やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス   作:おーり

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なんでこんな話考えちゃったのかな(挨拶)
感想にて、やろうとしていた展開を見事に先出しされました
まあ楽に想定できるでしょうからいいのですけどね
それでも、俺は、書くのを、止めないッ!

あ、アニメ準拠?という質問もありましたがぶっちゃけ違います
何故ならどの原作も全く観てないからな!ハァーハッハッハァーッ!

……なんで漫画のチラ読みだけで書こうとした、過去の俺
このまま詳しいことを知らずに何処まで推し進められるのか。碌でもないチキンレースの始まりな予感!超wktk(棒読み)


やはり俺との初対面は間違っている

 

 世の中、そうそう上手くいくものは無い。

 人の生きる世界ではそれぞれがそれぞれの人生を生きていることを“何かに操られている”、などと嘯く陰謀論が荒唐無稽なように。

 人独りの力で出来ることなど高が知れており、それをひっくり返そうとするなら同じなだけの数が必要となるように。

 各位の人生はそれぞれがそれぞれの立場と責任でもって全うするべき代物であって、それらの交錯しないはずの行為の一つ一つが網目の様に運命を形作る、などというピタゴラ装置のような連鎖もまたそうそうあるものではない。

 世の中には“こうあるべき”というルート(絶対)や、“お約束”にて見逃される、というような“ご都合主義”は存在せず、優秀な者が必ずしも認められる、そんな“理想”が通用しないなんてことも、ざらに起こり得ることなのである。

 例えば、青狸の秘密道具でヒロインのお風呂シーンへと突貫噛まして「キャー!のび太●んのエッチー!」という悲鳴のみで終わることは無く、娘の風呂場に娘以外の人物が存在する事実を認識してしまった肉親が「不法侵入です」と110番にラブコールすることもまた起こり得る、ことのように。

 例えば、補欠合格の生徒の一人が首席クラスの優等生に実技で勝っても、それが“彼”の優位性を確立するなどということは決して無い、ことのように。

 

 要するに、はっちゃけた俺のことであった。

 

 結界が張られている、と保障されていたはずの現場は俺の『大紅蓮氷輪丸』で爆撃を受けた跡みたいになって塵となった。

 どうやら呪力ならば対抗出来ても、“神秘”に対する影響力は想定しきれなかったらしい。

 それでも俺のあれは相応に威力を抑えた代物だったのだが……。

 人的被害がゼロであることだけでも認めてほしい。初めてやったんだぜ?あれ。

 等とどこぞの“線路を追う者<レイル・トレーサー>”みたいなドヤ顔決めたところで事態は収拾するはずもなく、腫れ物を扱うかの如くな対応の学園とは違い、魔王の通学を把握していないであろうE組以外の奴らからの正気を疑う視線が痛い。

 受ける授業もそこそこに、半ドンで学校から退去した。誘ってくれた戸塚には悪いが、このまま別の講義受けても碌な結果にならないと思うんだ。

 

 転校早々、自主休校が通例になりそうな引き籠り一歩手前の現状だが、家に籠るには顔を合わせたくない奴が多すぎる。

 少し早いが昨日の今日で、実家へ蜻蛉帰りした俺なのであった。

 

 

「小町ー、ただいまー」

 

「へっ? お、お兄ちゃん!? 待ってきちゃダメ!」

 

 

 リビングの奥の方から妹の焦ったような声が聞こえる。

 なんだ!? まるで浮気している妻が不倫現場を見られたくなくって焦っているような声音だぞ!?

 まさかそういうことなのか。可愛い妹が見知らぬ男性と情事の真っ最中だというのか。

 憤慨遣るせぬマイナス妄想に駆り立てられ、俺は勢いよくドアを開けた!

 

 

「ああ、来ちゃった……」

 

「「お、お邪魔してます……」」

 

 

 果たしてリビングにて待っていたのは、男性ではなくて女性二人であった。

 俺の勢い良さげに開け放ったドアの衝撃に慄いたのか、一見毛色の違う様相のお二方はすっかり萎縮してしまっていた。いえいえこちらこそ、なんのお構いもしませんで。……で、どちらさま?

