やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス   作:おーり

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とうとう本編が開始したって感じの6話目です
Ω<今までのはプロローグみたいなもんだったんだよ!
ΩΩΩ<な、なんだっ以下略

ところでガイルのアニメを画像だけようやく拝見しました
誰だお前
これまで八幡が脳内ではシンタローで脳内再生されていたんでキノコカットのアレが同一人物に視えません
ナンテコッタイ
腐った眼しか共通点無い?充分キャラとしては=で成立しているでしょうがいい加減にしなさい!

あとボーデウィッヒではなくてボーデ“ヴ”ィッヒだと指摘受けました
マジか。ISが一切手元に無いので確認取れません
以降は気を付けますが、今迄の間違いは脳内補完でおねがいしあす


やはり俺のファーストキッスは間違っている

 

「どうぞ」と、ボーデヴィッヒの時と同じように、サルバトーレ並びに金髪の美少女の目の前にもドンドンと茶漬けを配する深雪さん。

 それさぁ、日本人にしか馴染みのない文化なんだから、いい加減諦めろよ。

 小姑モドキが己の陣地を必死で守ろうとする様に草不可避、という奴である。

 

 

「おや、ジャパニーズ軽食、という奴かな。小腹が空いていたのでね、ありがたく戴くよ」

「あ、スプーンは結構よ? こう見えて箸も使えるから」

 

 

 金髪美少女がフンスとドヤ顔している。可愛い。

 出された意味が伝わってないから結局のところ滑稽なはずなのだが、美少女は何をしても得だね。絵になるわー。

 義妹? なんかぐぬぬって顔してる。

 

 

「で? なんで日本まで来たんだ? あんた確かイタリアが本拠地だったはずだろ?」

「カンピオーネに渡航制限なんてものはないよ。それぞれが割と勝手な目的と信念で生きているんだから、追求するだけ無駄なこともある、と理解しておくべきだね。まあ、私は今回ちょっとした目的で来たわけだけど」

 

 

 と、先輩は茶漬けを備え付けの木製スプーンで掬い一口、そのままひらりと振るわせ乍ら“同種”の事情を語る。

 改めて、ご同輩らの行動は読めるモノじゃないんだな、と諦観の念が絶えやしない。

 それはともかく、食事中に匙を弄ぶんじゃありません。

 

 

「目的って?」

「その前に、八幡、私のことは“お義兄ちゃん”と呼んで欲しいと言ったはずじゃないか」

「知らねーよ」

「同類になった初めての年下男子なんだからそれくらいの役得は欲しいな!」

「知らねーよ」

 

 

 この人は初めて会った時からこんな感じだ。

 どうにも、自分の目的というか興味というか、それを要求するときは妙にテンションが高まる性格らしい。

 特にその要求が達成に届かない代物ほど興奮する。

 変態か。と最初理解した時は思ったけど、考えてみればカンピオーネってそれぞれのコミュニティの中では天井知らずに要求が通るはずだから、人間だったころの未達成感を味わえるのは確かに高揚するものなのかもしれない。

 はいはい、戯言戯言。

 

 

「時に八幡、キミ“ゴルゴネイオン”というものをご存知かな?」

「ゴル……、なんだって?」

「ゴルゴネイオン。先日出土した、古代の魔導書です」

 

 

 金髪の娘が口を挟む。

 ちゃぶ台に着いた全員の視線が、その娘に集約する。

 

 

「決して朽ちず、決して壊れぬ、古き地母神に属する古代の呪物。“コレ”がある場所にまつわるであろう神性が顕現することは間違いないでしょうね」

 

 

 説明になっていないような物騒な説明はともかく、どなた?

 

 

「彼女はエリカ・ブランデッリ、『赤銅黒十字』という騎士団の代表だよ」

「ほぉ、騎士団ということは魔術師ということか。本物を見るのは初めてだな」

 

 

 納得したようにボーデヴィッヒがエリカさんとやらを見る。

 って、魔術師って見たことなかったのか、コイツ?

