『朝だヨ!! くるっぽー!! 起きて起きて!! 朝だヨ!! くるっぽー!! 起きて起きて!! 朝だy』
「うるっせぇよ朝っぱらから……! つーか何でニワトリじゃなくて鳩なんだよ。これ作った奴アホだろ」
午前五時半、けたたましい声を上げて鳴り響く目覚まし時計をやや乱暴に止めながら樹はゆっくりと体を起こした。眠たげに目をこすりながら窓を開ける。4月とはいえ、まだ早朝だ。冷たい風が吹き込んで樹の顔をくすぐる。その冷たさで、未だに半分寝ていた意識を覚醒させた。軽くけのびをしながら昨日のことを思い出す。やけに寝つきが悪かったせいで、あまりよく眠ることができなかった。原因は分かっている。あの言葉だ。
『君は今、本当に自分の意志でプロ野球選手になりたいと思っているのかい?』
歓迎会で監督に言われたあの一言が、未だに頭の中をぐるぐると回っているようだ。声高らかに宣言したはいいものの、あれは自分の言葉じゃなかったような気さえしてくる。確かに樹は野球を一度やめようとした過去がある。そこから立ち直ったのは樹自身の力だと驕るつもりはない。当時のシニアの監督や石黒の協力あってこそのものだ。
『君はプロ野球選手になるべきだ』
半年前、石黒のかけてくれた言葉は本物だった。誰よりも野球にかける思いが強い石黒が、あんな冗談を言うはずなどないのだから。だからこそ応えたいと思った事に偽りはない。でもそれは、結局誰かのためであって自分の事だと消化しきれていないのではないか? 考えてみれば、そんな気がしてくる。
「……はぁ。つっても、やるしかねーよな」
時間の流れは残酷だ。ちょっと考えるから待ってくれ、なんて言い訳は通用しない。だから目標は変えるつもりはない。今から監督に認めさせていけばいいだけの話だ。寝巻をベッドに脱ぎ捨ててインナーに袖を通す。今日から待ちに待った初練習だ。一通り着替えを済ませた後、鞄に荷物を詰めて樹はドアを開けた。吐く息は白いが朝日が綺麗だ。階段を降りてグラウンドへと向かう。目指すはもちろん一番乗りだ。
「ふふん、一足遅かったわね! そう簡単に一番乗りが取れると思ったら大間違いよ!」
「げぇっ、姐さん!」
「げぇって何よ! 先輩に対して失礼ね!」
「あはは、惜しかったね。もう少しで一番乗りだったのに」
とまぁ一念発起したからといって上手くいかないのが人生というものであって。残念ながらグラウンドには先客がいた。真白監督と3年の姉崎が既に準備を始めていた。
「とはいえ初練習から一番乗りを狙おうというその精神! 中々に気に入ったわ樹!」
「あ、はい。ありがとうございます? というか監督も早いですね」
「ん~、まぁ1年生を加えての新チームとしての初練習だからね。そりゃあ早起きもするさ。正直なところ、ちょっと眠いけどね」
そう言って真白はわざとらしく軽くあくびをしてみせる。まるで昨日かけた言葉など、全く気にも留めていない様子だ。ひょっとして深く考えていた自分が馬鹿だったのだろうか。
「姐さんはいつも一番乗りなんですか?」
「そうね……いつもなら蒼汰と五分五分だけど、今日は遅いわね。どうかしたのかしら」
蒼汰と言えば、近江戸の下の名前だ。流石プロ注目のスラッガーというだけあって練習熱心なのだろう。そういう所は見習っていかないといけない。
「二人とも凄いですね」
「そんな事無いわよ。……あたしは色んな人の思いを背負ってるから」
「え、それって一体どういう……」
「おはようございます」
「あ、おはようございます!」
樹の言葉を遮るようにして部員たちが集まってきた。樹の次にやってきたのはキャプテンの牧野。それから少し遅れて近江戸。15分ほどしてほとんどの部員が集まった。寮生や自宅から通う者など人によって様々だが、予定の時間通りに集まっている。時間になったところで、真白が口を開いた。
「うん、それじゃキャプテン。1年生にとっては初めての練習だし何か一言お願い。あんまり固くならないようにね」
「はい。これから君たちは津田商業高校野球部の一員として行動することになる。1年生だから色々と緊張する事はあるだろうが、聞きたい事があれば遠慮なく先輩たちを頼ってほしい」
「(ちょっと固いかな……でもよく頑張っている方か)」
「ところで、二年の
「あぁ、
牧野の質問に女子部員の一人が返事をする。樹はまだ恋川という人物と話したことはないが、昨日の歓迎会で顔は見た事がある。頭頂部に付いたアホ毛が特徴的なピンク色のサイドテールをした細長い眉の美形だったと記憶している。何故か目元にクマがついていたが。
