『三好in山本五十子の決断』   作:零戦

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後、一話で実質的に終わる


第二十八話 締結

 

 

 

 

 

「『星の屑作戦』は中止とする」

 

 将和は旗艦『信濃』の艦橋でそう宣言する。時は伴天連歴1943年(光文18年)8月6日の事であった。ヴィンランド側から和平の接触があったのだから当然の事だろう。

 

「……嬉しそうだな」

「……顔に出ていたか」

 

 宇垣の言葉に将和は苦笑する。

 

「まっ……ロスアラモスを死の町にはしたくないし住めなくなる事にはしたくはないからな……一先ずの安堵かもな」

 

 将和はそう言いながら略帽を被り直して深く被るのであるがその視線は何を見ていたのかは宇垣や嶋野も分からなかった。真実を知るのは将和自身であった。

 

「取り敢えずは祝杯だな」

「お、今日は何を出すんだ?」

「ラム酒とするか」

「いつもじゃないか」

「いつもが良いんじゃないか」

 

 笑い合う将和と宇垣であった。なお、この時サンディエゴには七個師団が配備されており残りは二個師団だったが和平交渉になった事で残った二個師団の派遣は中止となったのであった。

 8月12日、内地から交渉使節団がサンディエゴに到着した。その顔ぶれは使節団団長に副総理の廣田、外相の東郷、副外相の吉田、商工大臣の岸であった。

 

「大陸の件は大丈夫ですか?」

「何とか杉山さんらが抑えてくれましたからな」

 

 大陸ーー満州で不穏な雰囲気はあったものの杉山らが素早く対処し辻元大佐らのグループがクーデター計画をしていたのが発覚。憲兵隊等が強制的に関東軍司令部に乗り込み、抵抗した辻元大佐は直ぐに頭が吹き飛んだのである。これによりクーデターグループは瓦解し瞬く間に関係者達は逮捕されていったのである。

 

「まぁ陸の事は陸に任せておきますよ。それで交渉なんですがね」

「何か不都合でも?」

「いえね、三好君も参加してもらおうかなと思いましてな」

「……またですか」

 

 廣田の言葉に将和は溜め息を吐くが岸や吉田は笑っていた。

 

「ハハハ、三好大将なら問題は無いでしょう」

「その通り。前回もやっておられましたからな」

「……ちょっと重圧ですけどね」

 

 そう言う将和であった。そして和平交渉はロサンゼルスで行われる事になった。またそれによりロサンゼルスは非武装地域となり8月8日には両国とも現地入りしたのである。

 

 

 

【日本・葦原使節団】

 団長 副総理 廣田弘毅

 副団長 外相 東郷茂徳

 副外相 吉田茂

 商工大臣 岸信介

 連合艦隊司令長官 山本五十子大将

 第一艦隊司令長官 三好将和大将

 

【ヴィンランド使節団】

 団長 大統領 ヘンリー・A・ウォレット

 副団長 副大統領 ハリマン・トールマン

 国務長官 コーデル・ハル

 陸軍参謀総長 マーシャル大将

 海軍作戦部長 ヴィレッタ・キング大将

 

 

【オブザーバー】

 太平洋艦隊司令長官 セシリア・ニミッツ大将

 

 

 

 

「この交渉が良き交渉になる事を願います」

 

 そう先に繰り出したのは廣田であった。廣田はウォレットを見つめる。

 

 

「我々、日本葦原が和平に出したのは先に提示したのと変わりません」

 

 

 ・即時戦闘の停止

 ・領土を内地(千島列島等含む)、樺太、台湾、済州島等としそれ以外の領土は返還する。

 ・連合国入りの表明

 ・ルーシ連邦の連合国追放

 ・通商条約の再締結

 

 

「確かこのような内容でしたな」

「如何にも」

「樺太、台湾、済州島となっていますが何故ですかな? 我々としては葦原が葦留戦争(日露戦争相当)以降に獲得した領土は手放してはほしいですが?」

 

 廣田の言葉に切り込んだのはハルであった。ハルの言葉に苦笑したのは吉田である。

 

「ハル国務長官、二つ程矛盾がありますな」

「ほぅ、矛盾と?」

「台湾は葦留戦争以前の葦清戦争(日清戦争相当)で獲得した領土であります。また、樺太の北緯50度以南は葦留戦争で獲得しました。それにハル国務長官、貴方が開戦前に提示したハル・ノートには要約すれば『満州事変』の前に戻せであり、樺太、台湾、済州島は満州事変以前に獲得した領土なのですよ」

「ッ(成る程……意外とコイツはやるな……)」

 

 吉田の言葉にハルは納得し主張を自身で退けた。次に口を開いたのはトールマンである。

 