 

 

「呪装を施すIS専用の呪術師ならば、以前の軍部でも見たことはあるのだがな。“神秘”側の専門家である魔術師は、開発側の“魔法”に准ずる最大級の演算装置であるISには一切手を貸してくれん。やはりいくらIS至上主義に傾き始めている世の中だからと言って、そう易々と主流に乗るものばかりではないということだろう。あとは、ISそのものに魔術をかけるには相性が悪いらしい、というのもあるようだが」

「魔術とは要するに根源を主流とした神秘ですから、科学とは真逆の性質を持つがゆえに。依り古く依り単純な道具であるほど、霊装としての質が高まる、という点でもISなどとは相容れないのですわ。そもそもが兵器開発なんていう物騒なお話に、“私たち”のような『一般人』が携わるなどと、そんな馬鹿げたお話があるはずが無いですものね」

 

 

 ボーデヴィッヒ、エリカさん、と説明されるが、なるほどわからん。

 何? こいつら仲悪いの?

 

 

「特別そういうわけでは無い、と思いますけれどね。IS乗りと魔術師とではやはりそれぞれ分野の違う者同士でしょうから……。あ、私たち魔法使いにはそういう差別志向はありませんので問題ないですよ?」

 

 

 と、俺の疑問に応えたのは義妹の深雪であったが、オマエラはオマエラで二科生との格差社会が学園に蔓延ってんじゃねーか。個人で主張されても説得力ねーよ。

 

 

「エリカ嬢の言ったように、魔術は神秘を併せ持っているけれど、備えるためには相応の資質が必要となってくるからねぇ。女性ならば程度の差あれど時間をかければ誰もが実力者に匹敵し得るISとは、それなりの隔絶があるみたいなんだよね。特に強大な魔術結社は歴史の陰側の人間が主流だから、表舞台に堂々と立とうという日本産筆頭の呪術師とは橇が合わないみたいだ」

 

 

 サルバトーレが付け加えるように語る。しかしややこしいな。

 そもそも魔術師と呪術師って違うの?

 今日の授業で結界がどうのこうのと言っていた筈だから、そういう分野の人間も魔法科校に備わっているんじゃないのか?

 そう思ったところで、エリカさんはこちらへと微笑み、

 

 

「比企谷八幡さま、ですね。私のことはどうぞエリカ、と御呼びください。お会いできて光栄です」

「へぁ!? あ、ああ、はい、どうも……」

 

 

 向き直り、手を取られ、にっこりと優しく微笑まれてしまった。

 ……なんか、妙に高評価というか、好感触というか。

 な、なんでこの人妙に近いんだ? 俺のパーソナルスペースに入り込み過ぎじゃね?

 ……これで裏が無い、って言うんだったら、俺二度と女を信じられないんですけど……。

 

 新しいトラウマが製造されそうな途轍もなく碌でもない予感を彷彿とさせていた彼女の挨拶に、当然のごとく威嚇を発したのは義妹で。

 ボーデヴィッヒはというと、エリカさんとの己との胸部の差を確かめているのか、自分の胸の辺りをぺたぺたと触って唸っていた。

 そんな三者三様を放っておいて、サルバトーレが言葉を続ける。

 

 

「ついでに言うと、総じて人類の敵扱いでも“カンピオーネ”は大概が魔術師とか騎士団には崇められる方向性を持っているからねぇ。今回来日するにあたって、是非キミの為人(ひととなり)を見ておきたい、と押し切られてしまったんだよ」

「は? いや、悪いけど俺元々只の学生だぞ? なんでそんな……」

「キミ自身、というよりは神秘の宝庫であるが故の当然の帰結だね。魔術師ほど神を信じる人間はそうはいないんだよ」

「迷惑な……」

「あとは権能の関連かな。ホラ、魔女の王であるサタナキアって、騎士団の前身となったテンプル騎士団が崇めていた魔術神バフォメットと同質の悪魔だから」

 

 

 言われて、あー、と思い至る。

 

