やはり魔法科高校の魔王の青春は間違っているストラトス   作:おーり

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前回で終わっても良かったんじゃないかと俺は思うんだ
とりあえず、以前言っていた委員会の人を連れてきた8話目


やはり俺が後処理をするのは間違っているだろ

 

 人が人足らしめているものは偏に、達成感だと俺は思う。

 事を成した後に分泌される脳内麻薬がどうのこうの、と語られるが、そんな化学反応だけでものを考えて人間逐一事を遂行するわけでは無いだろう。

 しかし、人間は壁を乗り越えることにこそ快感を覚える生き物である。

 

 ……でも楽に平穏に平和に人生を謳歌できれば、俺個人としては何も言うことは無いんだけどなー……。

 植物か石竹のような物静かな心持ちで、とか、そんなキラーdeクイーンな悪役的心情かと問われそうではあるけれど実際何処のファンタジーだよ、とでも言いたくなるような経験をしておれば『そういう平穏』を要求するのは仕方のないことだとも思うんだ。あ、はい、話逸れてますね。閑話閑話。

 

 話を戻すが。

 そういう達成感を感じたいからこそ、人間はそれ相応の壁をそれぞれが『設定』しながら生きている。

 それは人外となってしまったカンピオーネでも同じことなのだが、俺らの場合は“本能的に神を求めている”みたいな解釈が通例となっているようで、そこを達成感や“乗り越えられない可能性”に当て嵌めようという思考には周知の者たちには及ばない推測であるらしい。

 好き好んで戦うような戦闘狂と勘違いされていませんかね。

 少なくとも俺は違いますが、何か?

 

 設定される壁は高ければ高いほどいい、というわけではない。

 それぞれに分相応という、乗り越えられないハードルの高さは確実にある。

 出来ないことをとりあえずやってみよう、とかそんな方向性ではまず間違いなく出来ないままなのである。

 例えば、

 『なんでも』出来る奴が偶にいたりするけれど、そういうやつらは『出来ない』奴のことを慮るということが『出来ない』。

 とか。

 

 人とは誰かと理解し合うことで己の立場や存在意義なんかを確立しようとする生き物だ。

 相互理解が成り立たない人間は、社会の中で生きてゆくことは困難ではないが苦痛を伴う。

 そして、生き物というのは色々とめんどくさい内情を持っているものだが、根本的かつ本質的には皆同じ。

 即ち、『やりたい』か『やりたくない』かの二択で、自分たちの目標を明確化する。

 『出来ない』人間は出来ないことは『やりたくない』し、『出来る』人間は出来ない奴らのことを理解『出来ない』。

 『やりたくないこと』が『出来ないこと』こそが人間の本分なのだとしたら、苦痛を伴ってまで乗り越えようとするその相互理解に、果たしてどれだけの価値があるのであろうか。

 人類進化がどうのこうのと語る前に、人にはいの一番に乗り越えなくてはならない壁が聳え立っているのではないか。と、俺は思う。

 

 あ、あともう一つ。

 

 

「……ニートだからと言って親に殺されるのは、流石にどうかと思うわ」

 

 

 物議を醸すよね、この漫画。

 

 

「子殺しの一つや二つ、神ならばいくらでも果たしているはずだが?」

「それが通用するのは神話だけだ。つーか根本的に生物が子殺しするのはコミュニティに問題があるからだ、ってどっかの先生が言っていたからな。思考と天秤がある人間特有の文化だろうな、悪しき」

「人類の業か」

 

 

 そしてこの主人公、女性と付き合えなくなったら爆発するらしい。

 なんつーか、もう踏んだり蹴ったりな人生を送り出していて目が離せないわ。

 

 そんな漫画談義を他所にさて置き、今回のお話である。

 