「開戦以降に獲得した領土は返還するとの事だが……それは即時返還かね? それとも時間的返還かね?」

「現時点で和平交渉が締結すればサンディエゴ、ハワイ諸島は10月までに返還します。各地域も47年中には撤退をして返還します」

「フム。時間が掛かりすぎではないか?」

「それは当然です。何せ大量に陣地を構築したので此方も破壊して埋戻しをしないといけませんからね。不安でしたら視察団を派遣しても構いません」

 

 トールマンの言葉に将和はそう反論する。綺麗なブリトン英語にウォレット達も思わず目を見開く。

 

「ほぅ……アドミラル・ミヨシのブリトン英語は綺麗ですな」

「ありがとうございます。ブリトン英語に厳しい先生がいたのでね」

 

 将和はかつての友であるトーマス・フィリップスやシャーリーを思い出す。彼等もクイーンズイングリッシュで話すから必然的に将和も鍛えられたのである。

 

「ではアドミラル・ミヨシ。撤退は可能……そういう事かね?」

「段階を踏めばYESですよプレジデント」

「OK。我々としても撤退したら問題は無いと認識する」

 

 将和の言葉にウォレットは満足気に頷くのであった。

 

「それで連合国の加盟だが……」

「欧州に軍を派遣してほしいと言われたら派遣するかね?」

「無論ですな」

 

 吉田はそう言ってウォレットらに数枚の写真を渡した。渡されたウォレットらは写真を見て顔をしかめる。

 

「これは……」

「トメニアによるユダヤ人の強制収容所で捉えた収容所での悪事の写真ですよ」

 

 吉田はそう言って葉巻を取り出して火を付ける。

 

「トメニアにも反ヒトラー派はいる。その派閥から貰った写真の一部です。我々がトメニアと同盟したのはあくまでも技術力を欲しただけ……殺戮国家となるわけではありませんのでね」

「……成る程」

 

 ちなみにこの写真、元は将和側の日本が転移する前に入手した写真である。要はペテンにかけたのだ。だが、トメニアが行っているのは事実でもあった。そしてまだ将和らにも切り札はあった。

 

「……連合国加入の件は分かりました。それでルーシ連邦の連合国追放は……」

「これを」

 

 吉田は別の写真を数枚渡す。渡されたウォレットは先程と同様に顔をしかめる。

 

「……これは……?」

「ルーシ連邦のスモレンスク近郊に位置するカティンの森で撮影されたモノですよ。写っている多くの遺体は虐殺されたポーランド軍将校や警官、一般官吏、聖職者達です」

『…………………………』

「我々は伝統的に反ソ……じゃない、反ル的な立ち位置でしてね。ポーランドとの繋がりもあるんです。その数枚の写真は奇跡的に生き残った一人が何とか虐殺を写真に収めてトメニアに逃げた。そしてその写真が廻り廻って此処にあるのですよ」

 

 無論、これらの写真も転移前にヘルマン・ゲーリングらを通じて将和らの手元に届いたのだ。

 

「……成る程。そういうわけですな」

「そして我が国も多数のアカはいた……だからこそルーシ連邦の連合国追放……成る程」

「取り敢えずは次に進めましょう。まぁ通商条約は構いませんね」

「特に問題は無いかと……」

「それでは最後に我々からの事です」

「我々……?」

「はい。我々、葦原ではありますが葦原ではありません」

「……仰る意味が……」

「……今から話す事は何れ全世界にも公表はしますが、今はヴィンランドにのみ話します」

「……承りましょう」

 

 廣田の表情を見てウォレットも姿勢を正した。そして廣田の口から日本の事が語れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神はこの世にいた……つまりはそういう事ですか……」

「人類にも……希望は見えてきた。そういうわけですね」

 

 ウォレットとキングはそう言うが廣田らは「はて?」と首を傾げる。

 

「おかしいですな」

「というと……?」

「いえ。我々が転移前から捕虜にしていた米英の軍人達はいる事はいるのですが、ローズンベルト大統領が降伏要求の『ワシントン宣言』の声明文を発表する前に通達していたのですよ」

「な、何ですと!?」

 

 廣田の言葉にウォレットは思わず席から立ち上がり廣田を見るが廣田は頷く。そしてウォレットはハルに視線を移すがハルも首を横に振る。

 

「これは私も知りませんでしたが……もしかしたら……」

「もしかしたら?」

「……もしかしたら私どもより先にハリー・ホプキンスが情報を入手して揉み潰したのかもしれません」

 

 苦々しくハルはそう言う。ウォレット達ヴィンランド側は有り得そうだと認識していた。それならローズンベルトもその情報を知らされずに『ワシントン宣言』の声明文を発表したのだろう。

 

「……やっぱアカは殲滅すべきだな」

 