 ――八幡は知らないことなので勝手に補足させてもらうが。

 嘘かほんとか、虚飾か冤罪か。かつて中世に蔓延った『テンプル騎士団』は魔術師の集団であった、と言うのが世間的な解釈である。

 騎士団としての静謐な性質を併せ持つことは無く、狂奔と享楽に耽ったとされている、酷く偽悪的な解釈が通例と。

 当時の魔術師事情と現在が同等である、とは言わないが、世間的に魔術師が“悪いものである”とされた一番の要因ではある。

 まあだからと言って現在の魔術師が全部が全部悪辣である、なんて解釈はされていない。

 突き詰めてしまえば、魔術と類したところで、それもまた技術の極地の一端でしかないのである。

 

 先祖が悪とされていたら、そりゃあ表立っては握手、とは言えないわな。

 要するに魔術師や騎士団って“魔王(俺ら)”の配下じゃねーかよ。

 いや、“人類の敵”扱いされていることも大々的に“誰が”言ったということではない、とされているから、そういう分かりやすい分類なんてあって無いようなものなんだろうけどね。世界なんてものはさ。

 でもかといってそいつらに傘下に加わってほしいとか、崇めてほしいとか、そんな気を使うつもりは一切無い。

 つーか、こう、果たしたことのないかつての栄華を勝手に褒められているような、そんな妙な気分でもやもやするわ。

 もやっとボールを投げれば気も落ち着くのかしら。誰か伊●四朗呼んできてー。

 

 

「話を戻すけど、これがゴルゴネイオンだよ」

「は?」

 

 

 唐突に、はいこれ、と手渡されたのは黒曜石で出来ているらしい、黒いメダルのようなレリーフみたいなもの。

 中には蛇が数匹絡んだような髪の、というかメデューサみたいな容姿の睨み付けるような女の顔が彫ってあった。

 

 

「って、日本に持ち込んでるのかよ!? なんで!?」

 

 

 さっきコレがある場所に神が顕現するとかって言ってなかったっけ!?

 

 

「今日のお土産みたいなものだよ。八幡にあげようかな、と思ってね」

「いらねーよ! 持って帰れ!」

 

 

 からからと笑い乍ら、サルバトーレは変なことを言ったことに、気づく。

 カンピオーネが神を顕現し得る象徴を、他の奴に譲る? この戦闘に何よりも貪欲な奴らが?

 これこそまさにもやっとボール宜しく投げつけてやろうかと思ったが、そっちの思考が混じって手が止まる。

 

 

「いやね。私としては“其れ”からナニモノが飛び出てこようと気にはしないんだけどね。どうせならもっと強い存在であればいいかなー、って思ったんだよ」

「……じゃあ待てばよかったんじゃねーの?」

「そこで思い出したんだけど、八幡ってさ、積極的に戦える権能は持っていても、決定打となるようなものを持ってないよね? 逸話ではゴーゴン三姉妹の一柱であるメデューサを討伐に来るのはペルセウスだ。

 そこで、八幡がペルセウスの権能を簒奪してくれれば、もっと強い奴と私は戦える。だろ?」

「俺の意思は何処に……!?」

 

 

 もっと強い相手を欲するがゆえに俺に強くなれと仰いますか、この先輩は。

 今現在の7つか8つの権能が備わっているこの身すら持て余しているというのに、これ以上ややこしい存在にはなりたくねー。

 というか、サルバトーレがコレを避けるのはペルセウスが“英雄”だからか。この人、もうジークフリードっていう“竜殺し”を備えているから、似たような性能は正直要らないんだろうな、きっと。

 かと言って、他のカンピオーネにコレを預けるわけにもいかない、ということか?

 

 

「それに、八幡には“眼”があるだろ? そのゴルゴネイオンを“視て”いれば、やってくる奴が誰で、いつ来るのか、がすぐにわかるんじゃないかな、と思ってね」

「え゛ー……? 正直多用したくねーんだけどねー……?」

 

 

 碌でもねー欠陥が最近見つかったばかりだし。

 

 

「まあまあ、権能はイメージ次第で強弱くらい決定づけられるようになっておかないと、この先も苦労するよ? 練習練習」

「それ、最初の時も言ってたよな……。まあ、やってみるか」

 

 

 と、渋々アガリアレプトの権能を発動する。我に暴けぬものは無し、っと。

 

 ゴルゴネイオンを覗くように眺め、その先に繋がっているアストラルラインを追跡する。

 イメージはネットワーク回線を駆けるプログラム。魔人探偵が使っていたような、あんな感じだ。なんて言ったっけ? イビルスクリプト?