「またか……だいたい
「だってあまりにも満足そうな顔で寝てたものですから。その女神っぷりに躊躇したんです。牧野先輩も一度見れば納得すると思いますよ?」
「俺がわざわざ女子寮に入って見るわけないだろ。変質者じゃあるまいに」
「それだったら心配いりません。ばっちり写真を抑えてきたので。そんなに気になるんだったら見ます?」
「誰が見るか」
「は? 女神たる夢路ちゃんの寝顔を見たがらないとかあなた本当に人間ですか? 万死に値しますよ?」
碓氷と呼ばれた女子生徒は牧野相手に淡々と返答する。背はあまり高くないが、水色の短髪に泣きぼくろが色っぽさをかもしだしている大人の女性、といった感じだ。しかし会話をしている時の彼女は顔色を全く変えていないし、発言している内容も何だか怖い。
「牧野君! 練習練習!」
「……ごほん。とりあえず恋川には後で言っておくとして、練習を始めよう。監督、練習メニューはいつものでいいんですよね」
「うん、それで構わないよ。みんなのいつも通りの練習風景も見ておきたいからね」
「それじゃあまずはグラウンド十周! その後各自ストレッチをしてからキャッチボール!」
「「「はい!!」」」
キャプテンである牧野が先導し、4、5列ほどの隊列を組んで走り出す。少し速めのペースを全員で保ちながらグラウンドを一周していく。
「つーだしょーう! ファイ!」
「「「おう!!」」」
「ファイ!」
「「「おう!!」」」
1年生たちは基本的に後ろの位置で走っている。掛け声もまだ分かっていないため、上級生たちに頼りっきりだ。ほとんどの1年生たちは普通に走っているが、そのやや後ろで愚痴を吐く者が二人。
「メジャーリーガーは走り込みなんてしないぞ……はぁ、はぁ」
「面倒くさい……だるい……寮に戻ってゲームしてたい……」
「おい高橋、
「Shut Up! Don't Say Anything Stupid! Run Run Run! (※意訳 黙れ一年坊主! 馬鹿な事言ってないでしっかり走れ!)」
「うわ後ろから何か来たぁぁぁ!?」
樹たちの後ろからずんずんと走りながら日本語とは違う言語で檄を飛ばしてきたのは、腰まで届くほどの長い黒髪をした少し日本人離れした顔をした女性選手兼マネージャー、
「いいい石田先輩! 何言ってるかよく分かんねぇけど罵倒されているのは分かる!」
「Hurry Up! Hurry Up!(意訳 もっとペース上げろ!)」
「分かりました分かりました! ほらペース上げるぞ御影!」
「え~……僕投手だしそんなに走り込まなくてもよくない?」
「追いつかれたら殺られるぞ!? あれは軍隊の指揮官のような眼だ! 捕まったら何されるか分かったもんじゃねぇ! というか投手ならなおさら大事だろ!」
(1年が楽しないように後ろに石田を配置しておいて正解だったな……)
後ろでギャイギャイと騒ぐ後輩たちを尻目に、牧野は自分の采配が間違っていなかったことに安堵した。後ろにああいうプレッシャーをかける人物がいれば火付け役になる。時々英語で喋るのが難点だが、彼女はマネージャーとしてもよく働いてくれている。……本当に支えられてばかりだ、と痛感する。
「あれ、牧野先輩何か考えごとしてます?」
「してねーよ。つーだしょーう……」
「本当ですか? 嘘をついてもこの碓氷の目は誤魔化せませんよ?」
「してねーっつの、しつこいな。というか声掛け中に話しかけんのやめろ」
「先輩の一番の理解者は私ですからね。まぁ夢路ちゃんへの愛に比べれば大した事ないですけど」
「1! 2!」
「あ、無視した。先輩? せんぱーい?」
聞こえない聞こえない。とりあえず今は練習に集中するのみだ。
「ぜぇ……ぜぇ……マジで死ぬって……!」
「死にそう……」
「まだアップの段階だぞお前ら」
「You Are Really Sloppy!(※意訳 あなたたち本当にだらしないわね!)」
数分後。グロッキーになっている高橋と御影の両人が寝転がっていた。後ろから強いプレッシャーをかけられた事もあっていつものペースを乱されたのであろう。最初こそ二人とも頑張っていたようだったが、徐々に失速していった。足はそこそこに速いようだが、スタミナにはいささか不安があると見た。高橋は「走り込みなんてやらない」と言っていたからそもそもトレーニングをしていないようだし。