 三日目。

 何がというか、アテナを撃退してから三日目だ。

 俺は学校にも行かず、漫画喫茶で暇をつぶしていた。

 ちなみに撃退したはずのご本人は俺の膝の上で一緒に漫画を読んでいる。

 殺し合いの戦闘を果たした相手と仲良くなるとか、何処の少年漫画の法則だ。

 いや、仲良くなるとかってレベルでなくて、普通に距離感が近すぎて問題ありだと僕は思います。

 女の子特有の仄かな香りがしっかりと発せられているとか、女神様マジぱねぇ。

 あれか、人間が至高する最上位の具現化こそが神としての本分だから、女神さまならば高校生男子を籠絡するくらいベイビーサブミッションだぜ、ってことなのか。

 どう見ても罠なのに回避不可とか、悪辣にも程がある。

 

 

「八幡、続きを見せてくれ」

 

 

 こんな美少女と連れ立って歩くと色々と視線を集中させてしまいそうではあるが、アテナさんには、というか顕現した神には人払いなんて手間がかかるような魔術的な現象もお手の物であるらしい。

 平日の昼間、ということも携わっているかと思われるが、見つけてしまったこの漫喫のご利用者数が現在0。

 店舗的にも色々迷惑がかかりそうな現象を引き起こしていて恐縮なのだが、目立つことが苦手なボッチとしては頗る快適です。アテナさんにサンキュー!

 何がサンキューって、お蔭で下手な知り合いや現在進行形で家族ごっこをやっている同居人らに付いてこられていないという点だな。そこだけは感謝しておく。

 ……まあ、アテナさん自身からも狙われていない、とは断言できない時点でどっこいなのだけど……。

 

 

「八幡?」

 

 

 反応の無かった俺を見上げて小首を傾げる幼女。

 いや幼女じゃねーよ、少女だよ。中学生か小学生くらいの見た目なんだからそんなもんだよ。そこ、事案が発生したとかツイートすんじゃねー。

 っておい、ちょい待ってアテナさん。身じろぎしないで。

 膝の上で動かれると尻の柔らかな感触が直に擦れてちょいやば――、

 

 

「ハイストップデス! ドクターストップですよ女狐め!」

 

 

 べりっ、と擬音が聞こえるかの如く、べたついていたアテナが膝の上から引き剥がされる。

 どうやってんだ。相手女神様なのに、強制的に出来るとかって。

 驚きの表情で引き剥がした義妹を見上げる魔王が此処に居る。ていうか俺だった。

 

 

「……学校はどーした」

「自主休学です。お兄様が登校できるようになるまで、私もご一緒します」

 

 

 アテナ自身の強制力が働いていない可能性が大。

 そう予想できる幼女を傍らに下ろして、したり顔で恭しく付き添う深雪さん。

 未だにどう呼べばいいのかが不明だったりする。

 苦手だわーこの子……。

 俺根本的にこの子とボーデヴィッヒが苦手だから家に居着かずにこうして徘徊してるのに、ついて回ってきて来られたら本末転倒じゃね?

 大事なことなんで2回目だけど

 

 

「そこは普通に通学しておけよ、俺と違って相応に勉強の機会が用意されているんだから、折角の学園生活無駄にすることもないんじゃねーか?」

 

 

 とりあえず優等生である彼女を遠ざける言葉でやんわりと突き放す。

 誰だ。今、勢い良すぎるブーメラン放ったなwww、とか呟いたやつ。

 草を生やすなっ。

 

 

「お兄様の本領を理解できない現行の学園システムが可笑しいのですわ。本当ならばカンピオーネであるお兄様が二科生に通学することなんて、絶対的におかしいことであるはずですのに」

「何も可笑しいことなんてねーだろ。魔法学に詳しくない生徒なんだから贔屓をしない、普通の事じゃねーか。むしろカンピオーネを受け入れた時点で充分贔屓していると見てもいいレベル」

 

 

 つーか意図してない部分を突っ込まれた。

 思わず返してしまったけど、魔法科高校の観点からしてみれば充分にシステム的には正常に働いていると思うけどね。俺は。

 むしろカンピオーネなのだから、と俺自身にハンデが課せられるのが通例に思えてくるから、自身の沸点はいっそ笑えるところまで届きそうだが。ハハッ、実に憤慨。

 

 

「つーかそもそも魔法を良く知らん人間を入学(い)れるほうが間違ってんだよ。問題点があるとしたら司波家じゃねーのか」

 

 

 言わなくていいところまで思わず口にしてから、しまった、と思いかけたけど。

 そーいえばこの子も己の家族に色々思うところがあるとか、聞いた気がしたので訂正はしない。

 すると、何やらどさどさと手持ちのカバンから何冊かの……参考書?

