僕が入社してから1カ月ぐらいの時間が流れた。そんな僕が未だにまともに話せていないホロメンが数人いる。
そのうちの一人が湊あくあさん。話に行こうとしても小走りに逃げられてしまう。逃げられてしまうということは嫌われてしまっているのか、怖がられているかもしれない。それだったらこっちから無理に近づこうとすれば拒否反応を示されるだろうから挨拶しに行こうにも行けないでいる。
今の状況を説明するのであれば…ある部屋で湊さんと向かい合う形で椅子に座っている。元々、これは打ち合わせ。この打ち合わせは僕だけじゃなくて湊さんのマネージャーもいるはずなのだ。だけど、マネージャーさんがどうやら寝坊してしまったようで僕と湊さんでマネージャーを待っている。
「…………」
「…………」
お互いに無言を付き通している。空気が重すぎて話せない。こっちから何か話題を振ってあげた方がいいよね。
「あの…湊さんって趣味ってありますか?」
まずは湊さんの話題を膨らませるのが一番いい。僕のことなんて知っても別に何もないし。
「…………」
これはかなり嫌われているのかも。湊さんはこっちの方を一瞬見て、逸らしてを繰り返している。やっぱり何かやっちゃったのかな。
「……………」
それからまた無言の時間が流れた。心の声を言っていいのなら『早く来てください』。このまま二人での時間がどれだけ続いていくのか分からないと思うと少し怖い。
「…うた……」
「…え?」
「…うた…」
僕は何を言っているのか分からなかったけど……少し考えてやっとわかった。
「あ、湊さんはの趣味は歌を歌うことなんですね。僕も休みの日とかたまにカラオケに行ったりするんですよ。湊さんは好きなアーティストの方とかいるんですか?」
少しでも会話を続けないと気まずい雰囲気になる。どうにかしてでも会話を伸ばすこと。
「……〇〇〇〇さん…」
「あ、いいですよね。僕も聞いたりしますよ」
それから僕は必死に話を伸ばしながらマネージャーの到着を待った。そして最終的にマネージャーが事務所に着いたのは約束の時間よりも3時間遅れであった。僕としては3時間の間、間を持たせるのに疲れてしまった。
「遅れてすいません!!」
「ううん。僕の方は大丈夫だよ。後は湊さんに謝っておいで」
色々と疲れたことはあったけど、まあ、これも良い経験になったということで。
「はい!!」
その後はマネージャーが湊さんに謝ってから打ち合わせを行った。でも、やっぱり思ったのは湊さんはマネージャーに心を開いているような仕草が多く見える。僕と二人きりってかなりキツかったんだろうな。
打ち合わせは一時間もすれば終わった。
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「はぁ…あの人には悪いことしちゃったな…折角、話してくれてたのに…」
ピンク髪色の少女はそんなことをぼやきながら帰路に付いたのだった。