 その上で、己の情報は明かさないように注意しなくてはならない。

 覗き過ぎるとボーデヴィッヒの二の舞だ。翳み視る程度のイメージで、本質に触れない程度だけ。

 知りたいのは、名前と、居場所。――って、え?

 

 

「っ……は?」

「ん? 視えたのかい?」

「視えたけど……、は? え、マジか?」

 

 

 視えてしまった情報に困惑する。

 同じように、俺の動向に注視していた三人娘もまた、俺の困惑っぷりに疑念を持っているご様子であった。

 

 

「落ち着いて。何が視えたのかな?」

「おち、ついてはいるよ。けど……、なあ、エリカさん」

「はっ? はい、なんですか?」

 

 

 あ、思わずファーストネームで呼んじまった。

 まあ、いいか。今は緊急を要するし。

 

 

「コレ、メデューサの、蛇の資質を備えた魔導書、って言ってたよな?」

「ええ、ですからゴルゴネイオン、と」

「その割には、追ってくる奴がなんかお門違いなんだけど……」

「……は?」

 

 

 この中では一番神話関係に強そうな彼女に確認を取る。

 が、疑問符を浮かべている辺り、正確な答えが返ってくるかは正直微妙なところだ。

 

 

「――既に日本に来ている。神の名は――アテナ」

「「「……は?」」」

 

 

 俺の知ってる話だと、メデューサの首を刈り取ったペルセウスが盾にしたのがアテナの使うアイギスで合っていたと思う。

 だが、その過程には“英雄”というワンクッションがあったはずだ。

 ……いきなり大物が刈り取りに来るとか、ちょっと話が急すぎやしませんかね?

 あと、

 

 

「それと、現在地がちょいやばい。俺は今から行ってくる」

「い、行ってくるって、アテナと戦う気ですか!? ま、待ってくださいいきなり、」

「戦わねーよ。説得して、それで駄目なら脅して、この国から追い返す。戦って堪るか」

「そ、それこそ無謀では!? 神に説得が通じるはずがありませんよ!」

 

 

 ゴルゴネイオンをサルバトーレに返し、立ち上がって外へ向かう。

 って、そろそろ夕方か、暗くなる前に終わらせんとな。

 

 

「ちょっと! っ聞いてるの!?」

 

 

 口調が荒くなってエリカ嬢が付いてくる。

 そっちの方が素みたいだな、言葉遣いはやや粗いけど、むしろ似合っている気がした。

 

 

「悪いが聞いてない。

 対象は、銚子沖から上陸して、西へ向かっているけど、若干うろついてる。このままだとこっちに来るのにあたって何某かの権能を使うかもしれん。寄りによってあんなところで使えば、その被害は甚大なんてもんじゃない」

「って、今も視認しているのっ? なんていう出鱈目な……!」

「もう止めるよ。向こうも気づいたっぽいからな」

 

 

 つーか目が合った。ほんと、この権能って仕様がどうなってんの?

 我に触れること能わず。アガリアレプトを解除してサルガタナスの権能を発動する。

 時間的にはギリギリだが、片道だけなら問題ない。

 

 

「でもって現在地は俺の実家の周辺だ。

 千葉を荒らされて堪るか……っ!」

「それが理由!?」

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 転移術で一歩を踏み出せば、とある公園へと降り立った。

 場所としては実家のすぐ近く。狙い澄ましたかのように“俺目掛けて”アテナが近づいている気がするのは気のせいか。

 人気が無いのは女神の所為か? こっちから出向く意気込みを図り取られたのかも知れんわ。

 で、

 

 

「エリカさんまで来なくても良かったんじゃないか?」

「す、凄い、これだけの距離を、本物のテレポーテーションを触媒無しで……、流石は魔王様……」

 

 

 聞いてよ。

 到着してすぐにさっきまでの場所との位置情報の差異をGPSで確認し、その結果に驚愕したエリカ嬢が裾を掴んでいた。

 というか、俺の転移術って単独用じゃ無かったんだな。ボッチだから他の人を連れ歩くっていう発想が無かったわ。

 

