総麻SIDE
突然だが、総麻は西洋魔法使いが嫌いだ。まあ、総麻が主に《氣》を媒介に《力》を使う《魔人》だから、組織の関係者に呪術協会からの移った物が多いと言うのも有るが、少なくとも、魔法使いの遣り方が好きではないのだ。何故、魔法使い達が作った領地に態々一般の人間を多く入れているのか?
『可能性としては敵対勢力に対するカモフラージュと、潜在的な人材の発掘と勧誘の為でしょうね』
退魔連合の運営を任せている“彼女”からそんな辛辣な返答が帰ってきた時には、流石に穿ち過ぎだと思ったが、あながち間違っては居ないだろうとも思った。
「…大体、大国の後ろ盾の元で他所の国で好き勝手やっている…。この認識阻害結界もそうだ。…無関係な少数に犠牲を強いるな」
少なくとも、認識阻害結界が効かない事によって苦しんでいる人間に対して魔法使いは何もしていない。そんな例を一人だけ知っている。
例外が一人だけとは限らないだろう、少なくとも、麻帆良と言う土地が出来てから今まで何人犠牲者が出たかは分からない。
だからこそ、守るために戦っている為に必要だと理解していても納得はしていない。だからこそ、総麻は…。
「あいつ等が嫌いなんだよな」
改めて認識する。自分は西洋魔法使いが嫌いだと。総麻が守るべきなのは飽く迄《現実世界》…魔法使い側の言葉で言うならば《旧世界》だ。理想を言うならば魔法世界と旧世界の二つを完全に切り離してしまうのがベストだろう。
どんな目的でも常に出てしまった犠牲は悔やむものだ。“一”を切り捨て“九”を救ったのなら救えなかった“一”を悔やみ、“九”が“百”になろうが“千”になろうが救えなかったモノが有る限り、それを悔やみ続ける。救えなかった、救われなかった一にとっては『救われなかった』と言う事実が“全て”だ。
…それが諸悪の根源、端的に言えば敵については最初から計算に入れていない。…当然だ、誰かを殴った人間が殴り返されたとしてもそれは『自業自得』だ。…もっとも、何故相手がそんな事をしたのか、理由は聞いておくが…。
少なくとも、総麻にとって、救った九だけを誇って救えなかった一を省みない、必要な犠牲等と言ってそれさえも誇る人間は…。
「…心底嫌いだ…」
怒りさえも覚える。少なくとも、総麻にとってその救えなかった一は億の善行を行ったとしても永遠に背負うべき“罪”だ。
華々しい世界を救った戦争の英雄を誇るのは良い。だが、誰かを守る事よりも、傷ついた者を癒す事よりも、誰かを傷つける力を求めて平和な世で“武の英雄”を目指すのは間違っていると思う。
だからこそ、総麻と西洋魔法使いの考え方は根本的に相容れない。
「…まあ、“あいつ等は大嫌い”って事で良いか。難しい言葉を並べるよりも、な」
総麻はシンプルにそう結論付ける。だからこそ、今日も学園長からの呼び出しを無視するのだった。
(…まったく、あんな物が無ければ、ここに居る必要は無いって言うのに…)
本来、別組織である『日本退魔連合』の所属である彼が、西洋魔法使いの本拠地である麻帆良学園で裏の人間で有る事を隠しもせずに一般の学生として学生生活を送っているのには大きな訳がある。
魔人学園伝奇についての知識のある総麻としては、麻帆良と言う土地にはその中の知識の一つ…【鬼道】についての知識が有るからこそ、大きな危険性を感じている。だからこそ、万が一何か有った時の為に此処にいる。
(…まったく、原因がオレかどうかは分からないけどな…状況は最悪、だろ? これってさ)
そう言って見上げるのは麻帆良学園の象徴である世界樹・幡桃。奇しくも世界樹を中心に学園都市を栄えさせた魔法使い達は、知らず知らずの内に世界樹に大地を流れる気を吸い上げさせていた。
