急に『新人歓迎会』が開かれることが決まった。そういえば、入社してから色々と忙しくてそんな話が社内でも全然あがっていなかった。そして最近ある程度落ち着いた。そのこともあって今、開かれることになったんでしょうね。
そして会社全体で行われる『新人歓迎会』のためすっごく立派な店を貸切。生まれてきてここまですごい店に来るのは初めてかもしれない。本当にホロライブってすごいんだなと改めて感じた。
上司の人とのお酒を飲んだりしていると少し顔が赤いえーさんがこちらへと歩いてきた。足取りは顔が赤い割にはしっかりとしていて顔が赤くさえなければ酔っていることに気付かないほど。
「大丈夫ですか。えーさん」
「は…はい。ちょっと酔って来ましたが、まだ大丈夫です」
本人の意識もしっかりしているようなのでまだ大丈夫そうだ。もう完全に酔いが回ってしまうと自分の足で帰る事も出来なくなってしまいますから。まあ、今日ぐらいは飲んでもいいかもしれませんけどね。こんな風に皆で騒げるのも一年に数回ほどしかないですし。
「それなら良かったです。飲みすぎには気を付けてくださいね」
するとえーさんが僕の隣に腰を下ろしてグラスにお酒を注いで飲み始めた。
「はあ~~きょうもはたらいた~~それでやっと慣れましたか?」
「そうですね……少しずつですけど、慣れてきましたかね。まだ皆さんにご迷惑を掛けてしまうことが多いので、情けない限りですけど」
「いやいや、すごいよ。ここまで短時間で仕事に慣れてくれるとは思いませんでしたから…」
そんな話をしていると後ろから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。するとそこには白い狐こと白上フブキさんが顔を赤くして立っていた。
「白上さん」
「あ、しゃぁいさん」
もう活舌がしっかりとしていないところから見ても酔いが回ってしまったようだ。そしてこの場に白上さんが居たことが何よりも驚き。
「大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶい」
それだけ言って白上さんは僕の隣に腰を下ろして、寄り掛かったかと思ったらすぐに可愛い寝息が聞こえてきた。
「それにしても今日はホロメンの方々も呼んでいるのですか?」
「呼んでいるというより個人的に来たんですよ。フブキさんとかに関しては。来たい人は来るみたいな感じですね。だから、配信とかがある人は来ないですしね」
「そういうことなんですね…」
確かに改めて辺りを見渡すとホロメンの方々がちらほらと見える。
「それにしてもホロメンに好かれやすいですよね」
「誰がですか?」
「……その顔を見るに分かってなさそうですね」
えーさんはなぜか少し僕に哀れな目をしてからグラスに入っていたお酒を流し込んだ。それと同時に後ろから何かが勢いよくぶつかってきて目の前の料理に被害が出るところだった。そしてその元凶は後ろを見なくても分かってしまう。
「夏色さん、急に突進してこないでください。料理に被害が出るところだったので」
「まちゅりとっきゅう~~」
本当に幼児退行してしまったんじゃないかと思ってしまうほどに夏色さんは幼稚園児のようになってしまっている。夏色さんを放置しておくと色々とこの会場が滅茶苦茶になってしまうそうだ。
「夏色さん、ちょっと大人しくできますか?」
酔っているのであれば言葉が通じる訳がないのだが、念のためにお願いしてみることにした。勿論、夏色さんが返答できる訳もなくて首を傾げている。
「えーさん、さすがに夏色さんをほっとく訳にもいかないですし、どうしたらいいですか?」
「大丈夫です。夏色さんが酔ったら頭を撫でてあげてください」
「頭を撫でる?」
「はい。前にも夏色さんが酔って色々とあったんですが、その時に色々と試して夏色さんを抑え込んだのですが、全然効果がなかったんです。そしてその中でも一番無理だと思った方法で夏色さんが大人しくなったんです」
「それが頭を撫でるということですか?」
「はい。ふざけた話なんですけどね」
えーさんが言うようにふざけた話。入社した頃の僕がそれを聞いたらからかっていると思ったかもしれない。でも、今の僕はホロライブというものを少しだけど、知っている。そしてこんな事を言いたくはないですが……ホロライブには極稀に変人と呼ばれるような人がいたりするのだ…。はあちゃまのように。
だから、お酒で酔っている人が頭を撫でられるだけで大人しくなるという事もあるのかもしれない。
「それでは夏色さんを抑えておくので、えーさんが撫でてあげてください」
僕が夏色さんがどこかに行かないように必死に抑えているが、えーさんはなぜか撫でようとしない。それどころか、僕が夏色さんを抑えている光景を少し離れたところから見ている。
「あの、えーさん、早く撫でてくれませんか?」
「いや、あなたが撫でてあげた方がいいと思いますよ。私がまつりさんを抑えているので、あなたが撫でてあげてください」
そして僕とえーさんは場所を交代することになり、なぜか僕が頭を撫でることになった。そして結果だけを言えば夏色さんを本当に撫でるとさっきまでが嘘のように大人しくなった。そして微かに寝息が聞こえて来るので、どうやら寝てしまったようだ。
「しゃい~さん」
誰かに呼ばれたと感じて後ろを振り返るとそこには…僕の隣で寝ていた白上さんが片手にお酒を持ちながら立っていた。多分、さっきの騒ぎで自然と目を覚ましてしまったんでしょう。それに僕も白上さんが寄り掛かっていたのに夏色さんを抑えるために立ち上がったりしていたから起こしてしまったのかも。
「完全に酔ってますね」
「よ、よってない…で、す…」
もう呂律が回らなくなっている。顔もとっても赤い。一体どんだけ飲んだらこんな風になってしまうのだろうかと思ってしまうほど。
「これはさすがにまずいですね」
今の状態でも明日に響きそうなのに、これ以上飲んだらほぼ確実に明日に響く。ここは何とか止めた方がいい。
「白上さん。右手に持っているお酒を僕に渡してくれませんか?」
すると白上さんはお酒の瓶を抱きかかえ始めた。僕に奪われないようにしているのだろう。
「どうにか渡してくれませんか?」
「やだ!」
それから十分ぐらいして押し問答を繰り返した。そして僕は「もうじゃ飲んでも良いよ」と言って白上さんの警戒心を解いた。そしてその油断した瞬間に白上さんのお酒を奪って白上さんの身長じゃ届かないようにお酒を持っている右手を高らかに突き上げている。
「か、かえしてください!!」
そう言いながら白上さんは飛び跳ねて僕が突き上げている右手に持っているお酒を取ろうとしている。なんかこれだけ見ていると親が子供からゲームを取り上げているように見えて来る。
「ダメです。今日はもう十分飲みましたよね。これ以上、飲むと明日の仕事にも響きますので」
「か、かえして!!」
白上さんとそんなやり取りがまた30分以上も続くのだった。