橙色の空   作:通りすがりの猫好き

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どうも、また性懲りもなく読者参加型を始めた猫好きです。
活動報告でキャラを応募していますのでどしどし参加いただけると幸いです。
野球にあんまり詳しくなくてもOKです。なんせ私も、バッティングセンター以外で野球したことないので!



橙山樹という男

 

 地方大会決勝。八回の表、スコアボードは6対3の数字が刻まれた状態。守りに入っているチームはビハインドの状況だ。しかしリードは僅かに三点。ましてや現在2アウトランナーなし。この回、そして次の回をゼロで進める事が出来ればまだこちらにもチャンスは回ってくるはずだ、と守りにつく全員がそう信じていた。だが、何の巡りあわせなのか、ここで一番警戒するべきバッターに打順が回ってくる。

 

『一番・ショート。橙山君』

 

 アナウンスと共に左の打席に一番打者が入る。身長はおおよそ185mほど。中学生としては頭一つ抜けたその体躯は、細いながらも節々に鍛え抜かれているのが見て取れた。バッテリーの意図は一つ、とにかく長打だけは打たせない。そう気負いすぎたせいか、カウントは3ボール1ストライクとバッター有利。バッターは棒立ちのような構えを取ったまま、静止して動かない。この試合、何度も苦汁をなめさせられたそのフォームは、一見すると全く打つ気の無いようにさえ受け取れた。

 

「これでも食らいやがれ!!」

 

 投じられたのは内角低めへのストレート。打者は不敵に表情を歪め、ノーステップで一気に姿勢を屈めて火の出るような凄まじいスイングスピードでボールを掬い上げた。金属バット特有の甲高い音が球場に響き渡った。打球は高い放物線を描きながらライト側のフェンス奥へと吸い込まれていく。

 

「まじかよ…何で今の球を打てるんだ」

 

 打球の飛んで行った方向をがくりと膝を落として見つめる投手を横に、バッターはヘルメットを一層深く被りながら淡々とベースを回る。そして三塁コーチャーとハイタッチを交わした後、ゆっくりと両足でホームベースを踏みしめた。ヘルメットを脱ぎ捨てて、茶色い髪が露わになる。

 

「ナイスバッティング!」

 

「ウェ―――イ!」

 

「う―――い!!」

 

 もはや言語という概念すら置き去りにして、ベンチの選手達と騒ぎだした彼に監督は大きなため息をついた。

 

「おい、お前ら元気なのはいい事だがちゃんとマナーは守れよ。特に樹」

 

「えぇー、俺っすか!?いやいや、俺はどこからどう見ても選手の鑑じゃないっすか。なぁみんな!」

 

「あ―――、そうだな。うん、多分」

 

「…選手の鑑かって言われると正直…」

 

「何で微妙な反応すんだよ!?」

 

「…はぁ、先が思いやられるな」

 

 そして試合は進んで九回の裏、2アウト。最後の打者が放ったゴロは弱弱しく遊撃手である橙山のグラブに収まった。慌てる事無くゆっくりと二塁で待つ石黒へと送球し、審判がアウトを宣告する。その途端、ベンチにいた選手達も含めてマウンドへと飛び出していく。

 

「いよっしゃ―――!!優勝だ優勝!全国に行けるんだ俺たち!」

 

「おいおい、そんな騒ぐなって。本番はここからだぜ?」

 

「どうした樹、さっきの監督の言葉が効いたか?」

 

「ちゃうわ!…ほら、あれだよ。ここまでは通過点。俺の目標は全国制覇!そんでもって日本一を目指せる高校にスカウトされる事だからな!」

 

「ははッ、まーた樹が何か言ってら」

 

「いや本気だし!さては信じてねーなお前ら!!」

 

「おい君たち!喋っていないで早く集合しないか!!」

 

「「「は―――い」」」

 

 三重の中学野球界には知る人ぞ知る伝説がいる。彼の名は橙山 樹(とうやま いつき)。強豪・伊勢シニアで1番・ショートとしての地位を確固たるものとし、その類まれなる身体能力で幾度もチームの危機を救ってきた。しかし彼が伝説と呼ばれる所以は違う所にある。というのもこの男、ほとんど0か10しか出せないのである。初回に先頭打者ホームランとなる特大の一発を放ったかと思えば、その後の打席は全て三振などザラである。それでも出塁率は低い打率に比べて高く、一番で起用され続けるほどの爆発力とカリスマ性が、彼にはあった。

 

「集合!!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 試合後の整列を済ませた後、キャプテンを務める石黒の力強い一言で選手たちは緊張感を取り戻し、監督の元へと集合した。

