やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス   作:おーり

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エリカとドニのキャラに違和感があり過ぎる。とのお声を聴いたので、唯一手元にある漫画版と小説一巻を読み返し、己の文章と比べてみる
違いが判らずに頭を抱え、更新が停滞する
エリカさんは八幡と初対面なんだし、こんなものでも良いのではないかなー、そう日和ってみたい今日この頃
ところで違和感が酷いってことはもう書かなくって良いってことですよねヤッター!
そう思っていたらそのまま突き進んでくださいという続投希望メールだよヤダァー!
折角なので大体書くべきところを書き上げるまでは更新してゆこう、と決意
ほら、いろいろ散りばめちゃった伏線くらいはね?
その後の展開?知ってる人が書けばいんじゃね?(適当)




ドニ?
TSして男装美女になっているけど八幡の主観じゃ把握できていないってだけじゃねーのかな。と逃げ道を敷くのを忘れない
だってみんながTSTSってすっごいお祭り騒ぎだしぃ!
そんな7話


やはり俺の解決方法は間違っている

 

 女神覚醒!って言うと何処かのモバゲーみたいだが、それでスタンディングオベーション出来るのは現場に居ない中学生か高校生くらいのもの。そもそも俺パチスロもパズ●ラもやってないし。って今は関係ねーや。

 聖書に依れば最古の蛇でもある赤竜だが、聖書自体がそこまで古いのか?と若干の眉唾で困惑している俺もいる。よくもまああの逸話でゴルゴネイオンの代用品になったもんだ、と己自身を信用できない今日この頃。そりゃあ人類の歴史からすれば充分古いのでしょうけどね?アテナとかギリシア神話群ってそれ以前じゃありませんかね?

 神の逸話とは斯様に杜撰なものである、と世の歴史家が耳にすれば、とんでもねーこじ付けが現状を生み出したことに頭を抱えるのは、どうしようもない現実なのであったまる

 

 さて現実逃避はこのくらいにして。さーて、どうしたもんかなー。と現状分析。

 目の前に坐(おわす)のは神話以前へと回帰したアテナ。

 その性質は大地母神・夜の神・戦の神・死と再生の神、と多様であり強力。

 根源的な性質としては、全てを内包し回帰と生誕をサイクルする大地の顕現となるのだが、そこから派生したであろう闘争と祝福の神代以降の習合も混じっているとみて間違いない。

 女性的分類とされている『夜』は後世の神話分類から派生した後付け的な学術研究じゃなかったっけ? ていうツッコミも聞いてくれないくらいに万能である。

 アテナさんマジ無双。ちょっとはゼウスもいいとこ見せろよ。

 

 対する俺の現状。

 アガリアレプトは“視る”ことにのみ特化した権能だし、サルガタナスは『夜は使えない』という制限が存在する。元々は夜よりも昼の方が性能を発揮する、っていう伝承で派生したらしいんだけど、実際こういう制限付きの方がより性能は増すらしいのは念でもお察し。制約を掛けることでミステリーポイントを期待しようぜ!ってことなんだろう。

 残る他の権能は、フルーレティ・ネビロス・ルキフグス・サタナキア。

 フルーレティは氷結系・天候操作。古神回帰アテナとは善戦できそうな程度に相性良さそうにも思えるが、善戦が出来そう、というだけでそれが俺自身に通用する理屈かは不明。相手は戦術嗜む戦の神だぞ、最近まで普通の学生だった俺が性能だけで敵うと思ってんのか?

 あと、さっき使おうとしてわかったのだけど。フルーレティは一回使ったら12時間経過しないと顕現不可。そんなテキストメッセージが脳裏に浮かぶイメージがggg。

 一瞬思考が静止したけど、多分これも制約。一夜のうちに仕事を終える、とかいう逸話があるから、短期決戦型なんだろうと当たりをつける。

 まあどのみち扱えるかどうかが不備の範疇だったから、いっそ使えない方がホッとする。

 あとは、ネビロスは死霊術の使い手らしいからこれも今のアテナとは相性良さそうに思えてくるけど、実際“死”が乱れ狂う術の応報なんてものが千葉に蔓延れば、明日から文字通りのゴーストタウンが出来上がること請け合いだ。なのでこれも却下。

