エレンがついに戦いへと・・・
7―血の先―
―――奴らは敵だ。根絶やしにしてやる!それが僕の、僕らの使命。今日は言われてきたとおり、決行の日だ。僕らは進む。何も怖くない!
・・・・・マルセルが死んでしまったから故郷には帰れなくなっているかもしれないけど、僕は使命を全うする。今日はライナーの出番はない。僕とアニの2人だけだ。さあ・・・ 惨劇の行使だ―――
――――――――――――――――――
―トロスト区―
「最前線の街だってのに随分人が増えたもんだな」
人の多い商店街を歩きながら、横のフランツとハンナに話しかける。
「もう5年も何もないんだもん」
「この5年で壁も随分強固になったしね。もう大型巨人なんて来ないんじゃないかな」
「何言ってんだよこのバカ夫婦が!そんなんじゃ奴等が来た時に対応出来ないぞ!お前らのどっちかや両方死ぬかもしれねえんだぞ。そんなんじゃダメだ」
「そ、そうだね・・・・・・・・・」
「何があってもハンナは絶対に僕が守るよ」
「コニー、お前調査兵団に入るのか!?」
固定砲を整備しながらコニーの方に顔を向け、顔を明るくする。
「昨日のエレンの演説が効いたんだよ。言っとくけど俺も調査兵団に入るぜ!」
「サ、サムエル!」
「私も決めたよ!私は調査兵になる!」
「ミーナ!」
「俺も忘れてもらったら困るぜ!」
「トーマス!お前もか!」
エレンの目がキラキラと光る。今までに無いほど嬉しいようだ。
「あのー皆さん・・・」
サシャがゴソゴソと何かを隠しながら寄ってくる。サシャに目をやる。
「これ、上官の食料庫から盗ってきました。後で皆さんで分けて食べましょう」
サシャがジャケットから紐でくくられた肉を取り出す。
「サ、サシャ!お前独房にぶち込まれたいのか!?」
「そーだよ!肉なんてウォール・マリアが陥落してからすっごく貴重になったんだから!戻してきなよ!」
「大丈夫ですよ。問題ありません。ウォール・マリアを奪還したらすぐに羊も馬も戻りますから!」
「ウォール・マリア奪還の前祝いってことか」
「・・・俺もその肉食う!」
「私も食べるんだから取っておいてよ!」
「さあ、そうと決まればさっさと整備に戻ろうぜ。昼飯はまだ先だ」
「おう!」
地上より50メートル。壁外に小さく見える1匹の巨人に少し憎悪を感じながら、さっきまでの会話で思ったことに耽る。
―――あれから5年たった・・・領土の3分の1と人口の2割を失ってようやく人類は尊厳を取り戻しつつある・・・これなら勝てる!オレたちの反撃はここからだ!
ドオオオン!!
黄色い閃光と共に爆発音に似た音が壁の上に響く。
「な、何だ!?」
すぐに振り向くと、視界の端に赤い物体を捉えた瞬間、すぐ迫ってきていたのは熱を持った白煙だった。
「熱っ!」
「くっ!」
その場に居合わせた固定砲整備4班は全員突然の強風に抗う術もなく熱風にあおられて壁の上から吹き落とされてしまう。
「みんなっ立体機動に移れッ!」
そう叫んだ瞬間、エレンは下目掛けてアンカーを放っていた。コンマ数秒後、エレンはワイヤーを巻取りながら壁を駆け降りていく。
「エレンッ!?」
「サムエルが気を失ってるんだ!」
血を流しながら落ちていくサムエルに追いつくと、サムエルを抱き抱え、アンカーを上に放ち、そのまま急上昇していく。
「サシャッ!サムエルを頼む!」
「えっ!?わわっ!」
エレンはサムエルをほぼ投げ渡すような形でサシャに預けると、そのまま壁を駆け上がる。
エレンが地上10m程の時、赤い巨大な手が壁を掴み、壁にヒビが走る。
―――駆逐してやる・・・
エレンの脳裏には5年前見た光景が浮かぶ。僅かな頭痛を感じながらも、上昇を続ける。
上方からメキメキという音がエレンの耳に届いた瞬間、下から地響きを作り出す爆音が辺りを完全に支配する。下を見ると、5年前同様、砂埃が舞い、そこから壁の破片が四方に飛び散っていた。
それは一瞬でエレンたちの頭の中にトロスト区が破られたことを思い知らせる。
―――この世から・・・1匹残らず!!
