ミソラ三中の番長 作:箱の中の破壊神
「…………ぁ、うっ……」
意識を取り戻した。そう思えたのは呼吸による肺の動きを認識できたから。それ以外の知覚要素がまだ機能していない。目は霞んでいるし、耳鳴りもひどくて何も聞こえない。大怪我もしているはずなのに痛覚もまだ来ない。
「……あぁ、そっかぁ……」
朧げな記憶もハッキリしてくる。
……隣にいた最愛の人も、恐らくはすでに。
「どれくらいなんだろうな……」
事故の規模、巻き込まれた人数、死んだ数、生き残った数、そして自分がどこまで無事でどこまで生きられるか。それら全ての疑問がないまぜになった声が溢れた。
感覚がハッキリしないが、動くことはできないようだ。どこか痛めたか骨折したか、瓦礫に挟まれたか潰されたのか。何もわからないまま男はただそこで待つしかなかった。
「……ん?」
かすかに聞こえる少女の声を聴くまでは。
「あ……あぁ……やだ、やだよ……父さん……母さん……ッ!!」
「……近いな…………キミ、無事なのかい?僕の声が聞こえるか?」
「っ……誰、ですか……?」
会話ができた。声もしっかり出る。自分の状態はそこまで最悪ではないようだ。声のした方を見ると、男の青い目は瓦礫の向こうの少女を捉えた。
「僕かい?僕は……ってアッツ!?」
声も意識もハッキリしてきたところで、他の感覚も戻ってきた。そこでようやく、暑さを認識した。
「……はは、ここら辺燃えてたのか」
事故による二次被害、それが今この場で生き残った二人に襲いかかった更なる不運だった。
「うん、このままじゃマズイな……っと」
痛覚も戻り、身体のあちこちに激痛が走っている。それに耐えて立ち上がり、瓦礫を慎重に退けて少女の前に歩み寄る。
「……大丈夫かい?ここは危ないから、おじさんと一緒にいこう」
「…………」
今危険な状態であるということは少女も薄々理解している。しかし、ここで最善の行動を取れるほど大人ではないのだ。
視線が交互に移る。亡骸とわかっていても、父と母を置いていけるわけがないのだ。
「…………キミのパパとママは、僕の妻がきっと一緒に連れてくよ。だから、僕たちは先に行こう。……生きるんだ」
そうして少女を連れ出した男は、急いでその場を離れようとする。しかし、火の手は今も強くなっていく。
(どこか、どこかに安全な場所は……!?)
必死になって探す。炎は待たず、刻一刻と火の海を広げていく。
「……あそこか!!」
まだ火の手が及ばないであろう絶好のルート。この悪運を無駄にしないため少女を抱きかかえ、痛みを訴える身体にムチを打って走る。
「この、上をッ……登れば……!!」
瓦礫の山、その上にある比較的崩落の少ない地帯。足場も悪くないし、火事もそこまでは燃え移ることはないだろう。
しかし、あと少しのところで炎は勢いを急激に増した。
「!……すまないッ!!」
抱えた少女を半分投げるように向こう側に送り出す。最後に一瞬見えた少女の顔は呆然としていた。口の動きから何か言っていたようだが、ここに至るまで痛みに耐えながら先を急ぐことに全神経を使っていたために、その声を拾うことはできなかった。
「ごめんな……一人にして、ごめんなぁ……。せめて……せめて、生きていてくれッ……!!」
その言葉を最後に、男は炎に呑まれた。漏れ出た後悔は先程まで一緒にいた少女か、はたまた帰りを待つ一人息子に向けられたものか。
男の最期を見ることはなかった。しかし、その炎は彼の死を告げるには十分だった。少女は走った。男と一緒だった時はかろうじて止まっていた涙を決壊させながら。
「どうして……どうして……!!私、見捨ててれば……生きられたのに……!なんで、助けたの……どうして、いなくなるの……!!」
崩落の瞬間、少女を守ったのは彼女の両親。崩落の後、少女を連れ出したのは青い目の見知らぬ男性。少女を助けようとした優しき大人は、この短い間にみんな命を落とした。
