タイトル付けるのが下手だなぁと思うこの頃。
「何じゃこりゃ……」
7時15分。ジャージのまま寮に帰ってきた樹たち1年生は、食堂で広がる景色に開いた口がふさがらない状況だった。たっぷりの生姜焼きにサラダ、そして卵二つ分の目玉焼きに味噌汁。そしてそれよりも目を引くのは並々ならぬ量を乗せられた、まさに山盛りの白米だった。明らかに朝食の量ではない。おかしいな、入部する前はこうじゃなかったはずなんだけど。スポーツ選手はよく
「なーにしけた顔してんだい!」
「痛っ!? えーっと、どちら様ですか?」
「ここの食事を管理してくれている職員さんだ。くれぐれも失礼のないようにな」
「あ、そうなんですね。これは失礼しました」
「いいのいいの! それにしても、ふーん」
「?」
職員さんは樹たちの足元に目を落とし、そこから膝、腰、そして胸元へと視線を上げていった。一通り見終わった後、何か納得したように頷いた。
「なるほど、発展途上っていった所だね! あんたら若いんだからこれくらいしっかり食べないとダメだよ! 大丈夫、ちゃんと栄養を考えて作ってあるから遠慮せずどんどん食べな!」
「いや、その通りではあるんですけどこの量って」
「ゴタゴタ言ってないで食べるぞ。体づくりのために食事は重要な要素だからな。じゃあ、いただきます」
「「「いただきます!!」」」
元気のいい声を上げてご飯を口の中へと放り込んでいく。全然量が減らない。この量に慣れるのは相当時間がかかりそうだ。げんなりしている樹の横で弁当を前に手を合わせる湖南の姿が目に移った。
「うん、多いな……ってか湖南。お前こっち来て良かったのか?」
「許可はいただけたので問題ないと思います。本来私は一人、教室で食べるつもりだったのですが真白監督が『どうせならここで食べていきなよ』と言ってきかないものですから仕方なく」
「おおう、今どき珍しいな1人飯なんて。あ、別に悪い意味で言ったわけじゃねーよ? そういうわけじゃねーけど。なんて言うか……悪ぃ、なんでもねぇ。ところでその弁当って親に作ってもらったの?」
「いえ、母は入院していますのでこれは私が。お昼の余り物や軽く作れるものを詰め込んだだけです。弁当を作ってみるのも悪くないですよ、妹も喜んでくれていますから」
「……へぇ妹いるんだ。しっかりしてるのもそれが原因って事?」
話に逆方向から口を出してきたのは真吾だ。真吾も真吾でこの量は想定外だったのか、顔色が若干悪い。二人は最初に会ってバッテリーを組んだ者同士、どこか通じる何かがあるのかもしれない。何にせよ地雷原を踏んでしまったか、と思っていた樹にとっては渡りに船であった。
「しっかりやれているように見えるでしょうか。妹には迷惑も心配もかけてばかりなもので」
「そうか? 俺からすればすげーきっちりしてると思うけどな。あ、妹がいるって事はその子も野球やってんのか?」
「……やっています。いや、正確には
「やっていた?」
「……それは」
「1年、食ってるか? 量を食べるのも大事だけど、しっかり噛めよ」
「ほらほら、ちゃんと顎使って」
湖南が次の言葉を紡ぐより先に、後ろから現れた牧野と碓氷が樹と滝野の注目を引いた。滝野に至っては碓氷に頬をつつかれあわや吹き出しかける始末だ。
「ごふっ!? ちょっと、食事中に頬をつつくのはやめてもらえますか」
気持ち少し語気を強める真吾。そりゃ食事中にそんな事されたら誰だって腹の一つや二つ立てるわな。つつかれたのが俺じゃなくて良かった。まぁ、良い奴だったよ。
「……この話はまた今度にするとしましょう。頑張って食べてください、それでは」
「あっおい……」
樹の声に応答することもなく、湖南は食堂を出ていった。どうやらまだあまり信用されていないらしい。初めて話したのが少し前だからそれも当たり前か。とはいえ何だか悲しい気持ちになる。もしかして変な事を口走ってしまったのだろうか。横では碓氷が真吾の背中をポンポンと叩いている。
「あ、ごめん何も口に含んでないと思ってた」
「頑張って食べてるんですから邪魔しないで下さいよ……そういう碓氷先輩は全部食べたんですか」