魔人学園伝奇の世界に於いて、【鬼道】とは古くは邪馬台国の女王、卑弥呼が用いたと言われる呪法。現代では、鬼道というのは原始的なシャーマニズム。大地を流れるエネルギー、即ち龍脈を利用する法とされている。
龍脈の交わる場所に宮殿を作り、それに付随する様に楼観と言う塔を立て、それによってより強大な龍脈の力を得ようとした。
風水に於いて塔は木行、大地から養分を吸い上げる象徴とも言える。塔の代役となってしまったのが、結果的に麻帆良の象徴である世界樹と言う訳だ。そして、宮殿の変わりに在るのが麻帆良学園と言う巨大な学園都市。
塔が世界樹、宮殿が学園、邪馬台国は学園都市…そう置き換える事ができる。
結論から言うと、この土地は総麻が存在しているせいで《魔人学園伝奇》の《理(ことわり)》が働いているのからなのかは疑問だが、麻帆良の土地はかつての邪馬台国と同じ事になっていると言うべきだろう。
唯一の違いは知らずに行っている事の為に吸い上げた龍脈の力を誰も利用していない事だけだ。
そして、龍脈の乱れによって発生した陰の気がこの土地に人ならざるモノ、大地の気の乱れから《鬼》を誕生させている。そして、この地の魔法関係者は一般人を守るため、または修行の一環としてそれを打ち倒している。無論、自然に発生する陰の気とは関係ない妖怪や侵入者によって召喚されたモノも含まれるが、魔人世界由縁の《鬼》もこの地には現れている。
…なんて事は無い、知らない事とは言え結果的に彼らは一般人を守っているのではない、自分達の尻拭いを自分達でしているに過ぎない。
(だからこそ、オレは此処に居るんだよな)
そして、活性化した龍脈は陰と陽の交わった『麻帆良学園』と言う土地に《力》に目覚めた《魔人》を生み出す可能性もある。総麻が正体を隠す事無く此処に居るのも、誕生した魔人達に対処するためだ。
『楽して平和に生きる』と言う彼の目的からは離れているが、流石に自分の力が原因かもしれないのに、そんな事態を放置する事はできない。
…付け加えるなら、此処二、三年の間に既に龍脈は活性化を始めていたりする。
つまり、精神的な平穏の為には、魔人関連の事件に対しては所期の内に対処、または組織の中に取り込むしかない。
(…ったく、それ以外は平穏に過ごしたいのに…)
ふと、総麻は周囲の気配の変化と後ろから近づいてきている気配の持ち主に気付いて振り返る。無視しても良かったのだが、流石にそろそろ無視し続けているのも限界が来ているであろう相手だ。
「何かオレに用ですか、高畑先生?」
不機嫌な表情を隠した仮面のような笑顔と共に振り返ってその先に居る相手に問いかける。
「やあ、天凪君、すまないけど学園長が君の事を呼んでるんだ。一緒に来てくれるな?」
(…何が『一緒に来てくれるかな?』だ。こっちの都合なんて気にしていないくせに…。結界を張っている時点で逃がさない心算だろうが)
周囲に人影は無く恐らくだが結界でも張っているのだろう。まあ、良くても中立で有り自分達の味方ではない総麻を相手にするのは当然の対処なのだろうが、
「分かりました。でも、用事が有るので手短にお願いしたいですね」
SIDE OUT
??? SIDE
数十分前…
「また、来てくれんか…」
「そうですね、学園長」
白髪の眉の後頭部が特徴的な学園長と呼ばれた老人が溜息を吐きながら呟くと無精髭を生やした男性が同意する。
「困ったのう…もうネギ君が居ると言うのに」
『だからこそ、敵か味方か判断できない指揮下に無い魔法関係者』である上に自分の孫を含めたクラスの関係者とも親しい総麻を呼び出そうとしていたのだが、悉く無視されていると言う訳である。
退学にしようにも魔法関係と学園長の呼び出しを無視する以外では模範的な生徒で有るために下手な対応は、彼の所属する組織である日本退魔連合に対する宣戦布告の理由を与えてしまう危険も有る為に強硬な策は使えないのが現状だ。また、物理的な排除など成功しようが失敗しようが向こうに攻撃の理由を与えてしまう。
