光文17年8月4日、将和は新たに再編した第一機動艦隊を伴ってトラック諸島に入港していた。
「それでソロモン諸島の方はどうだ?」
「ヴィンランド軍が怪しい動きをしているところしかまだ分かりませんね」
南東方面艦隊司令長官に就任した吉良中将はわざわざラバウルからトラック諸島まで駆けつけて将和を出迎えている。
「11AFや外南洋部隊はちゃんと従っているか?」
「11AFは南東方面艦隊司令部と兼用ですからまぁ大丈夫です。外南洋部隊は三川ちゃんですからねぇ」
8月1日にラバウルを基地とする外南洋部隊(第八艦隊)が創設された。司令長官には三川久里子中将が就任し旗艦を第五戦隊から『八雲』を借りていた。
本来的には『鳥海』が適任だったが葦原海軍艦艇のほぼ全てと日本海軍の一部は現在はドック入り又は緊急改装中だった。
そうなったのはやはり対空電探や両用砲、ボフォース40ミリや対空機銃の大量搭載を決定したのが要因だろう。ではその間に何処が海を守るか?
答えは言わずもがな日本海軍だろう。なお、以下が現在の艦隊である。
第一機動艦隊
司令長官 三好将和大将
参謀長 宇垣束少将
第一航空戦隊
『加賀』『雲龍』
第三航空戦隊
『蓬莱』『葛城』
第一防空戦隊
『祥鳳』『瑞鳳』
第三戦隊
『河内』『因幡』
第五戦隊
『妙高』『羽黒』『鈴谷』『高雄』
第八戦隊
『利根』
第一護衛隊
『五十鈴』
第六十一駆逐隊
『涼月』『冬月』『霜月』『春月』
第六十二駆逐隊
『宵月』『夏月』『満月』『花月』
第十七駆逐隊
『浜風』『磯風』『浦風』『雪風』
第三十一駆逐隊
『長波』『風雲』『朝霜』『夕雲』
第三十二駆逐隊
『清風』『妙風』『山霧』『海霧』
第八艦隊
司令長官 三川久里子中将
参謀長 大西遥少将
第九戦隊
『八雲』『和泉』
第七潜水戦隊
『迅鯨』
第十三潜水隊
伊『121』伊『122』伊『123』
第二十一潜水隊
呂『33』呂『34』
第八根拠地隊
附属
工作艦『三原』
ぶっちゃけ、動けるのはこの二個艦隊しかいなかった。いや空母『生駒』『飯盛』等はいたが本土で編成された練習航空隊である第50航空戦隊に移動してパイロットのヒヨコ達を育てる必要があったからだ。
その為、将和は第一機動艦隊がトラック諸島に到着後に五戦隊の『妙高』『羽黒』に十七駆と三十一駆を一時的に外南洋部隊に派遣したのである。
「まぁ……何も起こらなければいいですけどね」
「吉良……それはフラグというやつだ……」
そして8月7日早朝の事であった。
「長官!? ガダルカナル島の川口旅団から入電!! ヴィンランド軍海兵隊が上陸してきたとの事だ!!」
「……吉良はシバキ決定だな」
宇垣からの報告に将和は溜め息を吐いた。無論、内地にいる五十子の元にも緊急電は届いていた。
「うーん、ミッドウェーで勝ててもやっぱりガ島戦は先延ばしにならなかったね」
「希望的観測ですからな。やむを得ないでしょう」
五十子の呟きにGF参謀長の山口多聞中将はそう答える。
「うちの艦艇もまだ改装は終わってはいないし……第一機動艦隊と第八艦隊だけが頼りだね」
「改装終了する第一陣の艦艇は9月上旬ですが……まぁそう簡単にはソロモンも決着はつかないでしょう」
改装が終了する第一陣の艦艇は9月上旬頃だった。なお、この第一陣には小型艦艇が中心だった。即ち、『陽炎』型『朝潮』型『白露』型等の駆逐艦である。
改装には各艦艇ごとに取り決めがあった。
駆逐艦
・両用砲、対空機銃、ソナー、爆雷、電探の新規搭載
軽巡
・5,500t型の護衛巡洋艦への改装。主に『五十鈴』の兵装を搭載。
重巡
・新型徹甲弾の更新、対空火器、対空対水上電探の搭載。酸素魚雷発射管の撤去。
空母
・新型航空機への交換、対空火器、対空電探の新規搭載
戦艦
・新型徹甲弾の更新、対空火器、対空対水上電探の搭載
「取り敢えずは『陽炎』型19隻、『朝潮』型10隻、『白露』型10隻の改装は9月上旬で何とかなるでしょう」
葦原及び日本の海軍工廠や造船所は4交代24時間態勢で改装工事が行われていた。これは南条内閣の副総理兼商工大臣に就任した岸信介の具申でもあった。
「我が日本でも六時間で4交代しての24時間態勢で増産はしていました。習うべきかと思います」
「ウム……しかし人は何処から?」
「大陸から撤退して人は余るでしょう? そこからです。現に九州地方でも二個師団と二個独立混成旅団は解体されて復員して各工場で勤務しています」
「成る程。大陸からの復員する者達を使うわけか」
「その通りです。この戦争は総力戦であるがために多くの兵器・弾薬・糧食を増産、備蓄しなければなりません」
「分かった。そのように手配しよう」
岸の具申に南条は承諾し大陸から復員する者は元の職種に優先的に復帰もしたりした。これにより葦原の工業力が若干向上したのである。その現れが海軍艦艇の緊急改装の終了時期であろう。
「ただ、問題は水雷戦隊旗艦の乙巡クラスです。我々のところは『阿賀野』型が何とか間に合っていたので
良かったですが……」
「ソロモン作戦で乙巡の損耗は激しいと?」