 ルキフグスは……財産管理術? 戦闘にどう生かすんだよ……。

 つまり、通用しそうな権能は残る一つしかない。

 だけどなぁ……。

 

 

「ぶっちゃけ、戦いたくないでござる」

「はぁ!?」

 

 

 やべぇ、呟いたらエリカ嬢に逆切れされた。

 

 

「たっ、戦いたくないって、貴方ねぇ……。この現状で平和主義? 日本人ってそういう人種なの?」

「おい、俺をdisるのはまだしも人種差別は止めとけ。俺としては、あれだ、この場でやったら地元が僻地になるからな」

「それが通用すればいいのでしょうけどね、あの女神さまに」

 

 

 話せば通じるだろ。ベルダンディ様だってなんだかんだで話の通用する人だったんだし。

 ……通じるよね?

 ところでエリカ嬢の口調がとんでもなくおざなりなものになっているのは気のせいでしょうか。

 いやまあ、俺は他人の何かに口出しするほど人間出来ているわけじゃねーですし、口癖なんてのは人の勝手ですけどね?

 

 そんな感覚で距離を取っていたところ、アテナの輝きが唐突に“ぶれる”様に薄れる。

 光源の電球が切れかかっているような、そんな反応だった。

 

 

「――む。一部では足りなかったか。

 どうやら、喰い尽くさないと竜の権能を剥奪するには至らぬ様じゃな」

 

 

 ひゅっ、と『赤竜』が解除される。

 あかん。あの娘、俺のことを物理的にmgmgする気でござる。

 

 

「…………どうやら完全に復活したのではなさそうね。まだ勝機はあるんじゃないかしら」

「……今の発言を聞いてよくそんなこと言えるな。このままぶつかったら俺が食される未来しか視えねーぞ」

「だ、大丈夫よ、貴方には『竜の再生力』っていう反則みたいな権能があるんだし」

 

 

 目、逸らさんでくれ。

 

 

「それに、私もこう見えて一介の騎士だからね。敵いそうになくても、それなりに強力な魔術だって持ってるんだから」

 

 

 ……ああ、戦う気満々なのは己に自信があるからか。

 確かに、相手が相応ならば彼女はそれなりに対処できるほどの技能を身に着けているのであろう。

 サルバトーレに聞いた記憶では『騎士』とは魔術師の階級に与えられる称号で、そこに至るには相応に実力も兼ね備えているとも耳にした。

 だがそれも相手が人の範疇ならば、の話だ。

 今この場に居るのは『まつろわぬ神』。神話で伝えることによってその本質を封じ込め、神代の暴虐を理不尽を圧倒的な存在を抑えていた“箍”より外された、人知に及べぬ『伝説以上の』顕現だ。

 ……魔術師はそれを崇める存在筆頭、ではなかったか?

 そこに気づいた俺は、ため息をつく。

 

 

「わかったよ、俺が対処する。こうなったらもう逃げても避けてもいられねーからな」

「……え?」

 

 

 魔王の領分は神と対峙し得ること。

 だがその魔王が戦いたくない、などと言い出せば、その『相手』が居なくなった神はどうなる?

 大人しく還る、という選択肢は彼らには無い。

 放置されたまつろわぬ神らは、一通りの暴虐をやり尽すまで消失することは無い。

 それはあたかも、己の存在を誇示するかのように。

 

 そして、それを見逃せない人の領分である魔術師には、魔王に戦うことを要求できるほどの強制力は無い。

 で、あれば、戦わない誰かの代わりに、自分たちが真っ先に犠牲になるべきである。

 おそらく、彼女が考えたのはそういうことなのだろう。

 そうでなければ、まつろわぬ神と対峙する、なんてまともな人間では考え付かないようなことを選択するはずもないからな。

 

 呆けてこちらを見るエリカ嬢に、内心で思う。

 その仕草すら計算だとしたら、本当に恐るべき女狐だ。

 そう思いながら、対処しきれる可能性の最も高いアレに成れる言霊を呟いた。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 最初に彼に抱いた感情は、どういう風に利用しようか、という程度のものだった。

