―技巧術―
「技巧術は主に立体機動装置などの装置についてやその技術を学ぶ。立体機動装置の構造や作り方が主な講義内容になる。最終的には全ての部品から組み立てられるようにしてもらう。まずは分解から始めていこう」
「んん?どうやればいいんだこれ?」
「エレン、そこはここのネジを先に外してからじゃなきゃ取れないよ?」
「そっか、おお、とれた!サンキューアルミン!」
「どういたしまして!」
アルミンはふふっと笑う。役に立てて嬉しいといった様子だ。
―立体機動―
「まずは立体機動の装備から始めろ。装備の仕方は座学で習ったはずだ。」
「ここはこうだ。で、つぎに、こうすればいい。後は起きてたからできるだろ?」
「ああ、ありがとよエレン」
「ああ」
「全員装備は完了したな!それでは、まずアンカーの照準、射出の練習を行う―――――――――――」
――――――――――――――――――
―約3年後(訓練兵団卒業まで一ヶ月)―
―座学―
「おーいアルミン!何点だったー?」
「こ、これ・・・」
苦笑いしながらエレンに自分の答案を見せる。
「はああ!?108点!?何で消費税ついてんだよ!?」
「エ、エレン!声が大きいよ!
それは、ここの記述問題の発想がとても素晴らしい・・・かららしい」
「うお、ホントだな!こんなの思いつかねえしかなりいい方法じゃねえか。さすがアルミンだなー」
「エレンの実技には負けるよ〜」
―――アルミン・アルレルト。体力は平均的だが、元々は低かった。努力によって補ったと思われる。座学においてはダントツでトップ、更に作戦立案などで非凡な発想を見せると聞く。頭脳では、3兵団でもトップクラスだろう。
「クリスタ、テストどうだったんだ?」
「私は98点だったよ。ユミルはどうだった?」
「私は56点だったよ。ハッハッハッ」
「それ笑い事じゃないでしょ」
「まあ、実技でできたら大丈夫なんだよ!」
「そういう問題かな・・・?」
―――クリスタ・レンズ。104期で最も小柄な体格だが、その才能は素晴らしい。体力はわずかに劣る部分もありながら、立体機動も細かく素早く動き、斬撃も浅いながらも正確。座学もアルミン・アルレルトに次いで2番。エレン・イェーガーに次いで最も努力したものと言っていいだろう。因みに下世話な私情報によるとそのエレン・イェーガーに好意を抱き、努力はその影響もある。
「ライナー何点だった?」
「87だったよ。今回は復習が足りなかったか・・・」
―――ライナー・ブラウン。屈強な身体と精神力を持ち、何より仲間から高い信頼を得る。
―立体機動―
バスッ!
バシュッ!
ズサッ!
(くそっ、あいつらには斬撃じゃかなわねえ・・・先に巨人を見つけるしかねえ!)
―――ジャン・キルシュタイン。立体機動装置の理解が深くその性能を引き出す術に長けている。現状を認識する能力も持っているが抜き身すぎる性格が軋轢を生みやすい。しかし・・・ 最近は少し何かに迷っている節がある。
―――アニ・レオンハート。斬撃の侵入角度に非の打ちどころがない・・・目標を深くえぐり取る。性格は孤立気味で連帯性に難があるが、やる気は以前に比べてあるようだ。因みにエレン・イェーガーに好意を抱く。
―――ベルトルト・フーバー。あらゆる技術をそつなくこなし、高い潜在性を感じさせるが・・・ 積極性に欠け、自身の行動を人に委ねるくせがある。また、何か大きな隠し事がある様子。
ちらっと後ろのアニとベルトルトに目をやってからくるっと回転して進行方向を変え、柄の引き金を引き、アンカーを射出する。アンカーはすぐにズバッという音を立てて木に刺さる。すぐにワイヤーを巻き取りながらガスを射出し、鳥のように空を舞い、木々が視界から流れていく。少し焦りながら木の陰を抜けると、そこにはうなじの部分に硬い布が取り付けられた巨人の模型がギィギィときしみながら佇んでいた。しめた!と思って近づき両手の刃を振り降ろそうとする。その時、ジャンの後ろからコニーが現れ、先を行く。
「ありがとよジャン!お前の後を追ってきて正解だったぜ!」
「は!?」
コニーがジャンより一歩早く刃を振り降ろそうとする
―――コニー・スプリンガー。バランス感覚がよく、小回りのきく機動を得意とする。しかし、バカであり、作戦の誤認などが多い。
更にまたそのひと足早く、ガサっと葉が揺れる音がしたかと思うと、影だけがコニーの目の前を落下し、斬撃を繰り出す。
バスッ!