 

 

「丁度よろしいですね。それでは、お兄様が胸を張って学園の履修を修められるよう、僭越ながら私が個人授業を施させていただきます。私が昔使っていた魔法学に纏わる参考書なのですが、お兄様ならばきっと問題ありません!」

 

 

 それはむしろ秘伝書レベルなのではなかろうか。

 要らんツッコミで藪から蛇を吐き出させてしまった、と内心頭を抱える俺がそこに居た。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 文系人間に公式とか当て嵌められるか。せめて文章で説明しろ。

 個人授業開催してもらって恐縮だが、ぶっちゃけ全く理解できん。

 アテナはアテナで関わるつもりはないのか、一人遊びならぬ一人魔術でノートの切れ端を鳥みたいにして飛ばしていた。

 幼児退行とか、しているわけじゃないよな……?

 

 

「駄目だ、法則とか公式とか、全く理解できん。もう早いうちに自主退学も視野に入れといたほうがいいかもしれんね」

「いえ、これはまださわり程度ですから。進めて行けば次第に理解できるようになってゆくはずですから」

 

 

 なおも食い下がろうとする深雪さんには悪いが、改めて言うけど俺って文系人間なんだよ。

 しかも普通の高校生なんだよ。元々は。

 理系技術術式系のエリート校にはそもそも畑違いも甚だしいって感じの人間なんだよ。

 ……今更ながらあの学校が何を教えているのかを理解したら、つくづく其処へ転校させた司波の奴らに憤りを思い出さざるを得なくなってきた。一生ビデオ予約を失敗する呪いをかけてやる。

 

 

「いやいや、あんまり無理をさせるのはどうかと思われますよ? まあ、配下の者が何をしようとしているのかを把握しておくのは魔王としては良い傾向だと思われますがね」

 

 

 ……どなた?

 なんか知らんがにこやかなメガネのおっさんが、開けっぱだった個室入口から顔を覗かせていた。

 あ? 密室にするわけねーだろうが。そんなところで女の子らと閉じこもるとか、完全に罠じゃねーか。引っかからねーぞ俺は。

 

 

「……どちらさまですか?」

「おっと、コレは失敬。ワタクシ、元・正史編纂委員会所属でした、甘粕と申します」

 

 

 反応をしなかった俺に代わり、不審がっていた深雪さんが眉根を寄せつつ尋ねると、その男はにこやかに丁寧に挨拶と自己紹介をしてきた。

 してきたのはいいが、何やら気になる単語を発した様な。……元?

 

 

「元々は政府お抱えの組織だったのですがね、政界に女性が大きく台頭し出した影響力で寡聞に過剰に軍縮の余波がワタクシ共の組織をも襲い共々解体されてしまいましてな。お蔭様で、日本古来の魔術師とのか細い伝手しか持たぬニートの一人でしかございませんよ。

 無意味に軍事バランス崩されて“おこ”なご老人様方はまあ放置でも良いのですが、その被害が真っ先に及ぶのは彼女らの素知らぬ無辜の民であることに何故気づこうとしないのか。まったく糞ですな、今のご時世は」

 

 

 はっはっは、と朗らかにすげぇ暴論をぶっちゃけられた。

 あの、反政府運動なら他所でやってもらいませんかね?

 

 

「つうか、そんなこと此処でぶっちゃけていいんすか」

「そちらの女神さまの影響力のお蔭でこの辺りは今の所人気が皆無ですからなー。まあそれ以前にワタクシ忍者でして。人払いはともかく、もし誰かの目につく時があるのならばそうなる前に逃走遁走お手の物、って奴です」

 

 

 アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?