 実際、ドイツで神殺しならぬ竜殺しを果たした、とは聞いていても、その中身は精々年頃のハイスクールに通う男の子だろうし、わたしの美貌があれば籠絡も容易いのではないか。そんな意見が赤銅黒十字からもちらほらと出ていたのだから、いくらカンピオーネの一端だからと言って他の魔王と比べればずっと御しやすい、そう思われていたのも確かだろう。

 だが、そんな憶測は日本側の悪手によっていとも容易く覆された。

 正史編纂委員会は何をしていたのか。と古参の『騎士』らは言っていたが、本来ならば魔術側の擁護をするはずのその組織は、ISショックの折りに権力のほとんどを喪失したと聞く。

 その影響力が特に顕著に出たのは日本で、そのISの開発に特に力を入れているのも日本。

 それというのも、以前にヴォバン侯爵によって日本の婦女子を生贄にされるところであった、という情報が飛び交ったことも原因の一つ。だからこその『対魔王の抑止力』、等と言った妄言がISの開発には力を添えてもいるらしい。しかし開発者の面々は本当に魔王に敵うと思っているのだろうか。

 ついでに言うと、そのヴォバン候にも噂は確実に届いている。届いている筈なのに嘲笑って、自分の勝利を微塵も疑わず、人間が必死で抵抗するその様を、蟻の巣を観察するかのように眺めているのだ。相変わらず趣味が悪いにも程がある老人だ。

 

 話が逸れたが、新たな魔王『比企谷八幡』それとも『司波八幡』? どちらにしろ彼は、騎士らの想定を簡単に凌駕する影響を見せてくれた。

 日本にて彼を縛る手枷足枷となるはずだった家族を人質に取られる寸前に実力を知らしめ、彼は己の実力と立ち位置をしっかりと日本側へと見せつけた。

 結果として魔王が敵扱いされる傾向が強くなってしまったみたいだが、それでいいのだ。

 

 『神秘』とは、人の手で御せるようではいけない。

 ましてやその極致である『神殺し』が『人の事情』に振り回されていては、かつてより神秘を崇拝するわたしたちにとっても目に余る。

 それを覆してくれた彼を新たな魔王として、そして呪術師の裏切りによって衰退の一途を辿る我ら『騎士団』の回生の象徴として、今度こそ彼をどうするべきか。良い方向での対処法の模索へと動き出すのに、それほどの時間はかからなかった。

 

 その結果としてゴルゴネイオンを差し上げる、ということになったことには今でも若干眩暈を感じるが。

 

 言い出したのは最初に預けられる予定だったサルバトーレ卿だが、そこから得られる神殺しの新たな権能を纏めて献上しよう。そう提案したのは古参の騎士らだ。

 神殺しには本能とでもいうべき戦闘に対する欲求が存在する。

 彼らは神と対峙した時、自然と戦うための肉体へと変貌し、その激情の赴くままに闘争する。という性質が備わっている。

 『新たな魔王』も、例に漏れずその通りなのだろう。そう推測した騎士らは“顕現する神と戦う”という常人にとっては厄災でしかないそれを、厄介払いをすると同時に至上の玉権へと飾り立てたのである。

 ご丁寧に“もっともらしい理由”をサルバトーレ卿にカンペ宜しく教え込んでまでして。

 

 そしてその『献上品』は大して影響を与えることも無く、彼(八幡)本人の権能のお蔭で“無用の長物”として、女神からも今現在忘れられている。

 よりにもよって彼自身を捕食される、という結果が出るなんて。誰が予測できたものだろうか。

 

 

 前書きが長くなったが、わたし個人としては八幡様に悪い感情は無い。

 少々目つきが悪いかなとは思うけど、その見た目は整っている方だし、今すぐに愛人としてわたし自身が『献上』されたとしても、絶対的の嫌だとは言ったりはしない。

 かと言って容易く手籠めにされることを受け入れるとか、そんな尻の軽いことは言い出しはしないが。

 まずはお友達から。

 そんな感じの距離感だった。その筈だ。

 それが、

 

 ――彼がアテナと対峙する。そう宣言した瞬間から、変貌した。

 

 

「……あ、え、あ……?」

「あんまりこれ、やりたくねーんだけどな」

 

