「ジェニファー……」
「第17任務部隊……只今戻りました」
5月19日、ハワイ諸島オアフ島にあるヴィンランド海軍太平洋艦隊司令部では頭に包帯を巻いたジェニファー・フレッチャー少将が入室した。その怪我に太平洋艦隊司令長官のセシリア・ニミッツ大将は思わず腰を浮かべようとしたが部下の手前でもあり何とか立ち上がらないようにした。
「構いません、まだ傷口が回復していないだけですので」
フレッチャーはそう言いながらも頭を下げる。
「『レキシントン』『ヨークタウン』の喪失並びにポートモレスビーの陥落は私の責任であります」
「そう……でもポートモレスビーに関しては陸軍の責任になるから問題無いわ」
(……でも2空母の喪失は私の責任……というわけね)
だがニミッツの言い方は二空母の喪失は自身に有りと感じられたフレッチャーである。
「けど……貴女を更迭する理由が無いわ」
「……というと?」
「フレンダの件も貴女の件も葦原側で何らかの出来事が起きていると上は踏んだのよ」
「何らかの出来事……まさか葦原が新型機を開発したと?」
「その可能性も否定出来ないわ……一先ずは報告をお願い」
「分かりました」
ニミッツの言葉にフレッチャーは報告書を渡す。
「珊瑚海で経験した私から言えるのは……今回の葦原は異様でした」
そう言ってからフレッチャーは語り出す。フレッチャーの第17任務部隊はツラギに上陸したツラギ攻略部隊を空襲したが艦艇群はいたがその高角砲や対空機銃の砲身銃身は上空に向けて攻撃隊を待ち構えていた。
しかも上空には30機の水上戦闘機が待ち構えており攻撃隊は攻撃しようにも這う這うの体で追い回され結局は攻略部隊やツラギを攻撃出来なかったのである。
フレッチャーは第三次攻撃を出すつもりだったが0815に『ヨークタウン』の索敵機がMO攻略部隊を発見、フレッチャーは全力攻撃を指示し92機の攻撃隊を送り出した。
しかし、攻撃隊がMO攻略部隊上空に到着すれば待ち受けていたのは100機余りの零戦隊であった。彼女らは散々に落とされ帰還出来たのは21機のみであった。この時点でフレッチャーは撤退を決断し攻撃隊を収容後は反転しようしたが、第17任務部隊は第一機動艦隊から発艦した彩雲に発見されたのである。
1012、第17任務部隊は200機余りの第一機動艦隊から発艦した第一次攻撃隊からの攻撃を受け空母『レキシントン』は爆弾8発、魚雷5発を受けて大破漂流し『ヨークタウン』も爆弾5発、魚雷3発を受けて大破したのである。
それでもフレッチャーは艦隊の退避を懸命に行ったが1049に第二次攻撃隊が飛来、この攻撃で二空母はトドメを刺されたのである。
「そう……ご苦労だったわ。今はゆっくりと休んで下さい」
「……そうするわ」
ニミッツの言葉にフレッチャーはそう答えるのみで退出するのである。退出後、ニミッツはパールハーバーが見える窓際に歩き軍港を見下ろす。
軍港は未だ真珠湾攻撃からの再建途中だった。
「……空母が足りない。上に働きをかけてみますか」
現時点で空母3隻を喪失し1隻修理中の太平洋艦隊であるが使用可能な空母は無い。ブレマートンの工廠ではまだ『サラトガ』が修理中でありニミッツに取っては非常に不味い状態であったのだ。
「何とかしないとね……」
そう呟くニミッツであった。そして葦原はというとGF旗艦『大和』でMO作戦の報告が行われていた。
「結果として言えば敵空母2隻の撃沈、主目標のポートモレスビーを占領する事に成功した」
「三好長官、本当にありがとうございます」
将和の言葉に五十子は頭を下げるが将和は手を振る。
「構わないよ五十子。だが本命はMI作戦だ。それまでは気を抜いちゃいけない」
「あっ……ごめんなさい……」
将和の指摘に五十子はシュンとするが将和は苦笑する。
「まぁ酒盛りしてやらかすよりかはコイツでなら大丈夫だろ」