 唐突に出てきたワードにそう反応すべきだったのか。否か。

 冗談めかして言っているが、取る手段が真っ先に逃げることな辺り、無駄に説得力が飽和する。

 

 

「で、そんなニンジャさんが、何故に俺に?」

 

 

 魔術師、とかってワードを聞きかじったので十中八九この人も神秘関係だとは思われるけど。

 しかし日本そのものにカンピオーネは、今の所俺を除いて存在しない。

 魔王に携わる仕事が成立するのか?

 そんな俺の疑問は些末なことであったらしく、雰囲気は一転し、甘粕さんは一礼、頭を下げた。

 

 

「解体されたとはいえ正史編纂委員会の主なお仕事は神秘が引き起こされる現象に対する対処と対応です。現政権の唯我独尊で夢見がちな方々とは違う、現実と現状をしっかりと認識した方々からの、ちょっとした『御願い』を携えて貴方様の前に現れたことを、此処にお詫びいたします」

「って、ひょっとしてなんか問題でもあったってことっすか」

 

 

 あれ、なんだろう。

 先日の女神上陸の際に引き起こされた“夜化”と“微弱な地震”が何かの問題でも悪目立ちさせたのだろうか。

 しかし、夜化はほとんど夕方の時間帯から少しだけ“早まった”程度だし、地震によって隆起とか陥没とかした公園がそれ以上の問題があったとかはこちらの耳には届いちゃいない。

 俺が魔王だからだ、とかいうものではなく、単純に言うほどの騒ぎになっていないからだ。……と思いたいが。

 ……というか、こっちのアテナが先日上陸した神と同一である。なんてことが気づかれていては普通に大騒ぎになるはずだし、ひょっとしたらアテナの上陸自体気づかれていなかった可能性も、

 

 

「まず、先日上陸されたそちらのアテナ様。彼のお方が死を司る神の一端であるにも拘らず、人的被害が日本には及んでいないという事実に関して最大限の感謝を。

 王のお蔭で日本の無辜の民が無意味に血を流す必要の無かったことを、深く有り難みます」

 

 

 気づかれていたらしい。

 すっごくむず痒いが、感謝されて悪い気はしない。

 

 ――とでもいうと思ったか?

 

 

「俺が引き入れた可能性は考えなかったのかよ? 俺は日本人そのものにいい思い出は無いからな。そのこと自体はそっちでもある程度調査済みだと思うが、何某かの反対意見だって政府側でなくとも口にしてたんじゃねーのか?」

 

 

 その感謝が釣り針でない、という可能性を考えない俺じゃない。

 体よく持ち上げて都合のいいように煽てて使う。いい大人ならよく使う手立てだ。

 ……考えてみればその程度のことを思いつかない大人が居ないわけでは無かったろうに、なんでQはあんなになっちゃったのかね? せめてミ●トさんなりなんなりが『彼』に、それなりの説明をしておけば良かったのではなかろうか。

 

 

「はは、御見通しですか」

「すまんね、ひねくれたガキで」

「まあ、そうなってしまったのも周囲の大人の責任の一端ではありますし。しかし、誓ってご申請させていただきますと、今のお得意様方はそのようなことを穿って視るような方々では御座いませんよ。言ったでしょう? 現実と現状を見据えていると。そのように王の心算を穿つようなことを思考するより、何が起こって誰が始末をどのようにつけたのか、を把握しておりますよ。そのようなことを穿ってくるのは現政権の一角程度です」

 

 

 思考が余計な方向へと逸れる俺に気づいているのかいないのか、甘粕さんは俺の疑心暗鬼を一笑に笑い飛ばした。

 最後に余計な不安を掻き立てられそうな台詞が付属したけど。俺はともかく、また俺の周囲に被害が及ぶ事情に成ったりはしないだろうな?