「馬鹿だなぁ、私がそんなに早食いスピードスターに見える?」
碓氷が左の人差し指と中指でピースを作りながら左目で下手くそなウインクをする。まるでアイドルのような決めポーズ。顔はいいのに、表情筋が死んでいるせいで台無しである。……そもそもどこにウインクする要素があったのだろうか。
「誰もそんな事思ってないんですけど」
「まーたまたそういう事を仰って。……まぁ冗談はこれくらいに留めておいて。話してもいいですよね先輩」
「あぁ。別に構わない」
「よーするに監視ですよ。か・ん・し。君たちが何かズルをせずに完食できるか確認しに来たの。先代か先々代か、はたまたもっと前か知らないけど実際に食べたといってちょろまかすような部員がいてね。それ以来先輩達でそういう事をしないように見守るのが習わしになったというわけ」
「いや、シンプルに食べにくいっす! つーかそれってただの悪習なんじゃ?」
「その指摘、間違ってはいない。ただこの碓氷は、後輩たちが苦しみながらも必死に食らいつく姿が見たい! かつて去年の碓氷が怖い先輩たちに囲まれながら朝ご飯を食べていたように!」
(それって……)
(逆恨みじゃないのか……)
筋違いも甚だしい。それなのに何で堂々と宣言しているんだろうこの人は。いっそ清々しさすらも感じるほどのレベルに樹も滝野もドン引きだ。表情は変わらないまま、圧を強めてくる碓氷のせいで余計食べづらく思える。そんな様子を見かねたのか、牧野が軽く碓氷の頭を小突いた。
「あんま後輩を脅すんじゃねーよ馬鹿」
「あいたっ」
「というかお前の言う『怖い先輩』の中にさらっと俺も入れてるんじゃないだろうな」
「うるうる……酷いです、先輩も他の人と同じように熱い視線を送っていたくせに」
「嘘泣きすんな誇張すんな誤解を招く発言をすんな。……まぁ最初はキツいかもしれないが、いずれ慣れるようになる。こいつだって全然食えてなかったけど今じゃ完食できるようになったからな」
「レディに対する扱いがなってないですよ先輩。女性に対して食事量の話をするとかタブー中のタブーです。そもそもこの碓氷に対してあまりにぞんざいではありませんか?」
「あ? お前相手なら別にいいだろ」
「そうそう、その調子。絶好調ですよ先輩」
「何がだよ……」
(とりあえず食べる事に集中しよ……)
この人たちは励ましに来たんだろうか、それとも漫才をしに来たんだろうか。目の前の飯に比べればどっちでもいい話か。にしても減らない、それどころか先ほどよりもご飯の器が大きく見えてきた。多分気のせいだろうけど。
「じゃあ他の見回りも行ってくるから、ちゃんと残さず食べろよ。後碓氷、お前もそろそろ食べねぇと遅刻するぞ。食べられるようになったとはいえ結構時間かかるだろお前の場合」
「えー、後輩たちいびるの楽しいのに」
(いびるって言っちゃってんじゃん……)
「それに夢路ちゃんは恐らく遅刻するでしょうし。だったらこの碓氷も遅刻して一緒に登校した方が良いというものですよね。一緒に登校できる期間も限られていますし」
「1ミリも良くねーよ。早く食べて恋川を起こしてこい」
「むむっ、聞こえます。夢路ちゃんがあくびをする声が。こうしちゃいられません。早く完食して迎えに行かなければ。ではこれにて失礼」
話についていけていない樹や滝野を置き去りにして、碓氷は足早に自分の席に戻っていった。あくびが聞こえるとかどんなセンサーしてるんだよ。冗談か、いや、そういう顔には見えなかったが。そんな事を考える1年たちの後ろで、牧野が大きなため息を吐いた。
「俺の言葉じゃ全然動じなかったのにあの野郎……」
「野郎じゃありません、レディーですレディー」
「地獄耳搭載かよ面倒だな。……まぁあんな変わった奴だが、悪い奴じゃない。多分だけどな。2年は一癖や二癖ある人間が多いけど、実力は確かだ。お前らも困ったら頼りにするといい。食事中失礼したな」
そう言って歩いていく牧野の姿を見送った後、湖南の分の空席を挟んで樹と滝野はひそひそと話し始めた。
「……何というか、騒がしい人たちだったな。何かどっと疲れたんだけど」
「樹はまだマシだよ。僕なんて頬をつつかれたんだから」
「っていうかこれ、食べられそう?」
