橙色の空   作:通りすがりの猫好き

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今後はペース落ちるかもです。


作戦会議

「ふっ、ぬぬぬぬぬ……!」

 

 トレーニングルームの中、姉崎がうなり声をあげながらベンチプレスを持ち上げている。トレーニングルームは器具こそそこそこ新しいものの、壁にはシミがある上に床を踏めば何かがきしむ音すらしてくるなど、ところどころガタが来ているのが分かる。

 

 突然の紅白戦を予告された次の日、監督から告げられたのは練習ではなく「測定」の二文字であった。長距離走や遠投を終え、今は筋力を図るテスト中である。

 

「へいへーい、ファイト♡ファイト♡姉御ファイト♡」

 

「うっさい千春! っていうかちゃんと補助してるんでしょうね!?」

 

「だいじょーぶですよ姉御、絶対に怪我だけはさせないように言われてるんで」

 

「アンタが言うとマジで説得力無いのよ……!!」

 

「いや本当に大丈夫ですって。だから碓氷がやるときはちゃんと補助してくださいね、絶対ですよ?」

 

「それが目的か……分かってるわよそれくらい。ふんぐぐぐぐ……! だぁっ! もうこれ以上は無理! 限界!」

 

「はい、じゃあ記録しておきますね。お疲れさまでした」

 

 ベンチプレスは3台。男子2組と女子1組で分かれたグループでそれぞれどの重量まで上げられるかを計測中であった。黄色い声が飛ぶ横で、樹はふと笑みをこぼした。

 

「女子の方は随分とまぁ賑やかだなぁ。御影、お前あっちに混じらなくていいの?」

 

「何言ってんの? もう一回言おうか、何言ってんの? あのさ、言っとくけどこの髪型は切るのがめんどいからこうなってるだけ。外見は女子っぽいかもしれないけど俺は男子だからね? それにしても……はぁ」

 

 御影がどこか物憂げにため息をついた。そういう表情をしているものだからやっぱり顔はほとんど女子にしか見えないんだけど、なんて言ったら多分すねるだろうから樹はその言葉を飲み込んでおくことにした。

 

「え、今のそんなに傷ついた? 悪かったって、許してくれよ」

 

「そんなんじゃないし。あーもう否定するのも面倒くさい。監督に言われたんだよ、『ベンチプレスは身体への負担が大きいから君は特に、絶対に無理をするな』って。別にいいんだけどさ、先に全力出せないってなったらモチベ下がるじゃん?」

 

「まぁ確かにそうかもしれねーけど」

 

「監督も過保護すぎるとは思わない? いくら状態が良くないって言ってもさ」

 

「え、お前そんなに重症なの!?」

 

「あ、これあんま言うべきじゃなかったかも」

 

「は!?」

 

 樹の頭に大きなクエスチョンマークが浮かぶ。風船のようにふわふわと宙に舞ったそれは、横から飛んできた大声によって破裂したかのようにかき消された。

 

「うおおおおおおお!! 近江戸が100㎏上げたぞ―――!!」

 

「何かあっち盛り上がってるよ。行って来たら?」

 

「お、おう……」

 

 少し遠慮がちに歓声の中へと混じっていく樹を見送ったあと、一人御影はため息をついた。そうして恨めし気に右ひじをさすりながら、ぼそりと言葉を吐いた。

 

「せめてこれが無ければなぁ……」

 

 誰に向けたものでもないそれは、留まることなく喧噪の中にかき消されていった。

 

 

 それから部員たちはトレーニング室での測定を終え、再び練習場へと出た。ベースランニング、スイングスピード、投手は球速の測定を行う。一人いる選手兼マネージャーを含めてマネージャーは二人、それに監督も計測に加われば三人体制で進められるので、ある程度効率よく進めることができた。とはいえそれでも時間はかかるもので、終わるころには日が沈みかけていた。キリがいい事や選手たちを労わって全体練習はこれで終わりにし、あとは個人の自由練習に任せる事になった。もちろんその後の片づけは各々でやってもらう予定だが。