 今度小町に触れたら、何をどうするかわからんぞ。

 

 

「まあその一角も雪ノ下議員を筆頭とする王の擁護派の方々の頑張りで抑えられているのが現状ですから、もうひと押しで黙り込むでしょう」

 

 

 おっさん頑張ってるなぁ。

 かつての俺を国外追放したとは思えないほどに、味方側へと必死でしがみついているようだ。

 まあ、放っておいても前以上に被害が及ぶ事態にはなるまい。と、雪ノ下議員の頑張りを右から左へと聞き流す。

 

 

「さて、そろそろ本題へと移らせていただきますが、宜しいでしょうか?」

「本題……、ああ、『お願い』とやらか。正直何を無茶振りするのか聞きたくは無いんだが……」

「まあまあ、今語ったことに微かながらも引っかかる案件でございますよ。決して、王にただ不快を運んできたわけでは無いということをご理解いただければ」

「――まあ、いいよ。話してくれ」

 

 

 思わず慇懃無礼な態度になるが、それでも不快な感情を顕わにすることは彼は無い。

 それほどまでにメンタルケアが出来ているのか、人間が出来ているのか。それとも……、

 ――今はどうでもいいか。

 

 

「先ほどの『もうひと押し』に通ずるご提案が一つ。ここらで王が日本にとって有益である、ということを分かりやすく説明する機会を設ける。――そう言ったとしたら、どういたします?」

 

 

 言葉を促してみれば、またもやモノの挟まったような前置きで続けるおっさん。

 内容としては、現状に不満を持つであろう俺を慮っての、希望を持たせるような言い分であったけれども、

 

 

「前置きはいいって言ったはずだけどな?」

「――失礼。本題を語りたいのは山々ですが、それを成立させるための交渉材料が未だに出揃っていないのが現状でして。それらを揃える前に、王に現状の理解を促しておきたい、そう思ったワタクシの配慮でございますよ」

 

 

 俺の言葉に虚を衝かれたように目を見開いたが、すぐに笑顔を張り付けておっさんは言葉を紡ぐ。

 交渉材料? 俺を動かすための、何かの下準備でもしているっていうのか?

 ……悪いものである可能性が無いでもないのだし、権能を発動させる準備でもしておくか……?

 

 

「一応言っておくけど、俺の目には千里眼が宿っているから。なんかしようとしても大概無駄だぞ」

 

 

 と、牽制はするものの、正確に視たいものの取捨選択をしないとアガリアレプトの権能は得られる情報が多すぎる。

 そこを正確に突き付けられていたら、見事にこのブラフは無駄に終わるのだけど。

 

 

「いえいえ、そんな悪巧みの類では御座いませんのでご勘弁を。――とはいうものの、些か遅いですな。彼女ならばすぐにやってこれると思ったのですが……。

 ――ああ、来たようですな」

 

 

 顔を巡らせて何者かを探す仕草のおっさんが、部屋の外を見て言葉を翻した。

 彼女? と尋ね返す前に、

 

 

「八幡っ」

 

 

 甘粕さんの横をすり抜けて、ボーデヴィッヒが室内へと踏み込んでくる。

 走って来たのか、随分と息を切らせている。

 何か、急ぐ用事でもあったのか?

 ……というか、オマエラ揃いも揃って女神の人払いを払拭しているとか、どいつもこいつもハイスペックだな、おい。

 

 

「……おいおい、どうやって俺の居場所を割り出したんだよお前……。つーか、そんなん焦って?いるのは初めて見るな。どした、何があった?」

「っ、はぁ、とりあえず、落ち着いて聞いてくれ。今すぐにコマチを連れて日本から脱出しよう。それが最も安全な選択だ」

「――はぁっ?」

 

 

 選択言いながら選択肢を提示してないじゃないですかやだー。

 それよりも、いつの間に彼女は妹を呼び捨てに出来る関係を築けていたのだろうか。

 つうか、どういうことだ。まず、

 

 

「お前から落ち着け。先ず、俺の周囲で何が起こっているのかを明確に説明してくれよ、頼むから」

「そうですねぇ。一方的な言葉だけじゃ、人間は動くものではありませんよ?」

「、誰だ?」

 

 

 あ、お知り合いじゃないのね。

 口を挟んだ甘粕さんに、怪訝な顔を見せたボーデヴィッヒ。

 それに応えることなく、甘粕さんは続ける。

 

 

「お嬢さんはお教えしたくないそうですので、ワタクシからお教えいたしましょう。

 これはつい先日、昨日未明の事なのですがね、ドイツ軍を除いたEU連合のIS部隊が、デヤンスタール・ヴォバン侯爵に大敗いたしました」

 

 

 ――は?