 

 適当な長さに切り揃えられていた年相応の黒髪は、一昔前の男性アイドルの様に増量し伸び生えた。かと言ってずるりとした女性みたいな艶やかさはあまり散見とせず、癖っ毛が激しいので長毛種の猫か犬を彷彿とさせる。

 前髪で隠れているが米嚙みの部分から生えているらしい、くるりと丸まった山羊か羊みたいな角が増毛した髪に埋もれてちらちらと視える。デフォルトで人間ではないのが良く分かる。

 何より目を引くのがその表情だ。

 これまでの不機嫌そうな苦虫を噛み潰しっぱなしだったかのような、あの家に居た誰にでも向けられていたマイナス方向へとダダ滑りであった斜構えの空気が一篇に払拭されている。

 悠々と自信満々に、正面から見れたならさぞ堂々とした泰然としたかのような、それこそ我らが騎士団が望むべくして臨むであろう『王様』が、絶対に見れたのであろう。

 残念なことに、そんな彼をわたしは横顔からしか眺められなかった。

 

 

「エリカ、そっちの2人を頼む。被害がいかないように距離をとって、守ってやってくれ」

「っ、わ、わたしに頼むのなら相応の態度が必要ですわよ? 何しろ、あなたはまだわたしたちの崇めるべき王様であると完全に認められたわけではありませんから」

 

 

 思わず、不遜な態度で対応してしまったのは、騎士団の代表の一人としての“駆け引き”が必要であった。そんな理屈が媚りついていた所為だ。

 お蔭様で普段のわたしらしくない、淑女としてはあるまじき態度で応えてしまったことに、内心で後悔する。

 だが、それも一瞬のことだった。

 

 

「――命ずる、やれ」

「っ! 畏まりました!」

 

 

 振り向いた彼の言葉のままに、わたしはその『命令』を心から受け入れていた。

 不敵な笑みをそのままに、黄金色(きん)に輝く瞳が『わたし』を射抜いたその瞬間、わたしの心臓が早鐘の様に激しく高鳴る。

 平坦だった心の天秤は、あっという間にある方向へと大きく傾いた。

 即ち、恋に落ちたということ。

 この人にならば全てを捧げても構わない、打算も計算も駆け引きも、全部投げ出して彼の総てを受け入れよう。

 彼こそが、わたしたちの、いいえ、わたしの魔王様になるべき人なのだから。

 

 そうと決まれば話は早い。

 身体強化の魔術を行使し、背後の女子学生(ところで魔王様とはどのような関係なのだろうか。護衛の間の内に問い質しておく必要が在る)を小脇に抱え、わたしは全速力でその場を駆け出した。

 八幡様の戦闘の邪魔にならないように、わたしと言う脆弱かつ敬虔な信徒は、彼の言葉に従うことこそが最善なのだ。

 

 

「えっ、あ、ちょ、ちょっと待ってお姉さん、えっと、え、えくすきゅーずみー!?」

「落ち着いて由比ヶ浜さんこの人たち日本語話していたから。でもそれはそれとして今の現象と彼の変貌ぶりについて聞きたいことが――」

 

 

 何か言ってるけど今は無視。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 その変貌に目を剥いたのはアテナも同じことだった。

 彼が『赤竜』の権能を剥奪し、竜となった。彼女にもそう“視えた”。その筈だったのだ。

 

 ……今の姿は、一体、なんだ?

 

 竜、ではない。

 先ほどまで確かにあった強者であるはずの威圧感も鳴りを潜め、180度違う粘つくような淀んだ空気が彼の周囲から発せられているのが判る。

 但しそれが強いのかと問われると、どう考えても先ほどまでの『竜』として存在していた時の方がずっと強力に感じた。

 その『実力』を抑えつけてまで、あの姿へと変貌したのは、一体どういう腹積もりなのか。

 

 しかし彼の表情は、それこそさっきまでの強者らしかった時よりもずっと余裕たっぷりで、その寸前までよりもずっと生き生きとした貌を見せている。

 あれこそが神殺し足る貌である、と神としての本能が警報をずっと鳴らしている。

 推して測るべし。

 そう判断したアテナは、一先ず大地から竜を創り出す作業から始めた。

 