 お辞儀で返すと頭を抱えた小町に向き直る。

 

 ひょっとしたら小町の新しい学校でのお友達だったりするのだろうか。

 俺に対する後ろ暗い事実が実しやかに囁かれる我が母校は先日目出度くも廃校となっており、同じ中学に通っていた生徒らは流れるように別の学校への転校を余儀なくされた。それは小町も例外ではない。

 保護証人プログラムもどきみたいなものを行使する動きも若干あったが、先日のIS&権利団体の突貫により小町の見た目は多くの人の知るところとなってしまっている。今更他人となったところで意味は無いし、何より俺と縁を切るのは絶対に嫌だ。そう宣言してくれた妹様マジで八幡ポイント高すぎだよ。貯まりまくったポイント消費のために何か粗品でも用意しておくべきかな……。

 ポイントは高いがその代償として、個人情報を不特定多数に晒されて不利極まりない目立ちまくりの妹の事情は頗る悪い筈なのだが、そこはそれ、妹の対人スキルは俺の分も引き継いでいるぐらいに上等なので心配はないとのこと。

 実際、学校での様子を思い至ったように機を見て稀に覗けば悪いところは見当たら無い。わずかだが安心が持てた。千里眼ってやっぱ便利だね! え?ストーカー? 馬鹿を言うな、俺は千葉ならば何処にでもよく居るシスコンの一人だ。

 話が逸れたけど、要するに新しい学校に馴染んで、今日は新しいお友達ー!を連れ帰ったということなのだろう。

 お邪魔となるのも忍びない。比企谷八幡はクールに去るぜ……。

 

 

「……待って、お兄ちゃん」

 

 

 去ろうとしたところで、小町がはぁー、とため息を盛大について俺を呼び止めた。

 何? そういう仕草はあんまり可愛くないよ?

 

 

「この二人、私の友達じゃないし同級生でもないから。むしろお兄ちゃんに用事があるからって、今日来たの」

「……はぁ?」

 

 

 俺に用事、となると少なくとも俺の方との同級かそれ以上か。

 ……ふむ。

 片方は黒髪ロングで何処かのお嬢様、って感じだな。空気というか、佇まいに気品が覗える。

 もう片方は髪を茶に染めた感がわずかにあるような、あれだ、今時の女子高生って奴だな。偏見かもしれんが、ビッチ臭い。

 恐らくはどっちかが用事があって、片方はその付き添い……と、いう予測が普通は建てられるのだろうが、この二人の共通点が見当たらん。ガチで両方ともに俺に用なのか……。

 揃って別々に俺に用事? ねーだろ。……と、魔王化する前ならば言えたのだろうけどな。

 

 

「あー……、とりあえず名前から頼む。俺、オマエラの事欠片も知らんし」

「……まあ、普通はそうよね。

 雪ノ下雪乃。こう名乗れば、わかるんじゃないかしら?」

 

「……雪ノ下ぁ?」

 

 

 あれ、嫌な名前聞いたな。

 具体的に言うなら、俺がドイツ旅行行くのに出資した県会議員さんがそんな名前だった気がするんだけど?

 

 

「だから止めたのに……」

 

 

 ぶーたれた小町が呆れたように呟く。ごめん。

 とりあえず、リビングを血祭りにはしないように注意するわ。

 

 彼女らの対面に座ると、雪ノs……雪乃さんとやらは怜悧な目でこちらを見上げた。

 何?いきなり名前呼びは馴れ馴れしい? 苗字が嫌いだからね。ちかたないね。

 

 

「ええ、貴方に怪我を負わせた上に、その証拠隠滅に国外旅行まで追加した外道の下の娘よ。お陰様で、貴方(魔王様)に目をつけられることを恐れた他の議員から村八分にされていて、今現在窮地に立たされているわ。ざまぁないわね」

「……いや、自分の父親だろ……? もうちょっとオブラートというか、さぁ……」

「隠したところで自業自得よ。その上、ご機嫌取りに私を貴方に嫁として献上しよう、だなんて馬鹿げたことを画策しているくらいに懲りてないのだから。いっそこの上なく滑稽な死に様を政界中に晒せばいいのだわ」

 

 

 雪乃さんは憤慨のご様子である。ゆきのんまじおこ。

 ……って、今なんかさらっと碌でもねー事実が発覚したぞ?