 

 さて、選手には練習があるように監督には監督の仕事がある。個々の選手データの整理、それに基づく紅白戦でのスタメンの決定である。それぞれの選手が残したデータをパソコンへと入力し、大まかな能力を見定めるのである。とはいえ、やる作業といえばひたすらパソコンとにらめっこするだけだ。少しばかり目は乾くが、体にかかる負担はそれくらいのもの。選手に比べれば大したことではない。

 

「にしても、やっぱり近江戸君はすごいな。遠投やベンチプレスでいずれもトップの成績。2年の時の映像も見てたけど流石ドラフト上位候補って感じがするよ」

 

 一人ぶつぶつと呟きながら真白は目を輝かせる。人によればこの作業は退屈とも取れることだろう。だが少なくとも真白から言わせれば、これはこれで中々楽しいものである。何より選手の適正やポテンシャルを知る事は選手自身の現在地を知るため、そして今後の方針を決めるために必要なのだ。

 

「3年生で目立っているのは近江戸君と姉崎さんで、2年生は身体能力の高い生徒が多い……。1年生はまだ成長途上だけど、やっぱり実績トップの湖南さんが一番レギュラーに近いかな。それと……うん、彼は贔屓目抜きにしても面白い存在になりそうだな。あはは」

 

「Excuse Me(失礼します)!」

 

「うおわっ! え、何々どうかしたの!?」

 

 予想だにしない来訪者の存在に、間抜けな声を立てて真白が慌ててパソコンを閉じる。声の正体はマネージャー兼選手の石田・フレデリカ・明野だった。一人でパソコンを前に独り言をつぶやきながらニヤニヤしていたとなれば、変な誤解を招きかねない。元より厳格な指導者になどなろうとは思わないが、それでも選手との信頼関係は必要だ。新任ならなおさらの事である。

 

「Ah……Are You Sure?(あの、大丈夫でしょうか?)」

 

「あ、あぁいや、何でもないよ。それでどうしたの? 春とは言え、もう大分日も暮れたと思うんだけど。そろそろ帰らなくて大丈夫なの?」

 

「少し、気になる事がありまして」

 

(あ、そこは普通に喋るんだ)

 

「2年の阿久留選手についての話なのですが」

 

「阿久留君の話? 彼のあのスイングスピードは見ていて気持ちがいいよね。打席での対応力は実戦じゃないと分からないからまだ今のところは何とも言えないんだけど」

 

「……どうか彼を一軍の選手として起用していただけないでしょうか」

 

「ん? 何でそんな事を?」

 

「それは……その」

 

 歯切れの悪い返答をする石田の顔には、僅かに戸惑いの色が見えた。真白は首をかしげながら思案する。……推薦するように阿久留に言われたのだろうか。いや、歓迎会の時に阿久留とは少しばかり会話をしたがそんな事をするほど執着心の強い人物では無かったはずだ。なら一体原因は……そうか。

 

「あー、ひょっとして前の監督に干されていたとか?」

 

「……」

 

「うーん、まぁあの人なら確かにやりそうだけども」

 

 前監督は、たしかに前時代的な人ではあった。だが体罰をふるうなどの噂は聞いた事がない(封殺されているだけの話かもしれないが)。原因として挙げるならば、少し陰湿そうな所だろう。指導者として参考のために様々な監督を見てきたが故に粗方察しはつく。あの手のタイプは、自分の育成方針に見合わない選手は試合に出さない。人間である以上、多少の偏りは仕方のない事ではあるがそれで犠牲になる選手がいるのも事実だ。何かの行き違いが前監督と阿久留との一方的な確執を生んだのだろう。

 

「それで、どうして君がそこまで頼み込むの?」

 

「Hmm……私がそこまで肩入れする必要は無いかと思うんですが。一応、彼にバッティングを教えたのは私なので」

 

「えっ、石田さんが打撃教えたの!?」

 

