば、評判も良い彼がようやく生徒会に入ってくれたはずなのに、学校の歯車はどんどんとズレて回りだしていた。

 

 仕事量は無駄に増えて、先生方はこちらの意見なんて微塵も聞きやしない。

 それを良い顔をして受け取るのはいつも彼で、それ以前にはなんとか断れていた筈なのに、彼が入ったのは結局生徒会の足を引っ張るような実績しか残せていなかった。

 エリカさんだって良い顔をしていなかったのに、なんで私たちは彼が自分たちの組織へ参入することを良しとしてしまったのだろうか。

 

 夏休みの合宿、という名目で連れ出されたボランティア活動は、本当に悲惨だった。

 彼は、小学生の頃に体験していた筈の同じ過ちを繰り返した。

 結局、学習出来ていなかったのだろう。

 痛みを伴ったのは彼では無い他の誰かで、今回も一番痛かったのは被害者である彼女だ。

 それを救うことすらできなかった私も、ずっと痛かった。

 何も出来ず、余計に人間関係を歪にされてしまった彼女はこの先どうなってしまうのだろうか。

 どうなってしまったのだろうか。

 私には、怖くて確認なんて出来なかった。

 それは決して、自分の失敗を認められなかったせいでは無い。

 結局、彼には期待できないと云う事を、私が理解できていなかったというだけだったのだ。

 高校生になったら成長しているのかと思っていたが、何一つ変わっていない彼を見直そうとしていた理由は、最早微塵も思い出せなかった。

 

 

 「ゆ、ゆきのん、隼人君が……!」

 「大丈夫よ由比ヶ浜さん、彼女らの話では、殺す気はないみたいだし。命だけは見逃して貰えそうね」

 「そ、そうなの? ゆきのん、あの娘たちの言葉がわかるの?」

 「少しだけ、だけどね」

 

 

 回想なんかはどうでもいい。

 今は、なんとか近くへ寄ることが出来た唯一の友人の、精神の安寧を務める方が優先だ。

 もう一人友人と呼べるような距離を得られたと思っていた優秀な彼女は、今日この場には居ない。

 三浦さんや海老名さんが葉山君を生徒会へ連れて来てからと言うもの、彼女とは変に距離を詰められなくなってしまっており、互いに抱く蟠りのようなモノは彼女が修学旅行に参加しないという事態になるまで解消できないままだった。

 ……そういえば、由比ヶ浜さんが私と共に生徒会へ流れついた理由はわかるが、あの2人が参加するようになった理由とは一体何だったのか……。

 妙な記憶の齟齬が生じてそうな、そんな違和感が自分の思考の中で鎌首を擡げる。

 その時、葉山君を蹴っていた2人が、何かに気づいたように顔を上げた。

 

 

 『? なんだぁ?』

 『――オイ、どうした。何があった?』

 

 

 外からの異常でも感知したのだろう。

 ISは機械兵器であるのだし、何らかの感知能力が備わっていても可笑しくは無い。

 だが、通信機に向かって問いかける片方の困惑とは裏腹に、其処からは何の音声も流れてこない。

 

 

 『……オイ、ヤバイぞ。何か知らんが、反応が無い。襲撃でも、こんなに完全に静かなモノは聞いたことも無い』

 『ああ、それはオレでもわかる……。だがまあ、こっちには人質が――』

 

 

 カン、と響く金属のぶつかったような音。

 その時、その場にいた私たちが全員認識したのは、そういう誰かの踏み出した(・・・・・)音だ。

 開いたままの旅客機の扉の外から、タラップを踏んで登ってくる足音は一定のリズムで静かに続く。

 テロリストに人質にされている、そんな狂騒の場には酷く不似合いな、悠然と歩む靴の音。

 

 会話を中断した2人が当然警戒し、扉の開いたままの其処へと鋭い視線を向ける。

 片方は腕を向けて銃器を構え、もう片方はブレードと呼ぶ近接戦闘用の武装を剣道家のように備えた。

 そうした幾許かの沈黙の果てに姿を見せたのは――、

 

 

 「『―― 跪 け』」

 

 

 ――圧倒的なまでの重圧だった。

 

 

 『あ゛ぁっ!?』

 『がッ! ぁっ!?』

 

 

 2人はそのまま床へと頭を押し当てられるように倒れ込み、抵抗できないくらいに自分自身を抑えつけて立ち上がることも出来そうにない。

 そして、それが効果を齎したのはその2人だけでは無く、機内に居た総ての女性(・・)

 誰もが抵抗せずに、従うのが当然だと云わんばかりに膝をついて頭を垂れて、その声に云われるがままに跪いた。

 

 

 『なん、なんだ、こりゃぁ……っ!?』

 『チクショウ、動け、動けよオレの腕ェ……っ! アンナ奴の云う事に従うギリなんてねぇぞぉ……ッ!?』

 

 

 言葉では抵抗を試みているようだが、2人は全く動こうとしない。

 外に居たはずの他のテロリストらも、似たように制圧されたのは疑いようのない推測であった。

 

 ――そして、私は『コレ』を受けたその瞬間、全てを理解した。

 

 半年の間、私を蝕んでいた違和感に抵抗感。

 エリカさんとの間に遭った齟齬の、本当の理由。

 何よりも、私だけでは無く学校全体を巻き込んでいた、とんでもないゴミの仕出かした何よりも重い罪過を。

 

 

 「おいおい、抵抗は無意味だ。何より、――頭が高いゾ?」

 

 

 何処か軽い口調で扉より現れた、ISを纏っているにも拘らず、身体の線から男性としか思えないバイザーで顔を隠した誰か。

 その口元には皮肉気な笑みが浮かんでおり、私たちのよく知る特徴的な目元は確認できず、初見の者は同一に見ることはできない筈だ。

 だが、間違えようも無い彼『火鉢何某』改め――『比企谷八幡』の姿が、其処に遭った。

 

 

 「……ヒッ、キー……?」

 

 

 由比ヶ浜さんの迂闊な呟きが口から洩れる。

 だが、それに気づいた生徒は微塵も居ないだろう。

 彼のたった今扱った『権能』とやらの余波なのか、これまでに葉山(クズ)の施していた何某かの魔術を完全に解消し、全員の脳裏に浮かんでいたのは混乱であったはずだから。

 騒然と自分の知る事実と、再生されているであろう記憶との齟齬に、困惑が収まらなくなって逝く生徒たち。

 しかし、これから訪れることは決して大団円なんかでは無いことは私だって理解できる。

 きっとこれから私たちに下されるのは、救援なんかでは無く――、

 

 

 ――断罪だ。

 

 




どいつもこいつも勝手な思惑で勝手な思考を晒していたり
あと前回まで出張っていた筈の川なんとかさんの出番が微塵も無かったり
八幡自身にもカラスマ=サンとか都城の王様サンとか某足洗屋敷の夜宴大公さんが憑依してる雰囲気醸していたり
そもそも八幡が誰かさんの名前忘れて居たり、と
えっ、これで終れるの?みたいな最終話
次でギャグ系のエピローグ晒してそっ閉じする予定デス
飽きたわけじゃありません
お付き合い下さりありがとうございましたー

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