浮かんだのはカルラが食われた何処かの記憶だった。ここがもし静かな場所だったら心音が誰でも聞こえるんじゃないかと思えるほどにエレンの心臓はもうすぐ爆発する爆弾のように激しく収縮する。さらにエレンの表情は1点だけを除いて憎しみが支配していく。
「1匹・・・残らず!!!」
「壁が壊された・・・」
「まただ・・・ また巨人が入ってきちまう・・・
ちくしょう・・・人類はやっぱり巨人に・・・」
「固定砲整備4班!戦闘準備!!」
恐怖と絶望の入り混じる表情のコニーたちの耳にエレンの怒鳴り声に近い声と、刃を抜く音が通る。
「目標 目の前!超大型巨人!!」
上はすぐそこの壁を駆け上がりながらエレンは叫ぶ。
「!?」
「壁を壊せるのはコイツだけだ!これはチャンスだ!絶対に逃すなッ!!」
壁の上へ飛び出したエレンはガスを吹き出して着地する。そして鋭い眼で睨みながら超大型巨人に吐き捨てる。
「よう・・・超大型巨人!お前に会いたかったんだよ!!」
言い終わると同時に超大型巨人の右腕が振りかぶり、壁の上に沿ってなぎ払い、壁が破られた際に巨人が壁の中に入るのをわずかだが少なくできる固定砲をひと振りで数多く粉砕する。
その隙にエレンは超大型巨人が動く暇もない間に後ろに回り込み、超大型巨人のうなじの両サイドにアンカーを差し込む。
―――鈍い!これなら縦でいける!!
縦に回りながらワイヤーを巻取り、ガスを噴出して超大型巨人のうなじを狩りに行く。
その時、超大型巨人がふいに白い熱風を放ちエレンは少し体勢を崩される。
「!?」
しかし、ほとんどもろともせずにうなじにせまり、肉を削ぎ落とした。鮮血が飛び散る。しかしエレンはすぐにミスに気づく。
―――しまった!縦で行ったのが裏目に出たか 真ん中からズレた!
くそっ!もう一度ッ!
後ろ飛びしてすぐに刃を捨てて新しいものに交換し、もう一度暴れている超大型巨人のうなじに迫る。
―――今度は横だ!
「いっけぇぇぇーー!!!」
刃を振り下ろす。その時、エレンは違和感を感じた。手応えが無い。すぐに思考を巡らす。
―――やったのか!?いや違う!消えた!?
とっさに上下左右の全方向を見回すと、下側に白い煙の中に赤い液体が伸びているのをエレンの眼はしっかりと捉えていた。
―――血だ・・・ その先には・・・ やっぱりそうか! ってことはあいつもだな・・・
「敵なのか・・・・・・・・・」
「エレン!お前がやったのか!?」
―――言うべきか言わないべきか・・・
いや、言わない方がいいな。
「いや、5年前と同じだ!あいつは突然現れて突然消えた!」
壁の上へと上がってきて超大型巨人がいないことに気づいたコニーはエレンに言い、エレンは立体機動で壁の上に戻りながら答える。
「すまん逃がした・・・」
「何謝ってんだよ。俺らなんて一歩も動けなかった」
「何をしているんだ訓練兵!」
すぐに異変に気づいた駐屯兵団のジャケットを羽織った男が近づいてくる。
「超大型巨人出現の際の作戦はもう始まっている。ただちに配置につけ!それとヤツと接触した者はいるか?」
「俺が交戦しましたが、逃げられてしまいました。申し訳ありません」
(エレン・イェーガーか。その噂は俺も聞いている・・・ コイツで逃げられたなら仕方あるまい・・・)
「気にするな。エレン・イェーガーは本部に交戦の模様を報告し、それが済み次第、上官の指示があると思うが、駐屯兵団の精鋭たちと特別班を形成し、先鋭へと回れ。これは駐屯兵団ピクシス司令の判断だ。他の者は訓練通りだ。すぐに行け!」
『ハッ!』
「先遣班の健闘を祈ります!」
――――――――――――――――――
「アニ、もう一度だけ作戦の確認をしておこう」
「うん」
「僕が壁を壊すと同時にアニは巨人を集める」
「そしてベルトルトが固定砲を破壊してその後は壁の穴からバレない様にうまく中に戻る」
「大丈夫だね。それじゃ行こうか」
「そうだね・・・!」
100年以上消えることの無かった怨みは世代を超えて晴らされようとしていた。
自らの腕を噛み、血で染める。瞬く間に黄色い閃光が辺りを包み、巨人化に成功する。
―――この壁の向こうには・・・・・・ いや、情を移すな!奴らは敵だ!根絶やしにするんだ!
すぐに白い蒸気を熱にのせて放ち、固定砲を整備している兵士を壁の向こうへ押しやる。
―――今の後ろ姿 もしかしてエレンか!?もしエレンだったらまずい・・・エレンは強過ぎる・・・ とにかく、早く壁を壊して固定砲を破壊して逃げよう!
