桃鈴ねねさんはとても明るい人。どんな時でも笑顔で側に居ると元気づけられる人。桃鈴さんは意識してやっていないかもしれないがこれは本当にすごい才能。誰にでも出来るようなことではない。
でも、そんな桃鈴さんは…深呼吸を繰り返して必死に落ち着かせようとしているのが端から見ても分かるほど。桃鈴さんがここまで緊張しているのは……これから案件配信が待っているからだ。桃鈴さんもそれなりに案件配信には慣れているはずだが今回の案件に関しては少し事情が違う。案件配信に大きい小さいは存在しないんだけど…今回の案件は正直今までの案件と比べるとかなり重要度が高い。
「桃鈴さん」
「え、社員さん…」
「一旦…落ち着きましょう。まだ配信までは時間はありますし、今からこの感じだとさすがに本配信が終わるまで持たない気がしますし」
「…う、うん」
そしてまずは椅子に座らせて落ち着かせた。少しでも落ち着きを取り戻して…なるべく本来の力が出せる桃鈴さんのような状態にしなくては。
「桃鈴さんって好きものとかってありますか?」
「う~~ん……餃子とか…?」
「餃子!??」
自分が予想しているよりも…斜め上の返答で困惑する。
「うん!餃子が大好き!」
「じゃあ、この案件配信が終わったら…桃鈴さんが空いている日に美味しい餃子を食べに行きますか?」
「え…いいの!?」
「はい。それに何かご褒美があった方がやる気が出ると思いますし」
「うん!…じゃあ、餃子を食べに行こう~」
さっきよりも桃鈴さんの顔に笑顔が増えてきた。美味しい餃子を探しておかないと。
「他に何かして欲しいこととかありますか?」
後10分もすれば桃鈴さんは案件配信に行く時間になる。刻々と近づいてい来る、配信の時間。さすがに顔がまた強張り始めた。緊張しない方が無理な話だし、緊張することは別に悪いことではない。
「じゃあ…抱きしめて」
「…ん?」
「抱きしめて…ねねって抱きしめられる安心するの」
「で、でも…さすがにそれは」
「え~~抱きしめてくれないの?」
桃鈴さんは上目遣いような形で僕を見つめて来る。只でさえ、可愛いのに上目遣いで見つめられたら断りにくい。皆さんも桃鈴さんから上目遣いをされたら断れるかを考えて欲しい。
「………わ、わかったよ」
普通であればどんな理由であったとしても断るようなこと。なのに……断れない。
「やった~~」
「ほ、ほんとうによかったのかなぁ」
こんなことをしたらタレントとスタッフという関係性が……。別にこれを機に桃鈴さんとの関係性が代わる事はない。でも一度でもこういうことをしてしまうと…自分の中で決めていた、タレントとスタッフの関係が壊れてしまうかもしれない。
「やっぱりやめないかい」
「ダメ~~ほら、早く抱きしめて~~」
桃鈴さんは目を閉じて、手を広げて待っている。なんかその状態で待たれると…もう抱きしめるしか選択肢がないだ。僕は深呼吸をして…桃鈴さんを抱きしめた。これで本当に良いのか分からないけど、もう抱きしめてしまったんだから後戻りは出来ない。
「やっぱり抱きしめられると落ち着く。社員さんと社員さんの匂いが包んでくれる…」
「そうですか…」
「うん!社員さんの匂いはとっても落ち着くの」
それからしばらくの間、この状態が続いた。桃鈴さんは離れる気がないらしく強く抱きしめている。さすがにそろそろ離してもらわないと…時間になる。
僕がそんなことを考え始めたのと同時に…ドアをノックする音が聞こえてきた。
「桃鈴さん、お時間なので準備の方をよろしくお願いします」
「は~~い」
ドアを開けられていたら僕はスタッフを止めることになっていたかもしれない。そんな僕とは正反対で桃鈴さんは満面の笑みを浮かべていた。
「そろそろ時間だ~~ 社員さん、ありがとね~~~ とっても落ち着いた。」
「そ、そうかい…。それなら良かった」
「ねねは頑張ってくるよ~~」