 

「監督、お願いします!」

 

「「「お願いします!!!」」」

 

 若さ溢れる声と共に、帽子を脱いだ選手たちが一斉に監督へと視線を向ける。監督と呼ばれた中年の男は気だるげに頭を掻いた後、落ち着き払った声でゆっくりと、そして理路整然として話し始めた。

 

「ん、まぁ今日の試合はなんだ……まぁ及第点ってとこだな。でもな樹、三回のチャンス、あの場面で三振はいただけないな。せめてランナーを進める打撃をして貢献するぐらいしないと名門からのスカウトは遠いぞ」

 

「はい!」

 

「まーた樹のやつ、名指しで説教されてら」

 

「まぁ監督も期待してるんじゃねーの。本人も名門校に行きたいってずっと言ってるし」

 

「そこ!監督が話してる途中だぞ!静かにしろ!」

 

「「へ―――い」」

 

(相変わらず石黒の奴は固いな~)

 

(キャプテンになる前からあんな感じだからな、良くも悪くも堅苦しいというか)

 

「…とまぁ今日の反省点はこんな感じか。何はともあれ、全国大会への切符を手にした直後だ。各自今日はしっかりと休んで、次回からの練習に備えるように!以上!」

 

「「「ありがとうございました!!!」」」

 

 監督からのありがたい言葉も終わり、各々がそれぞれの目的へと散っていく。家族の迎えを待つ者、チームメイトとの他愛ない世間話に興じる者、本当に人によってそれぞれだ。石黒なんかは自分のグラブを磨く作業に没頭している。樹が準備をしていると、よくつるむ仲間の二人組が話しかけてきた。

 

「おーい樹、今から買い食いしに行くけどお前も来るか?」

 

「悪ぃ。全国大会出場も決まった事だしさ。先に行くとこがあんだ」

 

「あ―――、いつもの?」

 

「そうそう、んじゃまた練習でな!」

 

 手を振って駆け出す樹の背中は、いつにもまして軽やかだ。その元気な姿が小さくなるまで見送った後、二人はまた話し出した。

 

「あいつ、嬉しそうだったな」

 

「本人は通過点って言ってたけど、やっぱ嬉しいんだろ」

 

「隠してるつもりだろうけど、バレバレだっての」

 

「それで今日はどこに寄る?試合終わった後だし、俺は揚げ物が食いてぇ」

 

「それな。コンビニで唐揚げ棒でも買うか!」

 

「じゃんけんで負けた方が奢りな」

 

 時計の時刻は午後4時を丁度通り過ぎたところだ。楽しそうにだべりながら、二人は歩き始めた。

 

 

 

 試合会場から電車に揺られること十数分。そこから歩いて十分もしないうちに樹は目的地へとたどり着いた。白くて大きく、そして一番上には赤い十字のマークがある建物。そう、病院である。いつも通り受付を済ませ、駆け足でエレベーターに乗り込む。光っている「8」のボタンを確認した後、片手間にスマホをいじりながら到着するのを待った。

 

『伊勢シニア、2年連続全国大会出場。一番橙山が5打数3安打2ホーマーの活躍』

 

 スマホで野球のニュースを見ていた樹の目に留まったのは先ほど更新された中学野球の記事だ。その記事を開いてみると、端的に試合の成績と活躍した選手の情報が書かれていた。見出しにあったように、そこにはホームランを打った瞬間を撮影した写真が貼られている。そして最後には「橙山の活躍に名門大阪桐陽も熱視線か」と締めくくられていた。

 

「…むふふ」

 

 気づけばつい声を出してしまっていた。同乗者たちの怪訝そうな視線が一斉に突き刺さる。しまった、と思った時にはもう遅い。樹はばつが悪そうな顔で口を抑え下を向いた。助け舟が来たかのようにエレベーターが8階に到着する。しめた、と言わんばかりにそそくさと逃げ去るかのようにエレベーターを降り、目的の病室へ向かう。

 

「813号室…ここだな」

 

 いつも通り、確認は忘れない。以前確認を怠って別の病室に入って恥ずかしい思いをしたことがあるから、そこらへんは忘れない。入った先には真っ白なベッドが4つ。その奥、窓際のベッドに目的の人物がいた。彼は病室の入口に背を向け、何をするでもなくただただ外の景色を眺めている。会いに来る時はいつもそんな感じで、こちらが声をかけるまで振り向いた事がない。

 

「じいちゃん」

 

「…ん?何だ樹か」

 

