「対空電探に反応!! 大型機16機が内地に向かって飛行中!!」
「戦闘機隊発艦始めェ!!」
「………」
宇垣は第一機動艦隊旗艦『加賀』の艦橋から飛行甲板に待機していた30機の戦闘機隊ーー陣風と2機の艦上偵察機彩雲の発艦を見ていた。宇垣が見ている前で陣風は前部飛行甲板に設置された2基のカタパルトから発艦をしていた。
「まさかカタパルトが実用化されてるとはな……」
「一応その他にもRATO……両翼にロケットを搭載しての発艦も可能だ」
「何、ロケットもか?」
「あぁ」
「そりゃあ引き分けに持ち込むわけだ……」
将和の言葉に宇垣は納得したように頷いていた。
「しかし、何で偵察機も同行させたんだ?」
「そりゃ迷子にさせないためだ。幾ら洋上飛行の錬成はしていても迷子になる機は必ず出るからな。1機でも多く母艦に帰すのが彩雲の役目の一つでもあるからな……」
こういったパイロットへの心配りが将和のパイロット達の評価が高いのも頷ける点であった。
「さて、後は敵機動部隊だが……」
なお、十数分後に偵察に出した彩雲から敵機動部隊発見の報告が届いた。
「攻撃隊は?」
「攻撃隊、発艦用意宜し!!」
「ッ……」
航空参謀の内藤大佐の言葉に将和は頷いた。その瞬間、宇垣は将和の雰囲気が変わったのを感じた。
「全機発艦!! 始めェェェ!!」
7隻の空母に待機していた攻撃隊は発艦を開始したのである。(交渉に出ていた『加賀』は艦載機を載せ変える暇は無かったので艦戦と艦偵を大量に搭載していた)
「これが三好の航空隊か……」
「遠いだろ、コイツで見ろ」
宇垣は将和から双眼鏡を借りて右舷を並走していた空母『雲龍』を見る。『雲龍』の飛行甲板では陣風18機、彗星18機、流星18機が待機しており陣風がカタパルトから交互に発艦していた。
第一次攻撃隊は以下の陣容であった。
空母『雲龍』
陣風18機
彗星18機
流星18機
彩雲3機
空母『蓬莱』
陣風18機
彗星18機
流星18機
彩雲3機
空母『葛城』
陣風18機
彗星18機
流星18機
攻撃隊隊長は『瑞鶴』の高橋定少佐であった。第一次攻撃隊が全て発艦すると直ぐに第二次攻撃隊を飛行甲板に上げ始める。
「素早いな……」
「航空戦は時間との勝負だからな。だからこそ航空戦を理解しない奴が指揮をするとパイロットを無駄に散らす」
「………」
将和の言葉に宇垣は今の一航艦司令部を思い浮かべて何とも言えない気持ちになるのであった。
また、将和は三戦隊の『河内』『因幡』を主力にした前衛隊を編成して前進させた。
「何で前衛隊を?」
「対空砲火で不時着水するパイロットを救助するのが第一の目的だ。第二の目的はパイロットが男性だとなるべく情報を隠すため。第三の目的はあわよくば敵空母を鹵獲するがためだな」
「………何だか、お前らの葦原が引き分けで出来たのが分かるな……」
それはさておき、帝都空襲を阻止するために志賀少佐率いる陣風30機と彩雲2機は直ぐに飛行しているB-25の編隊を確認した。
『隊長、二時下方!!』
「よし、此方も確認した。全機突撃!!」
志賀少佐は左フットバーを蹴飛ばし操縦桿を右横に倒しつつ思う。
(ソ連との戦争と思ったら今度は神隠しで男は海に入れない世界の日本を助けるためにアメリカと戦う……か。何とも面白い人生だ、三好の親父に付き従うと何かと起こるもんだ)
志賀は苦笑しつつも98式射爆照準器を覗き込み接近するB-25に照準する。
「悪いがこれは戦争だ。恨みならあの世でタップリと愚痴を聞いてやる!!」
志賀はそう言って20ミリ機銃を叩き込むのであった。そしてB-25を発艦させたヴィンランド機動部隊はというと……。
「200機余りの敵機だと!?」
