「何ッ!? 葦原のサルどもがサンディエゴに上陸しただと!!」
ヴィンランドの首都ワシントンにあるホワイトハウスで大統領のフランクリン・D・ローズンベルトはマーシャル陸軍参謀総長からの報告に持っていた書類を落としてしまう。
「海軍は何をしていたんだ!?」
「……最後の航空戦と艦隊決戦を行い太平洋艦隊は敗北、事実上壊滅しました」
ローズンベルトの叫びにキング海軍作戦部長は苦々しくそう報告した。
「……それで戦況は?」
「サンディエゴは海軍工廠を中心に爆撃及び艦砲射撃をされました。現在、オーシャン・ビーチ、ミッション・ビーチ、ポイント・ローマを中心に約三個師団が上陸して橋頭堡を築かれています」
「陸軍の反撃は?」
「ロサンゼルス方面から五個師団が急行させていますが……ロサンゼルスにも敵機動艦隊からの攻撃隊が飛来して対処に追われているとの事です」
「……何て事だ……市民らの避難は?」
「州兵を中心に避難をさせてはいますが……混乱状態なので細部までは不明です」
「……おのれトージョーめ!? 今に、今に見ていろ!! ……ウッ!?」
「か、閣下?」
「いや……大丈夫だ。この頃、酷く疲れているからな」
そう胸を抑えながら言うローズンベルトだった。そして舞台はサンディエゴに移る。
「何とかサンディエゴの市長は武装解除に応じてくれましたわね」
「あぁ……」
サンディエゴの海軍司令部を接収した日本葦原海軍、司令部には五十子や将和らが上陸していた。
「三個師団の上陸は成功しましたが……」
「後の六個師団もハワイから持って来ないとな……」
当初は八個師団だったが杉山らの努力により何とかもう一個師団の追加が可能となったのだ。既に輸送船団は全部吐き出すと直ぐにハワイに向けて帰還している。護衛は損傷が多い小澤の第二機動艦隊が行っていた。なお、宛がわれた小澤は本人は将和と離れるのに難色を示していたが将和の説得や一夜を共にした事で取り敢えずは納得してハワイに帰還するのである。
ちなみにこれが要因で小澤は葦原組では一番最初のおめでたを授かっている。
それはさておき、サンディエゴに上陸してから二日目の夜、将和は旗艦を『長門』に変更して乗艦した。『出雲』は損傷のためハワイに引き返したのだ。ハワイには『明石』『三原』『桃取』の『明石』型三姉妹が待機しており修理の要を担っていたのだ。
そして艦隊を率いてサンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジを艦砲射撃で破壊して西海岸の士気を下げさせるのである。
「こう言っては何ですけどね、ゴールデン・ゲート・ブリッジまで破壊する必要は無かったのではないですかね?」
日本葦原臨時首都の東京の総理官邸にて岸商工大臣はそう言う。別に苦言ではなかった、岸本人も苦笑していたのだ。
「まぁ岸大臣の気持ちは分かるがね……」
廣田も岸の言葉を聞いて苦笑する。
「だが、そこまでやらないとヴィンランドも降伏しないと踏んだからの攻撃でしょうな」
「それでヴィンランドとの交渉は……?」
「スイスでもなしのつぶてですな。一応、三好長官の方でもレイトン中佐が使者としてロサンゼルスの方には行ったらしいですがまだ詳細の程は……」
廣田の言葉に宮様はそう言って肩を竦める。
「ですが……本当に『星の屑作戦』を実行するので? サンディエゴに上陸こそしましたがハワイにいる六個師団の輸送はまだでしょう?」
「だからこそのパナマ運河攻撃ですよ吉田さん。パナマ運河が使えない奴等はホーン岬からしか来れませんよ」
「フム、成る程……」
「ですが問題は大陸の方でしょう……関東軍が何やら怪しい動きをしています」
「内々に処理で構いません。杉山さんらにお任せします」
「分かりました」
「それと国民投票の件ですが……」
廣田らの閣議は夜遅くまで続くのである。そしてサンディエゴの飛行場では……。
「何や、此処におったんかいな」
「ありゃ、淵さん」
滑走路の脇で烈風改で晩酌をしていた将斉のところに淵田中佐がやってきた。
「まだ散発的に銃撃があるから止めときや」
「なぁに、今はオマケで生きているようなものですよ」
「……何かあったんか?」
「…………………………」
淵田の言葉に将斉は買い入れたラム酒のコップを飲み干して新しくコップに注いでから懐に入れていた手紙を差し出した。
「これは……」
「淵さんは聞いていたと思いますけど、婚約取り消しを言ってきた向こうの親からの手紙ですよ」
将斉の言葉に淵田は手紙の中身を見る。文面は簡単に言えばやはり婚約取り消しは無しにして娘と結婚してほしいという内容だった。
「あんたこれは……」
「勝手過ぎますよねぇ……向こうから拒否してきたのに自分が活躍しているのを聞いたらまた拒否の取り消しを言ってきたんですから……」
そう言って将斉はラム酒のコップを飲み干し再度注ぐ。
「返事は……返事はしたんか?」
「えぇ、ちゃんと断りましたよ。今の自分は淵さんという新しい恋人がいるんでね」
「……アホゥ。見つめるなや、恥ずかしいやん……」
笑顔を見せる将斉に淵田は顔を真っ赤にする。結局、将斉は淵田に喰われて婚約していた。なお、話を聞いた将和も「よくやった」とサムズアップしていた。
