ミソラ三中の番長 作:箱の中の破壊神
「大丈夫かバン、相手は仙道と都森だぜ……。」
「もうカズったら、いくらなんでも心配しすぎよ!」
「いや、アイツらが相手なら警戒して当然だ。仙道も厄介だが……特に都森はマズイ。」
「マズイって……どういうこと?」
「都森に目をつけられたLBXは、もれなく無惨なやられ方をするでごわす。」
「同じミソラ三中の連中もヤツの目を恐れて縮こまる、正に影から支配する暴君なんだぜ。」
「ウチのスラムにいる連中もつい最近襲われたって話だよ。そういえば、アイツらもアキレスを探してたって……ま、まさか!?」
カズの心配はもっともだと都森と関わりのある郷田たちが肯定する。そしてリコは都森らの今までの行動から、都森の標的が誰であったかを察する。そう、バンはまさに飛んで火に入る夏の虫というわけだ。
「あぁ、都森はバンのアキレスを狙ってる……!」
「へぇ、やるねぇ」
『アキレスランス』の鋭い刺突が仙道のジョーカー目掛けて放たれる。性能も高いが、それを動かす本人の技量も中々のもの。重厚な『アキレスシールド』も相まってナイトフレームらしいハイスタンダードな機体だ。スペックだけならズールの上位互換である。
とはいえ、そんな攻撃が仙道に通用するなら、オレも郷田も苦労しない。ストライダーフレームの身軽さを活かして、アキレスの突きを悠々と回避していた。
「いけッ、『ライトニングランス』!!」
いきなりの必殺ファンクション。槍系ファンクションの中でも大技のライトニングランスが放たれる。光の槍が迫り来るが、仙道は焦りもせずにヒラリと避ける。斜線上にはオレのズールも位置していたが……あの撃ち方なら、ズールに届く前に上に逸れるはず。その読みは的中し、回避するまでもなくライトニングランスは不発に終わった。
その大技の隙に、ジョーカーの鎌がアキレスの関節部を突き刺していた。装甲の防御が厚いとみて、まずは機動力を奪いにいったか。しかし仙道の腕なら先程の郷田のようにもっと手痛い一撃を与えられるはずだが、これは遊ばれてるな。
「大したことないねぇ……郷田!こんなヤツに負けたのか?」
「っ……おまえこそ、逃げてばっかりいないでちゃんと戦え!」
「逃げる?バカいうな。そこの暴君サマに比べりゃ、これでもマシな部類だ。」
バンを弄ぶように対処する仙道とは違い、オレはアキレスとジョーカーの戦いを遠巻きに見ているだけだった。バンとアキレスとやらの強さは噂上でしか知らない。仙道にこだわって勝手に潰しあってくれるならそれはそれで構わない。色々な面でオレが有利になるわけだからな。楽に勝てるに越したことはない。
「オマエがオレに必死に攻撃してる間、ヤツは高みの見物と洒落込んで品定めさ。わかるか?今のオマエは敵とすら見なされていないってわけ。」
「なんだと……!」
好き勝手言ってくれる仙道だが、否定はしきれない。バンのアキレスは必殺ファンクションに頼り切った動きをしている。あんな大ぶりの動きばかりなら、いくら高性能なLBXでも脅威ではない。間違いなくパワー負けはしてるので油断すれば即ブレイクオーバーになりかねないが。
「オレよりも都森を狙った方が勝算はあるんじゃないか?もっとも、返り討ちに遭うのは目に見えてるがな。」
「誰がそんな口車に乗るか!」
「そうかい、なら少しだけ見せてやるよ。箱の中の魔術師の本気を!」
仙道がそう宣言すると、彼の操るジョーカーに変化が起こった。分身したのだ。それも、1体から3体に。……まぁ、あれ速すぎて残像見えてるとかじゃなくて、普通に3体分のジョーカー動かしてるだけなんだけどな。タネが割れたとしても3体分を一人で動かしているわけなので、仙道の技量が卓越したものだということに変わりはない。
「そんな、バカな……分身するなんて!」
「いつまで持つかな?」
ただでさえ足の速いジョーカーによる3体分の攻撃。それも四方八方から襲いくるため完璧な防御はできず、アキレスに徐々にダメージが蓄積されていく。
段々と動きが鈍くなっていき、ついには膝をついてしまった。
「こんなはずじゃ……っ!」
アキレスを一方的に蹂躙した3体のジョーカーはハイジャンプし、上空からの同時攻撃でトドメを刺そうとする。なんとも呆気ない、わかりきった結末だ。
だが、
もし本調子なら、どれだけのポテンシャルを見せてくれる?あのムツキやユウキを退けるほどならこんなものではないはずだ。このまま終わらせるにはもったいない、とオレは思った。
「おい、都森が動いたぞ!?」
「アイツ、やっぱり漁夫の利を狙って……!」
タイミングを見計らってズールを走らせる。まずはアキレスを吹っ飛ばして、ジョーカーの攻撃を捌く。上空からの攻撃なため、それぐらいを行う猶予はある。その後もジョーカー3機の攻撃に晒されるのは面倒だが、これに対処できないのならばオレのズールはとっくの昔にバラバラになっている。
しかし予想外の出来事というのは起きるもので、結果としてオレはアキレスの元へは駆けつけられなかった。
(なんだこの速度!?誰のLBXだ……!?)