 

「圧し潰せッ!!!」

 

 

 公園の土が隆起した。

 かと思えば、蛇の様に鎌首をもたげて、土嚢の塊が大蛇の様相を取った。

 が、そのもたげた鎌首は、周囲の土を巻き込んで大きく巨大に伸び上がり、土砂の総てが“津波”の様に八幡へと襲い掛かる。

 

 先ほどまでの“強者”であったのならばそれくらいは躱すか受け流すか、耐えることも出来ただろう。

 だが今の“変貌”は見た目ほどの強化を知らしめているように思えない。土中に圧殺すれば、すぐにでも全身の骨を粉砕できる。

 そう判断したアテナの攻撃は、単純な力技。しかし、それは実際効果が覿面すぎた。

 その“攻撃”がまるで津波のような形状では、“生物”では防ぎようがないのだ。

 人であってはもとより、この星の上のどの生物も、津波という最大規模の破壊の前には為す術もない。

 どんな形状であれ、巨体であれ、それ以上の波状攻撃に対応する術は、生物としての形に相応しい技を備えていない。

 

 しかし、そうして圧殺されても神殺し。一息に死ぬような脆さは備えていないだろう。

 そんなアテナの目論見通りならば、その先はどうすべきか?

 埋まった死体寸前の彼を探し出して、ゆっくりと捕食すればいい。

 等と、肉食女子の先駆けみたいな思考回路のままに、アテナは容赦なく断罪の鎌を振り下ろす。

 

 ――寸前で、

 

 

「――跪けッッッ!!!」

「ッ!?」

 

 

 巻き上げられた土は、全てが『十戒』の如くに分断され、アテナはその場に平伏した。

 

 

「っ!? っ、か、はっ……っ!?」

 

 

 何が起こったのか、まったく判断が追い付かなかった。

 声が響いた、只それだけで、『跪かなくてはならない』と己で判断してしまったのだ。

 混乱するアテナに、一歩ずつ近づいてくる誰かの、土を踏む足音。

 他の誰でもない。

 神殺しにて竜殺し、八幡その人しか、この場にはいないのだから。

 

 

「効いても一瞬か。まあ神様が相手ならこんなもんかもしれんが、もう少ししっかり効かせるにはあと一歩が必要かね?」

 

 

 悠々と、ごく自然な足取りで、でこぼこに形状を流化させられた土砂の上をコンクリートで舗装されている道なりを進むかのごとくに歩み寄ってくる。

 先ほどまでの距離を取ろうとしていた『竜』の時とは完全に違う戦闘姿勢に、アテナは更に混乱する。

 

 

「なん、だ、今のは……? 八幡、あなたは、妾に何を、した……!?」

「――汝、隣人を愛せ」

「……?」

 

 

 混乱するアテナに、不敵な笑みを浮かべたままに八幡は呟く。

 答えになっていないその返答に、混乱は助長する。

 

 

「この姿になるための言霊なんだけどな、皮肉が利いてると思わないか? 何しろ普段の俺は愛するどころか、信頼のしの字も備えていない男だ。だからこそ使いたくないし、使うべきじゃないって自制していたんだ。でもまあ、色々払拭するには一番適している」

「……? な、んの、話を……」

「こっちの話だ。

 それより、もっと有意義な話をしよう。お前がお前の国へと帰りたくなるような、そんな話を」

 

 

 その瞬間、アテナの心に火が灯った。

 怒りの火だ。

 

 

「――ふ、ざける、な……!」

 

 

 跪かなくてはならない、そんな己の心を押し返すように、身体に力を入れて立ち上がろうとする。

 前半の言葉の意味は理解できなかった。

 だが最後の言葉は噛み砕けた。

 この神殺しは、今もまだ戦おうとするのではなく、まつろわぬ身となった彼女を追い返そうと、それだけを目的として動いているのだということが理解できたのだ。

 

 

「辱められた、貶められた、剥奪された、矮小なる愚者の下へと就かされ、妾を愛してくれていた信徒も死に給うた……!

 讃える詩は掠れて錆びつき、真なる妾を知っている者など疾うにいない……。そんな妾に、今更還るべき国など無い……!