将和はそう言って従兵に合図をして人数分のとあるお菓子を茶碗に入れて持って来させた。五十子はそのお菓子を見た瞬間、表情を明るくさせた。
「水まんじゅうじゃないですか!?」
「水まんじゅう?」
「五十子と同じ出身の奴がうちの艦隊にもいたからな。話を聞いて準備させたんだよ」
「わぁ嬉しいなぁ」
五十子は喜びながらまんじゅうと氷が入った茶碗に砂糖を入れていく。
「えっ……まんじゅうに砂糖をですか?」
「そうだよ」
渡辺戦務参謀の質問に五十子はそう返し将和の茶碗にも砂糖を入れ自身の茶碗にあるまんじゅうにスプーンで開けてそれを口に運ぶ。
「ん~美味しい~♪」
「お代わりもあるが食べ過ぎには注意しておけよ」
「ウッ……気を付けます……」
あっという間に食べ尽くしお代わりに手を出そうとする五十子にそう忠告をする将和である。(なお、お代わりはした模様)
「さて、腹も膨れたようだしMO作戦の報告をするか」
将和はそう言って複製した書類を五十子らに配る。
「現状での報告だが……まずはソロモン諸島方面、ブーゲンヴィル島南部のブインにうちからの工兵隊を派遣して航空基地を建設中。恐らく7月には完成予定だ。ツラギはどうするかだがな……それとショートランド諸島も基地化を進めている」
「それはガダルカナル対策?」
「それ+FS作戦も兼ねている。島伝いに行く方が史実を考えればな」
何が起きるかは分からないので将和は安全策を取る事にしたのである。
「それとポートモレスビー、これは滑走路も修復したからラバウルで待機していたうちの局戦隊を派遣した」
将和が言うのは八幡製鉄所の防空を目的にした第352海軍航空隊(定数54機)である。この352空の主力機種は局戦『雷電』と『紫電改』でありラバウルに進出していたがポートモレスビーの滑走路が修復したのでラバウルから移動したのである。
また葦原側も防空隊の必要性は理解しており九州地方に分派した各飛行工場から生産する局戦『震電』はそれぞれ新設された第361空、第381空に配備され訓練に従事していた。
「まぁラエ等に展開している航空隊も順次ポートモレスビーに向かわせてくれたらいいさ」
「そうですね」
「それで……MI作戦だが……」
「スピー……当初の6月から7月に変更した……スピー……」
将和の問いに答えたのは寝ながら報告する黒島である。
「うん。亀ちゃんの言う通り、MI作戦はミッドウェー攻略じゃなくて敵機動部隊の撃滅に変更して行うから6月に拘る必要は無くなったからね」
「ウム、なら艦隊の再編もしやすいだろう」
将和はそう言って書類を五十子に渡し彼女は書類に目を通す。
「こ、これって……」
「どうだ? 中々の案だろう?」
驚く五十子に将和はニヤリと笑う。五十子は驚きながらも書類を皆に渡す。
MI作戦参加艦隊
第一機動艦隊
司令長官 三好将和大将
参謀長 宇垣束少将
旗艦『加賀』
第一航空戦隊
司令官 三好将和大将(兼務)
『加賀』『赤城』『土佐』
第二航空戦隊
司令官 楠木多恵少将
『蒼龍』『飛龍』
第三航空戦隊
司令官 大林末雄少将
『雲龍』『蓬莱』『葛城』
第四航空戦隊
司令官 草鹿龍之介中将
『生駒』『飯盛』『信貴』
第五航空戦隊
司令官 原幸江少将
『翔鶴』『瑞鶴』
第一防空戦隊
『祥鳳』『瑞鳳』
第三戦隊
司令官 南雲汐里中将
『河内』『因幡』『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』
第五戦隊
『妙高』『羽黒』『鈴谷』『高雄』
第八戦隊
『利根』『九頭竜』『筑摩』
第一護衛隊
『五十鈴』
艦隊型駆逐隊
『雪風』『長波』以下16隻
防空型駆逐隊
『涼月』以下16隻
第一水雷戦隊
『阿武隈』
『不知火』以下12隻
主力部隊
山本五十子大将
第一戦隊
『大和』『長門』『周防』『陸奥』
第二戦隊
