「ラプちゃん、手を離してくれない?」
「ダメですよ。社員を渡す訳にはいかないので」
そんなギクシャクしている二人の間に挟まれている僕はどうすればいいんだろうか。一刻も早くこの二人から離れたいけど…現実はそう上手くいかない。だって二人の側には残りの1期生と6期生が僕を取り囲むようにしているのだ。さすがにタレントさんに怪我をさせる訳にはいかないですし。
正直、自分もなんでこんなことに巻き込まれているのか分からない。事務所でデスクワークをしていたら急に白上さんとラプラスさんが話し掛けてきてそれに従っていたら会議室みたいなところに連れてこられた。そして今のような状況に陥っている。
二人に話し掛けたいが雰囲気がそれをダメだと物語っている。
「フブキ先輩、社員はholoxのものだ」
「社員さんは1期生のものだよ」
いやいや、僕はどちらのものでもないですよ。僕はホロライブのスタッフなので。
「あ、あの「社員(さん)は静かにしてて!!」
「は、はい…」
女性って怖い。今も白上さんとラプラスさんはお互いに睨み合うような形ですし。
「ねぇ…まつりたちから社員さんを奪おうとするなんて許さないよ」
「それは違いますよ。まつり先輩たちが私たちholoxから社員さんを奪おうとしているんです」
この人たちは一体どうしちゃったんだろう。また何かおかしなものの所為でこうなっちゃっているんじゃないだろうか。だっていつもの…ホロメンの方々と全然違う。
「こよたちの社員さんは絶対に渡さない」
「ううん。社員さんはメルたちのだよ」
「社員さんは沙花叉のことを「好きだよ」と言ってくれましたよ~」
その瞬間、1期生からも沙花叉さんを除く6期生からも鋭い視線が向けられた。僕はすぐに首を横に振った。だってそんなことを言った覚えはないです。
「…え~~わすれちゃったんですかぁ~~」
「そ、そんなことを言った覚えは……ないと思う」
なんかあそこまで自信たっぷりに言われると…もしかしたら言ってしまったのではないかと気になってしまう。酔った勢いで言ってしまったという可能性も零ではないけど、沙花叉さんと一緒に飲みに行ったという記憶はないんだけど。
「アキローゼの社員さんに変なことしたら許さないよ」
「それは社員さんに聞いてみてくださいよ~」
今度はアキローゼさんからの鋭い視線。
「はあちゃまの社員くんだよ!」
「風真のでござる」
白上さんはお互いの吐息が聞こえるぐらいまで近づいてきた。さすがに僕の方が後ずさってしまった。
「社員さんも1期生の方がいいよね?」
「…え……」
戸惑っていると今度はラプラスさんが近くまで来た。
「吾輩たちの方がいいよな?」
「…え……」
二人の視線と合わせて周りの人たちの視線もこちらを向いてはいる。どちらを答えたとしても最悪なら答えは決まっている。それに大前提として僕は誰のものでもないですし。
「皆さんといると楽しいですよ」
これで皆さんが落ち着いてくれると嬉しいんですが…。
「そ、それは…うれしい。でも…順位を付けるとしたら私たちですよね!?」
「ううん。ぜ~~ったいに吾輩たちだよな!!」
簡単に二人は引き下がってくれそうにはない。
「そろそろ仕事に戻らないといけないので……」
正直、ここには時計がないし、腕時計もしていないし、端末もデスクに置いてきちゃったし、時間を確認できるようなものがない。自分がデスクを抜けてどれだけの時間が流れたのか。さすがに長時間も抜けるのはマズイ。
「大丈夫ですよ」
「だ、だいじょうぶ?」
「はい。社員さんは体調が悪くなったので早退すると伝えておいたので」
「え…」
さすがに驚きを隠せない。勝手に早退すると伝えられているとは思いもしなかった。でも、白上さんが言ったんだとすれば上司も疑わずに信じたはずだ。
「だって1期生が今日は社員さんを独占しますからね」
いや、それだけでまさかそこまでするとは……。
「もうこれ以上、言い合っても何も決まらないし、社員さんに決めてもらおう」
そしてなぜか…1期生の方も6期生の方も急に片膝を床に着けて僕に片手を差し出してくる。本当に他の社員の方が来たら…異様過ぎる光景に絶句だろう。
「社員さんは白上たちのものになって。白上たちが一番社員さんのことを想ってますよ」
「まつりたちはとっても社員さんのことを気に入っているの。だからまつりたちのものに」
「アキローゼたちが社員さんのことを一番好きだよ。アキローゼたちと一緒になろう」
「メルたちは社員さんが好きだよ。メルの眷属になってよ」
「はあちゃまの社員くんだよ。誰にもあげないよ」
「吾輩たちの社員だよな。他の奴のものにならないよな」
「ルイたちの社員さんだよね。社員さんが好きなものを何でも作ってあげるよ」
「こよたちは社員さんのことが好きだよ。世界のだれよりも好きなの!」
「沙花叉のお世話をしてよ。社員さんだったら沙花叉なにされてもいいよ」
「風真たちの側にいて。絶対に風真が社員さんのことを守るから」
なんでこの人たちは僕のことを自分のものにしようとしているの。僕にそんな価値はないって。
でも、ここでどちらか選ばないと――――――――