(……何考えてるんだろうな~)
渡された手紙を見てそう思う総麻だった。内容は要約すれば、『夜の警備に参加しろ』と言うものだった。しかも、無報酬で。
周囲に張られているのは人払いの結界、目の前の相手の裏の関係者。今まで散々無視してきたので、ある種の強攻策に出たのだろう。実際、学園長に呼び出された時もそうだったし。
「……受ける訳ないだろう、バカも休み休み言え」
こう言う時に便利な徒手空拳技《陽》の巫炎。指先に持った依頼の手紙と言う名の命令書を発火させて一瞬で燃やし尽くす。
「オレはそっちの所属じゃない、正式な依頼の元での仕事ならまだしも…………誰が無償でそんな面倒な事をしなきゃならない」
目の前でそれを燃やしながら挑発するような笑みを浮かべながら目の前の相手へと視線を向ける。
「で、ですが、他の魔法生徒と魔法先生の間で決まったことですので……」
「……そんな事、オレの知ったことじゃない。そもそも、オレは魔法教会(ここ)の所属じゃないんだ」
相手の言葉を簡潔に切り捨てる。
何でも、学園長とタカミチを除く魔法先生達の一部が(勝手に)決めた事らしい。……『英雄の息子であるネギ君に対して魔法関係者として恥ずかしくないように~』と言う最もらしい理由だが、要は報酬を貰っていた夜の警備を無償(ボランティア)で行うおうと言う話だ。
はっきり言って総麻としては『冗談じゃない』と言った所だ。何が悲しくて命を投げ売りしなきゃらない。
第一、銃など戦闘方法によっては戦うだけでも金が掛かる武器も有る。銃弾は所詮は再利用の効かない使い捨ての武器だ。刀なども近接武器にしてもどれだけ名品だとしても使い続けていれば何れは壊れる時が来る。
例外としては魔法や総麻のように徒手空拳で戦うタイプだけだろうが、それでも今度は補助の面での道具の出費が必要になってくる。補助の面はある程度学園側が行ってくれるだろうが、武器については自分で何とかするしかない。
夜の警備の給料にはそう言った最低限の武器のメンテナンスや購入費用も含まれているのだ。言ってみれば生存の為の命綱とも言える。補給の断たれた軍隊等どれだけ一騎当千の戦士が揃っていたとしても潰すのは容易いのだ。それを自ら断とうなど自殺行為以外の何物でもない。
「……まったく、命の特売してる連中のボランティア精神は評価するけど、他人までその考えを共用して欲しくないな」
最初はこれを利用して総麻にも無償での協力を依頼しようと企んでいた学園長だが、実際直ぐに真っ青になっている。
当然だろう。表の教員としての給料だけでは武器のメンテナンスや装備の補給に生活費等と出費も多く赤字になる者も多く居る。生徒側にいたってはそれすらない。
まあ、《ご立派な考え》に賛同した理想主義な教師や生徒達は兎も角、経済的に余裕が無かったり現実的だったり、その両方だったりする者達からは不満の声が上がっている。
特に学園長が黙認しようとしたと言う情報が流れてからは大変だったらしい。……反対派による夜の警備の一斉ボイコットが起こって警備網に大穴が開いてしまった。その事に慌てて学園長が賛成派と反対派の仲介に当たるのだが、学園長は反対派から賛成派の仲間とされている為に交渉は難攻。既に賛成派の全面降伏以外に麻帆良の安全はありえない現状だ。
万が一、学園長やタカミチと言った中立派の強い影響力を持った者達が賛成派に合流し、賛成派の勝利に終ったとしたら、既に蒔かれてしまっている不和の種の発芽を意味している。現代において人間はタダ生きていくだけでも金が掛かる。追い詰められた人間がどんな判断をもしてしまうか……。
最悪の場合は僅かな金銭による敵対勢力への協力等も考えられる。情報の売買や敵の侵入の手引き、追い詰められた側にしてみれば追い詰めた側への恨みと言う己の心への裏切りに対する免罪符まで与えてしまった事になるのだから、裏切りも簡単に決断してしまう者も出るだろう。
……現在は一人必死に頑張っているタカミチの活躍で防衛線は保たれているが、そんな現状で一年も持ったら奇跡だろう。人間休まなきゃ英雄だろうが何だろうが死ぬだけだ。
……そんな必死に頑張っているタカミチ氏も、反対派からは賛成派の仲間として扱われている為、反対派からは敵視されている。哀れ、この問題が無事解決しても多くの同僚達や生徒達からは白い目と敵意を向けられる事になるだろう。
…………もっとも、無事解決したとしても元々パートナーを組んでいた者同士がこの一件で賛成派と反対派に分かれてしまった事でコンビやパートナーの関係解消が相次ぎ、酷い所では師弟関係の完全な崩壊まで起こっている。話し合いが上手く纏まった所で今まで通りには行かない事も明白だ。
下手に旧来通りのシフトにしても最悪は味方同士の同士討ちの危険まで有りうる。一度出来てしまった溝は簡単には埋まらない。それが学園長の判断ミスが招いてしまった麻帆良の裏の現状だ。
なお、目の前の少女……『桜崎刹那』のルームメイトも反対派らしい……。
……そんな訳で現在、反対派による警備の一斉ボイコットが起こっている現状で、拙いと思っている彼女は唯一この麻帆良に於いてどちらでもない総麻の戦力としての組み込みに対して動いた様だ。
「……残念ながら、オレも心境的には反対派に近いんでね」
「……一応、私は中立派なんですが……」
「……まあ、正しい判断だろな……」
彼女は現状中立派と言う最小の勢力に属している。彼女にとって最優先は大切な人間の安全だ。この状況その物が拙いと思っている。つまり、彼女はこんな提案をして問題を起してくれた賛成派にも、心情は理解できる反対派にも思う所はあるのだ。
実際、麻帆良の裏の関係者の中では一番総麻と親しい間柄に有るのだが、総麻もどちらかと言えばこう言う事にはシビアな方だ。感情に流されて命を投げ売りする事は無い。
「まあ、理想主義者達も自分達に被害が出れば頭も冷えるだろうさ。犠牲がなきゃ分からない事も有るだろ」
ぶっちゃけ、『犠牲』とは『ぎせい』だけでなく『イケニエ』と読む場合も有ったりする。今回総麻としては両方の意味で言っている。
まだ続きます。