 

 

「……あー、………………嫁?」

「ええそうよ。年も同じだから丁度いいだろう、とね。加えて私はこの通り美少女だから、貴方がどんな変態性癖だったとしても気に入るだろう、という目論見もあるみたい。もっとスペックは高いはずの上の姉を献上しない辺り、想定上では性格面がネックなのだと考えているのでしょうね。どの道差し出される身としては堪ったものではないけれど」

 

 

 何気に姉の方が性格か相性が悪い、って言外に告げている気がする。でも妹さんでこれなのだから、雪ノ下家はこんな対応力がデフォな予感がしてきた。

 そして関係ないだろうけど、隣の女の子が驚愕の表情をしている。

 それにしてもよく喋るな、雪乃さん。

 まかり間違っても俺に気に入られよう、とかは考えてないのだろうことは一目でわかるけど。

 

 

「まあ落ち着いてくれ雪ノ下さん。あんたにその気がないのはもう十分わかったからさ、俺も余計な柵とか好んで受け入れるほうでもないから、やんわりとお断りの連絡でも入れておけばいいんだな?」

「貴方バカじゃないの? そんなことをしたところで、あの“考えなし”が素直に受け止めると思うの?」

「お前の父親だよ」

 

 

 排斥されるのがデフォである俺の提案はバッサリと切り捨てられた。

 考えなして。

 肉親からもこの扱いとか、大黒柱も大変だなぁ。まあやってしまったことの因果応報っぽいから同情はしないが。

 

 

「そっちはともかく、もう片方の、えーっと、」

「あっ、由比ヶ浜結衣だよ。サブレを助けてくれてありがとう、比企谷くん!」

「……は?」

 

 

 このまま片方だけと話していても日が暮れる。そう思って話を振ってみたのだけど、一瞬振らん方が良かったかな、と言葉に詰まる。

 サブレ……って、何の話だ。

 いかん、コイツ話が通じない類の人種か? 自己紹介はいいとして、『菓子を助けた』とか。何? 不思議ちゃんでも気取ってるわけ?

 

 

「貴方が助けた犬の飼い主よ。それくらい察しなさい」

「いや、わっかんねーよ。てーかそれも今更じゃねーか。入院中に一切姿見せなかったのはなんでなんですかねー?」

 

 

 と、思ったことを雪乃さんにズバッとツッコム。

 由比ヶ浜 は 泣き出した !

 遠回しな嫌味だと思われたのか。お礼言ったのに嫌味で返されれば泣きたくもなるね。ごめん。

 雪乃さんの毒舌に引っ張られてしまった、つい(確信)。

 

 

「それもうちの父の根回しが原因よ……。事件の被害者同士を接触させると不利になるって思ったのでしょうね」

「おま、それ先に言えよ。犬のリードも持っていられないバカ飼い主かと思いきやガチに被害者じゃねーか」

「貴方もう少しオブラートに包めないの?」

 

 

 その台詞、そっくりそのままお返しするぜ。

 そんな俺たちのひそひそ話はしっかりと耳に入ってしまっていたのか、由比ヶ浜の涙は止まらない!

 小町のゴミを見下すような視線が心に突き刺さる! ……ほんとごめん。

 

 

「あー、いや、うん。今になったのはわかったしもういいけどさ、なんでお二人はご一緒に?」

「ぐす……、うん。っていうか、もっと前からお礼言いたかったのは、ぐず、ほんとだし……、でも、比企谷くん、なんか魔王さまとか呼ばれているし、おんなじ高校だったはずなのに、転校までしちゃっているし……」

「とりあえず涙拭けよ」

 

 

 ハンカチ……は持ち合わせていないので家の箱ティッシュを差し出す。

 その続きを、雪乃さんが引き継いだ。

 

 

「総武高には『奉仕部』という部活があるの。生徒や教師から依頼を受けて、それを解決に導くのが主な活動内容よ」

「唐突に話が変わったな」

「変えていないわ、私はそこで部長をしているもの。由比ヶ浜さんは貴方にお礼を言いたい、と私の部へ依頼を持ち込んできた最初の依頼人なのよ。……本来ならば生徒の自主性を促す方針なのだけど、私自身の要件とも合致してしまったから。こうして一緒に顔を出した、というわけよ」

 

 

 活動内容がそこはかとなく予測できない。字面的に見ればなんかエロい、と思ってしまった八幡は汚れているのでしょうか……。

 汚れちまった俺はともかくとして、部の活動方針とやらを覆してでも俺に会いに来た、というのは正直納得がいかない。

 雪乃さんにとっては気まずいなんてレベルじゃねーだろ。俺が鬼畜系だったら揃いも揃って挽き肉か肉便器にされても可笑しくねーぞ。対応した時の雪乃さんの口調なんてどう見ても女騎士的な『くっ、殺せ!』だったもん。略してくっころ。いやしないけどね。八幡紳士だから。

