「海上護衛隊ねぇ……また創設するのか?」
「いやいやお前の専売特許だろうが」
「まぁそりゃそうだ。だが可愛い子ちゃんまで軍務に就かせざるを得ないこの海を俺は憎いぞ」
「……それ、吉良も似たような事を言っていたなぁ……同類?」
「流石の俺でも泣くぞ将和」
4月30日、横須賀鎮守府内にて新しく創設された海上護衛隊司令部で将和と海上護衛隊司令長官に任命された長谷川清大将はそう語っていた。
「まぁ俺が海に飛び込んでも死ぬ事はなかったし大丈夫だ」
実際に『龍田』の艦上から海に飛び込んで死ぬ事は無いと確認された清もヌハハハと笑うが将和は溜め息を吐く。
(まぁおっかなびっくりにされるよりはマシか……)
「それで葦原海軍は戦力を出してくれそうか?」
「今のところは『神風』型と『峯風』型を出してくれるそうだ。それ以外は俺んとこの『龍田』らでやるしかない」
転移時、九州地方に展開していた海上護衛隊は護衛巡『龍田』に『香取』護衛空母『神鷹』後は『神風』型4隻に海防艦28隻であった。
司令長官に就任した清は陸軍と協議して護送船団方式で南方航路を護衛する事が決定された。当初は陸軍も九州の存在に怪訝な表情だったが兵器の技術提供でチハ様と四式戦『疾風』を提供した事で掌クルーをしてむしろ日本帝国軍とは積極的に関わっていく事になる。
また、この兵器技術提供によって南方地帯を占領していた陸軍も葦原海軍は元より日本軍にも資源提供を承諾する。というのもこれには理由がある九州ーー北九州には八幡製鉄所があるからだ。葦原でも八幡製鉄所は存在していた。転移した事で八幡製鉄所は喪失した……が、代わりに三好日本の八幡製鉄所が転移した事で生産力を聞いた葦原陸軍が積極的に関わる理由の一つになる。
「ま、護衛に関しては任せるぞ」
「おぅよ、任せてくれ……ところで彼処で彼女を待たしているぞ?」
清が見る先にーー嶋野元海軍大臣が立っていた。それを見た将和はもう一度溜め息を吐いた。
「……帰る。また来るよ」
「あぁ、あぁそれとお前に餞別だ」
「ん?」
ポイと清が渡したのはーー突撃一番(所謂戦前におけるコンドーム)だった。
「頑張れ頑張れ♪」
「ど阿呆!!」
「アタッ!?」
笑う清に将和は突撃一番を叩きつけて退出をする。それに続いて嶋野は清にペコリと頭を下げて退出するのであった。
「しかし……暴君だった彼女があんな『潮っ気』らしくなるとはねぇ……」
清はそう呟きながら温くなったお茶を啜るのであった。将和は空母『加賀』に戻ると艦橋で勤務をしていた女性士官から出迎えを受ける。
「お帰りなさい三好長官」
「あぁ」
人的交流の一環で『加賀』にも葦原海軍の女性乗員が乗り込み今では男女比率は7:3となっていた。他にも『加賀』航空隊にも女性パイロットが配属されていた。
また、大日本帝国海軍と葦原海軍が共闘するに当たり艦名の変更も多少の一悶着はあった。
特に『加賀』に関しては将和が一歩も譲らず葦原側の『加賀』が『土佐』に変更された程であった。また、基本的に艦名が変更されたのは葦原側の方であった。というのも両者で大きく違うのは電子機器を搭載しているかである。
大日本帝国海軍の艦艇は対空対水上の電探を各種搭載しておりその力は葦原海軍の艦艇を凌駕していた。そのため五十子も艦名に関しては将和らの主張を通したのであった。
それはさておき、将和らが横須賀に停泊しているには意味があった。というのもトラック諸島から急遽一人の提督が空路でやってくるのだ。
「提督、山本さん……山本長官と井上中将が来ましたわ」
「そうか、ありがとう嶋野」
「いえ礼には及びませんわ長官」
そして何故か会談の二日後辺りから嶋野が『加賀』に乗り込んできてたのだ。
「……何の用だ?」
「……私、南条総理に大臣の辞表を提出して受理されましたわ」
「……それで?」
「私……見つめ直す事にしましたの。何で海に出たかったのか、何をしようとしていたのか……」
嶋野は胸に手をやり在りし日の事を思い出す。そして将和を見据えるが将和には嫌な予感しかしなかった。
「私を此処に置いて下さい。貴方の、日本と葦原の行く末を見てみたいのですわ」
「……………」
その嶋野の目に将和は誰かを思い浮かべた。
『貴方と共に歩みたいのよ』
(……夕夏……)
「……ちなみに断ったら?」
「どうもありませんわ。素直に郷里に帰り隠遁する生活を送りますわ」