「……無理かも」
どこからか聞こえるカラスの声は、樹たちをあざ笑っているかのようだった。
「ッ食べた! 食べたぞ―――!!」
「もうしばらくお米は見たくない……」
35分ほどして、ようやく空になった茶碗を前に樹と滝野の二人は大きく息を吐いて背もたれに身を預けた。食事をした回数は数あれど、完食したことに対して感動したのは初めてかもしれない。大食いメニューとか挑戦した事無いし。それはそうと、周りを見回してみると先輩たちはほとんどおらず、1年生ばかりだ。残っている上級生も食事を終えて見回り役に徹している。樹も滝野も立ち上がって食器の乗ったプレートを片付けに行く。
「「ごちそうさまでした……」」
「はいよ! おそまつさま!」
「お前らもう食ったのか……早いな」
「おう高橋、俺たちそろそろ着替えて登校するけどお前も来るか?」
「目の前の光景を見てから言えよ……。もーう無理、ポテト一本すら見たくない」
「何でポテト?」
「そりゃあお前、アメリカっぽいから?」
「何で疑問符なんだよ。というか横で突っ伏してる御影は大丈夫なのか?」
「……」
「さぁ? この分じゃこいつは遅刻かもな」
「そうか。じゃ、頑張れよ!」
「待て待て待て! え? それだけ!?」
「は? 他に何があるんだよ」
「いやあるでしょ! 『お前なら出来る!』とか『仕方ないからお前が食い終わるまで待ってやるよ』とかさぁ!」
「えー、そんなん普通言うか?」
樹が振り向いて滝野に確認を取る。首を振った方向は横、つまりはノーだ。
「だよなぁ。ま、そういうわけでちゃんと完食しろよ乙女高橋」
「おい頭に変なあだ名付けるんじゃねぇ! 誰が乙女だ!」
「……高橋ィ~、俺の分も食べてくれ~」
高橋が横を見ると、いつの間にか意識を取り戻した御影が赤い髪を垂らしながら呻いていた。前髪で顔が隠された彼の様子は見る時間帯と場所によれば亡霊にしか見えない。どこかで既視感があったかと思えば○子だ。貞○だわコレ。
「無理だわ! それやると俺も怒られるんだからな!」
「おいズルするなよ一年! キャプテンにチクるぞ!」
「ほらな言った通りだろ! だから食えって!」
「いやもう無理。既に吐きそう。何ならここで吐いてやろうか?」
「どういう脅しの仕方だよ! ほら、頑張れ御影! もう少しだ、お前なら出来る!」
「お、俺の……俺の屍を越えてゆけ……ガクッ」
「それ言いたかっただけだろお前! しっかりしろー!」
「あー……そんじゃまぁ、お疲れ。教室で会おう」
これ以上二人の邪魔をするのも良くない。とりあえず高橋は授業には間に合いそうだし置いていこう。御影は……まぁ何とかするだろう、知らんけど。後ろでごたごた言っている二人を背に寮の部屋へと戻っていった。
そこからはいつも通りだ。午前中の授業を受けて、それが終わったら食堂で高橋と昼食を食べた。ちなみにお互い朝食が相当胃に堪えたらしく、お腹に優しいうどんを選んでいた。これからあの寮の朝食に慣れるまではしばらくうどん生活かもしれない。同じ味ばっかだと飽きるし今度はカレーうどんにしよう、そんなどうでもいい事を決意した樹。その後ろで会話する女性の声は樹にとってどこか聞きなじみのあるものだった。
「
「ほう、聞きたいと? どうしてこの碓氷が夢路ちゃんを起こさなかったのか聞きたいと申すか」
「当たり前だよ!」
「(見ろよ橙山、碓氷先輩と恋川先輩だ)」
「(え、マジ? あ本当だ)」
「『触れぬ神に祟りなし』。つまり目の前でぐっすりと寝ている夢路ちゃんを起こすなんて罰当たりな事はできないよ」
「それ何か意味が違くない!? あーもう牧野先輩に何て言われるか……」
「最近の夢路ちゃんは根を詰めすぎ。とりあえず一旦休む事から始めるべき」
「うぐっ、それはそうなんだけど。でもぉ……」
「でももしかしもない。やりたい事とやるべき事を両立できない人間に先は無い」
「うぐぐぅ、でも千春ちゃん気づいてたのに起こしてくれなかったじゃん!」
「『身から出た錆』、そもそも非はそちらにあるのでは? そろそろ先輩からきつい灸をすえられるべきかと」
「ぐふぅ」
「(おいおいすげーよ、オーバーキルだぜ)」