「少しアドバイスを加えた程度です。一年の頃の彼はそれはもう素人だったので。しかし彼が打てるようになってからも、彼は試合に一度も出場できませんでした。それで、起用されない何かがあるのかと」

 

「なるほど……」

 

 前監督からすれば自分の指導からかけ離れたにも関わらず実力を発揮しだした阿久留の存在が気に食わなかったのか。それは分からないがともかく憶測で物事を語るのは避けるべきだし、それが原因だとなれば生徒としても心中穏やかではないだろう。故に真白は、これ以上詮索しない事を選んだ。

 

「何があったかはよく分からないけど……彼の実力は是非見てみたいし、練習試合にはちゃんと出場させるつもりだよ。あ、でもこの話の内容はこれね?」

 

 そう言って真白は自らの唇に人差し指を押し当てた。

 

「Sure(もちろんです).機密情報を漏らすなど、もってのほかですから」

 

「ありがとう。そうだ、ついでにこっちの秘密も共有してくれないかな」

 

「No problem. 」

 

「えーっと、良いって事だよね? 君たちマネージャー二人には2軍の選手起用を任せたい。君には選手としても出場してもらうつもりだけど……」

 

「どこが秘密なのでしょうか?」

 

「ちょっと待って、ここからが本題だから。こっちも目を光らせておくつもりだけど、ベンチやフィールドから見て特に良かった一年生を一人……いや二人くらい後で教えてくれないかな」

 

「いいんですか、私は偏見で決めますよ」

 

「ん、平気だよ。そんなもの誰だってあるから。さて、要件が済んだなら帰った帰った! もう遅いし親御さんも心配するだろうから!」

 

「(こんな感じの監督で大丈夫なのだろうか……)自衛の手段なら持っていますが」

 

「いやそういう話じゃなくてね……」

 

 

「「作戦会議?」」

 

 食堂のとある一席。残ったミートスパゲッティをフォークでくるくると巻きながら放った樹の言葉に、滝野と高橋が目を丸くしながらオウム返しをした。その反応に得意気な顔をしながら樹は語り出す。

 

「そう! 今度紅白戦があるだろ? だったらそれに向けて戦略立てようぜ! そんでもって目指すは下剋上! あの監督の目が飛び出るほど活躍してレギュラーの座をゲットしようぜ!」

 

「おぉ! 中々に名案じゃねぇか!」

 

「だろ!? 分かってくれるか高橋!」

 

「……まさか樹の口からそんな言葉が出るとはね」

 

「おい、ちょっと馬鹿にしたな今コラ」

 

「でもさ、誰が出るのか正直よく分かってないんだけど。一年生は全員に声をかけるとして、二年生の先輩とかどうすんのさ」

 

「うーん、そこなんだよな……マネージャーなら何か知ってるかもしれねーし、聞いてみるか」

 

 樹がこぼした一言に苦い顔をしたのは高橋だった。

 

「えー……ってなると石田先輩か? 俺あの人苦手なんだよな~。顔はいいけどさ、何か威圧感があるっていうか」

 

「お、おい高橋……?」

 

「知らない、僕は知らないぞ……」

 

「へー、そうなんですね」

 

「そうそう、でもスタイルがすげぇの! 何がとは言わねーけど世界級だよ世界級!」

 

「私が、なにか?」

 

「ん? あっ」

 

 その瞬間、高橋の中の世界が凍り付いた。噂をすればなんとやら、とはよく言ったものである。樹と滝野は途中から気づいていたため止めようとしたが、既にエンジンがかかった高橋にブレーキをかけるのは不可能だったようだ。話の渦中にいた人物、石田・フレデリカ・明野が不自然なまでににっこりと笑顔を見せる。

 

「Are You Ready?(覚悟はいいかしら?)」

 

「あ、あ―――……Yes?」

 

 では、と石田が右手を振りかぶる。ぱちん、と乾いた音が響いた。

 

「I See(なるほど).それで、私に協力してほしいと」

 

「お願いします石田センパイ!」

 

「まぁいいでしょう。以前に真白監督からチーム分けのリストはもらった事だし、こういう風に協力するのもアリだと思いますから」

 