出来る事ならば、上手く呼び出してなし崩し的に模擬戦でもして貰って実力も把握しておきたい所だが…。
(…それは無理そうじゃのう…)
自分の財布の中身と相談しながら心の中で涙を流す。実を言うと一度だけ電話口で会えないか交渉したのだが、即座に実力を探る為の模擬戦の相手を考えていた学園長の思考を読んだかの様にその事を言い当てられた。無視され続けているのもこれが原因である。
その時に、『退魔師としての自分への依頼』と言う形なら模擬戦を受けると言う方向に話が傾いた瞬間、全力で泣きついたが切り捨てられた。
基本料金+必要経費(時価)のコースが一番手頃らしいが…何気に実力の大半を見せない説明に泣いた。下手したら実力を見れずに大金を支払う上に学園の防衛の為の戦力が一時的に減少してしまう危険が有る。他のコースの金額だけでも説明するならば、一流の賞金首の懸賞金の額と言えば良いだろうか。
そんな訳で八割無駄金と支払い不可能の額…一度は色々と理由を着けて前金だけ支払って代金を踏み倒そうとも考えたが、『世界樹でしたっけ…? あれの枝とか幹って高い金で売れるって知ってました?』と言う言葉で即座に考え直した。…踏み倒したら報酬代わりに世界樹の危機だった…材木にされる。
「仕方ないのう。タカミチ君、彼を呼んできてくれんか。単に話をするだけと言えば、彼も来てくれるじゃろう」
「分かりました。それで、模擬戦の方は?」
「受けてくれんじゃろうな。残念じゃが、彼の実力を探るのは別の機会にするとしよう」
「はい」
タカミチを送り出した学園長は件の少年である総麻の事へと考えを向ける。
(…今のままじゃと間違いなく彼の事は危険としか言えんのう…)
味方ではない第三勢力の関係者が自分達の下に居ると言う状況。総麻自身の実力も気になるが、日本退魔連合が本国から送られた《立派な魔法使い(マギステル・マギ)》の称号を持つ魔法使いを含む戦力を打ち倒したという事実が、麻帆良に居る魔法関係者の暴走を引き起こす危険がある。
万が一、彼らが総麻を襲撃した結果、日退連との全面戦争などと言う事態に陥ってしまっては、本国が負けるとは思わないが、間違いなく麻帆良の魔法関係者は…。
(全滅は必至かもしれんのう…。せめて、彼が夜の警備に参加していてくれれば、もう少し抑え易いんじゃが)
寧ろ、学園長の立場からしてみれば、日本退魔連合の、特に長直属の者達の実力は一切甘く見ていない。だからこそ、彼らの中の誰かがネギの師匠になってくれればと思うのだが。
(…今は何とか押さえてとるんじゃが、何時暴走しても可笑しく無い。それに…下手に彼の事がネギ君に知られたら…)
其処まで考えた後、窓の外へと視線を向ける。
「…ネギ君が危険かもしれん…」
タカミチに連れられた総麻が来るまで間の思考から、思わずそんな光景が頭に浮かぶ学園長だった。
SIDE OUT
『失礼します』
そう言って総麻を連れたタカミチが学園長室に入る。
「で、用件は日本退魔連合(うち)への関東魔法協会(そっち)からの宣戦布告か? 良いぜ、今すぐにでも長に連絡して…」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!! 何で、行き成りのハルマゲドン!? ちょ、ちょっと待ってくれんか!?」
「ま、待ってくれないか!? 何で行き成りそんな話になるんだい!?」
流石に学園長とタカミチの二人も慌てて説得を試みるが…。
「…教師に連れられて…『女子中等部』の『校舎』を歩かされてる時点で、喧嘩売ってるか嫌がらせ以外にないだろうが、この妖怪爺」
「そ、それはすまなかったのう」