「よし、次はストレッチ! ここら辺怠ると怪我するから入念にしろよ。じゃあ1…2…」
続くステップを無難に終わらせて牧野の言葉に合わせてまずは腕や肩、それから足などの筋肉をしっかりとほぐしていく。こういう運動は大事だ。怪我の予防はもちろんだが、こうした方がいいパフォーマンスを発揮できるからだ。
「次、柔軟運動! 二人一組を組んでくれ! 1年同士でも構わん!」
樹がきょろきょろとあたりを見回す。さて、相手をどうしようか。真吾……は他の1年と組んでいるみたいだし、湖南……は女子だから組むと変な感じするし。だったら、と樹はある人物の肩に手を置いた。腰まで伸びた赤い髪に指が触れる。
「御影」
「ん、何?」
赤い垂れ目二つがゆっくりとこちらに向けられる。振り返った彼の表情はおおよそ男子には見えないくらい女顔だ。顔は見た事があったから男子だと知っていたが、男子だと言われなければ女子と言われてもそこそこ信憑性がある。
「やるぞ柔軟」
「まぁいいけど。右腕はあんまり伸ばさないでくれよ?」
「何でだよ。お前右投げだろ?」
「あれ、俺の事知ってんの?」
「お前三重の野球界じゃ有名人だぞ。まぁ俺もだけどな! で、右投げであってるよな?」
「そうだけど……」
「煮え切らない返事だな。何かあるのか?」
「とにかくあんまり負担かけたくないんだよ。説明すんの面倒くさいけど」
「そうか。言いたくねぇなら詳しくは聞かねぇよ。とにかく右腕に負担がかからないようにすりゃいいんだな?」
「うん、それでよろしく」
「じゃあやるぞ? 1……2……」
「あ、ちょっと痛い。ギブギブ」
「お前体固いな。持久走といい本当に運動部か?」
股関節を少し伸ばしてやっただけで簡単に御影が悲鳴を上げた。本当にこいつがかつてスーパースターと呼ばれた選手なのだろうか。ひょっとして同姓同名なだけのそっくりさんでは? ……いやいや、流石にそれはないか。
「よし、それじゃあキャッチボール! 1年は積極的に上級生と組むようにしてくれ! 2・3年も断らないようにしろよ!」
「「「はい!!」」」
「キャプテン、おいはグラブ壊るってんで(壊れているので)休んでいいですか」
「あー、じゃあそうだな阿久留。向こうに予備のグラブがあるからそれ使え。お前は特別に近江戸と組ませてやる。色々と学ばせてもらえ」
「近江戸さん相手でもすか」
「湖南さん、私と組みましょ」
「あ、はい。碓氷さん、でしたっけ」
「そうそう碓氷さんですよ~。あなたとは仲良くなれそうな気がするんですよね。普段だったら夢路ちゃんがいるけど、今日は先輩としてきっちり指導してあげますよ」
「そうですか。こちらこそ勉強にさせていただきます」
「姉崎先輩! 俺と組みませんか!」
「あら、私を選ぶのね高橋君。いいわ! あたしを選んだ事、後悔させないから!」
「さっすが姉崎先輩! 頼りにしてるっす!」
「ふふん、もっと言いなさい!」
いつの間にかペアが決まりだしている。自分も早い所相手を見つけなければ。焦ったところで樹の足が止まった。……いや、選択肢など最初から一つだ。組みたい先輩がいる。自分の成長の為に恐らくキーとなる人物、その名前を呼んだ。
「田丸センパイ!」
「お、橙山じゃん。どうした、俺と組むか?」
「是非お願いします!」
「いいぜ、丁度相手もいなかったしな」
田丸祥行。このチームの守備の核、ショートのレギュラーだ。夏までにこの人からレギュラーの座を奪う事が最低条件。そのために吸収できるものはできるだけ吸収しておきたい。
「ペアは決まったな? まずは軽い距離から肩を慣らしていくぞ。じゃあ始め!」
「「「はい!!」」」
「それにしてもよぉ、何で俺を選んだわけ?」
「そりゃあ貴方からレギュラーを奪うためですよ」
宣戦布告は早い方がいい。明確にレギュラー奪取を掲げておくのは自分にとっても好影響を残せるはずだ。田丸は面食らった様子を見せていたが、こらえきれなかったように笑い出した。
「ははっ、ははははは! 昨日の宣言といいお前面白い奴だな! いいぜ、奪ってみろよ。俺は逃げも隠れもしねーからな!」
「そのつもりっす! 絶対ショートの座をもらいますから!」
「いやぁ今年の一年は随分いきが良いじゃん! ま、でも俺は微塵もレギュラーを譲る気はないけどな」