「なんだとはなんだ。可愛い可愛い孫が会いに来たっていうのによー。それにさ、今日は大事な報告もあるんだぜ?」

 

「わざわざ試合の報告に来んでもええわい。だいたい、報告に来るのは日本一になった時だけと言っただろうが。…んで、勝ったんだろ?」

 

「…!そうそう、勝ったんだよ!全国大会に出れるんだよ俺!ホームランも二本打ったしさ!!」

 

 目を輝かせながら矢継ぎ早に語りだす樹を前に、彼の祖父、橙山勝男は何度も頷いてくれた。口では冷たい事を言いながらも、そうやって話をちゃんと聞いてくれる勝男の事を樹は好ましく思っている。思えば、樹に野球を教えてくれたのは勝男だった。

 

 既に勇退こそしていたが、高校野球の監督を務め、かつては甲子園出場も経験した勝男が樹に授けたのはとにかく強いスイング。空振りしてもいいから常に強く振る気持ちを忘れるな、とは勝男の言葉だ。今の彼のスタイルが確立されたのは、祖父の影響が強かったのである。

 

「勝男さーん、回診の時間ですよ。ってあら、樹君も来てたのね」

 

「あ、どうも、お世話になってます!」

 

「聞こえたわよ、何でも野球の全国大会に出るんだって?野球はあんまり詳しくないけど、頑張ってね!」

 

「任せてください!そりゃあもう全打席ホームランを打ってやりますよ!…っとそろそろ時間か。じいちゃん、またな!」

 

「おう、次に来るときは…」

 

「優勝してから、だろ?分かってるって!」

 

 じゃあなー、と元気に手を振りながら病室を出ていく樹を見送った後、勝男は少しだけ頬を緩めた。

 

「あれ、どうしたんですか勝男さん、にやけちゃって」

 

「…いや何、やはり孫の成長を見るのは嬉しくてな。こりゃあまだまだ長生きせんといかんな」

 

「そうですねぇ」

 

 

 時間はあっという間に過ぎ去り、季節は秋となった。図書館で参考書を広げながら、樹はペンを回して天井を見上げていた。三年生ともなれば当然受験勉強に集中するべき時期だが、樹の関心は別のところにあった。ずっと音の鳴らないスマホを眺めては、ため息をつく。ずっとこの繰り返しだ。

 

「…スカウト。全然来ねぇなあ」

 

 これまで来たのは県内の中堅に位置するチームのスカウトのみ。第一志望だった大阪桐陽からのスカウトどころか、県外の強豪校からもお誘いは未だに来ていなかった。この時期になっても音沙汰がないというのはつまり、そういう事なのだろう。

 

「やっぱ、全国大会でいい成績残せなかったのが響いてんのかな」

 

 夏の全国大会。樹の所属する伊勢シニアは順調に勝ち進み、3位に輝いた。不動のレギュラーだった樹も当然、一番ショートとして全試合に出場した。しかし現実は非情だった。全国レベルの選手相手に三振の山を築き、結局10打席に1本ヒットが出るのがせいぜい。ホームラン3本と本人が望むような成績は残せなかった。守備でも安定感を欠き、エラーを連発していた。全国レベルの打球はやはり速さが違うとはいえ、それでも自分が通用していなかったのは事実だ。

 

「あーあ、俺ってば勘違いしちゃってたかも」

 

 一言で表すなら、正に井の中の蛙。ちょっとばかり人より野球が上手かったゆえに自惚れていたのかもしれない。体を伸ばしながら一人ぼやく。仲の良かったあいつらは野球を続けるんだろうか。…まぁ続けるんだろうな、あいつら野球が好きだろうから。俺はどうなんだろう。確かに野球は楽しかったけど、それは優越感があったからなのだろうか。あぁ駄目だ。考えれば考えるほど分からなくなる。

 

「ダーメだ、集中できねぇ」

 

 もはやペンを回す手すら止まっている。こんな状態では何も手につかない。どこか違う場所に行きたい。使い古したペンケースにシャーペンをしまい、図書館を出て自転車に乗る。行先はもう、決まっていた。

 

「…それで、俺に相談しに来たわけか」

 

「はい、時間をとってもらってすいません」

 

「構わんさ。お前にとって大事な話だからな」

 

 グラウンドでは、後輩たちが熱心に練習に励んでいる。その外で、樹は監督と話をしていた。話題はもちろん、野球を続けるかどうかについて。そんなもの、自分で決めるべきなのは百も承知だ。それでも誰かに打ち明けたかったのだ。頭に憑りついたもやを、心に潜む黒い感情を。監督は少し空を見上げた後、ぽつりぽつりと語り始めた。