 妾をアテナ足らしめるものは、ただ妾の本能のみ……! 戦え、戦って妾を、真なるアテナだと証明させよ……! 神を縛り付かせられぬものだと、その身で証明せよ!」

 

 

 惨めだった。

 かつての神として崇められていた己が、髭の生えた中学生みたいな別の神に隷属しなければならなかったのが。

 己の神話を分断されて、脆弱な他民族の下剋上の小噺に兼ね添えられるのが。

 だからこそ奮起したのだ。

 正しい戦の神として、

 真なる大地の神として、

 揺り籠の如き死の導き手として、

 そして決して討伐されぬ竜の化身として。

 戦うことで自らを律し、かつての己を取り戻す。

 戦いこそが我が本分t

 

 

「まあ、ぐちゃぐちゃと言いたいことはわかるけどな。誰だって誰かが見てくれなけりゃ、生きている意味なんて無いってことだろうし。

 でも駄目だな。お前は負けた。だから、ペナルティは戴いていく」

 

 

 ――目の前まで迫っていた神殺しが、顔を上げたアテナの唇を奪い取った。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「……ただいまー」

「あれっ? お兄ちゃんお帰りなさ――どういう状況……?」

 

 

 まあ、小町が困惑するのも良く分かる。

 片腕にエリカ、片腕にアテナ(幼女)、背後には若干引き気味の由比ヶ浜さんと雪乃さん。

 一見すればハーレムだけど、そこに小町の冷たい眼差しまで加われば俺的にはポイントつーかSAN値がガリガリと減少するのも確実すぎる。

 救いの道は、多分無い。

 

 

「えっ、ちょ、ちょっとまってよゴミいちゃん、後ろの2人はまだわかるけど両脇の人たちって何処のどなたさん? ドイツの人以外のお嫁さんなの?」

「いや、どっちも今日知り合ったばかりなんだけど、つーかドイツの人とやらもお嫁さんと違うから」

 

「汝、八幡から離れよ。困っている」

「そこはアテナ様が離れるのが筋ではないかと思いますけど? というか、先ほどまで殺し合っていたお二人がこんなことになっていることの方がわたしとしては理解できませんわ」

「八幡は竜だ。であれば、妾が備えるべき片割れでもある。即ち一心同体、共にあることは自然なことだ」

「そんなわけがないでしょう……!?」

 

 

 俺を挟んで口論するの止めてくんねーかな。

 つーか、余波が酷い。

 女性を籠絡するサタナキアの権能を真正面から浴びた2人がこうなるかも、というのは予想していたけど、あれはあくまで権能だから、元に戻れば効果も継続しない筈なんだけど。事実、以前にISに乗って襲ってきた女性権利団体の奴らは、その後は自然と元に戻っていたし。

 それと、アテナの『今の状態』で余波が響くのも可笑しいと思う。

 あくまで効果が発揮されるのは『女性』だ。アテナの今の姿は竜の権能を剥奪し直したお蔭で変身前の状態で、一見すると二次性徴が来ているかも怪しい年頃。その辺りには効果が出ないって、フルーレティんときみたいなテキストメッセージが。

 ……あれっ、ひょっとして俺、まだ狙われてる?

 

 

「と、そんなことより平気だったか?」

「え、それほっといていいことなの? まあ、停電?があったり、地震があったりしたけど、特にこっちに被害は無いよ? あ、それが心配で戻ってきたの? 小町的にポイント高いよお兄ちゃん! でも女の子侍らせているのでプラマイマイナスです」

 

 

 察せられた。しかもマイナスかよ。

 

 

「そんなことより比企谷くん、先ほどのあれって本当に神の顕現だったの? なんでまた日本でそんな頂上バトルが、」

「ゆきのん、今日はもう遅いんだし帰ろうよー。ていうかゆきのんが比企谷くんのこと困らせてばっかりに見えるのは気のせい?」

「そ、そんなことないわよ由比ヶ浜さん?」

 

 

 はいはい、ゆりゆるゆりゆらら、と。

 背後のゆるふわゆりかもめは極力無視の方向で。説明義務なんて俺にはねーし、起こった現象が極小規模なんだし、通報とかされてないといいけどなー。

 近場の公園が地盤陥没現象引き起こしたみたいなことになっちゃっていたけど、その辺の対処は後々考えよう。間違っても女神が来たせいで、なんてことになったら今度こそ俺の立場も危うい気がするし。

 

 

「まあ背後の2人は置いといて、財布忘れたから今日も泊まるわ。こっちの2人も一応」

「お泊りかー、お布団は同じ部屋?」

「おう」

「え」

 

 

 え?俺なんか変なこと言った?