「はい、レーダーからはそのような報告が……」
「クソッタレ!! トラップだったという事か!?」
機動部隊司令官フレンダ・ハルゼイ提督は制帽を床に叩きつける。
「全艦反転!! 対空戦闘用意!!」
ハルゼイ提督はそう叫ぶが第一機動艦隊から発艦した攻撃隊はハルゼイ機動部隊を嘲笑うかのように攻撃を開始するのであった。
光文17年4月25日、将和と宮様らは改めて葦原と会談を行うために転移した九州から『ある者』と『ある兵器達』を『加賀』に載せて横須賀に到着した。その足で将和らは海軍省に招かれた。
会談に参加するのは以下の通りであった。
日本海軍
伏見宮様
三好将和大将
山口多聞中将
草鹿龍之介中将
葦原国海軍
海軍大臣 嶋野夕華
軍令部次長 伊藤静中将
第一部長 福留繁子少将
第一部作戦課長 冨岡定絵大佐
第一部第一課長 三代辰枝中佐
連合艦隊司令長官 山本五十子大将
同参謀長 宇垣束少将
「貴方方については、GF長官の山本さんより詳しく話を聞いておりますわ。三好将和『提督』らを我が海軍に召集致しますわ。同意して頂けますわね?」
開口一番、嶋野はそう切り出してきた。嶋野の言葉に伊藤や福留らは溜め息を吐くがそれは将和も同様でありながらも口を開いた。
「嶋野大臣……貴女は何か勘違いをしていないかね? 我が大日本帝国軍は葦原軍に協力はするが葦原軍の傘下に入るとは一言も言っていないぞ」
「なッ!?」
将和の言葉に嶋野は目を見開く。嶋野にしてみれば自身の言葉は葦原海軍のトップでありそのトップからの命令を拒否する事を意味していた。
「しょ、召集を断るというのですの!? 仮に大日本帝国軍と言っても九州地方しかないではありませんか!!」
「ほほぅ……その九州地方に展開している部隊……御存じないのかな?」
「たかが陸上の部隊等、我が葦原陸軍には敵いませんわ!!」
売り言葉に買い言葉。将和は宮様に視線を向けると宮様はニヤリと笑みを浮かべた。それを見た将和は再度嶋野に視線を向けて口を開く。
「急造師団を含めて18個師団に15個独立混成旅団に2個戦車師団と5個戦車独立旅団に陸軍飛行隊は三個飛行師団」
「……えっ……?」
将和の言葉に嶋野はポカンとし富岡らは将和の意味を理解して表情を変えた。
「我が海軍の航空隊ら鹿屋基地以下18航空隊でそれを編成するのは第五航空艦隊。戦闘機約1560機、艦爆・艦攻約450機、双発爆撃機約540機、水上機約250機、偵察機約90機。他にも噴式戦闘機が約60機」
『………………』
将和から語られる言葉に福留らは顔を青ざめ嶋野はまだポカンとしていた。
「さて……葦原陸軍は元より葦原海軍も我が大日本帝国軍に敵いますかな?」
「な……な……な……」
ニヤリと笑う将和に漸く事の理解に嶋野は事態を飲み込んで顔を青ざめた。
「嶋野大臣、残念だけど我が海軍では大日本帝国海軍には太刀打ちは出来ない」
それを補足するように五十子はピシャリと嶋野に告げるのであった。その言葉に嶋野は驚愕の表情をする。
「五十子さん!?」
「嶋野大臣、これが三好大将一人であるなら貴女の強権は出来たかもしれない……けど、九州地方丸ごとだよ? 誰かに言われたのかはあれだけど、妥協はするべきじゃないかな」
「それとも……『毎朝新聞の尾崎という記者』という者に言われたのじゃないのかな?」
「ッ!?」
不意に将和が呟いた言葉を嶋野の耳は拾い驚愕する。
「あ、あ、あ、貴方は……」
「おやおや……大日本帝国軍の諜報力を御存じなかったかな? まぁ良かったじゃないか、今此処でそれを知れたからな」
まぁ将和は『知っていた』のでさもありなんである。ニヤリと笑う将和に嶋野は気付けばガタガタと身体を震わせていた。それを見た将和は視線を伊藤中将に向ける。