 ……と、なると。

 

 

「……心配でもしたんか?」

「何を言っているのかしらこの勘違い谷君は。そもそも貴方みたいな腐った眼球の持ち主と女の子を二人っきりで会わせようだなんて常識人が想定する事象を超越する問題の前にはルールや方針なんて言葉は皆無なのよ。貴方そこのところを弁えて、」

「落ち着け。とりあえず俺ら初対面なんだから、一応暴言のツッコミは控えてくれるか?」

 

 

 あと語るに落ちてる。

 自分の気まずさなんかよりも、俺(魔王)の敵意が向き兼ねない相手よりは明確に害意を向けられる相手を用意した、っていうのがコイツの策ってところか。

 普通に仲良いんじゃねーか、こいつら?

 

 

「あのー、一応私の兄なんで、そういうこと言われるのは不本意なんですけど」

「あらごめんなさい。貴方のお兄さんの視線が気持ち悪くって、つい」

「お兄ちゃん小町この人嫌い!」

 

 

 はいはいわかってるよ。とりあえず話ややこしくなるから、しゃしゃり出ないでくれ小町。

 指さし憤慨する妹を宥めていると、涙をふき終えたのか由比ヶ浜さんが口を挟んだ。

 

 

「あ、あのね。それで、お礼とお詫びってことで、これ……」

 

 

 と、差し出されたのは可愛くラッピングされた小袋。

 それこそ菓子かなんかだろうか?

 

 

「クッキー焼いてきたんだ。よかったら食べてほしいかな、って」

「……ゆ、由比ヶ浜さん、持ってきてたの……?」

「うん! 今回のは自信作だよ!」

 

 

 うん? なんか雪乃さんが目に見えて動揺しているような……?

 

 

「タイム」

「ほえ?」

 

 

 と、怪訝に思い眺めているとそのままタイムを宣言。

 雪乃さんは立ち上がって、俺と小町へと近づいてきた。

 

 

「ちょっと、いいかしら?」

「な、なんだ……?」

 

 

 有無を言わせぬ様相で、それこそ先ほど以上に小声で、俺ら二人に声を潜めて話しかけてくる。

 

 

「なんですか? 嫌いな人とお話なんてしたくないです」

「事情が変わったの。比企谷君はもう気づいているかもしれないけど、私がこうして嫌われ役を買っているのは由比ヶ浜さんを守るため、だったわ」

「じゃあ最後まで隠し通せばいいじゃねーか。それ宣言した時点で色々アウトだぞ」

「そもそもあなた方もほぼ初対面なんですよね? なんでまたそこまでして守ろうなんて……?」

 

「しょ、しょうがないじゃない。私の言動を裏表なしの目で肯定してくれるひとなんて、初めてだったのだから……」

 

 

 若干頬を染めて、我ら兄妹のツッコミにそっぽを向く雪乃さん。

 あれ、雪乃さんなんか可愛い。

 つーかこの人もボッチなんか? 確かに他人と軋轢を生み易そうな性格しているなー、とは思ってはいたけど。

 

 

「……で、なんでまた今になって前言撤回したんだ?」

「え、ええ。そもそもがお礼として“そういうもの”を用意したい、というのが由比ヶ浜さんの最初の依頼だったのだけれど……あの子の親友として言わせてもらうと、由比ヶ浜さんの料理の腕は糞不味いわ」

 

 

 糞て。

 それ本当に親友的な発言か?

 まあ括弧自称括弧閉じが付くのだという部分はさておいて。

 

 

「だから前もって注意しておくわ。あまり彼女を傷つけないようにして。折角料理を勉強する方向に自立を促しているのだから、今興味を失わせるのは部の方針的にも親友としても望むことではないの」

「親友(自称)ならそれこそしっかりと言うべきじゃねーのか?」

「なんだか今一部聞こえない副音声があった気がしたのだけど……。

 もう言ったのよ。何度も試行錯誤と矯正を繰り返したわ。………………無駄に終わったけれどね」

 

 

 煤けた雪乃さんは斜に呟く。

 矯正不可とか、筋金入りにも程があろうに。

 

 

「ていうか、後で戴くってことでこっそり捨てておけば、」

「比企谷君、貴方女の子の手料理を食さずに捨てるとか、それでも人間?」

「ていうかもう広げてるよ、由比ヶ浜さん……」

 

 

 ああ、これはもう食わなきゃならない流れだ。

 そして雪乃さん、俺食事に何盛られるかわからん立場だから、それが誰の手料理でもやばい気配感じたら捨てるよ? そこを人間性で語ってほしくはねーわさ。

 ……今回はもう逃げられないみたいだけどな。包装したままならば義妹へのお土産と称してプレゼントボックスという名のゴミ箱へと収納可能であったのだろうけどなぁ。ていうか深慮遠謀?