 この2人は同室にしておけばお互いに見張るだろうから、同室で間違ってないよな? 俺は当然別室だけど。

 

 

「ちょ、ちょっとヒッキー!? 女の子と同じ部屋は駄目だよっ!?」

「おい誰がヒッキーだ。小学生のころのあだ名で呼ぶんじゃねーよガハマさん」

「そっちも呼んでんじゃん!?」

 

 

 由比ヶ浜さんが咄嗟に常識の無いこと言った。

 つーか、あだ名呼びは止めて。トラウマが蘇る。

 俺? いーんだよ、呼ばれたから呼び返した。

 あだ名で呼ぶ者は、呼ばれる覚悟のある者だけだッ!

 

 ――あ、それでやり返したら俺も同類じゃん。

 

 

「今はそんなことよりも重要な案件が出てきたわ。比企谷くん? 魔王だからと言ってやっていいことと悪いことというものは確実に存在するのよ? そこらへんの倫理観はしっかり兼ね備えた子だと思っていたのに……」

「お前が俺の何を知ってるんだよ……。つーか誤解で論争立てるのは止めてくんない?」

「でも、」

 

「くっ、しまった、ネグリジェの一つでも持ってこれていれば……ッ!」

「寝間着か。妾には必要ないな。寝るときは服を着なければいい、真に古い習性とはそういうものだ」

「――ああ、なるほど」

 

「――ねぇ……?」

 

 

 両隣にて、したり顔で頷くアテナに、目から鱗のエリカさん。

 それを指して、雪乃さんは問い質すように微笑みの眼差し。

 誤解とかなんとか言ってる場合じゃないのか、ひょっとして。

 

 

「待て待て、俺は当然別室だから誤解、」

 

「失礼、旦那は来ているか?」

 

「――なんでおんねん……」

 

 

 八王子のドイツ少女がIS装備して玄関からご入室してきたので思わず関西弁になった俺は悪くない。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 さて、その後のことをざっと話すと。

 ゴルゴネイオンは込められている呪力を俺が吸収、吸ったところで『蛇』の権能程度『竜』に掻き消されて飲み込まれる。一番保持していて問題ないであろう俺に、“それ”は預けられることとなった。

 もっとも、呪力が引いちまったそれは、もう只の骨董品にしかならんのだろうが。本来ならば博物館に預けられて然るべきものなのだが、下手なところに保管されて新しく呪力を溜め込まないとも限らないので、記念品代わりに俺の所有物と相成った。

 今では八王子の自室に、田舎の天狗面宜しく飾ってある。

 

 エリカ・ブランデッリは帰ろうとしなかった。

 が、いつまでも居座られて後遺症が残るのも問題だとサルバトーレに教えて、無理矢理連れ帰ってもらった。

 嫁と義妹の視線が悉く痛かった。って、嫁じゃねーし!

 

 由比ヶ浜さんと雪乃さんは放置だ。

 ぶっちゃけ、俺がどうこうする問題の範疇からは外れており、彼女らのやりたいことに関する事情は知ったことではない。

 とりあえず雪ノ下さんちが色々背後関係スパゲッティなので、個人的な恨みはねーですよ、とだけ電話に出たおねーさんに伝言を頼んでおいた。直接?いや、自分が伝言預かりますから、ってうるさかったから。

 本当に伝言ゲームが成立するかどうかは知らん。そこまで面倒見切れるか。

 

 そして初邂逅した、自称嫁であるラウラ・ボーデヴィッヒと比企谷小町の仮嫁小姑戦争。

 なんか、和解してた。

 えっ、受け入れ態勢万全? これからもお兄ちゃんをよろしくお願いしますって、本人抜きで決定するの? それ?