足を振りかぶり、壁を握り締め、足を振り下ろす。 凄まじい音を立てて壁をつきやぶるのを感じ、足を引っ込める。
―――次は・・・固定砲!
その時、立体機動の時のガスを噴出する音が聞こえたかと思うと、エレンが姿を現す。
―――まずい!やっぱりエレンだ!早く固定砲を!
腕を振りかぶってエレンのいる壁の上に沿ってなぎ払う。その瞬間、ベルトルトはエレンを一瞬見失ってしまう。
―――どこだ!?後ろか!?
焦ったベルトルトは蒸気を放つ。しかしすぐに自分の左腕が2本の刃で切り取られた事に気づく。
―――ぐっ!これは本当にまずい・・・ちゃんと固定砲整備班が誰なのか確認しておくべきだった!いや、そんなことより今は逃げることだけ考えよう!もう目的は果たした!
ベルトルトはすぐに巨人化を解き、下の穴へと急ぐ。その切り落とされた左腕からは蒸気を発しながら血が出ていた。そのベルトルトはその際にエレンに姿を見られたことを知らない―――
「諸君らも訓練兵を卒業した立派な兵士だ。ただ飯のつけを払うべく、この街を死守せねばならない。今回の防衛戦でも活躍を期待する。心臓を捧げよ!」
『ハッ!』
「何で俺がこんな目に合わないといけないんだ・・・俺には心臓を捧げる覚悟なんてさらさらねえのに・・・」
「妹に会いたい・・・」
絶望の目をする者。戦う意思を放棄する者。
「おいダズ!どうしたんだ!」
「どうしたもこうしたもあるかよ!俺は戦う意思なんてねえ!心臓を捧げる覚悟なんてさらさらねえ!エレンはいいよな
!お前は強いから死ぬはずねえもんな!」
「ダズ!」
「いいってマルコ。そうだな、ダズ。オレたちは3年間何をしてきた?兵士として巨人に殺されるために訓練してきたのか?ちがうだろ。巨人に殺されないために・・・巨人から何も奪われないために血反吐を吐いてきたんだろ!オレたちは何度も死にかけたけど、生き残ってきた!死んじまった奴もいたが、オレたちは無事に訓練兵を卒業した!だからオレたちは絶対にあんなグズ野郎から殺されない!戦う意思があれば!オレたちは生き残れる!!」
エレンのよく通る声が辺りに響く。ダズだけでなく104期の訓練兵の耳にもしっかりと残る。
「・・・戦え!」
「ああ・・・!」
「エレン、戦況が混乱したら私のところにきて」
「は?何行ってんだよお前」
「こんな時はきっと思い通りにはいかない!だから!私はあなたに恩をかえす!」
「まだお前そんなこと言ってんのか
?」
「アッカーマン訓練兵!お前は特別に後衛部隊だ。こっちに来い!」
「わ・・・ 私の腕では足手まといになります!」
「お前の判断を聞いてるのではない。住民の避難が遅れてる今、後衛に多くの精鋭が必要だ」
「ですが!」
「おい、いい加減にしろよミカサ!」
ゴツンと言う音を立ててエレンがミカサに頭突きをする。
「・・・・・・・・・!?」
「人類存亡の危機だぞ!お前の勝手な都合を押しつけてんじゃねえ!」
「・・・・・・!
分かった。私は冷静じゃなかった。でもお願いがある。私がそばにいることを忘れないで―――」
そう言い残してミカサはイアンについて行く。
「どういう意味だ?」
エレンが首をかしげていたところ、エレンの名を呼ぶ声がする。
「おいイェーガー!早く来い!先遣班は既に戦闘中だ!」
「ハッ!」
「お前は自由に動き回れ。何しろ特別班って名前だからな。好きなように巨人を片っ端から殺していけ。それはお前がしたいことだろ?俺達はそのサポートとして選ばれた。今日、俺達は初めてお前に会ったばかりだが、そんなのは関係ない!俺たちはお前を信頼している。だからお前も俺達を信頼しろ。いいな。俺達特別班は仲間だ!」
「分かりました!」
「班長はお前だ エレン。だがな、俺達をあまり舐めるなよ?俺達は5年前のウォール・マリア陥落の時も兵士として生き残ってきた」
「準備はいい?この5人とエレンが特別班だからね。エレンはしっかりわたしたちの顔と名前を憶えておくのよ」
「大丈夫です。もう覚えました」
「はやっ」
「さあ、行くぞ!!」
「特別班戦闘準備!!前進せよ!!!」