アンカーを真上に射出して、枝にさし、地面スレスレでぶら下がるったのはサシャだった。
「やった!コニーの後をつけたかいがありました!」
「サシャ!?」
すぐ後に、コニーも斬撃を加え、またすぐ後にジャンも斬撃を加える。
―――サシャ・ブラウス。身のこなしが素早く型破りな感の良さがあるが型にはまらない故に組織的な行動には向かないと言える。
「なんなんだよてめえら!ついてくんじゃねえぞ!」
「そうだぞサシャ!ついて来んなよ!」
「お前もだ!」
2つのはりぼての距離は約30メートル。その2つは木々の間の少し広い場所にそれぞれ置かれている。
「来るぞ、しっかり目を開けとけよ!」
「あ・・・ああ、そんなになのか?」
「ああ、油断してるとすぐ見えなくなるぞ!」
その時、2本のワイヤーが木に差し込まれると、風を切る音とともに回転体が空気をまといながらとてつもなく速いスピードで現れたかと思うと、瞬く間に1つを斬撃する。
キインッ!!
スピードを緩めずにワイヤーを1度戻す。そして、その間に回転を緩め、回転が止まったところでアンカーを別の場所に差し、すぐに逆回転に切り替えながらスピードを更に速め、鋭く空気を裂きながら、もう1つを削ぎ、金属音が鳴る
キンッ!!
そしてそのままスピードを落とすことなく、次の標的を探しに行く。
「なんて奴だ・・・布の部分を全部削いじまった・・・」
「1つ目はともかく、金具なんて刃に当たれば極端に切れ味は落ちる。それでもなお2つ目も金具まで削ぐとはな・・・」
「ああ、それに見えてから5秒ぐらいで見えなくなりやがった。どうやったらあんなに速く飛べるんだ?」
その後、ミカサがエレンの後を追うように機動し、1つの滑らかな線を描きながら1つずつ削ぎ跡のある2つの模型のうなじの部分をえぐり取り、すぐに消えていく。
―――ミカサ・アッカーマン。あらゆる難解な科目を完全にこなす実現力がある。歴代でも類の見ない逸材として最高の評価は妥当だと言える。
―――そしてその更に上を行くまさに人類の奇跡、エレン・イェーガー。戦闘力に関する科目は完璧を大きく上回ってこなす。戦闘力においては間違いなく人類最強と言える。調査兵団に所属する友人に彼を見てもらったところ、あのリヴァイよりも勝ると言った。
強靭な精神力を持ち、巨人に対する憎悪は底がない。
そして私が2年半前に思ったとおり、人を導く強い力が備わる。やはりこいつこそ、人類を勝利に導く反撃の嚆矢になる!
――――――――――――――――――
「本日 諸君らは『訓練兵』を卒業する。その中で最も成績が良かった上位10名を発表する。無論、新兵から憲兵に志願できるのは上位10名だけだ。呼ばれた者は前へ」
「主席 エレン・イェーガー」
「次席 ミカサ・アッカーマン」
「3番 ライナー・ブラウン」
「4番 アニ・レオンハート」
「5番 ベルトルト・フーバー」
「6番 ジャン・キルシュタイン」
「7番 マルコ・ボット」
「8番 コニー・スプリンガー」
「9番 クリスタ・レンズ」
「10番 サシャ・ブラウス」
「以上10名―――」
―――やっとここまでたどり着いた・・・人類の反撃はこれからだ。今度は俺たちが巨人をぶっ殺してやる!
