「しゃいんさん」
「え、どうしたんですか?」
「ころねが話し掛けただけでなんでそんなに驚くの?」
「戌神さんから話し掛けてくれる機会ってそんなに多くないじゃないですか。それに僕と戌神さんってあんまり話すような感じでもないので…」
ホロメンの方々の中では戌神さんとは話す機会に恵まれなかったので他の人たちに比べるとそんなに話している訳ではない。
「まあ、たしかにそれはそうかも」
「やっぱりそうですよね。それでどうしたんですか?」
「あ、そうだそうだ!社員さんにお願いをしたいことがあるの!!」
「お願いですか?」
「うん!!」
戌神さんは満面の笑顔を浮かべて返事をした。どこかその笑顔が怖いと感じてしまうほど。前にもこんな満面の笑みで騙された経験があったような。
「ほ、ほんきでそんなことをするんですか?」
「うん。どうかな?」
「い、いや!!無理ですって!それに変な誤解をされてしまうかもしれないですし」
「ころねは良いと思うんだよ。すっごく面白そう」
「いやいや、面白くはならないですよ!!ただ色々と迷惑を掛けるだけで全てが終わると思いますよ」
「それでもいいよ。ころねは社員さんと一緒に話したりしてみたいし」
戌神さんが僕を驚かせた『お願い』とは『一緒に配信してくれないかな』というものだった。正直、自分の耳を疑ってしまった。だってまさかそんなことを本気で言っていると思わなかったから。
えーさんや僕と同じで新入社員の春先さんなどが公式で出ていたりするけど、それはまた違う話。だって戌神さんが言っているのは個人の枠でやろうとしているし、一度も配信に出たことないような人が配信して上手くいくとは思わない。
それにホロライブはアイドルだけなのでファンの方々も男性の方が多い。自分の推しが見ず知らずの男と話しているのを見ていい気はしない。
「さすがにそれは止めておきましょう。僕も出来る限り、皆さんの手助けになりたいですけど今回はさすがに力になれそうにないですよ」
「え~~ころねは面白いと思うよ。今までころねと社員さんって二人っきりで話したことないし」
「いや、話すだけなら休憩中とかでもよくないですか!態々、配信上にそれを載せる必要はないと思うんですよ。それに生放送とかしたことないですし」
生放送とかで失敗したら話にならない。
「う~~ん。じゃあ、録画だったらいい?」
「いや、生放送じゃないから良いとかではなくて、この企画自体がダメですよ。えーさんとか春先さんのような方々とやればいいんじゃないでしょうか?どうしてもということなら僕の方からもお願いしておきますし」
「ころねは社員さんとやりたいの」
そんなことを言われても僕のような社員がホロメンの方の配信に出るなんてことは出来ない。それに個人的にもあんまり活動をするようなことはしたくないのが正直な気持ちなんですよね。
「どうしてもですか?」
「ど~~~しても」
「では上司に相談して見るのでそれでダメだったら諦めてくれますか?」
正直、肯定的な返事をしてくれるとは思っていないんですよね。
「……諦めない」
そんな押し問答が一時間以上も続き、さすがにこっちは疲れてきた。ここで僕が折れないとこのまま押し問答がずっと続くような気がした。
「分かりました。一回だけっていう限定であればどうですか?それであればどうにか上司に通してみるので」
「……わかった」
そして最終的にそれを上司に話して返された言葉が『いいよ』だった。ちょっと軽すぎないですかと思ってしまったほど。