取り敢えず、先制攻撃の軽いジャブには成功したのでさっさと本題を済ませようと総麻は思い。
「で、そっちの用件は何でしょうか…? 表ですか、裏ですか?」
そう用件を言うように促す。学園長室に居る三人が三人共裏の関係者で有るが故に隠し事は無く話を進める事が出来る。
「…学園長としてでは無く、麻帆良に住む魔法使いの長として君を呼んだ訳じゃ。単刀直入に聞こう、君は何者じゃ?」
「…日本退魔連合の長直属の配下の末席に名を連ねている……退魔師見習いって事になりますね」
最後に『それが何か?』と言う様な態度で笑みを浮かべてみせる。一切自分の所属を隠す気は無い。だが、内容は思いっきり嘘だ。
「「っ!?」」
総麻の言葉に二人の気配が変わる。先ほども油断無く構えていたがそれは総麻に対する警戒だけだった。だが、今は向こうから先に仕掛けてきても不思議では無い気配を纏っている。
「…何が目的じゃ」
「…何って? 学生として学ぶ事でしょ? オレは魔法使いじゃないんでそっちの修行は関係ないし」
『一般人として入学したし』と付け加えると、部屋の中の圧力が増したようにも感じられる。
「ふざけないでもらえんか? そんな言葉を信じられる訳は無いじゃろう」
「…偽りを言った心算は無いんですけどね。まあ、長からの直接の依頼って言うのも有りますけど」
「っ!? それは何じゃ!?」
「…探偵も退魔師にも『守秘義務』って物が有ります。言える訳無いじゃないですか? オレが言えるのは、許可が出ている“学生生活中継続して受ける長期任務”であると言う所までですね」
総麻がそう告げると部屋の中に重苦しい沈黙が流れる。そして、総麻は顔を伏せながら見えないようにゆっくりと笑みを浮かべる。
「…まあ、長から最低限言っても言い事は聞いているので…一つだけ言っておきましょうか?」
「………聞かせて貰おう………」
「…麻帆良には見過ごせない理由が二つもある…。だそうです。態々見習いのオレに任せたのも長期間居る必要が有ると判断したんじゃないんですか?」
「…その見過ごせない理由とは…当然君も聞かされておるんじゃろ?」
「ええ、聞かされていますけど、其処から先は言えませんね。…一つは組織の最高機密になるのでね」
そもそも長の正体が総麻である以上、半分が嘘である。組織に運営については彼女に任せているので、総麻の正体を隠すという意味では悪くないのだが…。そして、組織の機密と言うのは嘘だが、少なくとも【鬼道】の知識を目の前の相手に教える訳には行かない。あれは封印するべき知識だ。
「それはワシ等と関係する事か?」
「半分だけYesですね」
「…ならば、ワシ等にも教えた方が効率的なはずじゃ!? ワシ等は…」
「…この先についてはオレ達の長が封印すべき知識としている【機密】に関係します。だからこそ、秘密を知るべき人間は一人でも少ない方が良い」
総麻の言葉に学園長達は押し黙る。
「オレが此処に居るのは、今の所偶発的な“事件”に対処するためですよ。…その知識に関係する事件にね」
そう伝えると総麻は学園長とタカミチに背中を向けてドアを開けて部屋の外に出て行く。
「それでは、用件には答えたので……失礼します」
音を立てずにドアを閉めると殆ど足音を響かせずに総麻は立ち去っていく。暫く無言のまま総麻の消えて行ったドアを見つめていると、何の前触れも無く学園長は口を開く。
「…タカミチ君、彼をそれとなく監視してくれんか? 彼の言う事件や機密について何か分かるかもしれん」
「はい。万が一そんな危険な事件が起こるのだとしたら……ぼく達も何もしない訳にはいけません」
「…場合によってはこの地と此処に居る者達を守るためにも、彼に協力する必要も出てくるかもしれん」
麻帆良の土地を守る者としての強い意思を感じさせる口調で言い切る学園長と、それに答えるタカミチだった。