「後日 配属兵科を問う。本日はこれにて第104期訓練兵団解散式を終える!以上!」
食堂にて、卒業を祝う104期訓練兵団。ガヤガヤと楽しそうに話し合っている。
「やっぱり主席はエレンだったね」
「あたりめえだろ人類最強との噂だぞ?」
(エレンと並べた・・・)
「でもよ、ミカサだって半端じゃない成績だぜ?歴代類を見ない逸材だって教官が話してるの聞いたからな」
「別の年に来たら間違いなく主席だったろうな」
「ねえライナー」
「何だ? ベルトルト」
「アニって案外やる気あったよね。僕抜かされちゃったよ」
「どういうことだか知らんがな。まあエレンに言われたからじゃねえか?」
「エレンに?」
「ああ、対人格闘の時にエレンとアニが組むようにしてな。アニは全然歯が立たなかった。それでエレンはうまいことアニにやる気を出させることを言ったんだ」
「なるほど、エレンにね・・・」
「ところで、あいつの座標の話なんだが・・・あいつは絶対に持ってたらダメだろ」
「僕もそう思うよ。だけど、僕たちは故郷を出たとき、どうやって座標を移すのか聞き忘れちゃったね」
「ああ、あれは失態だったな・・・ 1度帰る機会があったら聞くしかないか。それに座標は使いこなすのは難しい」
「発動しないように祈るしかないよね・・・」
「あともうすぐお前の役目だ。覚悟を決めろよ? 戦士」
「分かってるさ。でも、確実に104期も沢山死ぬ・・・・・・」ポロ・・・
ベルトルトが涙を落とす。それを隠そうとはするが、隠しきれない。
「辛いのは分かる。だが 俺たちは戦士だろ。役目を果たすんだ」
「分かってるよ・・・でも・・・」
「奴らは敵だ。散々教えられただろ。100年前、何があったのか―――やつらは根絶やしにするんだよ 情を移すな」
「・・・・・・そうだったね・・・!」
影がベルトルトの表情を支配する―――
「やったなマルコ!これでオレたちも憲兵団だ!やっとこんなクッソ息苦しい最前線の町からオサラバだ!安全で快適な内地での生活がオレたちを待ってるぜ!」
「は、恥を知れよ!少なくともオレは・・・」
「ああ、お前は真面目ちゃんだったな。だが他の奴らはどうだ?オレたちが内地に住めるなんて早々ないぜ!?」
周りからそりゃあ・・・というような小さな同意がボソボソと聞こえる。それを聞いていたエレンは少し目尻を落とす。
「なあジャン・・・ オレはこのシステムがおかしいと思ってんだよ」
「何だ?」
「成績が良い奴ほどが中へ中へ引っ込んじまうってシステムだよ。確かに、こうでもしないと立体機動術は衰退しちまう。だけど、このままでいいのか?このまま人類は家畜みたいにいつ滅ぶのか怯えながら鳥かごの中で暮らしていくのか?冗談だろ?超大型や鎧が明日来てもおかしくねえんだぞ?オレは・・・ お前たち『仲間』に一緒に戦って欲しい。巨人を全部駆逐して、外の世界に行くんだ。力を貸してくれ」
「・・・・・・・・・エレン、誰もお前みたいに強く無えんだよ。4年前、人口の2割、25万人でウォール・マリア奪還作戦って巨人のいる場所に突っ込んでいった。そしてほとんど全員が巨人の胃袋に流れていった。もっと人数を増やせば領土は奪還できたのか?
巨人を一体仕留めるまで平均で30人は死んだ。でも地上を支配する巨人は人類の30分の1じゃすまねえぞ。分かったろ・・・ 人類は巨人に勝てない」
「それがどうした?」
「は?」
「巨人に物量戦を挑んで負けるのは当たり前だ。4年前の敗北の原因の1つは巨人に対する無知だ。4年前は知識が足りなくて巨人に為す術もなかった。でもオレたちはその時とは違う。オレたち人類は知識を得た。力も得た。勝てないなんてことはない!絶対に勝てる!オレはこの後調査兵団に入って巨人を全部ぶっ殺す。ついて来てくれ」
「・・・・・・・・・少し考えさせてくれ・・・」
「ああ」
「お、おい あのジャンが考えさせてくれって言ったぞ」
「オレは決めた。調査兵団に入る」
「・・・・・・オレも」
「おーいお前らちょっと来てくれ!」
エレンがアルミンとミカサを外へ誘う。
「どうしたの?エレン」
宿舎の外に出て3人は前の階段に座り込む。
「お前ら配属兵科は?」
「私は・・・調査兵団に入る」
ボソッとミカサが答えると、エレンの顔がパアッと明るくなる。
「本当か!?ミカサがいたら百人力だ!でも・・・ 本当にいいのか?」
「私はエレンに付いていく。私を生き返らせてくれた恩は忘れない」
「まだお前そんなこと言ってたのか・・・」
「僕も調査兵団に入る!」