ジョーカーに匹敵する速度で風を切る何かが、ズールの真後ろから迫ってきた。このままでは激突してしまうため、咄嗟にローリングで回避。姿勢を立て直した時には、ジョーカー3体分の攻撃をハンマー片手に受け止める紫色のLBXの姿が。アキレス以上に見たことも聞いたこともない謎のLBXを操る乱入者は、すぐに姿を現した。
「海道ジン……!?」
いやマジで誰だよ。騒がしくなった外野の声曰く、どうやら二中に来た転校生らしいが……ここまでの実力があるヤツが珍しい機体を使ってて噂にならないのは不自然だ。こういうことには目がないユウキとムツキの情報網にすら引っ掛からなかったのか?
「仙道くんに……都森くんだったな。
…………ん?
「!オマエら、アングラビシダスに出るのか?」
いや出ないが?海道ジンとやら、この場を収めるためにテキトーなこと言ってるんじゃないだろうな?だが、流れは悪くない。
「……今回はイレギュラーも多いし、引き分けってことにしておこうか。じゃあな」
この隙に乗じてオレはDキューブからズールを回収する。万が一出場しないとか言おうものなら、恐らくジンや仙道辺りに袋叩きにされる可能性がある。それに仙道ほどではないが最後まで生き残ってたのもあって勝負を預けるという言葉にもある程度の説得力はあるはずだ。
言葉を濁してこの場から退散するというのは、我ながら悪くない選択だったと思う。もっとも—。
「なぁんだ、乱入していいなら!」
「ちょうど、ウズウズしていたところだ……!」
あのバカ双子のやらかしで台無しになったが。
「あ、アイツらいつの間に!?」
「ちょっと!都森とかいうヤツは降りるって言ったじゃない!!」
「出場しないヤツらなら潰しに行かせても問題ねぇってことかよ。都森の野郎、こんなマネ堂々としやがって……!」
オレがズールを撤収させた瞬間に、ユウキのオルテガとムツキのカブトCがDキューブ内に現れる。……マジで何やってくれてんのテメェら!?内心ブチギレながら冷静に盤面を見る。あの二人の標的は……やはり海道ジンのLBX。そうだよな、見たこともないLBXと明らかに強いプレイヤーがいるからまずそっちから狙うもんなあのバカども。
ひとまず助太刀に入ろうとするが、オレがCCMを再び構える前に事は終わっていた。
「マジ、か……」
「わぁお、まさかの秒殺!?」
オルテガとカブトが瞬く間にブレイクオーバーしていた。あまりにも早い決着に目を疑う。あの二人を相手に秒殺を決めるとは、やはりあのジンとかいうヤツは只者ではない。
「……気は済んだかい?」
「…………ハァ」
視線を誰にも向けることなく放たれたジンの言葉は、一体誰に宛てたものなのだろうか。そうだよな、側から見れば自分は手を汚さず手下にやらせるとかいう典型的なクソムーブしてるもんなオレ。思わず溜息すら出る。心なしか周囲の視線が痛くなってきたし、さっさと退散しよう。
「それにしても、なんなの都森って!あんな卑怯なヤツがいたなんて……!」
「噂以上だったな、三中のヤツらには同情するぜ……バン?どうしたんだ?」
「え?いや、なんでもないよ。」
ゲームセンターを後にしたバンとアミ、カズは河川敷に腰を下ろしていた。そんなバンの手には大きな将棋の駒ような端末が握られており、その中にはアングラビシダス出場者のデータがまとめられていた。その端末は郷田の手から渡されたものだが、その裏にアングラビシダスの主催者であるレックスの存在があることは今のバンには知る由もなかった。
アングラビシダスの開催が迫る中、バンの脳裏には今日出会った出場者たちの姿が浮かんでいた。しかし、一つだけどうしても気になることがあった。
(あのズール、間違いない。前に見せてもらったことがある。まさか、あの人が……?)