 

「転移術くらい他の奴も使えるんじゃないか?」

「それでも精々が近距離程度よ……。数キロ、ましてや、地球を半周する転移術なんて聞いたことも無いわ」

 

 

 聞いてたのか。

 地球を半周、というのは俺が最初にサルバトーレの前で使って見せたあの時のことだろう。

 あとエリカ嬢の口調は完全に素になっているご様子。まあ俺は気にしないけど。

 

 

「ところで、折角だから時間のあるうちに詳細を詰めておきたい。アテナってメデューサを直接討伐するような必要性を持つ女神だったのか? 俺の知る部類じゃゼウスよりよっぽどの万能神、って感じなんだが。あとは戦争関連の祝福の神? ペルセウスのメデューサ退治も、彼女の祝福があったから討伐できた、って聞いた覚えがあるぞ」

 

 

 萌え萌え女神辞典、お世話になってます。

 

 

「大体あってるわね。あ、いや、あってますね。ギリシャ神話では最高神であるはずのゼウスを押し退けて、彼女が一番のカリスマ持ちとして崇められています」

「……口調、別に俺は気にしないぞ?

 じゃあ逆に、メデューサはどんな神だったんだ?」

「そう? じゃあ普通に話すけど。

 メデューサは怪物としての質が強い、というのが一般的な解釈だったと思うけど……。神扱いは、何処で聞いた話なのかしら?」

「日本の文化を甘く見るなよ?」

 

 

 ライダーさんが大好きだって、コハクさんも言ってた。

 

 

「なんだか釈然としないけど……、メデューサは元来地母神よ。三姉妹の末妹でアテナの不興を買って怪物にされた、っていう逸話があるから、そこから討伐へと繋がりそうだけど……。

 ここで面白い話があるの。medusaの語源はmetis、意味は『叡智』。アテナの母親とされている神の名前もまた――」

「――メティス、か」

 

 

 それが本当なら、母親を討伐するようにアテナが仕向けたことになる。

 が、それでは時系列が成立しない。

 アテナの母親は彼女が生まれる前にゼウスによって殺されている。

 

 

「――と、ここまでみたいだな」

 

 

 気配に振り向く。

 其処に居たのは、

 

 

「――ほぅ。その気配、先ほどまて妾を覗き見ていた神殺しはあなたか。名を、問おう」

 

「比企谷八幡、先日神殺しデビューしたばかりの、ぴっちぴちの新人だ」

 

 

 銀の髪に黒い瞳の、遠見で認識した通りの幼い外見。

 神としては未だ本領を発揮していない、『まつろわぬアテナ』がそこに居た。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 薄手のセーターにミニのスカート、黒いニーソックスなどで普通の少女然とした出で立ちの彼女の銀の髪の上には、青いニット帽まで乗せられている。

 見るからに普通の少女にしか見えない外見でありながらも、有り得ないくらいに発せられる彼女からの神秘の気配は、魔術師であるエリカにはとても濃密に肌を粟立たせた。

 とても人の意見を聞き入れてくれるような気配なんて、微塵も感じない。

 自分が居合わせることは間違いだったのではないかと、一歩を後ずさる。

 

 

「はちまん、八幡……、ふむ、珍しい名だ。まるで神となるために誂えたかのようだな?」

「知ってるのかよそっちの逸話……。まあ、俺個人とは無関係だ」

 

 

 そんな神に対して、かつての元人間は堂々と応える。

 同じように彼女から発せられる気配を感じている、魔王ならば拠りそういったモノには敏感に出来ていると話に聞くはずなのに。

 それを何でもないように受け流している、この少年を、エリカは素直に凄いと感じた。

 

 

「時に八幡、ゴルゴネイオンの気配が妙に散見としている。あなたが何かをやったのか?」

「散見? いや、俺はそれは知らないが……。つーか、やっぱりそれが狙いかよ……」

「うむ。我が望むはゴルゴネイオン。まつろわぬ身となった我に、古き権威を示すものなり。居場所を知るのならば、疾く告げよ。妾はかつての妾へと、一刻も早く戻りたい」

「……一つ、聞きたいんだが……戻って何をする気だ?」

「む?」

 