 

「まぁ無理にやめるなとは言わんよ。これからどうするもお前の勝手だ。ただな、このままやめると後悔することになるかもしれん」

 

「それは、確かにそうっすけど」

 

「どんな人間だってずっと何かに打ち込んでいられるわけじゃない。お前みたいに道半ばで冷めてしまう奴だって大勢いる。」

 

 俯いたまま、樹はじっと話を聞く。

 

「人生は長い。お前らはまだまだ若いんだから青春なんてこれからだ。だからこれからもっと楽しいことだってたくさんあるさ。でもな、俺が見ている限りお前は楽しそうに野球をしていたように見えたぞ」

 

「監督は、俺に野球を続けて欲しいですか」

 

「そりゃあ続けて欲しいさ。お前にはセンスがあるし。だけど、最終的に決めるのはお前だ。ま、無責任なようだが自分にとって何が一番か、考えるんだな」

 

「…難しいっすね」

 

「人生ってのはそういうもんさ」

 

 じゃあ頑張れよ、と肩を軽く叩いたあと、監督は練習場に戻っていった。ありがとうございました、と頭を下げ、自転車に乗り込む。周りから見れば俺は楽しそうに野球をしていたらしい。だとすれば、やはり続けることが正解なのだろうか。

 

「だ―――、分っかんね―――!」

 

 家に向けて自転車を飛ばしながら大声を出す。恥も外聞も知ったものか。分からないものは分からない。感情の赴くままにひたすら自転車を漕いだ。そうして家に着いた頃、スマホに通知が来ていたのに気が付いた。送り主は元キャプテンの石黒だ。メッセージには『今日の夕方、近くの〇〇公園で待つ』とだけ残されていた。果たし状か何かかよ。簡潔にまとめているのは石黒らしいと言えばらしい。とりあえず『分かった』とだけ返事をして、その時を待った。それにしても石黒から誘ってくるのは珍しいな。

 

 

「悪い、待たせたか?」

 

「いや、どうせ暇だったし」

 

「この時期に暇なんてことはないだろ」

 

「んぐっ…、うるせぇな」

 

 樹がスマホの画面を確認すると、ちょうど4時半になったころだ。本当に几帳面な人間だな、とある意味感心する。

 

「…僕は、東京に行く」

 

「あ?」

 

 いきなり何の話を始めるんだ。突飛すぎやしないか、おい。

 

「推薦での入学だ。東京の名門校で寮に入って、僕は甲子園優勝を目指す」

 

「…そーかよ」

 

 そっけない返事を返す。というか、一瞬喧嘩を売っているのかと思った。だってそうだろう、こちとら県外のスカウトは0だぞ。煽ってんのか。喧嘩なら買うぞ? …とはいえ、石黒はそれだけの成績を全国大会で残してきた。三番打者として一試合に1安打以上をキープし、持ち前のバットコントロールを遺憾なく発揮したのが大きかったのだろう。その上素行に関しては文句なしときた。そりゃあどこも欲しがるよな。

 

「だから、君とはライバルになる。小学生の頃の付き合いだが、高校からは敵同士だ」

 

「そーですかそーですか。まぁご勝手に頑張ればいいんじゃね?」

 

「君は…、君は何も思わないのか」

 

「何もって、逆に何の感想を持ちゃいいんだよ」

 

「…馬鹿者め」

 

「何か言ったか?」

 

「あぁ言ったさ。君は馬鹿だ。ちょっと上手くいかなかったくらいでしょぼくれやがって!そんなの、そんなの君らしくもない!」

 

 珍しく声を荒げる石黒に思わずたじろいだが、それよりも先に頭に血が上った。俺らしいって何だよ。それが分からねぇから今悩んでるんだろうが。

 

「お前に俺の何が分かんだよ!」

 

 分かるはずがない。だって俺すら自分の事が分からないのだから。あぁもう、最悪だ。何で俺は八つ当たりなんてしているんだろう。惨めだ。このままだと自分のことすら嫌いになりそうになる。

 

「分かるよ。…分かるよ。だって僕は、君と五年間ずっと二遊間を組んできたんだ」

 

「はぁ?それくらいで…」

 

「君が人よりずっと芯の強い人間だって!人一倍努力を続ける人間だって!僕は知ってる!ずっと横で見てきたんだから!」

 

「んなっ」

 

「僕はずっと君に憧れてた!君はいつだって僕の想像のその先にいた!だから君に並べるように努力した!…けどもう、それには限界がある。だって、だって僕は、女子だから」

 