「私なんて、放っておけば……私なんて、助けなければ……!!」
少女を一人を生かすために、大人数人が犠牲になった。側から見れば美談だが、当人にとってはたまったものではない。生きる代わりに、理不尽な死を近くで見せつけられたのだから。
「私を……私を、
「ッ…………!!」
「……やっと起きやがったか」
志島が目を覚ます。悪い夢でも見たのか、ひどい汗をかいていた。
「……私、は」
「お前、また変なことになってたよ。それで騒いだおかげで人集まって、あの妙な大人はスタコラ去ってった。残されたのはオレと倒れたオマエだけ。……おかげで女子にすら情け容赦ない凶悪番長の構図が完成だよ。悪評また増えたぞどうしてくれんだ」
一難去ってまた一難去ったら、その先も災難だった。……不幸中の幸いだったのは、ユウキとムツキも駆けつけて志島を匿うのにうってつけな隠れ家に案内してくれたことだ。
…………ここまで触れてなかったが、隠れ家ってなんだよ。割としっかりしてるし、子供の秘密基地のようなちゃちなものではなさそうだ。面倒な匂いがしたので一旦頭の隅に追いやるとしよう。
「志島、オレは面倒に巻き込まれるのが大の嫌いだ。それはわかってるだろ」
「……伊達にアナタの事を調べてない」
「その行為もオレにとっては面倒事の一つなんだけど…………まぁ、それはいい。一応、オマエはさっきも助け船出してくれたわけだしな」
先程の仮面被った大人三人とのバトル、数的不利とはいえオレは劣勢を強いられていた。こちらを舐めずに手堅い攻めを徹底していたため、オレも戦法を変えざるを得ないほどだった。こういうのもおかしな話だが、まるで以前1vs3の状況で呆気なく敗北したことで形成された立ち回りにも見えた。
「……ただ助けたわけじゃない」
「そうだな、それならあんな事になんないよな」
オレとバトルすることで稀に起こるあの暴走。アレが何なのか、未だにオレは知らない。人とLBXが同時におかしくなる現象なんてありえないし信じたくもない。だから目を背け続けてきた。実際、怪しい大人との繋がりもあるし、予想もつかないようなものがあるのは確かだから。
「……正直、オレはオマエと距離置きたいよ。ただでさえあの双子に付き纏われてんのに、これ以上妙なヤツに関わりたくない」
どうせ生きるなら、楽に生きたい。そのために面倒な事には巻き込まれない方が良い。目立ちたくもないから不良だ番長だのレッテルも剥がしたいし、大会にもあまり出たくない。それが周囲の人間によって引き起こされるなら、ソイツとは関わらないのが一番だ。
しかし、それができているのなら……オレのレッテルは当に剥がれているだろうし、あの双子との関係も切るに切れてない。
「だから……助けないで、とか言うなよ。あんな苦しそうにしといて、放っておけとか…………一周回って怒りが湧いてくる」
実際オレがズールで殴りかかったのは、若干キレていたからというのも要因の一つだ。結果的にオレらしくない捨て身の立ち回りで、ズールには大きなダメージを負わせた。
それでも殴らなければ気が済まなかった。あの双子といい、あのジジイといい、あの……………いや、ここまでにしよう。とにかく、オレに身勝手ばかり言われるのは我慢ならなかった。
「過大評価しすぎなんだよ、オマエら。オレが何でもできるような便利な人間に見えるかよ」
「……少なくとも、今は見えない。けど、何もできないわけじゃない」
志島は視線を落とし、拳を握りながら続ける。
「また私の暴走を止めた、それは事実。だから、まだアナタの方が強い。そうじゃなければ……私はきっと止まらなかった」
悔しさや恐怖か、その感情を読み切ることはオレにはできなかった。しかし、どうであれその解決策だけはすぐにわかった。
「だったら、オマエが何度暴走しても止めれるぐらい強くなってやる。強くなりすぎて負け認めたくなっても知らねぇからな」