 

 目的を見据えて邁進していた少女の目が、その時訝しげに揺れた。

 ここで初めて八幡に興味を持ったのだろう。それともその質問にか。

 

 

「――考えておらん」

「おい」

「が、権威を取り戻した暁には、やはり平定からすべきかと思う。

 妾を崇める者たちへ、

 妾の真実を知らぬ者たちへ、

 全てに平等に、

 等しく正しく、

 かつての蒙昧なる人の子らへ戻すべきだ。

 と、妾は思うのだが」

 

 

 何かを憂うように、

 何かに陶酔するように、

 アテナは言葉を朗々と紡ぐ。

 

 だが、それは得てして人類にとって受け入れて良い提案には、到底思えるモノではなかった。

 

 

「そうかよ。でもな……」

 

 

 それを理解した八幡だからこそ、彼女の前に立ち塞がる。

 

 我は神の敵対者、束縛を受ける者に非ず。と、権能を示す言霊を呟くのを、エリカは確かに視ていた。

 

 

「先ず“俺が”それには反対だ。今のを聞いて、ゴルゴネイオンを渡すわけにはいかなくなった。

 ――斃されたくなければ、大人しく帰って貰おうか」

 

 

 その場の少女ら2人は、立場も位置も意思すらも違うのに、揃って息を呑んだ。

 貌を上げる八幡の様相は、その一瞬で大きく様変わりしていたからだ。

 

 アテナを睨み付ける瞳孔は縦に割れ、

 開く口から覗き見える歯並びは、全てが牙の様に鋭利に尖り、

 袖を捲り上げた両の腕は、鱗が生え揃った人とは思えぬ仕様となって爪まで鋭く尖っている。

 

 

「俺は『赤竜』を討伐しこの権能を簒奪した。『赤竜』とは所謂神の敵対者である『サタン』を示すものでもある。この状態となった俺には、神の敵対者としての権能も備わっている。

 ――完全ではないアテナなんか、楽に屠れるぞ」

 

 

 これこそが正しい『赤竜』の権能、『竜化』という奴である。

 この状態となった八幡には、まず一方的に“神秘”すら効かない。

 その代わりに細かい権能などは使用できないのだが、それを失っても余りある膂力がその身体には備わっているのだ。

 だが、

 

 

「(そうか……! これが“脅す”ということね! 例え相手が神でも“完成”していなければ打倒することも出来る! それが本当かどうかはともかく、それに匹敵する正体を晒せば、相手は戦神でもあるアテナ! 戦術・戦略を嗜むのであろう彼女なら、無謀な戦いを望むはずがない!)」

 

 

 そう。

 エリカの思う通り、八幡はこの権能を十全には扱えない。

 そもそもが修得したのもほんの数日前なのだから、己の権能を全て把握することなんか出来るわけはない。そのことはエリカも知っていたのである。

 

 

「(実際に神と敵対して絶対的な優位性を持っている――なんて強靭さが備わっているかどーか、俺にそれを確認するには時間が足りなさ過ぎだ。だが、一時凌ぎには充分すぎるビッグネーム……ッ! 俺は此処を騙し切る……!)」

 

 

 ざわ……ざわ……!と、知らぬうちに八幡の顎が鋭く描写されている気がする。

 彼にとっては一世一代の大勝負。

 これを抜けきれなければ、房総半島が火の海に沈む。そんなイメージすら幻視していたという。

 

 ――が、

 

 

「――くはっ」

 

 

 しかし、どうやらその“策”は、無謀に終わりそうである。

 

「くっあははははははははは! そうかそうか! なるほどそういうことか!」

 

 

 アテナはそんな八幡を視、少女の身でありながら、実に老獪に哄笑を上げたのだ。

 

 

「――……何が可笑しい」

 

 

 困惑する八幡が、睨み上げるままに問う。

 アテナは一頻り嗤うと、息を整えた。

 

 

「ははは、いや、可笑しいんじゃない。嬉しいのだ。

 なるほどな。ゴルゴネイオンの気配が散見としていた理由が、ようやくわかった」

 

「あ……?」

 

 

 疑問に思い、問いただそうとしたその時、

 