「まぁ些か話はずれたが……我が帝国海軍は葦原海軍と『共同で』ヴィンランド・ブリトン各軍に当たるという認識は間違いない。それは事実だ」
「……三好提督、それは葦原とは敵対しない。葦原と協力し共にヴィンランド・ブリトン各軍と戦う。この点で宜しいですか?」
「その通りだな」
軍令部次長伊藤中将の言葉に将和は頷く。伊藤が山口や草鹿らにも視線を向けると同様に頷いていた。
「まぁと言っても葦原海軍も本当に協力するのか? そう思われるだろう。なのでその協力の証として我が軍の兵器の技術提供をしたい」
「兵器の技術提供ですか?」
「あぁ。取り敢えずは第一段としてはこれだな」
将和はそう言って書類を福留らに配り、書類に目を通すと一同は驚愕する。
「こ、これは……」
書類に記載されていた提供は以下の通りであった。
『零戦三三型』(36機)
全幅 10メートル
全長 9.3メートル
全高 3.6メートル
正規全備自重 3,400㎏
発動機 金星六二型(離昇1560hp 水メタノール噴射装置付)
最高速度 627キロ
航続距離 2100キロ(増槽付)
武装 主翼13.2ミリ機銃二丁(各240発)
20ミリ機銃二丁(各180発)
『零戦五四型』(36機)
全幅 12メートル
全長 9.3メートル
正規全備自重 3,600㎏
発動機 金星七三型(離昇1760hp 水メタノール噴射装置付)
最高速度 636キロ
航続距離 2000キロ(増槽付)
武装 主翼13.2ミリ機銃二丁(各250発)
20ミリ機銃二門(各200発)
『彗星』(金星発動機搭載の三三型で36機)
『天山』(史実の十二型甲で54機)
『彩雲』(27機)
海防艦2隻(『日振』型であり一式ソナー等を搭載した艦もろもろを提供)
「まぁ第一段はこんなところか」
「こ、これは本当にですか?」
「疑うなら横須賀に停泊しているうちの『加賀』と『雲龍』の格納庫を確認しろ」
確かに『加賀』と『雲龍』の格納庫にはこれらの機体が翼を休めていた。
「海防艦は今此方に向かっている最中だから到着次第の引き渡しに向けた訓練に入るだろう」
「成る程」
「それとだが……我が帝国軍も要求はある」
「……伺いましょう」
「書類はこれだ」
将和はそう言って書類を渡す。書類は以下の通りであった。
・帝国海軍と葦原海軍共同での南方航路護衛の海上護衛隊の創設
・各資源の供給
・技術及び人的交流
・連合機動艦隊の創設及び連合機動艦隊司令長官に三好大将
「海上護衛隊の創設ですか……確かにそれは我々も構想はしていましたが……」
「幸いにも適任者はいるのでな」
海上護衛隊を率いていた長谷川は偶然にも佐世保にいた。というのも転移前に旗艦『龍田』と海防艦らと共に入港していたので半場巻き込まれた感じであった。
「成る程。それで最後の連合機動艦隊というのは……」
「ヴィンランド海軍に抵抗するには機動部隊を統合する必要がある。そして機動艦隊を率いるに当たり俺が指揮をする」
将和の言葉に福留達も納得出来た。事実、一週間前の帝都空襲ではB-25を全滅させハルゼイ機動部隊の空母『ホーネット』を鹵獲し巡洋艦3隻を撃沈し空母『エンタープライズ』を大破させ壊滅させており納得させる要素はあった。なお、鹵獲した『ホーネット』は現在佐世保に回航されて修理及び改装がされている最中である。
だがそれに口を挟んだのは又しても嶋野だった。
「それは日本帝国軍が我が葦原軍と一体となって戦う。その認識で良いですわね?」
『……………』
嶋野の言葉に将和や福留らは溜め息を吐いた。嶋野はどうあっても日本軍を取り込みたいと思っていた。嶋野は将和の無言にチャンスとばかりに畳み掛けるように口を開く。