 真っ赤になった石黒の目から大粒の水滴がぽたり、と零れ落ちていく。

 

「お前、泣いて…」

 

「身長だって多分もうそんなに伸びない。フィジカルに優れた男子たちの間に埋もれてしまうかもしれない。正直、不安で仕方がない。だけど、君は違う。君はまだまだ成長できるだろ! だったら諦めるなよ! 日本一になるんだろ! 道は違っても、同じ夢を追いかける同士であってくれよ…」

 

 最後はほとんど消え入るような声だ。その言葉で、理解した。―――あぁ、こいつは。知っていたのか、俺が野球をやめるかもしれないという事を。だからこんな不格好な形でも、俺に激励してくれてたのか。そう思うと、自然と顔の力が抜けていくのを感じた。

 

「…ははっ。はははははっ!」

 

「な、なに笑ってるんだよ。僕が泣くのがそんなに可笑しいか!」

 

「いや、いやいや。お前さ、励ますにしたって不器用すぎ」

 

「む…」

 

「でもさ、お前みたいなやつが居てくれて良かった。…うん、新しい目標、今思いついた」

 

「新しい目標?」

 

「野球を続けるよ。県内のどっかでさ。そんでもって、お前も倒して日本一になる。俺の名を全国に知らしめて、スカウトしなかった奴らを後悔させてやるんだ」

 

「…ふふふ、それは手強いライバルが出来たな。せいぜい僕と試合するまで負けるんじゃないぞ?」

 

「お前こそ、泣いてないでちゃんとレギュラーの座を奪えよ。最後までベンチ外の応援でしたとか俺は認めねぇからな」

 

「いいだろう、約束だ」

 

「ああ、約束な」

 

 樹が差し出した手を石黒が握り返す。確かに、こいつの手は華奢だ。でも、絶えず練習を続けた跡がしっかりと残っている。これならきっと、向こうに行っても大丈夫だ。何故かは分からないが、そんな感じがした。

 

「…あ」

 

「どうした?」

 

「ふふ、綺麗な夕焼け」

 

「んあ?本当だ。…はは、確かに」

 

 空を見れば橙色の空が二人を照らしていた。ずっと下を向いていたから気づかなかったのか。互いに笑い合いながら、樹は一層覚悟を決めた。道は決めた。今度は必ず掴んで見せる。中学で手にできなかった栄光を。次こそ、自分の手で。

 

 

 次の日、早速樹は高校の情報を絞り込んでいた。行くなら全国を目指せる所。だから狙うならまぁ、私立かなぁ。とはいえ県内一の強豪校の鶴木高校からは推薦は来ていない。後は中堅校の一柳学園や、永興大学附属。そして公立だが津田商業。どこもいいが、ううむ。一人では決めきれない。こういう時、頼りになるのは一人しかいない。

 

「ってなわけで頼む、じいちゃん!」

 

「てめぇの進路くらいてめぇで決めやがれバーカ!」

 

「そりゃあ分かってるけどさぁ! そこを何とか!参考になる意見が欲しいんだ!」

 

 樹が高校の資料を差し出すと、ぶつくさと文句を吐きながら勝男は目を通し始めた。

 

「はぁ、ったくよぉ。…ん? 津田商業?」

 

「知っているのか雷電!じゃなかった、じいちゃん!」

 

「…ウチの教え子が確かここで監督やるって話だ」

 

「え~!? そういうのは早く言ってくれよ~」

 

「声がでけぇ! …つってもそいつ、監督をやってきた中で一番出来の悪い奴だったけどな。でもそういう奴に限って出来ない人間の気持ちがよくわかるってもんだ」

 

 つってもこりゃあ俺の経験談か、と勝男は皮肉を込めて笑う。

 

「津田商業…津田商業か、うん、いいな。ここがいい!ありがとなじいちゃん!」

 

「お、おお。そんなにすぐに決めてもいいのか?」

 

「だってこういうのって最終的には直感だろ? それにじいちゃんの教え子なら信頼できるしさ」

 

「まぁお前がそれでいいんなら良いか。やるからには目指せよ、甲子園優勝」

 

「当ったり前だろ! ライバルとも約束したんだ!」

 

「…勉学も怠るなよ」

 

「分かってる分かってる。こう見えて俺ってば、勉強も出来るんだぜ?じゃーなじいちゃん、やっぱりじいちゃんに頼って正解だったよ」

 

「ああ、今度は日本一になってから来いよ」

 

 入学まであとおよそ半年。まだ見ぬ仲間やライバルたちを思い描きながら、樹は帰路につく。全ては、自らの野望。日本一の高校球児になるために。

 




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