後日、三期生の皆さんからは平謝りされた。別に故意的にやった訳ではないんだからそんなに謝らなくても良いのにと感じてしまうほどに謝っていた。
全ての始まりはあの薬が何で僕のデスクの上にあったのかということ。最終的に誰が僕のデスクの上に置いたのかは分からずに時間は過ぎていった。そしていつか月は流れていき、真夏へと季節は変わっていった。『あの薬』のことなんてもう忘れてしまうほどに忙しい毎日だった。毎日必死にやっていると他のことに気を割く余裕がなくて、自分のことで手一杯だった。
だから忘れていたんだ。この『あの薬』が何も解決していないことに。
「またですか……」
目の前にある、怪しい色をしている薬を今度は事務所の冷蔵庫にいるのではなくて自分の近くに保管しておくことにした。冷蔵庫に居れたら誰かが飲んでしまう可能性もありますしね。
そして朝早く仕事を来るために来たのはいいんだが、食事を買ってくることを忘れてしまった。正直、このままこの薬をここに置いておくのは不安も残るけど、さすがには昼まで持ちそうにない。
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「え、なんで」
近くのコンビニで朝食を買って帰って来るとデスクの上にあったはずの薬がなくなっていた。
「おはようございます」
「し、しらかみさんですか……」
この感じがして白上さんはあの薬を飲んでいないようだ。さっきこの事務所に来た感じかな。
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
白上さんは僕の近くまで来ると急に寄り掛かった。普段の白上さんはこんな事をするような人ではないから驚いてしまった。
「し、しらかみさん!!どうしたんですか?調子でも悪いのなら今日はもう帰りになった方が―――――」
言っている途中で白上さんが急にこっちに向き直って抱きしめてきた。さっきまでも理解不能だったがもう思考が追い付かない。
「しゃいんさんはしらかみのことすきですか?」
「ど、どうしたんですか?」
「すきなんですか?どうなんですか?」
「…とてもいい人だと思ってますよ。一人で食事を食べていた僕に勇気を出して白上さんは話し掛けてくれましたし。あれから少しずつですけど、ホロメンの方々と話すことが出来るようになってきたので。本当に白上さんには感謝しています」
本当に白上さんやそらさんが積極的に来てくれたから他の方々とも話せるようになったんだ。本人たちは気付いていないかもしれませんが。
「すきじゃないってこと?」
「いや、そういう訳ではないですよ。勿論、一人のホロメンとして好きですよ」
「なんかいやだ~しらかみをすきっていって。いってくれないとみみにふーしちゃうよ」
最初、白上さんは少し疲れているのかなぁと思っていたけど、どう考えてもおかしい。普段の白上さんからは想像できない。
「白上さん、怪しい色をした飲み物みたいなものを飲みませんでしたか?」
「のんでないよ~~そんなことよりもしらかみのことすきなの?すきっていってよ~~」
この状態からしても白上さんはあれを飲んだはず。この感じだと前の時と同じようで白上さん以外にも飲んだ人がいるんじゃかと思った矢先に次は背中から衝撃を感じた。
「つかまえた~」
後ろを振り返るとそこには大神さんが満面の笑みを浮かべて後ろから抱きしめていた。
「みお、しゃいんさんはふぶきのなの~」
「大神さんも…」
大人しい大神さんがこんなことをするようなことは今までなかった。明らかに何だかの影響を受けたと考えるべき。
「みおのことをみてよ!」
「あ、はい。大神さんも白上さんも少し落ち着いて下さい。少し離れてくれませんか?」
「や~だ~~~」
「みおもはなれないよ」
大神さんと白上さんは離れる様子が全く見えない。さっきよりも少し力が強くなったと感じるのは僕の気のせいだろうか。
「しらかみのことをすきっていってくれたらはなしてあげますよ~」
「それはさすがに言えません」
「し…らかみ…のこときらい…な、なんですか……?」
目に涙を浮かべてこちらを上目遣いで見つめて来る。白上さんは僕がこれをやると断れない事を知っているのではないだろうか…。たぶん、薬の影響でこうなっているのだとは思うんですが。
もうこうなってしまった観念して白上さんの言う通りにしてがえた方が良いのかも。
「全然、嫌いじゃないですよ。もしろ好きですよ」
「すき、すき、すき、すき…しゃいんさんはしらかみのことすき…」
白上さんはずっとそれを呟いている。呪いの呪文を唱えているように。
「みおのこともすきだよね?」
「はい。大神さんのことも好きですよ」
「…すき…」
前のように振りはらって逃げたいけど、さすがに二人に掴まれていると簡単には抜け出せない。ここで大人しく誰かが来てくれるのを待つのが一番いいかもしれない。そんなことを考え始めたのと同時に誰かの視線を感じたのでそちらに視線を移すとそこには……猫又さんと戌神さんがこちらを静かに見ていた。
「ねぇ、しゃいんく~ん」
「しゃいんさん~」
もう明らかに何だかの影響を受けているのはほぼ確実かもしれない。
「お二人とも……」
「あ~~ふぶきちゃんもみおちゃんもだきついてる」
「ずるい~」
この二人が来た事でもう確実に収集が付かなくなってきた。これ以上、あの薬を飲んだ人が現れない事を切に願う。今でさえもう手一杯。
「しゃいんさんはふぶきのもの」
「ふぶきちゃん、くっつきすぎじゃない」
戌神さんはフラフラした足取りでこちらに向かって歩いてくる。今にも倒れそうで少し心配になってしまう。
「戌神さん、大丈夫ですか?」
僕のところまで倒れずにきた戌神さんのことを支えながら問いかける。元々、あの薬の正体に関して何も分かっていないのだ。どんな効果が起こるのか分かっていない。誰がこんなことをしているのかもわかっていないんだし、もしかして体に害があるような入っている可能性も零ではない。
「だいじょうぶ…だよ」
「あんまり無理をしないでください」
僕は優しく戌神さんの頭を優しく撫でた。こんなことをしたら嫌がられるかもしれないけど、なんか急に撫でてみたという思ってしまった。
「ぼくもなでてもらいたい~~」
「しらかみも」
「みおも~~」
社員さんや他の人が来てくれるまで僕は四人と一緒に過ごした。