 ボソッと思わず将和は日本語でそう呟くのである。なお、捕虜の帰国も順次行う事で合意したのであった。結果としては8月14日には全て合意の成された。そして翌日の8月15日、日美共同での『ロサンゼルス宣言』の声明文が発表された。

 この『ロサンゼルス宣言』では以下の取り決めが世界に通達された。

 

 

 ・日本帝国の転移の説明

 ・葦原と日本帝国は多少は違う国ではあるが大本は同じであり日本は葦原と協力して戦争をしてきた事。

 ・ヴィンランドは葦原と日本の二国と連合国には独断で和平条約を締結した事。

 ・ルーシ連邦の連合国追放と追放理由。

 ・ルーシ連邦に代わり『扶桑皇国連邦』が連合国入り。

 ・日本帝国には転移前に行っていた戦争の各国の捕虜がいる事。

 ・捕虜及び日本帝国の人間には『ラ・メール症状』が効かない事。

 ・捕虜達は違う世界では祖国は同じなので帰還を望んでいる事。これにより捕虜が祖国に帰還すれば何れは『ラ・メール症状』に抗体を持つ子孫が増えていき『ラ・メール症状』を克服出来る事。

 ・日本・葦原は『扶桑皇国連邦』として国家宣言等々が宣言された。

 

 

 

 またこれに付随して日本・葦原及びヴィンランドとの和平条約である『ロサンゼルス和平条約』が締結された。

 

 

 ・日本及び葦原が戦争で獲得した南方地域・ハワイ諸島を段階的に返還。

 ・捕虜の返還。

 ・扶美修好通商条約の締結。

 ・賠償金の要求無し。

 ・扶桑皇国連邦の連合国入り。

 

 

 

「これで和平になりましたわね」

「……これが長く続くようにしないとだよ」

 

 9月2日、ロサンゼルスにて将和らは式典に参加していた。そして調印式も中程が終わりつつあった時、将和にマイクが振られた。

 

「おいおい……あまり振られたくはないんだが……」

「まぁまぁ……機動艦隊を率いていたからね」

 

 苦笑する将和に五十子も苦笑する。仕方ないとばかりに将和は壇上に上がり頭を下げる。

 

『まずはこの太平洋という海で、陸で戦死した者達に1分間の黙祷を捧げましょう』

 

 将和の綺麗なブリトン英語に連合国各国の使者達は静かに聞いて黙祷を捧げる。そして黙祷が終わると将和は口を開いた。

 

『我々は多くの英雄を失った。これは敗北を意味するのか? ………否!! 始まりだ!! 始まりに過ぎないのだ!! 我々は共産主義という一部の欲望を持つ者の手によって多くの血を流させてしまった。共産主義は何か? 我々の存在を否定するのだ。我々がいた証を消してしまうのだ。我々はそんな主義には屈してはいけない。屈したりはしないのだ。我々は言葉も違う、肌の色も違う、価値観も違う。だが共通する事はある……共産主義が敵だという事だ。昨日までは敵同士だった。憎い相手だ、身内を殺した相手だ。確かにそうだろう……過去はどうする事も出来ない。ではどうするか? ……未来は変えられる。過去を嘆くのだけではなく、過去の教訓を活かして我々は未来に生きていく。少なくとも私はそう願いたい』

 

 話は以上だと将和はそう言って壇上を降りる。将和の言葉に感動する者、詭弁だと憤る者、達者なブリトン語に感心する者と様々であったが、出席者の皆が将和の発言を聞き逃さずに聞いていた。そして五十子らの下に戻るとラム酒を呷るのである。

 

「『未来は変えられる』……良い言葉ですわね」

「俺は強く願いたいよ」

 

 嶋野の言葉に将和はそう言うが車椅子に座っていたセシリアは上を見上げる。

 

(……敵いませんね……これがアドミラル・ミヨシ……という事なのでしょうか)

 

 そう言って苦笑するセシリアであった。

 

「……ですが酒の飲み比べなら負けません」

「ちょっとー? この人、何か勘違いしてませんかね?」

「あら、飲み比べに負けたら私とも結婚すると言ってたじゃありませんか」

「んな事一言も言ってねぇよ……あ、そうだ」

 

 将和は思い出したかのように振り返り、五十子らを見る。

 

「……帰ったら結婚式やるか。身内限定だけどな」

「…………………えっ?」

「………………ふぇっ?」

「………………ひゅっ?」

「………………かひゅっ?」

「…………………んむっ?」

 

 将和の言葉に該当者達は一瞬、唖然としたが理解すると一気に瞬間湯沸し器のようにボフッと煙を上げて顔を真っ赤にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 伴天連歴1943年(光文18年)9月2日、太平洋における戦争は終わりを告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




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