そう来なくちゃ面白くない。樹の目には、確かな闘志が宿っていた。最初は5mの距離から軽く投げ込む。コントロールを意識し、田丸の胸元へと投げた。内野手は投手までとはいかなくとも、肩の強さや送球の正確さが求められるポジションだ。一塁ベースが特に遠いショートであればなおさらのこと。
「中々いい送球するね、じゃあこっちも」
そう言って今度は田丸が投げ返す。最初に樹が投げたよりも少し強めで、なおかつ正確に樹の胸元へと収まった。なるほど、これは挑発とみるべきか(※違います)。互いに徐々に力をいれつつ距離をあけていく。
「やるじゃん」
「あはは、まだまだ褒めてもらうようなレベルじゃないっ、ですよ!」
「それもそうか、ははは」
「そうです、まだまだこれくらいで収まるつもりはありません」
本当に言った通りだ。自覚していたが、樹はショートとしてはあまり肩が強くない。現に田丸の方がしっかりと速い球を放っている。だから、まだまだだ。レギュラーを奪うならもっと強く、もっと正確に、もっと鋭く投げなければ。
「いくぞ、阿久留」
「来たもんせ(来てください)、近江戸先輩」
「ふんっ」
「……あっ」
横では剛速球が飛び交っている。近江戸はゆったりとしたフォームから軽く投げているのに、樹が投げているボールよりもずっと早い。受ける側の阿久留がこぼしはしたものの、しっかりと胸元へとコントロールされている。阿久留が転がったボールを拾い上げて、近江戸に合図をした後投球の構えに入った。……そういえば何かの放送の影響で投手を始めたって言ってたな。左足を軽く上げてボールを投げるその姿は中々様になっている。体型も相まってさながら重量級の戦車だ。
「ずえりゃっ!」
「……! ナイスボール」
阿久留から投げられたボールは風を切って近江戸のグラブに収まった。スピードガンなどは持っていないから分からないが、大体140km/h中盤くらいか。バッティングセンター以外でこんなに速い球を見た事ないぞ。いや、出来る。それくらい出来なきゃ甲子園優勝なんて出来ない。
「行きますよ田丸センパイ! うおりゃっ!!」
「あっ馬鹿お前、力みすぎ……」
力んで投げたボールは案の定すっぽ抜けて明後日の方向へと飛んで行った。そのボールは勢いをつけてそのまま空を舞い―――
「……っと。どこから飛んできたのでしょうか」
湖南が収めた。視界の外から飛んできたボールを咄嗟にグラブで掴んでみせるあたり、流石キャッチャーと言えるだろう。ピッチャーの球を普段から受けているだけあって、打球への反応が早い。って感心している場合じゃない。
「すまん湖南! そっち飛んだ!」
「あぁ、橙山君ですか。安心してください、無事にボールはキャッチしたのでっ」
「あっ」
こちらを向いてボールを見せびらかした湖南の頭にこれまた違うボールが直撃した。せっかく格好よく危険を回避できたというのに、また彼女に災難が降りかかってきたようだ。
「……!? ……!?」
「あ、ごめんごめん。本当に悪気は無いんだよ? 本当だよ? ただ投げる瞬間に湖南さんが目を離すから事故っちゃったというか」
痛みに悶え何が何だか分からないといった様子の湖南に樹と碓氷が駆け寄る。事の経緯はこうだ。碓氷がボールを投げる数瞬前に湖南がよそから飛んできたボールをキャッチした。ところが碓氷は既に投球に入っており、そのままボールから手を放してしまった。その結果、碓氷が放ったボールが湖南に直撃してしまったというわけだ。
「すまん湖南! たんこぶとか出来てないか!?」
「橙山君も気を付けないと。これが夢路ちゃん相手だったらどつきまわしてたよ?」
声をかける樹の横で、碓氷が忠告してくる。口調はのんびりだが、目がガチだ。恋川センパイにボールを当てようものなら本当にどつきまわす凄みがこの人にはある。
「えっ、あっはい。ゴメンナサイ」
「……多分傷にはなってないと思うので大丈夫です。少々頭が痛みますが」
「悪かった! ……というか初めに会った時といい何かお前呪われてn」
「生憎、そういうのは信じていないタチなので。問題ありません。続けましょう、碓氷先輩」
「そう? 君がそう言うならいいけど……」
「平気です。何かあった際のための救急キットも常備していますので」
「オッケー、じゃあ続けよう」
「痛くなったら無理せず言うんだぞ湖南!」
「……保護者じゃないんですから」
とりあえず本人が問題ないと言っている以上それを引き止めるのもよくない。一応釘だけは刺しておいて樹は田丸のいる場所へと戻っていった。
(向こうが騒がしいな……何かあったか?)
