一度は触ってみたいという欲が湧いてしまう。悪いと思っているものの触ってしまいたい。でも触ってしまったら今までの信頼関係が壊れてしまうかもしれない。それに下手したら訴えられる可能性もあるし、この仕事をクビになってしまうかも。それでも後悔がないのかと自問をするとすぐに答えは見つかった。
『後悔はない』
そして僕の手は博衣こよりさんの尻尾へといき…そして触った。その瞬間、博衣さんも気付いたようで恐る恐る振り返ってきた。
「し、しゃいんさん!?」
「すいません。どうしても博衣さんの尻尾を触れてみたくて触れてしまいました!!」
でもやっぱり博衣さんの尻尾はもふもふで心地よかった。時間にすれば本当に一瞬だったかもしれないですけどそれでも後悔はない。
「…さ、さわるときはいってください!!」
「え…それでいいんですか。僕としてはクビにされるぐらいの覚悟でやったんですけど」
「別に触られたぐらいでこよは何もしませんよ。急に触られたことには驚きましたけどそれでも社員さんがこよの尻尾を触ってくれて嬉しかったので」
「嬉しい?」
「はい!」
「誰かに触れられるのってそんなにいいものなんですか?」
「信用している人じゃなかったら普通に蹴り飛ばしてますよ」
博衣さんは笑顔で怖い事を言うことが多いと感じるのは気の所為なのかな。でもまあ…人間にとってのお尻のようなものなのかな。もし異性に触られたらそれは犯罪。蹴り飛ばしても普通のことかも。
「僕も蹴り飛ばしてもらって大丈夫ですよ」
社員としてタレントさんの体に触ってしまったのは本人が許したとしてもダメなこと。これから自分がこんな思考の陥らないようにしなくてはならない。それに今回のことにケジメを付けるためにも博衣さんに蹴り飛ばしてもらった方がいい。
まあ、博衣さんは優しい方なのでやりたくないという場合は無理強いをする気はないですけど。それもそれでパワハラにあたってしまいますし。
「さ、さすがにそんなことはしませんよ」
「でもさすがにこのままでは……」
「社員さんはなにか罰が欲しいのですか?」
「そうですね。こんなことをしてしまったので。何かしらの罰が下るべきだと思いますし」
もう二度と博衣さんの尻尾を触らないように。なにかの戒めが欲しいと個人的には思ってしまう。でもそれは自分のことであり博衣さんに迷惑を掛けてしまうのは悪い気がする。
「…じゃあこういうのはどうですか?」
「どういうのですか?」
「こ、これからこよの下僕になるというのはどうですか?」
「え?」
普通に聞き返してしまった。だって自分の耳に聞こえてきたことが…信じられるようなことではない。だから多分、僕が聞き間違えただけ。
「…こよの下僕になってくれませんか!?」
「…」
どうやら聞き間違っていないようで確かに『下僕になってくれませんか!?』と言っている。
「こ、こよの下僕に…!」
「あのなんでそんな願いになってしまったのかを聞いてもいいですか?」
「だって社員さんのことをこよの下僕にしたかったの!そしたら社員さんがこよの言うことに従ってくれるんですよね!」
なぜか博衣さんは目を輝かせて僕の方を見て来る。
「……ど、どうなんですかね」
「こよは社員さんのことを下僕にしたいんです!!」
博衣さんがどうして僕のことを『下僕』にしたいのか分からないですが…それを博衣さんが望んでいるんであれば下僕になってあげるべきかもしれない。
「本当に下僕になって欲しいんですか?」
「はい!!」
良い返事が聞こえてきたので僕はそれを承諾することにした。自分に対する罰がどんな形でもあるのは…いいこと。これを戒めにこれからこんなことが起こらないようにするためにも。
そして次の日曜日に僕は博衣さんの家に来ていた。インターホンを鳴らしてドアが開くのを待っていると数秒後に勢いよくドアが開き、中からは満面の笑みを浮かべている博衣さんがいた。
「待ってたよ!」
「あ、はい。お待たせしてしまってすいません」
部屋に入ると、とても綺麗に整頓されていて女性の部屋という感じ。沙花叉さんの部屋とは天と地の差と言ってしまってもいいぐらい。博衣さんはお茶を用意してくれてそれを飲んでから本題へと話しをうつす。
「それで博衣さんの下僕になればいいんですね?」
「うん。お願いします!」
「期間はどれくらいにしますか?」
「社員さんはいつぐらいまで大丈夫そうですか?」
「僕はいつまででも大丈夫ですよ。でも一ヶ月ぐらいが妥当ですかね」
「い、いっかげつもいいんですか!?」
「はい。一ヶ月ぐらいが普通じゃないですかね。仕事の時だけはこの関係は無しという状況さえ飲んでくだされば」
さすがに社員として打ち合わせや色々とすることがあるので博衣さんだけを優遇するわけにはいかない。仕事にそこまで影響が出るようなことは避けなければならない。
「わかっています」
この瞬間から僕と博衣さんの関係が主人と下僕に決まった。
「それじゃあまずはご飯を作ってもらえない?」
「分かりました。お嬢様のお願いとあれば」
こういう時の可能性も考えて今日は色々と買ってきて良かった。僕は冷蔵庫の中を確認してから調理を始めた。料理に関してはある程度は出来る方だと自負している。
調理をしていると博衣さんが後ろから抱き着いて来る。
「お嬢様」
「やっぱりお嬢様じゃなくて『こより』って呼んで」
「でも一応下僕ですし」
「下僕ならご主人様の言うことが全てだよ」
確かにそうだ。下僕である自分がご主人に口答えすることは許されない。僕は一度役に入っちゃうともうしばらくは抜けないんですよね。
「こより」
「うん」
「ちょっと離れていただけませんか?」
「だめ。こよはキミとずっと一緒がいいの。一緒じゃないとこよは泣いちゃう」
「そうですか」
調理をしている過程で包丁を使っている時だけは危ないので離れてもらいましたがそれ以外はずっと後ろに張り付ていた。ちょっとやしにくい感じもありましたが今の立場はこよりの方が上なのでどうにか調理をやり遂げた。
「美味しい!!」
「それは良かったです」
「今まで食べたどんな料理よりも美味しい!」
「そうですか」
誰かに『美味しい』と言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。一人暮らしで彼女もいないから作るとしても自分のためが多い。自分で時分の料理に『美味しい』と思ってもやっぱりなんか物足りない。
そして食べ終わると僕は食器を回収して洗うと次のお願いを言われた。それは『上半身の衣服を脱いでください』。
「こよりが望むのなら裸にでもなりましょうか?」
「そ、それは大丈夫!!!」
「そうですか」
僕は言われた通りに上半身裸になった。それに何の目的があるのか分かりませんが望まれた以上はそれに従うしかない。
「じゃあこよのことを抱きしめて」
「はい」
言われた通りにこよりのことを抱きしめた。
「これでいいですか?」
「…うん。もうちょっと強く抱きしめて」
「はい」
こよりが苦しくないぐらいの強さで僕は抱きしめる。今更だけどなんで僕は上半身裸になったのだろうか。服を着たまんま抱きしめたとしても何も変わらない気がするんですけど。
「やっぱりキミに抱きしめられると安心する…」
それから僕はこよりが安心するまでずっと抱きしめ続けた。その日はこよりのどんなお願いも聞いた。そこには本当に様々なことが含まれていて、郊外ができないようなことも。
もしこれが表に出たら僕が退職することになる。