 

 

「最初に喧嘩を売ったのは連合のIS部隊。どうやら勝てると見込んでいたご様子ですが、権能と神殺しを甘く見すぎましたなぁ。恐らくは我らが王の性能と竜殺しの情報を得ての早合点と言った処なのでしょうが、それにしたって決断が早計すぎる。まあ、それだけ侯爵には煮え湯を飲まされていたということなのでしょうけれども」

 

 

 すらすらと『もう終わったこと』を語る甘粕さん。

 にしたって、その言い方は俺を遠回しに攻めているようにしか聞こえないのですが。

 俺の情報から喧嘩売ったってことは、俺が弱そうに見えたから他の神殺しもそうなんじゃねえか?って。

 そいつらが思った、って、そういうことだろ?

 

 

「EU連合に与していたのは主にイギリス・フランスの2国が主力立って居りましたが、まあ先も言ったように結果は大敗。両国の多数のIS部隊は国家代表や候補生も含めて、全滅に近い被害を醸し出しました。やはり、権能には手も足も出なかったご様子ですな」

「……問題はその後だ。今回の事情で碌に被害も出ていない侯爵が、2国に対して『補償』を求めてきた」

 

 

 言葉も出ない俺とは違い、ボーデヴィッヒは甘粕さんの後を継いで説明を繋ぐ。

 って、ちょい待て。

 

 

「補償って、その爺さん今碌に被害も出てないって、」

「実際、戦績は赤子の手を捻るかのような有様であったらしい。……だが、侯爵の言うには、『精神的被害を被った』とのことらしい。しかし、要求しているのは金銭では無く誠意だ、とも。……要するに、賠償金代わりに要求する『何か』を己に差し出せ、とそいつはそう言っているらしいんだ」

 

 

 聞けば聞くほどとんでもない爺である。

 まるでヤ●ザみたいに吊り上がり続ける要求に、法的執行も暴力による執行も対処し得ないという事実に、余計に同種としての立場が悪くなりそうな所業に頭が痛くなる。

 

 

「……っ、まさか、ちょっと待て。その爺さん、俺に何かしらの要求を求めているとかそんな話なのか!?」

「いや、其処とは直接的には無関係だ」

 

 

 思わず焦った。

 いやだって、ボーデヴィッヒが慌ててやって来たってことは、そういうことなのかとばかり。

 

 

「ヴォバン侯爵が要求したのは唯一人の少女です」

 

 

 甘粕さんが呟くように言う。

 

 

「しかし、その人物がワタクシ共としては問題でして。そもそも『彼女』は日本人であり、我が国の巫女です。はいそうですか、と差し出すにはあまりにも惜しい」

「日本人なのかよ……。まあ、そうなると向こうからの要求にそうそう応えるのも融通は利かない、のか?」

「だからこそ、侯爵は『国』に対して要求をしたのですよ。彼女を得ることに対して、口出しも手出しもしないように、とね」

 

 

 ん? なんか繋がらな……ああ、そうか。

 手に入れるのは己でやるから、他の奴にその『楽しみ』を邪魔されたくない、ってことか。

 ……そいつの思考ロジックを読める己がなんだか嫌になりそうなんだけど……。

 

 

「私が懸念に思うのはその先だ……。八幡にはその女を救う伝手なんかないだろうし、助ける義理も時間も、そこに口を挟む立場も無い。魔王と言っても、日本では疎まれているのだぞ。侯爵が彼女を得た後に、碌でもないしわ寄せがお前に被さってくるのは目に見えているじゃないか」

 

 

 あー、なるほど。だからボーデヴィッヒはとりあえず『亡命』を勧めたわけか。

 なんだよ、可愛い奴じゃねーか。

 

 

「しかし、彼女を要求した侯爵の目的もまた読めます」

 

 

 俯いて呟くように言うボーデヴィッヒに思わず萌えを感じていると、甘粕さんは即座に軌道修正をかけてくる。

 どうしたってその爺に俺を関わらせたい気概が満々に視えてくるのだけど?