(……本気のようだな……)
嶋野の言葉に将和は溜め息を吐くも視線を向けると嶋野は身体を強ばらせる。
「……良かろう。副官という形になるが構わないな?」
「も、勿論ですわ」
将和の言葉に嶋野はホッとしたような仕草をするのであったが直ぐに何かを思い出したかのように口を開いた。
「それと……私の名前は嶋野夕華(しまのゆうか)になりますわ」
「ッ……そうか……」
「……………」
嶋野の言葉に将和は一瞬、表情が反応するも直ぐに何も無い表情にするが嶋野にはそれが不審な仕草に見えたのであった。
それはさておき、将和は作戦室にて二人の来客を出迎えたのである。
「三好長官、此方が井上成実中将。私の大切な仲間だよ」
「Nice to meet you。Admiral三好」
「これは御丁寧に」
英語(ブリトン語)で返した井上に将和も英語で返すと井上は驚いた表情をする。
「そちらの海軍もブリトン語は学ぶようね」
「一応な。俺は他にもトルメア語とルーシ語はいけるけどな」
「あら、それなら聞いてみたいものね」
「ではこんな感じでどうかなお嬢さん?」
井上の言葉に将和はそれぞれの言葉で返すと井上は笑みを浮かべる。
「成る程。貴方は余程の国際人かしらね」
「さーてね……」
「ところで……貴方Seriously? そこの人を副官にして?」
井上は傍らに控えていた嶋野に視線を向けるが嶋野は会釈をする。
「井上さん、貴女が過去の事について謝ってほしいと言うならいつでも謝りますわ。ですがそれで示しがつかないのであれば別の行動に移す……それだけですわ」
「……どうやら心変わりしたというのはLike the truthね」
「夕華ちゃんには私もビックリしたけどね」
肩を竦める井上に五十子は苦笑をする。
「まぁ貴方がどうやって嶋野大臣……嶋野副官のropeを握っているかは置いておいて……私を呼び出したのはそれだけではなくて?」
「無論」
将和はそう言って井上に一冊の計画書を渡す。井上はパラパラと計画書を目を通す。
「『MO作戦』……本当にやるのかしら?」
「やるからこそ貴女を呼び出したのだよ」
井上の言葉に将和は苦笑する。
「これが俺だけの転移なら中止を無理矢理にでもさせた……だが転移したのは俺だけではない」
「……葦原海軍を壊滅させるだけの戦力を持つ大日本帝国海軍がいる……という事かしら?」
「that's right」
井上の言葉に将和は芯を得たとばかりにニヤリと笑う。
「艦隊編成を見てくれ」
「……これは……」
将和に促されて頁を捲った井上は艦隊編成を見て思わず将和を見た。
「それがMO作戦の艦隊編成だ」
艦隊編成は以下の通りで編成されていた。
第一機動艦隊
司令長官 三好将和大将
参謀長 宇垣束少将
第一航空戦隊
『加賀』(旗艦)
【零戦33型54機 彗星27機 天山27機 彩雲12機】
『土佐』
【零戦33型27機 彗星18機 天山27機 彩雲6機】
『雲龍』
【零戦33型27機 彗星18機 天山18機 彩雲6機】
第三航空戦隊
『蓬莱』
【零戦33型27機 彗星18機 天山18機 彩雲6機】
『葛城』
【同上】
第三戦隊
『河内』『因幡』
第四戦隊
『高雄』『八雲』『和泉』
第八戦隊
『利根』『鈴谷』
第一護衛隊
『五十鈴』
艦隊型駆逐隊
『浜風』以下8隻
防空型駆逐隊
『涼月』以下8隻
MO攻略部隊
司令官 松田千秋中将
『飯盛』
【零戦33型78機 彩雲6機】
『祥鳳』
【零戦33型27機 彩雲3機】
第十一戦隊
『長門』『伊勢』
第五戦隊
『妙高』『羽黒』
第六戦隊
『青葉』『衣笠』『古鷹』『加古』
艦隊型駆逐隊
『雪風』以下8隻
防空型駆逐隊
『花月』以下8隻
「これはexciting……大規模なpartyになるのは間違いないわね」
「まぁ予定していたのより少ない程だがな。partyに参加するなら今のうちだぞ」
「参加したいけど、私は四艦隊司令長官の身だからおいそれと参加出来ないわね」
「確か一航艦の全空母を投入予定だったものね」
将和の言葉に五十子は苦笑する。当初、将和は全空母の投入を予定していた。というのも航空戦力についてはヴィンランド軍が大きく保有しておりオーストラリアの航空基地には約400機程が展開していたから尚更である。
「まぁ機種転換の訓練が間に合わなかったのが要因だわな」