 

「――比企谷くん?」

 

 

 聞き覚えのある声に振り返る。

 其処には、

 

 

「ほら、比企谷くんだよ。って、なんか知らない女の子といる!?」

「え、ちょ、ちょっと、何してるの貴方、こんなところで?」

 

 

 困惑した様子の雪ノ下雪乃、そして由比ヶ浜結衣が公園の入り口に立ち、こちらを指さしていた。

 

 

「(――は? ちょ、あいつらまだ近くに居たのか!? っていうか人払いは!? コイツ(アテナ)、そこんところしっかりしとけ――ッ!?)」

 

 

 其処に気を取られたその一瞬、

 

 気づけば、アテナは己のすぐ傍まで近づいていることに身を竦ませる。

 

 

「やはりな。咄嗟には反応出来なかったか」

「やば――んむぅっ!?」

 

 

 ――誰もが、目を疑った。

 

 アテナは、その低い背を補うように爪先立ちになって彼に寄り添い、

 正面から彼の首へと腕を絡ませて、

 幼い桜色の唇を、八幡の唇へと力強く沿わせたのだ。

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 

 それをしっかりと目撃していた、少女ら三人の時が止まる。

 八幡もまた、初めてのChuに困惑を通り越して混乱の極みへと到達していた。

 

 

「……由比ヶ浜さん、110番って何番だったかしら」

「……何番だったっけ……? 私頭悪いから忘れちゃったー……」

 

 

 一足早くにザワールドから復帰できた少女二人が、混乱しながらも通報、という手段に出ようとしている。

 確かに、見た目がどうしても小学校卒業未満程度にしか見えない少女が高校生の男子にキスしているとしか見えない絵面なので、片方が既知の仲だとしてはどうしたところでその選択を選ぶのは間違いではないかもしれない。

 ついでに言うと彼は彼で“魔王”という絶対的権力まで有しているのだから、その権力を行使して無理にやらせた、などという結末も無い可能性が無いわけでは無いかもしれないのである。

 その会話は当然、彼の耳にも届いていた。

 為らば、すぐにでも少女を突き放して弁明するべきなのだろうが、それが出来ない理由もまた、彼には在った。

 

 

――ゴリッ

 

 

「――え?」

 

 

 鈍く、何かが千切れるような音に、エリカがはっと気を取り戻す。

 次の瞬間には、八幡がアテナを突き放し、蹲るようにその場にしゃがみ込んだ。

 口づけされた、その口元を両手で押さえて。

 

 

「――っ!? 八幡っ!?」

 

「って、え、ひ、比企谷くん!?」

「ちょ、ちょっとまって由比ヶ浜さん! 迂闊に近づくのは危険よ!?」

 

 

 今は背後の少女たちに構っている暇はない。

 エリカは急ぎ彼に駆け寄って、様子を覗った。すると、

 

 

「――っ、っ……!」

「な――!」

 

 

 口元から、夥しいほどの血が諾々と流れ落ちている。

 口中を切ったにしては、有り得ない出血量が、公園の地面を赤く滲ませた。

 

 

「――戴いたぞ、竜の血肉」

 

 

 声音に顔を上げる。

 突き飛ばされたアテナが、実に嬉しそうな表情で口を開き、銜えた血の塊を見せつけていた。

 その血の塊が“何”であるのかを理解した時、エリカ・ブランデッリは血の気が引くのを感じた。

 

 ――それは、八幡の口中より噛み千切られた、彼の舌に他ならない。

 

 それを知ったことを確認したアテナは、エリカの目の前で、実に美味そうにその血肉を嚥下する。

 瞬間、彼女自身が輝きに包まれた。

 

 

「妾は謡おう、三位一体を為す女神の歌を。天と地と闇を繋ぐ、輪廻の知恵を。

 妾は謡おう、貶められた女神の唄を。忌むべき蛇として討たれた女王の嘆きを。

 妾は謡おう、引き裂かれた女神の詩を。至高の父に凌辱された慈母の屈辱を。

 我が名はアテナ。ゼウスの娘にしてアテナイの守護者、永遠の処女。

 されど、かつては命育む地の大母なり! かつては闇を束ねし冥府の主なり! かつては天の英知を知る女王なり! 此処に誓う! アテナは再び、古きアテナとならんことを!」