「史実も切り上げるまでに乙巡3隻は喪失していますからな。油断はなりません」
「んー、なら改装中の五藤ちゃんの六戦隊は『阿賀野』型が戦列に加わるまで乙巡担当にしようか」
「六戦隊で?」
「途中で栗田ちゃんの七戦隊にも交代しようかな。七戦隊も元は乙巡だしね」
「成る程」
「それでガダルカナルの守備隊は……」
「葦原陸軍から川口旅団、葦原海軍は海軍陸戦隊一個大隊、我が日本からも陸軍の一個独立混成旅団に戦車二個中隊がいます。もし、事が起こればタサファロング方面に撤退するので被害は軽微になると思います」
「分かりました、その方向でお願いします」
そう言う五十子だったが8月7日早朝、ヴィンランド軍は海兵隊約2万を伴ってガダルカナル島に上陸したのである。
「それで状況は?」
「ブイン基地から発進した彩雲によれば敵は設営中だった飛行場を完全に占領した模様ですわ。またガダルカナル島守備隊からは人的被害軽微との事です」
「予想していたとはいえ……辛いな……」
トラック諸島に停泊する第一機動艦隊旗艦『加賀』の作戦室で将和は嶋野達から報告を受けていた。
「南東方面艦隊の動向は?」
「三川中将の第八艦隊は出撃準備中です。第十一航空艦隊はブーゲンヴィル島にあるブイン基地から台南空の零戦隊が制空権獲得のために発進したとの事ですわ」
「……台南空の零戦はうちの22型を供与していたな……何とかなるな」
将和はポツリと呟くがそれは事実だった。ブイン基地から発進した台南空の零戦隊30機と誘導用の彩雲3機はガダルカナル島上空に進出しラバウルからの陸攻隊と護衛の零戦隊が飛来するまでに空戦を展開、損失1機に対しF4F 31機、SBD11機を撃墜し制空権を獲得していた。
「僅か数時間で三割を喪失したというの!?」
ジェニファー・フレッチャー少将は旗艦『インドミタブル』の艦橋で被害報告に頭を抱える。この時、ヴィンランドの機動部隊はブリトン海軍から空母『フォーミダブル』『インドミタブル』の2空母を主力にした機動部隊と護衛空母3隻を借用してウォッチタワー作戦に挑んでいた。だが初っぱなから挫折しようとしていたのだ。
(だから……だからまだ反攻するべきじゃないと言ったのよ!!)
ハワイオアフ島の太平洋艦隊司令部にいるセシリアやミリーナ達を思わず呪わずにはいられないフレッチャーであった。元々、フレッチャーも反攻作戦は必要だったが早期にするべきではないと認識していた。それはスプルアンスらも同様の認識だった。
だが情報主任参謀のミリーナ・レイトン中佐は葦原軍の暗号解読で葦原海軍艦艇の大半が改装工事中の情報を入手しセシリア・ニミッツがウォッチタワー作戦のGOサインを出したのだ。
(このツケは……大きくつきそうね……)
フレッチャーはそう思いながらも機動部隊を反転させ航空機補充のため退避せざるを得なかった。そしてその退避が第八艦隊に運を呼び寄せたのである。
「この海戦は通常の海戦じゃないわ……殴り込みよ!!」
ブーゲンヴィル島沖を航行する第八艦隊の旗艦『八雲』の艦橋で三川中将はそう意気込む。
「ですが三好長官から五戦隊の2隻と駆逐隊を借りていなかったら状況はもっと最悪だったでしょうな」
三川中将の傍らにいる第九戦隊司令官の渋谷清見少将はそう呟く。
「合同演習すらしていない即席の艦隊だからね。だから海戦時は単縦陣で突撃し敵艦隊を撃破、敵輸送船団を撃滅よ」
「航空隊の援護はブインから展開出来ますから楽にはなるでしょう」
「その通りね」
そして8月8日1630の日没後、三川中将は戦闘前訓辞を発した。
『葦原・帝国海軍ノ伝統タル夜戦ニオイテ必勝ヲ期シ突入セントス。各員冷静沈着ヨクソノ全力ヲツクスベシ』
第八艦隊は第三十一駆逐隊を先頭に陣形を再編する。斯くして2243に先頭を航行していた駆逐艦『朝霜』の見張り員が右舷側距離9000にて敵艦影を発見した。これはヴィンランド海軍哨戒部隊の駆逐艦『ブルー』だったが『ブルー』は搭載していたレーダーが島影による電波の乱反射により役に立っていなかった。
また『ブルー』も第八艦隊を目視で発見したが僚艦『ラルフ・タルボット』と誤認していた。
「サボ島南方に到着!!」
「全軍突撃せよ!!」
2330、三川中将は突撃を下令しその直後に『八雲』見張り員が右舷方向に巡洋艦2隻を発見した。更に水偵が吊光弾を投下し背景照明を成功させた。
「見事な背景照明ェ!貰った!!」
「魚雷撃ェ!!」
駆逐艦『朝霜』と『夕雲』が距離3500にて酸素魚雷を2発ずつ発射、照準されたオストラン海軍の重巡『キャンベラ』ヴィンランド海軍の重巡『シカゴ』に2本ずつの水柱が噴き上がったのである。
「砲撃始めェ!!」
『八雲』から砲撃を開始すると後続の『和泉』『妙高』『羽黒』も砲撃を開始し『キャンベラ』と『シカゴ』は瞬く間に大炎上したのである。
「海戦は始まったばかりよ!!」
吠える三川中将であった。
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