 

 

「実は彼女、かつて侯爵によって寄せ集められた『神を顕現させるための礎』の一人でして。其処は日本人として、ではなく、神殺しに対処しきれぬ人間として、侯爵のようなお方には今まで以上の『戦力』など得てほしくは無い。と言うのが、人類的なご意見なわけですよ。

 当時の対処はサルバトーレ卿がなんとかしたらしいのですが、次も同じように対処できるとは考えられませんなー。ついでに言うと、2国の生き残ったIS&操縦者は侯爵の傘下に収められたそうですし」

「っ!」

 

 

 マジか。

 つか、今ボーデヴィッヒが何か言いたそうな顔をしたな。

 なんだ? 知り合いでも居るのか?

 

 

「そこで、漸く乍ら『本題』へと移らせていただきます。

 我らが王、侯爵を一つ、退治してきていただけませんかな?」

「「はぁっ!?」」

 

 

 今まで静かだった深雪さんとボーデヴィッヒが、口を揃えて驚愕の声を上げた。

 驚愕、っつーか、憤慨?

 俺? 正直、読めてた。

 

 

「確かに、結果がどうなるのかは測りきれないものでしょう。しかし、得られるものは決して少なくはありません!

 貴方が顕現した女神を撃退したという“先”の現状、加えて我らが国民に被害を与えようとしている『魔王を退治した』という結果を揃え立てれば、貴方に対する国民的感情の反対派の声を抑えられる材料に成り得ます!

 立場が弱い最弱の魔王? そのようなレッテルは早々に剥がしてしまおうではありませんか!」

 

 

 なんかいいスイッチが入ったぽい甘粕さんは、演説みたいに声高に主張していた。

 つうか誰が最弱の魔王だ。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「本当に良かったのか、こんな選択をしてしまって」

「後悔はしないさ。亡命は魅力的だが、小町に外国で生活させる、なんてのも迷惑を掛けそうだったからな」

 

 

 数分後、私たちは太平洋上の上空数千メートルにて待機していた。

 太陽は位置的にはそろそろ沈む時刻。夜になろうかという太平洋上を通過するであろう侯爵を、進路上にて待ち構えるというのが甘粕の提示した策であった。

 ヴォバンはどうやら初めて得たIS(搭乗者)をタクシー代わりに使用する腹積もりらしく、彼女たちに『乗って』日本を目指している、というのが『敗戦国』から密告された情報だったのである。

 ……見下すにしても、程がある……っ!

 

 思わず怒りを覚えるが、そうなってしまった原因もドイツやイタリアを除いて暴走した連合に非もある。

 怒りは腹の底へ。魔王に対処するのだから、冷静でなくては何事も叶うわけがないのだから。

 

 さて、それはともかく今は八幡だ。

 甘粕の、奴を動かしている裏側の狙いはなんとなくだが読める。

 大方、先日のエリカ嬢が来日したことと、私と言うドイツの手が及んでいることに今更焦りを覚えたのだろう。

 確かに魔王に対する国民感情はこの国は中々最悪らしいが、それに加えて八幡は一度『敵対した』という実績がある。

 お蔭で政府が取り込むのを見送らざるを得なかった様子だし、戦力となって然るべき『男性IS適合者』というネームバリューですら役立たずのままに今に至っている。

 侯爵の我が儘が日本に襲来するという今回の事件は、其処を快復させるための一手に成り得ると見ているのかも知れない。

 

 ……だが、八幡が其処を読み切れないか……?