 

 

「あ、お話終わった? さ、どーぞ♪」

 

 

 こちらの会話は聞こえていなかったらしく、由比ヶ浜さんは弾んだ声でテーブルに広げた自作クッキーを披露した。

 にこにこしているのが暗殺実行の策が上手くいったから、という理由じゃないと信じたい。

 

 それはそうと今話題の自作クッキーだが、容は言われるほど悪くは見えない。本物の料理下手ならば生焼けとか、黒焦げとか、そういう方向性での失敗が多い筈なのだろうが、糞と迄言われるほどかなぁ、これ。

 まかり間違っても姫路さんみたいに薬品を扱うような頭の良さは備え付けてない様子だから(所謂ご本人の見た目的に)、きっと食えるもので構成されているはずだ。

 そう信じて一口。

 

 

 ――たくあんのぼりぼりとした歯触りと口の中に広がる納豆の味に、何故か涙がこみ上がる……。それはわさびが効いてるからだね……――

 

 

「どう? 普通のじゃオリジナリティがないだろうから、アレンジを効かせてみたんだー♪」

「……ああ、粋ってやつなのかな……、クッキーでこれだけ“和”を表現できるとか、天災だな……」

「え、そんなほめ過ぎだよ~」

 

 

 ……褒めてねーっす……。

 これやばい。昨今の若者が使う“ヤバい”じゃねーよ、本来の意味での“危ない(ヤバい)”だよ。何がやばいって己の目が腐ってゆくのが実感できているのが鬼やばい。元から? それ以上って意味だよ分かれ!

 

 

「美味しいゆきのん?」

「……ええ、そうね。死にたくなるくらい……」

 

 

 雪乃さんの目すら死んだ魚の様に腐っているぞ。

 キャラの被り様も危険域に達しそうなくらいだ。

 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!

 

 

「――不味いです」

 

 

 ――空気が、凍った。

 

 小町の一言で、和気藹々としたリビングの空気(見た目)が、一変して緊張感の張り詰めた裁判場のように。

 凍った笑顔のままの由比ヶ浜さんに、ギギッ、と壊れたブリキ玩具の様に首を背ける雪乃さん。

 しかし小町は意にも介さず、

 

 

「不味いものは、不味い。と、」

 

 

 続ける。

 

 

「――はっきり言ったらどうですか! これをクッキーと呼んだら菓子職人が暴動を起こしますよ!?」

「(否定できん!!)」「(否定できないわ)」

 

 

 今、雪乃さんと心が一つになった。気がした。

 そんなことより、一転して掠れたような様相で、由比ヶ浜さんが恐る恐る尋ねる。

 

 

「ま、不味い……? え、駄目、だったの? 今回も……?」

「由比ヶ浜さん……」

「ゆきのん……、正直に、答えてくれる……?」

「………………………………。

 正直コレが輸出品なら第3次世界大戦の引き金になるわね」

「」

 

 

 やたら長い沈黙の後に下された親友(自称)の止めは、実に容赦の無い一撃だった。

 あ、由比ヶ浜さんあまりにも容赦の無い一撃を食らったからか、白目剥いてら。

 

 

「だからお前はもうちょっとオブラートに包めよ……」

「だ、だって正直にって言うから……」

 

 

 距離感掴めなさすぎだろコイツ。

 

 そんなことを思っていると、由比ヶ浜さんはのろのろとした手つきで自らのクッキーを一枚、手に取った。

 そして一口。

 

 

「……う゛っ」

 

 

 ですよね。

 俺も未だに口の中が酷い。マックスコーヒーで口直しと行きたいところだが、クッキー本来の甘さまで備わっていたので、今甘いものを口に入れたら吐く自信がある。それは千葉に対する冒涜である。