 まさかの全面肯定に逃げ場が無い。これ本当にどうしよう。

 

 で、

 

 

「なあ、なんでお前まだ居るの?」

「愚問だ。妾とあなたは一心同体である。そう告げたはずだが?」

「受諾してねーよ」

 

 

 まつろわぬアテナだが、未だに我が家に居る。

 いや、我が家っていうか、俺の傍について回っている。

 お蔭様であれから三日経つのに、未だに学校へ通えない。

 自主休学の毎日なのだが、いい加減についてくるのをどうにか止められないか、とさすがのボーデヴィッヒも困り顔だ。

 なんせ落ちぶれたとはいえ神様だから。IS展開して強行突破しようとしたボーデヴィッヒが普通に止められたし。

 この結末、IS委員会辺りに報告しておいた方がいいんじゃないか?

 

 

「そもそもお前の帰るべきところはあるだろ。アテネっていう名前付き都市がまだあんだから、そこなら権威も崇拝も程よく集まるんじゃねーのか?」

「以前にも言っていたな、それは。だが、其処に住むものは元より、妾の真の神話を崇めた者は既に居ない。為れば、妾がかつての三位一体を喪失した時、あなたは妾を殺すべきだったのだ」

「……子供の姿を殺せるか」

 

 

 竜ならまだいい。だが、人の姿をしたものを当然の様に殺せるようになれば、それは俺の倫理に反するのではないかと思う。

 相手がどうしようもない悪人なら仕方ないかもしれないけど、やっぱり子供だとダメだ。

 ほら、俺こう見えてニチアサテレビキッズでもあるし。ヒーローは子供は殺さないもんなんだよ。

 

 

「それに、あの時妾に投げかけてくれた言葉が嬉しかった。それでは駄目か?」

「……なんか言ったっけ、俺?」

 

 

 すっとぼけてみる。

 いや、あのときのは権能の効果でテンション上がっていたから口が勝手にね。

 女性を籠絡するのが権能だから、勝手に口が口説いちゃうの。

 そういうことなの、そういうことなのよ?

 

 必死で忘れようとする俺に、アテナは花の様に微笑みながら、告げた。

 

 

「『全て知らないものだとしても、俺だけは理解してやる。お前と向き合った俺は、お前のことは忘れない。だから安心して身を委ねろ』――さすがの妾も、顔が赤くなるのを実感したな」

 

 

 やめろぉぉぉぉおおおお!?

 あれはサタナキアの権能の所為だから!

 『気』の流れを支配する『祝福』の権能が携わった成果だからーーーッ!?

 

 なんだかカンピオーネになってから着実に黒歴史を生産している。

 そんな気配が、視えないでもない。

 

 

 

 




〜サルガタナス
 アスタロト配下の魔神。夜間よりも昼間に力を発揮する
 人や動物を透明にしたり、他の場所へ物体移動させる力を持つ
 また、あらゆる鍵を開けて中の様子を見せることが出来、羊飼いたちの技や奥義を人へと伝授する
 言霊は『我に触れること能わず』
 瞬間移動術はこの世界線じゃ精々近距離。八幡の場合地球を半周するのだって一瞬で出来る。但し昼間限定。到着場所が夜だったらそこからは移動不可

〜サタナキア
 ルシフェルおよびベルゼブル配下の有力魔神。魔軍の大将で総司令官
 一角獣に乗って現れ、あらゆる女を服従させる力を持つ
 十字軍運動の一結社、テンプル騎士団が崇拝していた偶像バフォメットと同一らしいが、恐らくはでっち上げ
 この世界線に置いては『そういうこと』となっているけど
 言霊は『汝、隣人を愛せ』『流動せよ、また凝固せよ』の二つ。それぞれ変身と発動で別
 女性を籠絡するのにブーストかかったり、物質の流れそのものを操作出来たり。そんな権能


超☆難産
とりあえずさらりと流せる程度の内容でお送り
なのに一万字越えとか、書くごとに文字数増えている気がしないでもない
もう止めろォ!とのお声があったらその人に続きを任せる所存
次を書くのはキミかもしれない…(ぬ〜べ〜風)

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