それはバンがLBXを手に入れる前の話、ちょうどこの河川敷でミソラ三中の生徒とLBXについて語り合っていた。もう数ヶ月も前だが、細かいところにまでカスタムが行き届いていた彼のズールは今も覚えている。
そして、そのズールは今日再びバンの前に姿を現した。ミソラ三中の番長、都森マスミのLBXとして。
「……都森、か。」
都森が何故恐れられているのか、その片鱗をこの目で見た。しかし、
自分よりも都森に詳しいであろう郷田の
『いいかバン、都森には気をつけろ。アイツはオマエのアキレスに前から目をつけていた。オレの憶測でしかねぇが……ヤツは
そんな言葉を思い出しながら、郷田からもらったアングラビシダスの出場リスト、そこに連ねている都森の名をしばらく見つめていた。
「…………やはり、あの男。ボクのジ・エンペラーの動きを見切っていた?」
海道邸の自室で、海道ジンは今日の出来事を思い返していた。その中で、一つ奇妙な現象があったことに気づく。
(アキレスまでの最短ルートに彼のズールがいた以上、跳ね飛ばしてでも向かうつもりだったが、その前にズールは回避行動を取っていた。それも、ジ・エンペラーの接近を察知してからだ。)
ジ・エンペラーはジンの祖父、海道義光の息がかかっている神谷重工で開発された最新鋭LBX。ナイトフレームでありながら高いパワーと速度を両立し、それを高い操作技術を持つジンが扱ってしまてば、並みのLBXでは相手になることはない。
対して、都森は地元中学の一番長で、使用機体もズールと市販の中では多少優れている程度。自身のLBXを撤収させた直後に取り巻きの二人に襲わせるという卑劣な手段も取ってきたが、アレもわざと簡単に倒させることで、その上に立つ都森の実力を誤認させるための芝居だとすれば?
「…………少し、調べておく必要があるようだ」
「はぁ……アングラビシダス、か。そういえば賞品が豪華だとか小耳に挟んだような……」
今日出会っただけでも仙道ダイキ、山野バン、海道ジンの三人が出場するようだし、ウチの学校に勤務してるガトーこと加藤先生も最近忙しそうにしていたので噂に間違いはなさそうだ。
「いったたた……そ、そうなんだよ。次の優勝賞品はあのアルテミスの出場権!」
「千載一遇の、チャンス……!うっ、ぐっ」
ゲームセンターの件で灸を据えたため、頭を抑えながらオレの推測を裏付けるユウキとムツキ。引っ掴んで勢いよくぶつけ合わせたのだが、ちょっとやりすぎたか……?
「ふーん、だからアイツらオレも出場するとか勘繰ってたのか。こちとらエントリーすらしてないっての。」
「え、
「…………一応聞いておこうか。何に?」
「アングラビシダスの、エントリー。今日、用事があるって言ったのは……申請が通ったかの、確認。」
頭を抱えた。あの世紀末感ハンパない典型的な地下大会への参加が知らぬ間に決まっていたことを受け止めきれていない。
「というわけだから、今度のアングラビシダス頑張って!」
「出禁になった、オレたちの代わりに……アルテミスを勝ち取ってくれ。」
ユウキとムツキから期待の眼差しを向けられたオレは、全身から血の気が引いていくのを感じた。ここまで参加したくない大会は初めてだよ。
実は分身ジョーカーの攻撃捌ける程度には強い都森くん。郷田がパワー型で仙道がスピード担当なところあると思うので、都森くんはテクニック面に特化させようと思いました。相手の対処や操作に集中する分、一発がデカくて取り回しも悪くないショットガンは都森くん好みの武装というわけです。
誤解が広まる中、アングラビシダスに参戦する都森くんは果たしてどうなってしまうのか……。