そして二人でイチャイチャしていると飛行機の爆音が響いてきた。すわ、敵機かと思ったら四発機の日の丸が付いた爆撃機だった。
「な、何やあれ!?」
「……あれは連山ですね。そうか、飛行場も修復したから急いで持ってきたのか」
「れ、連山!? ほんならあれが……」
「えぇ。『星の屑作戦』に使用する機体ですよ」
将斉と淵田が見守る中、飛来してきた富嶽10機は着陸をしていくのである。
それから数日後、日本葦原軍の捕虜となっていたレイトン中佐はワシントンに戻りキング海軍作戦部長と面会をしていた。
「……成る程。それで貴女は解放されて此処に来たわけね」
「はい。本来はニミッツ長官が向かう予定でしたがニミッツ長官は両足を切断して歩行が難しいので私が代わりに……」
「まぁセシリアが生きていようが生きていまいがどうでも良いわ。それで葦原の条件は?」
「……此方が書類になります」
キングの言葉にレイトンは多少顔を歪めつつもキングに書類を渡す。書類を渡されたキングは書類を読んでいき、最終的に溜め息を吐いた。
「……成る程ね……」
「それが向こうの第一条件との事です。それとこれが……」
「何? …………………………ッ!?」
新たな書類を見ていたキングは驚愕の表情をしてレイトンを見る。
「貴女……この書類は全て見たのかしら?」
「答えはNoです。向こうから言われた事しかしてませんよ」
キングの言葉にレイトンはそう言って肩を竦める。表情からしてレイトンの言葉は事実だろう。キングは溜め息を吐いて立ち上がる。
「直ぐにホワイトハウスに行くわ。貴女も同行しなさい」
「分かりました」
そして二人は慌ててホワイトハウスに向かい、ローズンベルトと面会をする。
「何? 奴等の和平交渉だと?」
「はい。この捕虜となっていたレイトン中佐が書類を携えて持ってきました。これが書類になります」
キングはそう説明をしてローズンベルトに書類を渡す。渡されたローズンベルトは書類を一読をするがフッと笑う。
「成る程。ズル賢いサルの奴等が考えそうな事だ」
書類に記載されていた和平条件は以下の通りだった。
・即時戦闘の停止
・領土を内地(千島列島等含む)、樺太、台湾、済州島等としそれ以外の領土は返還する。
・連合国入りの表明
・ルーシ連邦の連合国追放
・通商条約の再締結
「ルーシの追放は予想外だったが……ルーシはトメニアと戦っているではないかね?」
「いえ、ルーシは共産主義だからです」
「敵の敵は味方だろう」
「……これを見てもですか?」
キングは震える声である書類をローズンベルトに差し出した。それを受け取り、一読すると椅子から飛び上がった。
「こ、これは……真実なのかね!?」
「まだグレーです。ですが、不思議な点はあった筈です」
「そんな……そんな馬鹿な事が……ウッ!?」
「大統領?」
ローズンベルトは胸を抑えながら椅子に倒れる。表情を見れば脂汗が大量に出ていた。
「閣下!?」
「グッ………………ッ……………」
ローズンベルトはピクピクと数度の痙攣をしたと思ったら左手がダラリと肘掛けから落ちるのである。
「い、医者よ!? 医者を呼びなさい!?」
「閣下!? 閣下ァ!?」
キングらの呼び掛けにローズンベルトは二度と答える事はなかった。伴天連歴1943年7月15日、ローズンベルト大統領は死去。死因は脳溢血であった。
そして新大統領には副大統領であったヘンリー・A・ウォレットが急遽就任するのである。
「いきなりの大統領職だが……職務は全うする。それでスパイの逮捕はどうかね?」
「ハッ……凡そ4割の逮捕はしていますが……」
「が?」
「……肝心のハリー・ホプキンスは行方を眩まして行方不明です」
「……クソッタレがァ!!」
FBI長官のエドガー・フーバーの報告にウォレットが机を思いっきり叩く。
「……ハリー・ホプキンスの捜索は全力を尽くせ。陸海軍、州軍も動員して構わない。ルーシのスパイは全て探り出して逮捕するのだ!!」
『ハッ!!』
ヴィンランドは早急にスパイ捜索網が展開されるのである。そしてウォレットはキングとマーシャルを呼び出す。
「……葦原とは和平をする必要は大いにあるだろう」
「ハッ……」
「私からの声明文で出そう。場合によっては軍が使者になるかもしれない」
「分かりました。私達も同行しましょう」
斯くして伴天連歴1943年7月25日、ヴィンランドは日本葦原に対して和平交渉の用意があると声明文を発表するのであった。そして内地でもある動きがあるのであった。
「国民投票により伴天連歴1943年、光文18年8月15日に帝政葦原中津国は『扶桑皇国連邦』と改名する」
記者会見で東條はそう発表する。
「葦原と日本の名は使わないのですか?」
「大本は『扶桑』とし地方で葦原と日本とする。何せ二つ以上の国が交じっているからな。それに伴い連邦ともする」
「しかし……『扶桑』という名前は2隻とも沈んではいますが……」
「フネは何れは沈む。人も死ぬ……だが国は沈まない。そういう事だ」
記者達の質問にそう答える東條であった。
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国名に関してはほんと悩みました。