「葦原軍は日本軍に更なる一体化を求めます!!」
「黙れやこのクソアマがァァァァァァ!!!!!!」
『ッ!?』
嶋野の言葉に将和は完全にキレて机を思いっきり叩きつける。将和のキレ具合に富岡らは泣きそうな表情をし経緯を見守っていた五十子や宇垣でさえ驚愕の表情をする。なお、宮様達は将和の様子に笑っていた。
「此方が黙っていたらいい気になったかどうかは知らんが調子に乗ったアホの言葉の一つや二つを言いやがってよォ!! テメェは戦争に勝つ気があるのかないのか!? それとも内部抗争に勝つ気で邪魔をしているのかどっちなんだ!!!!!!」
「わ……私は葦原のためを思ってですわ!?」
「葦原のためぇ?」
将和はそう言って立ち上がりヅカヅカと嶋野の前に立ちはだかる。誰もその行動を止めようとするもいなかった……否、将和の気迫に止める者は葦原側にはいなかったのである。
「ひ、ヒッ……」
「なら聞くが……葦原のためと言うなら何で五十子の邪魔をする? 何で俺達の邪魔をする?」
「そ、それは……」
「あぁ? ただのテメェの権力を拡大させたいだけの話だろ」
「ッ!?」
将和の言葉に図星だったのか顔を赤くする嶋野に将和は胸ぐらを掴み持ち上げる。
「あぐッ!?」
「ふざけんじゃねェ!! こちとら命の取り合いをしているんだ!! 故郷を守るか守れないのかの瀬戸際の戦いをしているんだ!! それをテメェはただの権力争いで満足しているただの乳くせぇガキなんだよ!!」
そう言って嶋野を無理やり座らせる。それが嶋野の緊張が切れたのか、身体をブルリと震わせると椅子から黄金色の液体が垂れてきた。
「…ッ……ッ……」
嶋野は止めようにも身体は解放感に身を任せてしまい、福留や伊藤らに出来る事はせめてのも視線を逸らして見ないようにするだけだった。将和はポケットからハンカチを取り出し嶋野に渡す、濡れた椅子を拭くためのである。
「俺達が知っているお前と似ている奴は……確かにお前とよく似た小心者だ。だが、奴にはお前には無いモノがあった。何か分かるか?」
「………………」
将和の問いに嶋野は無言だったが将和は答えを放つ。
「『命を掛ける』事だ」
『……………』
いつしか全員が将和の言葉に聞いていた。
「奴はお前と同じく現役の海軍大臣だ。開戦時も海軍大臣だった。負ければ責任を負わせられ最悪は占領軍の裁判で死刑宣告もあったかもしれない。だが奴は「己に課せられた義務」として大臣の椅子を和平まで座り続けてきたんだ。お前にはその覚悟があるのか?」
「わ、私は……」
「無ければ大臣の椅子なんざ捨てて消えちまえ。此処は戦争に勝つか負けるかの話をしているんだ」
何処かを見つめ何か譫言を繰り返す嶋野に将和はもう用は無いとばかりに席に戻り次長である伊藤中将に視線を向ける。向けられた伊藤はビクリと身体を震わせつつも将和と向き合う。
「良かろう。では先程の答えを聞こうか?」
「……分かりました。葦原海軍はーーー」
斯くして大日本帝国軍と帝政葦原軍は対ヴィンランド、ブリトン等の連合国に対して共闘する事になるのであった。
「あぁそうだ」
会談後、将和は伊藤に視線を向ける。
「急で申し込みないが近くに兵器工場があれば急いで見学をしたい」
「兵器工場の見学ですか? それは構わないですが……」
将和の申し出に伊藤はそう答えた。そして会談から3日後、将和は宮様と数人の官僚らと共に陸軍省を訪れた。そこには帝政葦原中津国の総理大臣の南条秀樹陸軍大将がいるのであった。
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