本当にそろそろ眩暈がしてくる。この状況に置かれてもう三度目。この薬を僕のデスクの上に置いている犯人はまだ分かっていないがそろそろ勘弁して欲しい。
だがいつもと違うことがあった。それは薬の中身がもうなくなっていうということ。嫌な予感がして後ろを振り返るとそこには――――――――――――
銀髪の天使の姿があった。
「天音さん、一旦距離を置いてくれませんか?」
「ボクは社員さんに抱き着きたいんです」
「いや、その考え自体がおかしいですから」
「全然おかしくないですよ。ボクは社員さんに一目惚れをしてしまったみたいで。社員さんのことを見るだけで今にも襲いたい衝動が湧いてくるんです…」
もう確実に薬のせいとしか考えられない。いつもだけど、天音さんはこんなことをするような人ではない。このままここに居たら天音さんに襲われてしまうかもしれないので一応、逃げることにした。だが世の中はそんなに甘いものではないことを知った。
「つ・か・ま・え・た」
逃げようとした矢先に天音さんが僕の腰に手を回している。天音さんの力は強いと聞いていたけど、女性の天音さんがいくら強くても男の僕ならどうにかなるだろうと思っていた。でも全然どうにもならない。一歩も動けない。
「これで社員さんはボクのものだよね」
「天音さん、一旦落ち着きを取り戻してください!深呼吸をすれば一度落ち着けると思うので」
ここでまた逃げられないと色んな人が集まって前と同じようなことになる。ここで天音さんを落ち着かせるのがとても重要なのだ。
「だめだよ。社員さんは絶対にボクのもの」
そして嫌な予感というのは当たってしまうもので、天音さん以外にもこんな感じになってしまった。
「パイセ…ん」
「…桐生さん……」
「好き……」
普段の桐生さんだったらもっと明るいのに今日は俯きながら少しずつ近づいてきた。明らかにおかしいのが伝わって来る。
「かなたん…パイセンから離れて」
「や~だ~~社員さんはかなたのもの」
「パイセンは私の」
そして桐生さんは僕の目の前まで来ると抱き着いてきた。
変にここで二人のことを振り払おうとして怪我をさせる訳にもいかない。ホロメンの方々を怪我させてしまったらさすがに僕もこの会社にはいられない。
僕を意を決して二人の力が緩んだ隙を見て逃げ出すことに成功した。出来るだけ早くあの場所から離れるためにも腕を目一杯振って走っている。普段であれば事務所の中を走るなんてことは危険だけど、今は時間が遅いこともあって事務所に残っているスタッフは僕だけしかいない。
走っていく先に居たのは…角巻さんだった。
「だめぇ…」
「角巻さん」
「離れないで…わためぇと一緒にいよう」
角巻さんの目はもう完全に洗脳されているかのようだった。薬で影響を受けた人は同じような目をしているのが最近分かった。
「…そう言って頂けるのは嬉しいのですが離してくれませんか?」
「わためぇは社員さんと一緒にいたい」
上目遣いで言われると薬でこうなっているのが分かっていてもドキッとしてしまう。ホロメンの方々にこのような感情を抱くのはダメだと分かっていても…。
「…はい」
「じゃあ、わためぇと一緒に」
そして俺は少しの間、じっと抱きしめられていたが二人の声が聞こえて我に返った。
「社員さんはボクの~」
「パイセンはかなたんじゃなくわたしの」
僕はなるべく怪我をさせないように優しく角巻さんを振りほどいた。そしてまた出口をめがけて走り出した
そんな簡単に逃げられる訳ないですよね…。僕の目の前には常闇さんが立っていた。
「常闇さん…」
「どうしたの?そんな血相を変えて」
この感じだと常闇さんは何も影響を受けていないように見える。だとしたら同じ状態になる前に常闇さんをどこかに避難させないと。僕は常闇さんの手を取って急いで駆け出した。
「常闇さん!ここは今危険です!事務所から急いで逃げてください!」
急に手を取って駆け出したこともあって常闇さんが困惑しているのが分かる。
「ど、どうしたの?いつもの社員さんらしくない…」
「いや、今は本当に危ないので!」
でも、常闇さんが足を動かすのを止めていき、最終的に止まってしまぅた。僕としては一刻も早くこの場所から逃げたいという想いが強い。
「常闇さん、急いでください!」
「だから何が危ないの?」
「…落ち着いて聞いて下さいね。今、天音さんや桐生さん、角巻さんが少しおかしくなってしまったんです。多分、前にもあった『ある飲み物』を飲んでしまったためにおかしくなってしまったんだと思います。今はその影響を受けないようにするためにも一度事務所から離れる必要があるんです」
僕はなるべく早く簡単に今の状況を常闇さんに説明した。
「…そうなんですか……それってこういうことですか」
すると常闇さんは急に僕の背中に手を回して抱きしめてきた。一瞬、僕の思考は停止してしまった。
「え……」
「ごめんね、社員さん。トワも我慢してたけど、さすがにこれ以上は無理そう…。本当は社員さんと会った瞬間から襲おうとする気持ちを抑え込んでいたの。すぐに社員さんがどこかに行ってくれれば抑えきれてたけど、社員さんがトワが何も影響を受けていないと思って手を繋いだ瞬間に全てが途切れた…。先に謝っておくね。これからトワはもう色々とするから」
「……と、とこやみさん、しっかりしてください!!正気の戻ってください」
「もう無理…」
すると常闇さんも僕に抱き着いてきた。
やっと出口が見えてきたのと同時に……少し絶望した。だって出口の目の前に姫森さんが眠そうにしながらも立っている。まるで逃げ出さないかのようにしているかのように。
「るな~」
「………」
「あ、社員…さん。ル~ナたちの言うことを聞かないとだめ~~」
「そこをどいてはくれませんか?」
「だめ…」
「そうですよね」
言うだけでどいてくれるような精神状態ではないと思うし。他の四人の状況から見ても姫森さんも薬の影響を受けていると考えるのが普通。
「んな~~~~」
ここから抜け出すために色々と思案を巡らせていると…一つの方法を思い付いた。僕はポケットからチョコを取り出した。本当は夜遅くなるから小腹にでもいいかなぁと思って持ってきていたもの。
「お菓子あげるからこっちにおいで」
こんな子供だましのような罠に引っかかってくれるか不安だけど、今はこれしか手段がない。
「…お菓子くれるの?」
「はい、こっちに来てくれればあげますよ」
半信半疑だったが姫森さんは少しずつこっちに近づいて来てくれた。そして僕からお菓子を受け取ると姫森さんは目を輝かせてお菓子を食べ始めた。
よし、これを気に逃げようと出口へと走り、あとちょっとで外に出られると思った瞬間に後ろから掴まれた。
「だめだよ。社員さん、トワたちから逃げちゃ」
「そうだよ~わためぇは社員さんと一緒に居たいの」
「パイセン、一緒にいよ」
「ボクたちと一緒に」
そして最終的に翌日に社員が出社してくるまで…僕は四期生の方々に様々なことをされた。