「え……どうなっている」
ボクは鏡に映る自分の姿を信じることが出来ない。あなただったらどうだろう。朝、起きていつものように洗面所に行ったら……性別が変わっていたら…。
こんな夢物語のようなことが起こっている現実を信じられない。
「…………」
受け入れられない現実と対面すること十分が経って、ボクは昨日のことを思い出した。
昨日は仕事で忙しくて帰って来たのは日にちが変わるギリギリだった。急いで風呂に入って寝る支度も簡単に整えてすぐに寝た。別に変わったことをしたわけではない。
「だったら一体これは…」
別に何かをしたら性別が変わるなんて事はないけど、この状況を理解するためにも何か納得させるだけの理由が欲しい。
それから数分の間、色々と思案を巡らせたが結果が出ることはなかった。それはそうだ。どんなことをすれば性別が変わるのだろうか。
「仕方ない…」
今日はどうしても仕事を休み訳にはいかない。夏に近づくにつれて仕事も忙しくなる毎日。そんな時に休みなんて事は出来ない。
でも、女性的な体になってしまったので男性の時の体とは違う。身体的な特徴は目で見るだけで明らかに分かってしまう。でも、さらしなんて持っていない。
「なるべく目立たないような服にしようかな」
それからボクはなるべくいつもと同じように見えるような服を着た。
いつもよりも視線が気になってしまうのはボクの意識的なものなのか、それとも……いや、そんな事はない。事務所の入り口のところまで行くと足が止まってしまった。いつもの如く、ボクは来るのが早い事でまだ事務所には誰もいなかった。
「えーさん…」
「え、だれですか?」
「…ボクですよ」
「え?」
そしてえーさんに話を聞いてもらおうと思ったら、なぜかえーさんは僕の胸辺りに視線を移してすぐに気絶してしまった。
後ろに倒れそうになっていたのでどうにか支えた。息は落ち着いていたので一先ず休める場所に運んだ。
えーさんが気絶した理由は分からない。
でも、もしかしたらボクが女性の体をしていた事に驚いたのかも。えーさんが目覚めるまで待っていようかな…と考えたところで朝一番でやらなければいけない仕事があることを思い出した。
ボクは自分のデスクまで向かって着くと急いでパソコンを立ち上げて作業に取り掛かろうとしたら後ろから急に肩を叩かれた。もしかしたら、えーさんが目覚めたのかなぁと思って振り返るとそこに居たのはフブキさんだった。
「え、誰ですか?」
白上さんはボクが誰なのか分かっていないのだろう。何でこの人はこの席に座っているんだろうという感じなのかな。確かに今のボクはかなり違うからな。
「ボクですよ。白上さん」
「だから誰ですか?不審者ですか?」
このままだと不審者のまま通報されかねない。何か今のボクがボクである証明を出さないと。ボクはポケットに手を突っ込んで何か証明出来るようなものがないか探した。そしてボクはある物を白上さんの目の前に差し出した。
「これでどうですか!??」
「…これって……社員証………え、これはあの人の社員証…」
「そうです。だからこんな体になってしまっていますけど、ボクなんです」
「そうなんですか。ちょっと立ってもらえますか?」
「え、はい」
そして席から立ち上がって白上さんの目の前に立つと…白上さんは急に僕に寄り掛かってきた。
「ど、どうしたんですか!?」
「ちょっと我慢してくださいね」
そう言って白上さんは急にボクの背中に手を回した。所謂、抱きしめてきた。
「やめてください」
「本当にいい匂い。やっぱりこの匂いは確かに社員さん。だとしたら社員さんが言っていることは本当なんですね」
「だ、だから本当だって言ってるじゃないですか!!それよりも一旦、白上さんは距離を取ってくれませんか?」
「やですよ~~こんなことになっちゃった社員さんを放す訳ないじゃないですか。それに今の社員さんの力だったら白上を引きはがすことも出来ないですしね」
力を入れてみて…白上さんの言うことが本当だということを知った。女性の体になったのと同時に力も落ちてしまったようで白上さんを引きはがすことすらビクともしない。
「…はなれて、ください…い」
「ダメだよ。なんで女体化しちゃったのかは分からないけど、こんな機会は滅諦にない!今こそ社員さんを白上のものにするチャンス!!」
「は、はなして…」
いくら力を入れても確実に抜け出せない。ボクはこれから白上さんにどんなことをされるか分からないので少し上目遣いをしながら必死に離れてくれるように口にした。
「……はぁ…はぁ、はぁ……破壊力満点ですね」
なぜか白上さんは少し息が荒くなっている。恐る恐る、白上さんの顔を見るとさっきよりもボクを見る目は怖くなっていた。まるで今から取って食おうとしているように。肉食動物が草食動物に目を付ける時と同じように感じた。
「え、どうしたの?」
「あ~まつりちゃん」
「なんでフブキは女の子のことを抱きしめてるの?」
「聞いておどろけ~この可愛い子は社員さんなのだ~」
「え、なに言ってるの?フブキ」
「だからこの子は社員さんなの。まつりちゃんも匂いを嗅げば分かるよ?」
そして夏色さんもボクの近くに来て匂いを嗅ぎ始めた。本当にこの人は犬か何かなのだろうか。そう思っても仕方のないこと。
「ほ、ほんとだ!!この匂いは社員さんだ!!え、じゃあ本当に社員さんなの?」
「だから白上はそう言っているじゃない。この子は社員さんなの」
「それは分かったけど、なんでフブキは社員さんに抱き着いているの?」
「だって今なら社員さんは白上に抵抗を出来ないから」
白上さんは夏色さんと話している時も抱きしめる力を弱めてくれない。本当に離してくれるつもりはないみたい。
「そういうことか~~確かに今なら社員さんを…」
「ちょっと夏色さんまで変な考えを起こさないでください。白上さんだけでも手に負えないのにここに夏色さんが加わったら本当に止めようがなくなってしまうので」
でも、そんなボクの言葉も届かず、夏色さんも白上さんとは反対方向から抱きしめてきた。もう完全に抜け出せない。白上さんだけであっても力で買えないのに、ここで夏色さんが加わったら確実に脱出は不可能。
「も……もう…はなして…」
「ダメだよ。社員さん」
「今日はまつりとフブキが社員さんを独占するから」