「……良かったな橙山」

 

 高橋が右の頬を押さえながら声をかける。隠しているその上からも見えるように、もみじを思わせる手形がほんのりと赤くなって浮かんでいた。……思春期だから気持ちは同感だが、これに関しては口に出してしまった高橋とそのタイミングが悪い。

 

「それともう一つ。田中君にも声をかけてみようと」

 

「え? 比良センパイですか?」

 

「彼は自己評価が低いところがたまにキズ、だけどしっかりとした常識を持っていて同級生たちから人望がある。ので、彼を使った方が2年生の集まりもいいかと」

 

「まぁ確かに……樹よりはずっと信用度があるかも」

 

「おい真吾、おい。分かってるけど言い方」

 

「ではその方向で。データ収集には選手兼マネージャーである私に一家言があります。任せておいて」

 

「あ、はい。何かすみません、そこまでしてもらって」

 

「これくらい当然の務めだから。大体映像も無しにどうやって分析しようというの?」

 

「いや確かにそうっすけど……」

 

「なら良し。とりあえずオフの金曜日の放課後に間に合うように予定しておくから、1年には声かけておいて」

 

 理路整然と話して去っていった石田を前に1年生3人は口を噤む。てきぱきとした仕事ぶりに感心するほかない、というべきなのだろうが、それにしても何かがおかしい。一言では言い表せない違和感が樹にはあった。

 

「なぁ、何か動きが早すぎないか?」

 

「そう? 敏腕マネージャーってそんなもんじゃない?」

 

「うーん……」

 

「もし何かがあったとしても問題ないでしょ。協力してくれることには違いないんだし」

 

 何かもごもごと言おうとしたが、樹はそれ以上追及することをやめた。

 

 

 そして金曜日の放課後、視聴覚室にて。前方には大きなスクリーンが設置してある。樹はふと周りを見渡した。結論から言えば、1年生は全員集まってくれるとの話だった。中には難色を示す者もいたが、そこは樹による必死の説得で事なきを得た。周りを見てみればレギュラーから当落線上にある2年生たちもいるらしい。田中と石田が集めたのだろう。

 

「隣いいですか?」

 

「お、湖南じゃん。いいよ」

 

「それにしても、紅白戦を前にミーティングなんて変わった事をするものですね。どういう意図なんです?」

 

「いやだってさ、試合なんて絶好のアピール機会だしそりゃあ気合も入るってもんよ! ……もしかして不満だったか?」

 

「いえ、そんな事はありません。むしろこういう機会は大事にしていかなくては。自分のチームの戦力を分析するのもキャッチャーとしての役目ですから」

 

 いつの間にか彼女の手にはペンとメモが握られていた。心なしか若干、本当に若干だがいつもより少し目が輝いているように見える。

 

「そろそろ始まるみたいだな」

 

「集まっていただけたようですね。それではミーティングを始めましょう。司会は僭越ながら私、石田が務めさせていただきます。では前方のスクリーンをご覧ください」

 

 前に立ったマネージャー二人が顔を見合わせ、石田が話し始める。もう片方のマネージャー、(かつ)はパソコンを操作して画面をスライドショーで見せる役割らしい。何を話すのかは石田が堂々と「任せておいて」と言っていたから、多分大丈夫だろう。

 

『ゆっくりしていってね!』

 

 明らかな人工音声と共に画像が流れていく。……何か見えた。何か見えたけど、これはアレだ。石田センパイなりのお茶目さの表現だろう。きっとそうだ、と樹は自分に言い聞かせる。でも生首(?)を乗っけるってどうなのよ。

 

「この紅白戦では基本的にメンバーは流動的に使ってほしい、と監督から言われています。それは向こうも同じ事、恐らく守備交代や代打のカードを積極的に切ってくるものかと思われます。一軍戦力の全員を説明するようでは時間がかかりすぎると判断しました。For That Reason(その事から)……」

 