「お、お前もか!?お前は座学はトップだろ?技巧に進めって教官が言ってたじゃねえか!」
「でも、僕は力をつけた。卒業戦闘模試試験だってエレンが申し訳ないほど手取り足取り教えてくれたから簡単に通過できた。さっきのエレンとジャンの会話を聞いて決めた。僕はエレンに付いていく。何も怖くないさ」
「ア、アルミン!」
エレンの顔が更に明るくなる。
「でもエレン、覚悟はあるの?」
「え?」
「さっきのエレンとジャンの会話さ。みんな聞いてたよ。あれを聞いて調査兵団に入るって人も沢山いると思う。そのみんなの命を背負う覚悟はあるの?」
ふいに予想外のことを言われて、エレンは少し考える。そして、すぐに答える。
「・・・・・・そうか、そういうことになるのか・・・ 考えてなかったな・・・ でも、そんなん決まってるだろ。オレが全部守る!あんなグズ野郎どもに大切な仲間の命を奪われてたまるか!」
(エレンの不思議な力・・・それはこの優しさだよね・・・ 巨人に対する底の無い憎悪と誰よりも優しい心・・・この2つを持つエレンは、もし仲間を巨人に殺されたら・・・
厳しいことを言うかもしれないけど、エレンのためだ)
「そう・・・・・・エレンは優しいよね 誰よりも。でもエレン。その考えは甘いんじゃないかな」
「え?」
「誰も死なせないなんてのは無理だ。どんなにエレンに力があるからってそれはできない。調査兵団に入れば恐らく同期も何人も死ぬだろう・・・でもきっと、エレンの手には人類の未来が託されている。だから、死なせないことも大事かもしれないけど、それ以上に仲間の死をいかに人類の勝利に貢献させられるかが大事なんじゃないかな」
「そ、そんな・・・仲間は死ぬだって・・・?何でそうなるんだよ!」
「何かを変えるのには、何かを捨てなければならない。例えそれが人の命であったとしても、捨てなければいけない時はきっとくる。世界を変えるには必要なんだ。
もしエレンが今のままで仲間が巨人に食われたらきっと耐えられないだろう・・・もっと大事なものを失うかもしれない。覚悟が必要だよ・・・そういう強さだって必要なんだ」
「人の命を捨てる・・・?何でそうなるんだよ!」
「エレン、分かってくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
エレンの沈黙のあと、5年前より少し老けたハンネスが新人らしき2人に何かを教えながら歩いていた。そして、その2人はハンネスに頭を下げて去っていく。エレンとミカサとアルミンはハンネスに気づき、立ち上がって敬礼をすると、ハンネスが近づいてくる。
「あー、お前ら直っていいぞ。規律は大事だがお前ら相手じゃどうも慣れねえ」
「本当に慣れないよ。飲んだくれが今じゃ駐屯部隊長だからね」
「あの時は良かったな。何だわからんことが起きて運良く助かってな。お前らの母さんは元気にしてるか?」
「うん。最後に帰ったのは去年だけど、元気そうだったよ」
「そうか、それは何よりだ。それより心配なのはお前らの父さん、イェーガー先生だ。こっちはまだ行方知れずのままだ。頼りなのは最後に会ったお前の記憶なんだが・・・何か思い出せねえか?」
「つっ・・・・・・!」
激しい頭痛に襲われ、エレンは屈みこんで頭を押さえる。ミカサとアルミンはエレンに寄る。
「ハンネスさん!」
「す、すまねえ、忘れてた!」
「エレン!しっかりして!」
――――――――――――――――――
「これからお前に記憶障害が起こる。だが、これだけは絶対に覚えておけ!お前はこの後、この家に帰って来なければならない!この鍵を見る度に思い出せ!お前は、ミカサやアルミン、皆を守りたいなら、この力を使いこなさなければならない!」
「力・・・?」
「そうだ腕を出すんだ!」
「力・・・・・・」
(嫌がると思っていたが・・・・・・何かあったのか・・・?)
――――――――――――――――――
「エレン!」
「はっ!?」
濡れた目を開けると窓から光が差し込んでいるところだった。そして、アルミンが心配そうにのぞき込んでいた。
「大丈夫?あのあと急に倒れて寮まで運ばれたんだ」
「すごくうなされてたけどどんな夢を?」
「なんだったっけ・・・・・思い出せねえ・・・・・・ でも、大事なこと言われてたような・・・」
「今日は固定砲の整備だ。急がないと遅れるぞ」
「あ・・・ああ すぐ準備する・・・」
まだ微かに頭痛の残っている頭を押さえながら、エレンはベッドから足を踏み出した。
訓練兵団編終了です!
次回、エレンはついに初陣へ