「(いや、すげーっていうか……)」
三発の的確かつ重い言葉を食らった恋川はものの見事にノックアウトされていた。それこそ完膚なきまでに。詳しい原因は知らないけれど、寝坊したのは事実だし怒られるのは至極当然の事であると言える。でも意外だな。あれだけ練習前に言ってたんだからもっと甘やかすものだと思っていたのに。
「うぅ……ひどいよぉ千春ちゃん。私達親友じゃないの?」
「時として強く指摘するのも親友としての役目だから。とはいえ、過ぎた事を言っても仕方がないのも事実。とりあえず親子丼一口あげるからこれでお昼からも頑張って。はい、あーん」
「あーん……むぐ、卵と鶏肉の柔らかな味わいが体にしみるぅ。ありがとう千春ちゃん」
「そうでしょうそうでしょう。褒めてくれたらもう一口あげる」
「千春ちゃん大好き! 愛してる!」
「どうどう、はいどうぞ」
「わーい!」
「(……何か距離感近くない?)」
「(そうか? あれくらいが普通じゃね?)」
「いやそれは無いだろ!」
「ちょ、馬鹿声でかいって高橋! 高橋ィ!」
高橋が大きな声を出したものだから当然二人にもバレる。ぎぎぎ、という音が聞こえるほどゆっくりと碓氷がこちらへと首を回した。ホラー映画みたいな挙動するじゃん。
「……おや、奇遇だね」
「あ、1年の! 高橋君に橙山君であってたっけ?」
「そ、そうですね~。あ、俺たちはたまたま居合わせただけですし! 何も聞いてないです!」
「お二人ってどういう関係なんですか?」
「高橋ィィィィ!! 頼むから黙っててくれ! 今だけでいいから!」
「何だよ、先輩相手だからってビビってちゃ恰好つかないだろ」
「ふ、ふふふ、そういう事を聞くのね。そう、言うならばエベレストよりも高くマリアナ海溝よりも深い関係……つまりは」
「幼馴染で親友だよ!」
「……夢路ちゃん? 今こっちが喋ろうとしてたのに口を挟むのは碓氷どうかと思うな」
「え、ご、ごめん?」
「へー、それにしては距離近くないですか?」
高橋の怖いもの知らずな所はよく分かったが、こうもずばずばと切り込んでくるのは見ていてヒヤヒヤする。このままだと地雷を踏み抜きそうな気もするし、お願いだから他に被害が及ばないところでやってほしい。
「女性ならこんなものだよ。ねー夢路ちゃん」
「うん、私たちは昔っからこんな感じだから。確かに他の子と比べれば距離感は近いけど、親友ってそういうものでしょ?」
「ふふふ、もう夢路ちゃんったら」
「(やっぱ近くね?)」
「(俺に聞くなよ)」
……なんだろう、胸やけがしてきた。食事量がどうとかではない。例えるなら正月久しぶりにあった従兄からクリスマスの惚気話を延々と聞かされたあの時。人の自慢話を聞かされるような何とも言えない心境によく似ている。
「それにしても、うどんだけとは貧相な。ここは先輩として何か奢ってあげよう。育ち盛りだからまだ食べれるでしょ。うーん……えび天おむすびとかどう?」
「いやいや、俺たち朝食を十分食べたので全然! な、高橋!」
「そうそう! また今度お願いしま……」
「まぁまぁここは先輩の顔を立てると思って」
「いやだから」
「ね?」
「「アッ、ハイ」」
恋川からは見えないようにしているが、碓氷の目からハイライトが消えている。こちらの反論も許さない彼女の圧力の前に二人は屈する他ない。ほらやっぱ恋川センパイとの時間を邪魔された事怒ってるじゃん。おのれ高橋。
「はぁい、たんとお食べ」
「わぁ、千春ちゃん優しいね!」
「「……」」
もはや逃げ場無しか。恋川の純粋な視線が逆に痛い。えぇい、ままよ。樹は高橋と顔を見合わせた後、互いに決心したように頷き、貰ったおむすびを半ばやけくそ気味に胃に放り込んだ。
「よし、じゃあ各自キャッチボール! 朝練と同じように1年は基本的に上級生と組むようにしてくれ!」
P.M4:00。満腹感が眠気を誘う午後の授業をなんとか乗り切り、部活の時間を迎えた。朝と同じようにランニングのメニューをこなし、キャッチボールの相手を探す。親しみやすさで言えば比良センパイや姐さんがいいのだろうが、やはり組むなら実力の高い相手の方がいい。だがしかし、一番の実力者である近江戸センパイは人気らしく既に何人かが集まっている。それならもう一人、実力の面では申し分のない人がいる。……愛想という意味では最悪かもしれないけれど。