 

 

 朗々と、高らかに、

 詠唱を謡うにつれて、彼女の容姿が変わってゆく。

 背が伸び、手足が伸びて、可憐な少女の姿から端麗な乙女の容姿へと。

 面差しからは幼さは消え、幼い身体は17か18程度の年齢へと。

 来ている洋服もまた、現代のモノから古風な純白のローブへと。

 

 そして、全ての変化が終わると、まだ明るかった筈の夕方空は一瞬にして暗い夜闇へと変貌する。

 此処に、完全なるまつろわぬアテナは顕現した。

 

 

「や、やられた……! そんな裏ワザがあったなんて……っ!」

 

 

 悔しそうに呻くエリカに、八幡が視線で訴える。

 アテナから距離を取れぬままに、エリカは言葉を紡いだ。

 

 

「メデューサとアテナは、要するに同一の神だったわけよ。当然メティスも。けどそれだけじゃない、メデューサの前身は話したわよね? 彼女は元来は地母神、それも討伐され解体された地母神よ」

「ふぉれが、びょうひゅながる……(それが、どうつながる)」

「慌てないで、全部説明するわ。

 かのティアマトが竜と誤認されているのは近世の間違いではないわ。討伐される存在を強大な怪物として紹介するのは、それに勝った者たちの正当性を促すためのモノ。それと同じことが、アテナいえメデューサにも起こった。

 彼女の逸話は蛇だけじゃない。次女のエウリュアレの名の意味は『遠くへ飛翔するもの』、メデューサ本人はペガサスを生み出す逸話も持っている。そう、翼あるもの、それも『翼ある蛇』こそが、彼女の持つ本来の怪物性なのよ」

 

「そう、妾には『竜』もまた備わって然るべきものだ」

 

 

 エリカの説明を引き継いで、アテナが応える。

 その顔は余裕に満ちており、勝利を確信した表情を隠そうともしていなかった。

 

 

「礼を言うぞ、比企谷八幡。この国に来てから随分と回り道をさせられたが、考えてみればあなたのその気配の残滓が全ての元凶であり答えであったのだ。

 あなたは名乗ったな? それは赤竜だと、神の敵対者だと、古き蛇だと。

 それは即ち、妾が求め止まなかったものそのものでもある。

 簒奪したその一部だけでも、充分に資格足り得る。お蔭で妾は真のまつろわぬアテナへと回帰することが出来た。

 我こそは夜の女王、死と再生を齎す大地母神、名のある者たちへと取って代わられた、真なる女神の根源だ!」

 

「……っ! そうか、よっ!」

 

 

 竜の膂力で地面へと拳を叩き付ける。

 土煙が舞い上がり、一瞬だけアテナから身を隠し、八幡はエリカを抱えて距離を取った。

 

 

「っ、え、け、怪我は!? 舌は!?」

「生えた!」

「生えんな!」

 

 

 思わず。

 やっちゃダメだと思うが、そう突っ込まざるを得なかった。

 竜の再生力だろうけど、あまりにも理不尽である。

 ともあれ、

 

 

「っ、一旦立て直しましょう。せめて戦力を整えないと、あのアテナにはカンピオーネ一人だけでは到底敵う要素がありません」

「俺もそう思う」

 

 

 それは確かに判断としては正しい。

 むしろ、八幡に転移術があるからこそ、この場から逃げられる。そう思っての進言だった。

 しかし、

 

 

「でもさ、無理だ」

「え」

「サルガタナスの権能は、夜の間は使えない」

「………………え?」

 

 

 容赦の無い現実が、魔王本人から突き付けられる。

 そうしてエリカは、絶体絶命のピンチに陥ったのだということを理解したのであった。

 

 

 




・このままじゃ千葉がやばい!出陣だ!
・八幡のファーストキッスはヒロインsではない!このアテナが貰ったぁ!(ズギュゥゥーン!)
・巫女さんの出番が大幅に削られました(笑)


以上三本でお送りしました(要約)
サルガタナスについては、次回の講釈で

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