「? どうかしましたか牧野先輩?」
「……いや、何でもない。キャッチボールを続けようか滝野。それにしても、お前には見込みがあるな。将来はこのチームを引っ張る選手になれそうな予感がする」
「そう見えますか?」
「あぁ。この前まで中学生だった割には中々速い球を投げる。投手同士組んで正解だったかもな。まだ余裕があるようならもう少し力を入れて投げてもいいぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
「よし、こい」
しっかりと捕球の構えをとる牧野。ばしん、と気持ちの良い音がした。
「最後にティーバッティング! 1年とマネージャーは球出しを頼む! いいか、くれぐれも怪我だけはしないようにボールから目を離すなよ! ……あと阿久留。今日は普通のバットを使ってもいいけど壊さないようにしろよ」
「……保証はできもはん(できません)」
「頼むぞマジで。バット変えるのも金かかるんだからな」
「気を付くもす(気を付けます)」
「じゃあ田丸センパイ、やりましょうか。トスの要求とかあります?」
「打ちやすい所に投げてくれればいいよ。多少ずれても合わせるから。それくらい出来なきゃ実戦で使えないだろ?」
「分かりました! 普通に投げるっす!」
田丸は左打ちだ。そのため樹は田丸から見て左側に移動して、トスを始めた。中学の頃から練習の付き合いはさせられていたから結構慣れたものだ。ボールが金属バットに触れる時の鋭い音がテンポよく響く。樹のトスと相性がいいのか、田丸は快音を連発していた。
「どうです? 打ちやすいですか?」
「あぁ、中々にいい感じだ。お前、トス上手いな。ただまぁ、欲を言えばちょっと外めのボールを頼む」
「外っすね、分かりました!」
トスバッティングは打撃の基礎練習の一環だ。だからバットに当てる、というのは当たり前の事ではあるのだが。それにしても当てるのが上手い。しっかりバットの芯でボールを捉えており、鋭い当たりが多い。なるほど、この人を上回るには打撃でも成長しないといけないわけか。
(上等だ……! やってやるよ!)
これくらい差があった方が追う側としてもモチベーションが上がる。負けられない、負けたくない。そんな闘志を胸に秘めながら樹はトスを続けた。
「そろそろ時間か……集合!」
「「「はい!」」」
牧野の一言で部員たちが監督の元へと集合する。時計の針は7時ごろを指していた。そろそろ朝練に来た部活生以外の生徒たちも登校しはじめる時間帯だ。
「監督から何かありますか?」
「うーん、今のところは特にないかな」
「ありがとうございます。では朝練はこれまで! 今日は時間が無かったからここまでだが、午後は1年も打撃練習に参加してもらう予定だから楽しみにしておけよ! それと……2つ忠告しておく!」
(忠告……?)
(忠告ってなんだ……?)
一年生たちがざわざわと騒ぎ始める。ひょっとして先輩に会ったら必ず端によってお辞儀をしろだとかそういう厳しい規律があるのかもしれない。戦々恐々とした空気が一年の間に走っていた。
「朝ご飯は出された分全て食べる事! 授業中に寝ない事! 勉学を怠るようではレギュラーは永遠に取れないぞ!」
「「「……」」」
ありきたりというか、普通……? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔で樹の表情は固まった。周りを見渡してみても皆同様の顔をしている。確かに授業中に寝る輩はいるかもしれないけど。
「返事ィ!!」
「「「は、はい!!」」」
「では解散!」
その一言で生徒たちは散り散りになっていく。寮生活のグループは朝食を取りに寮へ、そのまま更衣室へと戻っていく部員たちもいれば、その場で着替えて教室へ向かう部員など様々だ。勿論着替えているのは男子だけだが。
野球部員としての彼らの一日は、まだ始まったばかり。
何が起きたのか分からなくて震える湖南ちゃんかわいいなぁ!(挨拶)
今回はうちの子+御影君、田丸君に登場していただきました。
キャラに違和感などありましたら感想もしくはメッセージで言っていただければと思います。
うちの子の説明はまた今度詳しくやろうと思います。
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