完璧主義でもあるのか、必要以上に負けや失敗を恐れるコイツの心を折りたいとか、そういうわけではない。ただ、心の底で遠回しに見捨てろとか言うようなヤツの思い通りにしたくはなかった。
ただ個人の意地だけで、コイツとの勝負の席に何度でも着くと決めたのだ。
「よく言った都森くん!」
「そんな、都森くんに……朗報、だ」
扉の前で待機していたのかと疑うようなタイミングで双子が声を挙げる。
「なんと私たち!さっき大会で
「都森くんも、これでアルテミスに……出れるな」
なるほど、アルテミス。数年に一度開催されるLBXの世界大会。確かにそこなら国内外問わず腕に覚えのあるLBXプレイヤーばかりが集まる。観戦ではなく参加するのなら、より得るものは多いだろう。力をつける、あるいは試すには絶好の舞台だ。
もっとも……。
「それは話違うじゃん」
ものすごく参加したくない。
「あ〜、どうするッ……!!このまま参加しても一回戦退場待ったなし。オレはそれでもいいけど、参加権勝ち取ってきたのアイツらだしなぁ……!!」
我ながら損な性格していると思う。普段は迷惑ばかり引き寄せてくるヤツらなのに、そいつらの心意気を無下にできないとは。
……一応、やるからには勝つつもりだ。だが、オレたちにはまともなチーム戦の経験がない。三人とも好き勝手やった結果勝ちを拾えてるだけなのだ。きちんと連携してくるような相手に苦戦を強いられるのは、あの仮面三人衆とのバトルで痛感した。
「まずは……新しく組むか」
バッグから
「全く、パテもりニクぬきも楽じゃな……ん?」
携帯工具を取り出そうとバッグを漁っていると、
「……まぁ、売れば資金の足しぐらいになるだろ」
床に転がった黒いカプセルに手を伸ばす。期待しないながらも、ズールのパーツでも出てくれば経費は浮く。そう思って取り出した中身は……前面に刺々しい装甲を持ったキャタピラ付きのレッグパーツ。店どころか、これまでのバトルでも見たことのないLBXのパーツだった。
「あっ?なんだコレ…………いや、まさかな」
おかしな予感が頭をよぎったが、それは運が良すぎると残りのカプセル5つを全て開いた。結果、両手銃が一つと先ほどのレッグパーツに合いそうな如何にもなパーツが4つ出てきた。というか、全部位揃った。
「えぇ……」
あまりの引きにドン引きしながらも、そのLBXを組み立てる。パンツァーフレームであることから機動力は担保されていると見ていい。そして、脚部どころか青みを帯びた全身重装甲のそのLBXはそこらの機体より遥かに頑丈に見える。
そこで、片腕を失いながらも捨て身の一撃を喰らわせたズールの姿が鮮明に浮かんだ。
「その戦い方もできるなら……まぁ、チャンスぐらいは作れるか」
「あれ?ない……ないッ!?」
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
都森の前から逃げ去った三人……イノベーダーの一人が、回収したガチャの中身を確認して騒ぎ立てていた。
「裏ルートで仕入れたレアLBXのパーツが無いんですよ!
「えっ、そんなもん入れてたんスか!?」
「いや、だって……ガチャというからには当たりぐらい入れないと……」
わかりやすい様に黒いカプセルに入れて紛らせていたレアパーツ。まさか都森の引いた6回でそれら全て持って行かれたとは思いもしていなかったようだ。
「アタリなんて無くていいだろう!?ただの作戦用だよ!?」
「な、なんてことを……!?」
「そんなの、クジの当たり抜く祭りの屋台と同じッスよ!!」
「……これ、アタシが悪いのかい?」
都森くん、タイトルに反してガチャ運はめちゃくちゃ良い方です。勝手にアルテミス出場権も転がってくるし恵まれてますね(白目)。
次回からアルテミス編&新機体お披露目を予定してます。