 ……いや、正直碌な思い出が無い地元だけどさ、それなりに郷土愛はあるんだよ俺。

 つかなんでそんな言い訳をしているんだろう。って思うだろうけど、なんだか今のうちに宣言しておかないと千葉県民として偽物扱いされそうな危機感を抱いたからに外ならん。戯言だけど。

 

 そんな現実逃避中であった俺を他所に、事態は進行していたらしい。

 吐き気を催したはずの由比ヶ浜さんはクッキーをのろのろとした手つきで包み直し、黙したまま鞄へ仕舞う。

 そしてよろめくように立ち上がって、

 

 

「あ、あはは、迷惑だったね、こんな酷いモノ食べさせちゃって……、ごめんなさい……」

 

 

 その顔つきはとてつもなく悲劇的なヒロインの配役を任されているような、そんな物悲しさを背負っているようにすら覗える。

 アタシって、ほんと馬鹿……。とか、呟いているのだけど。

 このまま房総の海へと身投げしても可笑しくないくらいの気配である。

 

 

「だ、大丈夫よ! 今の出来が生ゴミみたいでも、練習を重ねればずっと美味しくなるわ! きっと!」

 

 

 だから信じる心を忘れないで!とフォローを入れる雪乃さん。まるでプリキュアみたいだな。配色的にはきっとホワイト。

 が、

 

 

「――うわあああああん!」

 

「由比ヶ浜さん!? 何故!?」

 

 

 何故、じゃねーよ。

 どう聞いてもフォローに聞こえなかった“それ”に、由比ヶ浜さんは泣きながら家を飛び出していった。

 それを追って駆け出す雪乃さん。正直放っておいてやれよ、って言いたい。

 

 ……つーか、この空気をどうにかしてから行け……。

 

 

「………………あ、お兄ちゃん」

「あん……?」

「結局、雪ノ下さんの問題片付いてない……」

「………………あ」

 

 

 そういえばそうだった。

 

 

 

 ● ● ● ● ●

 

 

 

 そして八王子。

 あのまま比企谷家に居座るとまた戻ってこないとも限らながために、家から逃げ出した八幡です。

 つか、嫁問題とかボーデウィッヒのですら解決してねーんだから、それ以上追加される前に一号から解決しておくべき。

 そんなことを小町から命じられました。

 妹が一番なので、真っ先にこっちから片づけようと思います。

 ……方法? いっそ安価でやるか。

 『ロリ系姉な押しかけ嫁が家に来たんだけど、どうすればいい?』ってスレを建てようかと思うのだが、どうか。

 

 

「……その前にケータイから購入するべきか」

 

 

 何気にドイツでの神風アタックの時、一緒に粉砕したまま新品を手に入れていない俺である。

 ケータイが手元にあれば小町の警報も届いていた、って愚痴られちゃったしな。急ぎ手に入れんと。

 ……でもボッチの俺には完全に不要な神器。

 だからこそこれまで無くても問題なかったんだけど……。つーか、購入したら雪乃さんとか由比ヶ浜さんとかに番号交換を促されるのか? あ、いや、あるとしたら雪乃さん程度か。あの状態で逃げ帰った由比ヶ浜さんが再起するとは到底思えんし。

 ……雪乃さんも自分からは絶対言わんか。じゃあやっぱり不要な神器のままじゃねーか。どういうことだ。

 

 

「まあ、手に入れたら先ずは私の番号から交換すべきじゃないかな?」

 

 

 なんか聞こえた気がするけど無視して帰路を歩む。

 ボッチの独り言に反応する奇特な奴なんか存在するはずもないし、きっと他の人と会話しているのだろう。

 ここで振り向くほど経験値が少ないわけじゃねー。

 

 

「おーい、無視しないよーに」

 

 

 ……そう思っていた時が俺にもありました。

 がっしり、と肩を掴まれて、無理矢理足止めされる始末。

 ……いやいや、カンピオーネを足止めって……ナニモノ!?

 驚愕とともに振り返る。そこには、

 

 

「やっ、義弟よ。元気にしてたかい?」

 

 

 何故か……サルバトーレ・ドニがそこに居た。

 

 





~第三次世界大戦の引き金にry
 起こっていないからこそ言える冗談発言
 年代的にガイルが基盤だと思考の端に据え置くように。いいね?


・小町可愛い
・雪乃可愛い
・ガハママジ蒼い魔法少女
・キャラこれで合ってる?

元ネタ知ってる人は挙手
感想は執筆の栄養分です

返信はしないけど全部読んでますよ?
お好きにカキコプリーズです

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