葦原海軍の全空母の航空機は大日本帝国海軍から航空機を供与されて機種転換をしていたが流石に日数が日数であり間に合わなかったのだ。そのため、『土佐』に間に合ったパイロットと機体を集めての出撃だったのだ。
「けど、宇垣を機動艦隊の参謀長にしたのはどういう意図があるのかしら?」
「まぁよく言えば研修だな」
人的交流で帝国海軍は将和の次に航空戦の猛将である山口多聞中将を差し出した。五十子は山口をGF参謀長にしその対価として機動艦隊参謀長に宇垣を差し出したのだ。そして宇垣は機動艦隊を目にする事で軍令部の知り合いに連合機動艦隊の構想を奔走させる手筈であったのだ。
「そのためにもMO作戦は是が非でも成功させ後々のFS作戦の道を繋げる必要がある」
「……成る程。三好大将の狙いはニッケルの確保ね」
「that's right。ニッケル失くしては航空機の生産は出来ないからな」
航空機の生産、特に発動機の生産にはニッケルが必須条件でありその確保には大日本帝国陸海軍は元より葦原陸海軍も同じくであった。
そして将和が構想するFS作戦の終着駅はニッケルの産出地であるニューカレドニア島の占領であった。
「凄いな三好長官は……私はそこまで思い付かなかったなぁ」
五十子は感心するように言うが将和は首を横に振る。
「そんな事はないぞ五十子。お前にも信念はあるだろう」
「それは……どうかな……」
「『早期講和』」
「ッ」
「お前の信念はちゃんとあるじゃないか」
「……………」
将和の言葉に五十子は気付けば眼に涙を浮かべていた。かつて、将和と対立した山本五十六も確かな信念はあった。だがその信念に固執し過ぎるあまりあのミッドウェーを産み出してしまった。
(そう考えれば……五十子も嶋野も犠牲者の一人に過ぎないな……)
そう思う将和であった。そして五十子は涙を拭い笑みを浮かべる。
「ありがとう三好長官」
「ん」
五十子の言葉に将和は頷くがそれからの五十子が将和を見る眼は少し違うのであった。二人が下艦後、嶋野は将和に質問する。
「三好長官……何故戦闘機は陣風ではなく零戦33型ですの? 陣風であればヴィンランド軍の敵戦闘機は鎧袖一触ではありませんの?」
「確かに陣風であればそうなのかもしれないな……」
「でしたら五十子さんの早期講和にも……」
「『ヴィンランドが早期講和に応じる事は絶対に無い』」
「ッ!?」
将和から発せられた言葉に嶋野は背筋が凍る思いだった。
「……ヴィンランドは盟友のブリトンを守る。そして戦後を見据えてブリトンに代わって世界の覇者になろうとしている。そのため、ヴィンランドが早期講和に応じる事は無い」
「ならば何故陣風を……」
「……陣風は元より現時点での葦原の工業力で帝国陸海軍の兵器を『大量生産』出来るのか?」
「あっ……」
将和の言葉に嶋野はポカンとしつつも確かにと納得した。例えだが海軍の建造計画は大量に存在するが肝心の建造能力ーー工業力は史実日本並であった。
「うちの日本は空襲等に備えて各工場を全国にバラけて配置させ生産力を落とさないようにした。だからこそ九州地方だけの転移でも何とか対処出来ているのはそれだ。今は大量増産中の工作機械を大量に葦原側に送ってはいるがその成果が出るのはまだ先だ」
実際、九州地方の各県に各工場が存在しており生産力は落ちているもそれでも何とかの対処は可能だった。だが葦原ではどうだろうか? 語らずともである。
「……申し訳ありませんわ。私が浅はかでしたわ」
「そうじゃない、確かに誰もが自分達に都合の良いよう思う事だ。ならば次はそうならないようにしたら良い」
将和はそう嶋野に言うのである。そして光文17年5月3日、第一機動艦隊はMO攻略部隊と共に内地を出撃し途中トラック諸島で輸送船団と合流し攻略目標であるポートモレスビーに向かうのであった。
そしてその最中に第一機動艦隊の中に新たな葦原海軍の将官が派遣されるのである。
「南遣艦隊司令長官の小澤智里中将だ。山本長官から三好大将を支援してほしいとね」
「そうか……宜しく頼むよ」
航空戦を理解する南遣艦隊司令長官の小澤中将を五十子は派遣したのであった。
小澤はソロモン作戦で出すつもりでしたがまぁMO作戦でアウトレンジ作戦を知ってもらうがために出しました。
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