 ぱっと画面が切り替わる。画像には四人の選手が映っていた。左上から順に近江戸、姉崎、田丸、石神の写真であった。

 

「フル出場するであろうこの四人に焦点を当てて、彼らの選手としての特徴を説明していきたいと思います。では神々子(みみこ)、動画の方を」

 

「はーい! それではポチっとな!」

 

 勝がパソコンをクリックすると、動画に切り替わった。試合の一場面を映した様子である。打席に立っているのは近江戸だ。右投手相手に左足を高く上げ、来たボールをフルスイング。打球は伸びていってそのままフェンスの向こう側へと着弾した。その他にもヒットを打った時の動画などが流されている。

 

「まずは一人目、近江戸先輩です。二年生は既に知っていると思いますが、彼はプロ注目の選手でもあります。1年からスタメンを張り、2年の夏からは4番を任された超高校級のスラッガーと言っていい存在です。恐らく今回の紅白戦でも4番で入る事は間違いないでしょう。打撃フォームを見れば分かる通り、しっかりタイミングを取ってくる打者です。中途半端な直球や変化球だとこのように、簡単に打ち返されてしまうので投手は気を付けるように。また―――」

 

 今度は画面が2つに分かれ、同じ視点から近江戸のフォームが映し出された。比較してみると分かるが、左足の動かし方が違う。片方は先ほどホームランを打っていた映像のように左足を高く上げているが、もう片方は足を引かせて体重を移動させるだけだ。

 

「左が主に長打を狙っている時のフォーム、右が様子見やタイミングを見計らっている時のフォームです。足を上げるようになった時は特に注意してください。打ち取るのが理想ですがボール球で揺さぶって最悪四球でもいいという気持ちで向かう事をおすすめします」

 

「え……弱点とか無いわけ?」

 

「皆さんが150km/h投げられるなら速球で押し通すのも無くはないと思いますが」

 

「……なるほど、伊達にプロ注目のスラッガーやってないって事ですか」

 

「強いて弱点を挙げるとすれば時々学校内でも迷子になる事でしょうか」

 

「それ私生活の問題じゃん……」

 

「相手にとって不足無し、キャッチャーとして腕の見せ所ですね」

 

 呆れる樹の横で湖南が闘志を燃やしている。やっぱり守備の要として何か感じるものがあるのだろうか。

 

「加えて打球への判断力と高い身長を活かしたダイナミックな守備に加えて、肩もかなり強いので無茶な走塁はtaboo(厳禁)、です。ランナーコーチになる場合はこちらにも気を付けてください。基本は外野手ですが、どのポジションでも守れるようにノックを受けているので試合ではどのポジションにつくかまでは正直分かりません。はい、ではそろそろ次に行きましょう」

 

 次に映し出されたのは姉崎のバッティングを映した動画である。小さな身体を効率的に使ったスイングで、右方向や左方向に打球を打ち分けている。フォームとしては軽く重心を下げ足を平行に広げるいわゆるスクエアスタンスで、あまりクセがない。

 

「次は姉崎先輩です。彼女は近江戸先輩とは逆に、バットに当てることを重視して着実にヒットを積み重ねていくタイプの打者です。ヒットゾーンが広く、どの方向にも器用に打ってくるために三振を奪うのは至難の業と言えるでしょう。ホームランは少ないですが足が速いため、ツーベースヒットが多い傾向にあります。攻め方としてはとにかく狙い球を絞らせず、コースに投げ分ける事が重要になってくると思います」

 

「姐さんって結構すげーんだ……」

 

「守備位置は基本的にレフト。俊足を活かした守備が持ち味ですが、肩はそこまで強くありません」

 

「ちなみに得意料理は筑前煮だそうです!」

 

「渋ーい! っていうかさっきからなんなんですかその謎情報!」

 

「なるほど、今日は筑前煮にするのもいいですね」

 

「湖南、そんな真剣な顔してノらなくていいからな? ……え、マジで言ってる感じかこれ」

 

 ―――同日同時刻、練習場にて。

 

「へ……へ……ぶえっくしょい! えーっきし! ……うぅ、鼻がむずむずする。花粉症かな」

 

「おいおい風邪とかうつすなよ姉崎。せっかく練習に付き合ってやってんだから」

 

「心配しなくてもうつしたりしないわよ。あ、もしかしたら噂話かも! ひょっとしてあたしに誰か恋してたりして!」

 

「……あのな、ガキじゃねーんだから」

 

誰が小さいって!?