『伊勢』『志摩』『日向』『扶桑』『山城』
第四航空戦隊
『龍驤』『隼鷹』『飛鷹』『紀伊』
第九戦隊
『北上』『大井』
第三水雷戦隊
『川内』以下18隻
他多数
第二艦隊
司令長官 近藤迦具夜中将
旗艦『愛宕』
第四戦隊
『妙義』『愛宕』『摩耶』『鳥海』
第七戦隊
『最上』『三隈』『石狩』『熊野』
第二水雷戦隊
『神通』以下10隻
第四水雷戦隊
『那珂』以下10隻
「空母を合わせて19隻もかぁ……」
「あぁ、MI作戦でその全てを投入する」
五十子の言葉に将和はそう主張する。がふと将和は気に食わない表情をする草鹿峰少将がいた。
「何か質問かな草鹿少将?」
「当たり前だろう。インド洋から帰れば九州地方は変わっていて機動部隊の司令官は汐里さんから貴様になっているんだ。不満の一つや二つ、私にはあるぞ」
「まぁそうなるな。では質問は何かな?」
「……何故汐里さんを三戦隊司令官に?」
「簡単な事だな……南雲に空母運用は無理だ」
「……ッ…」
「きさーーッ」
草鹿の言葉に将和はあっけらかんにそう答えた。将和の言葉に話を聞いていた南雲は顔を思わず伏せ、草鹿は思わず席を立ち上がりそうになるが将和は次に言葉を放った。
「だからこそ三戦隊司令官に推したのだよ」
「えっ……」
その言葉に顔を挙げ将和に視線を向ける南雲。
「話は最後まで聞きたまえ。途中で思考を単一に放棄してはヴィンランドに勝てんぞ」
「………分かった。だが何故だ?」
「簡単な事だ、南雲は元々は水雷屋だ。適材適所で考えるなら空母よりむしろ戦艦だ。」
「……それが三戦隊司令官か」
「そうだな」
「……分かった。だけど、参謀長には私をしてほしい」
「無論、君が南雲の参謀長になるようには手配している」
将和の言葉に草鹿はなら問題無しとして矛を納める。代わりに口を開いたのは南雲だった。
「あの……別世界の私はどうなったのですか……?」
「史実の南雲は艦を降りてマリアナ諸島のサイパン島で米軍を相手に地上戦を展開したが……最期は自決した」
「ッ……」
「だが俺の世界では……マリアナに侵攻してきたヴィンランド軍に第二艦隊司令長官として参戦し敵上陸船団を全滅させ、追撃する敵残存艦隊と対峙して戦死した」
「………」
「南雲の参謀長は南雲に退艦をさせようとしたが致命傷を負っていた南雲は拒否をしてこう告げた……『米艦隊との艦隊決戦で死ねるのだ。満足して逝きかけてる人間をいまさら呼び戻さんでくれんかね』とな」
「……………」
そして将和は南雲に視線を向ける。
「俺のところの南雲は悔いの無い生き方をし満足して靖国に行った。だからこそ君も悔いの無い生き方をするんだ」
「悔いの無い生き方……はい、分かりました!!」
「けど、戦死は許される事じゃないからな。生きて生きて生き抜く事が大切だ(なぁそうだろ……宇垣……?)」
『…………………』
将和の言葉に南雲は頷くのであった。その様子を宇垣と嶋野、五十子と小澤は無言で見ていたのである。
「それで三好大将、この『紀伊』というのは?」
「あぁ……元は東京沖海戦で捕獲した米軍……ヴィンランド軍の超大型空母だ。佐世保に回航して調査していたんだが……転移に巻き込まれていたみたいでな。取り敢えずは動かせる事に成功したからそのまま航空隊を載せて五十子の艦隊に回したんだよ」
「成る程。分かった、任せておいて」
そして将和は見渡す。
「これらの布陣でMI作戦を完遂させる。改めて主攻撃目標は一に空母、二に空母、三、四も空母であり五も空母だ!!」
『はいッ!!』
「そして……生きて帰るぞ。皆で御茶会でもやろう」
『はいッ!!』
将和の言葉に五十子達は頷いたのであった。斯くして光文17年7月7日、MI作戦は発動されたのであった。
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