 

 

「八幡、もっと良い手があったんじゃないのか? 甘粕の奴に云われるがままにこんな手に乗らずとも、」

「実際、おっさんは俺の権能を全力で発揮できる戦場を整えてくれたからな。タイミング逃せば向こうが勝つ確率が上がる。そうなるくらいなら、やっぱ今が一番の好機だろ」

「そうではなく、日本程度のレッテルを剥がす必要性なんてないんじゃないかという話だ。お前は実家の本家にも碌な印象を持ってないだろう、この国からどう思われてようと、気にしないんじゃないのか」

「……まあそうだけど。全部知っているからと言って一概に其処まで語られんのは不愉快だ。……あんまり口にすんじゃねー」

 

 

 ……まるで思考停止ではないか。

 

 

「、それに、戦力の把握が不充分だ。彼女らが何人で編隊を組んでいるかわからぬのなら、こんな急襲を仕掛けたところで、」

「そこはなんとか把握できる。さっき気づかれないように『外側』から覗いて視た。金髪の奴らが2人だ、爺は空を飛べるかどうか知らんが、ボーデヴィッヒが請け負うなら対処できる数だろ? 出来なくとも爺を海に落とせれば何とかなるかもしれんし」

「……ますます怒らせることにならんか?」

 

 

 いつの間に戦力把握を……。

 というか、金髪2人って、イギリスとフランスって、まさか……?

 

 

「それと、ついでに言わせてもらうと俺もレッテルなんて気にしてねぇ。俺自身が生き辛いなんてことは今更過ぎる、そんな餌で釣られて堪るか」

「……じゃあなんでこんな仕事を引き受けたんだ。いくらなんでも無謀だろう」

 

 

 相手は『最古の魔王』などという呼び名すら持つ歴戦の勝者だ。

 魔王となって一ヶ月にも満たない新米魔王が、権能を十全に扱える古参に打ち勝てるなんてのは夢物語でしかないのではないか?

 

 

「……期待に応えれるかどうかが知りたかったのかも、な」

 

 

 え。

 

 

「――来たぞ。ドンピシャだ」

 

 

 彼は気づいていないのかもしれないが、その呟きはしっかりと私の耳に届いていた。

 進行方向に小さな点が目視で映ると、直ぐ様己の機体が知覚外領域ギリギリの彼女らを察知する。

 映像を拡大しながら、突貫を掛けた八幡に引き続いて私も自由落下を始めた。

 

 彼は、期待に応えられない人生を送ってきていた。

 何かをしようとしても、結果が伴わない程度に失敗を繰り返す。

 そんな彼に、いつしか周囲の者たちは期待をかけることが無くなっていったのを、彼自身も自覚していた。

 しかし、彼は生まれ変わった。

 物理的に、生物的に、存在的に、概念的に。

 いじめられっ子が魔王になる。そんな比喩表現が良く似合うくらいに、周囲が底辺だと己で認識していた彼自身が、気が付けば這い上がって完全に周囲と隔絶した存在へと昇華していたのだ。

 ひょっとしたら、彼もそれを己で自覚しているからこそ、生まれ変わろうとしているのかもしれない。

 誰かの期待に応えられる、『その程度のこと』を実行できる人間になれるように。

 

 それに気づくと、無性に愛しくなっていた。

 今すぐに抱きしめて、お前は頑張っているんだ、と頭を撫でてあげたくなる。

 しかし、時間が無いので、出来ることしか出来やしなかった。

 相手のISに探知されないように、機能を最低限起動させない自由落下で落ちながら、同じように落ちてゆく八幡に言葉を投げる。

 

 

「――八幡、いい加減名前で呼んでくれ。さすがにいつまでも苗字呼びと言うのは、寂しいんだ」

「………………ぁー、……考えとくよ」

 

 

 なんだか照れくさそうに応えたその様子が可笑しくて、私は思わず笑みを浮かべた。

 

 




もう語録でも作ればいいのだろうか
なんだかよさげな台詞がぽんぽんと飛び出てるのだけど、勝手に
自動的に己の黒歴史が大量生産されている気がしないでもない…


色々端折ったけれどこんな話
・ISが勝てるはずがねーよねー
・爺来日フラグを回収
・ラウラの知り合いのIS操縦者が2人。一体どのチョロインさんなんだ…
・巫女さんが存在だけ掠った。あれ、本編登場は…?
・俺たちの戦いはこれからだ!


アテナにどうやって勝てたのか、とかの回収は次回遣る予定
さーみんなで、考えよー(この投げ遣り感よ
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