 

「誰も身長の話はしてねーっての」

 

 牧野と姉崎がそんな会話を交わしながら練習している事を樹たちは知る由も無い。

 

「では次、ここからは2年生です。まずは石神君。彼はどちらかと言えば打撃よりも守備での貢献度が高い選手です。基本的にセンターを守っていて俊足強肩がセールスポイント、守備範囲が広いので厄介な選手です。外野手としての打球判断は勿論のこと、クッション処理(フェンス直撃の際の打球処理)やセンターとしての両翼に対するフォローも上手いので彼の立ち位置は不動のものと思われます」

 

 切り替わった映像の先では石神がセンターで構えている様子が映されている。樹には外野手の経験があまり無いために判断は難しい。だがその所作が目を引いた。一言で表すなら、自然体。ポジションを確認しながらもじっと投手の方向を見つめるその様子は、さながら熟練のベテランに似通ったものを感じる。打球に対する一歩目も早く、外野手としての能力は高いように見える。

 

「彼の打者としてのスタイルを見ていきましょう。基本的にゴロ性の打球が多く、ホームランをあまり狙っていないバッティングが目立ちます。内野安打やバントでの出塁が他の選手に比べて高い割合にあり、本人もそれを自覚しているため内野を守る際は警戒が必要です」

 

 次に石神のバッティング映像が流される。彼は意図してかそうでないのかは分からないが、低い弾道で打球を放っている。それでいて俊足と来たものだから、ショートを守る樹の身としては嫌な相手だ。

 

「ちなみに私は彼と相性がすごぶる悪いです。お互いに愛想がないもので」

 

「そういえば確かにフレちゃんと石神君たまに教え合う時に睨み合いに発展してるもんね!」

 

「うるさいですよ神々子。それでは最後。田丸君についてです」

 

 動画にはショートの守備練習をこなす田丸の姿が映っている。軽やかなステップに正確なスローイング、同じショートである樹から見ると参考になるプレーが多い。

 

「彼と言えば万能なオールラウンダー兼ユーティリティープレイヤーと表現するのが適切でしょう。内野ならほぼ全ポジションをこなせますし、打撃もそこそこいい成績を残しています。恐らく内野守備ではチーム1と言えるでしょう。ただ打撃ではベースに対する立ち方から、外角低めにあまり強くないのでアウトコースの球を振らせるのがベストでしょう。一方でインコースには高い対応力を見せるので注意が必要です」

 

 自分が超えるべき相手の存在―――、それに樹は息をのんだ。この試合で、自分の実力の方が上だと証明してやる。樹の目には、確かな闘志が宿っていた。

 

 

 それから軽くサインの確認や打順の確認を行い、場は解散となった。選手たちはぞろぞろと教室を出ていき、マネージャー二人は片付けを進めていた。かくいう樹も例に漏れず、滝野や湖南と教室を出ていった。

 

「どう思う、明日の試合」

 

 口を開いたのは滝野だ。樹はそんな事を聞くのか、という顔をした後自信満々に答えてみせた。

 

「決まってんだろ! 絶対に俺らが勝つ!」

 

「そうですね、勝てない相手ではないはずです。ベストを尽くせばきっといけるはずです」

 

「だよな湖南! よーし、やってやろうぜ!」

 

「……本当に大丈夫だろうか」

 

 不安だ。何とも言えない感情に駆られながら、滝野はぼそりと呟いた。




高橋君損な役回りばっかりさせてごめんね!

ちょっと急ピッチで作ったんで雜っちゃ雜です。
また余裕がある時に修正しようと思います。
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