「俺と組みませんか
「あ?」
首のところで結ばれたセミロングの黒髪が揺れる。
「石神センパイ肩強いでしょ? だから組みましょうよ」
「俺は実力の無い奴と組む気はねえ。他あたれ」
「実力面に関しては大丈夫っす! 夏には絶対レギュラー取って見せますから!」
「ハッ、口だけの奴なんざ今までごまんと見てきた。だったらレギュラー取ってから来い」
「え!? まだ春先なのに今言われても……」
「悠長な事言ってんじゃねーよ。だったら話は終わりだ。他の奴と組むんだな」
「えぇ……!? あの……」
「……フン」
まずい、と樹は歯噛みした。この人は思ったよりも小難しい人らしい。石神は鼻を鳴らして別の方向へと歩いていく。それに樹は回り込むようにして立ちふさがった。確かに自分には大した実績もないし、実力で言えばまだまだだ。そんな事は知っている。だけど。
「……テメェ……」
「引くつもりなんて無いっす……! 俺と組んでください!」
それで怖がっているようじゃ、一生自分は前に進めない。分かっているから、樹は引かない。引けないのだ。二人のにらみ合いは硬直状態に入ったかと思われた。予想外の方向から彼女が参戦するまでは。
「コラァー零士!! 何やってんのよ!!」
「えっ姐さん!?」
「……! 姉崎先輩」
「零士アンタねぇ! 後輩には優しくしなさいって言ったでしょ!」
「……でも」
「でももへちまも無いわよ! 智治も言ってたでしょ、ちゃんと1年生に頼まれたら組んであげるようにって!」
「……」
「不貞腐れんな! 頬膨らませてもダメだからね!」
不満げな石神とそれを叱る姉崎。どこかで見た覚えがあると思ったら、反抗期の子供とそれを叱る母親の構図である。樹自身も中学2年頃はそういう年頃だったため、どこか過去の自分を思い出して恥ずかしい気持ちになる。
「とにかく、副部長命令! 今日は樹と組むこと! いいわね!?」
「チッ、分かりましたよ。組めばいいんでしょ組めば。いくぞ橙山」
「あっはい! 分かりました! 姐さん、ありがとうございます!」
「ふふん、いいって事よ! じゃあ行ってきなさい!」
「うぃっす! 行ってきます!」
(まぁこれから零士と距離を縮めるのが大変なんだけど……頑張りなさいよ樹!〉
慌てて石神の後ろを追いかける樹の背中を見つめながら、姉崎は無音でエールを送った。これをきっかけに少しでも零士の人当たりが良くなればいいのだが。そんな事を思いながら、姉崎も練習へと駆け出していった。
「集合!」
「「「はい!!」」」
「はい……」
「では監督、お願いします」
牧野の一声で部員たちが監督の元へと集合していく。そんな中樹はとぼとぼと重い足取りで歩いていた。あれから樹は石神と練習をしたが、一向に話が進まなかった。話が進まないというか、会話がすぐに途切れてしまうのだからどうしようもない。もっと会話のキャッチボールをしてくれと切に願う。だけど、打撃練習などを見ていて分かった。やっぱりこの人は高い野球センスを持っている。どうにか打ち解けられないものか……。
「……えー、じゃあそういう事でね。今後からそれぞれの強みを伸ばしていけるようにしていきたいと思っています。まぁ器材には限度があるしまだ皆の事を理解しきれていないからもう少し先の話になるとは思うんだけどね」
あっ、しまった。考え事に夢中で監督が何を話しているか聞いていなかった。
「あ、そうそう言い忘れてた。今週末レギュラー予定の選手とそれ以外の選手で紅白戦をする予定だから、風邪とか引いたりしないようにね」
「え」
「はい、じゃあお疲れ!」
ん!? 今しれっと大事な事言ってなかった!?
石神君登場させるの遅くなってごめんね!
まだキャラを使いこなせているかどうか不安なのでもし違うよ、と思われたらメッセージいただければと思います。
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