実は『武蔵』はいません。
何でって?ヒントは『武蔵』が建造していた場所
「……それは本当ですか?」
「……残念ながら本当です。第16任務部隊、第17任務部隊は壊滅し『サラトガ』は鹵獲され『ワスプ』『エンタープライズ』『レンジャー』は大破しました。護衛空母の4隻は轟沈。今は何とか帰還途中ではありますが……」
ハワイオアフ島の太平洋艦隊司令部でセシリア・ニミッツ大将は部下からの報告に思わず腰を浮かせてしまう。
「……そうですか。それでジェニファーとレナは?」
「二人とも軽傷ではありますが生還しています。両官とも『ポートランド』に乗艦して帰還途中です」
「……分かりました、下がりなさい」
部下を下がらせるとセシリアは深く溜め息を吐いた。
「これで残りは2空母となってしまった……どうしたら良いのかしら……」
出撃した8隻のうち半分は沈むか鹵獲されもう半分は大破してしまい長期の修理になるだろう。他の護衛空母は8月以降に就役してくるがそれも能力的には正規空母以下であり期待はしない方が良いだろう。
「だがこれで葦原が和平を言い出してきたら……」
国民は乗っかるかもしれないが大統領は黙殺するだろう。大統領は大陸は元よりブリトンと共にトルメアを叩くのが優先だから葦原と和平をしている暇はないだろう。
「だが葦原と戦争を続けるにしても空母が無い……」
セシリアが欲していた空母は新型の正規空母群であり彼女達はまだ建造途中であり就役予定は来年であったのだ。
「ブリトンから空母を借りれないかしらね……」
この時、セシリアは冗談を言ったつもりだったがまさかああなるとはこの時はまだ予想していなかったのである。
「残った空母3隻を撃沈出来なかったのは悔やむしかないな」
「でもこれで暫くはヴィンランドも攻勢には出て来ない」
「希望的観測だなそれは。奴等の事だ、ブリトンから空母を借用してでも反攻作戦をするぞ」
内地、柱島泊地に帰還した日本・葦原連合艦隊は旗艦『大和』の作戦室で将和らが集まって会議をしていた。
「それで2空母の損害は?」
「2隻とも大破。攻撃隊を出した後の被害だし零戦だけの誘爆だったから何とかミッドウェーの二の舞は避けれた感じだな」
『赤城』『土佐』は完全に大破しており修理だけでも半年は掛かる程だった。しかし、2空母は修理と平行して近代化改装も実施される予定であり一年はドック入りの予定である。
「2空母……近代化されたら……楽になる……スピー……」
将和達の内心を代弁するように寝ている黒島が寝言を呟く。
「ま、問題は……」
将和はそう言って指揮棒でトントンとガダルカナル島を指した。
「此処をヴィンランドが来るかどうかだ。来なければFS作戦はやらないといけないしな」
「うーん……やっぱりFS作戦はやった方が良いよね三好長官?」
「あぁ。ニッケルが取れるニューカレドニアは戦争を継続するにしても和平をするにしても欲しい場所だ」
ニッケルは発動機の部品に使用されており多くの航空機を生産するのであればニッケルの確保は重要だった。だからこそ史実の日本もFS作戦を立案していたが米軍のウォッチタワー作戦により延期され後に破棄された。
それは将和がいた世界でも変わる事はなくFS作戦はむしろ成功してニューカレドニアまで占領、ニッケルを確保する事に成功している。
「ま、取り敢えずは東京の南条がどう出るかだな……」
その日の夜、将和は翌日に東京に向かうために準備をしていた。そんな時に扉をノックする音が聞こえた。
「開いてるよ」
「……エヘヘヘ……お邪魔しま~す」
「五十子……?」
おそるおそる入ってきたのは五十子だった。取り敢えず将和は五十子を椅子に座らせてお茶を出す。
「どうしたこんな時分に?」
「うん……三好長官に御礼が言いたくて……」
「御礼?」
そう言って五十子は目を将和に見据えると頭を下げた。
「三好長官、この度は葦原を助けて頂き真に感謝に絶えません。ですからどうか、これからも葦原と共に歩んでもらえませんか?」
「………………………」
頭を五十子、将和は無言で椅子に座り五十子の顔を挙げて……額にデコピンをしたのである。
「あいたッ!?」
「あのな五十子……俺はただ単に葦原を助けるわけじゃないぞ」
「………?」
将和の言葉に五十子は首を傾げる。
「お前が葦原の未来を憂慮して啼いていたからだ」
「………………」
将和らと接触して歴史を知ってから、宇垣や黒島達は葦原の未来に涙を流した。だが五十子は泣いてはいなかった筈だった。
「心が啼いていた」
「ッ」
その言葉に五十子の瞳が揺れる。確かに五十子も泣きたかったが自身は聯合艦隊司令長官の身であるがため、泣く事は耐えていた。それを将和は感じ取っていたのだ。
「自分の為ではなく、誰かの為に啼いていた……俺はそんなお前を信頼して手を差しのべた。後はそれをどう活かすかはお前次第だったが……ちゃんとお前はやれていたよ。良くやったな」
「……三好長官……ッ!?」
将和の言葉に五十子は堪えきれなくなり大粒の涙を流していく。そんな五十子に将和はゆっくりと抱きしめて頭を撫でる。
「まぁ……俺も嶋野と宇垣に似たような事されて思わず泣いてしまったから何とも言えんけどな」
「……そうなんですか?」
「あぁ」
そう言って将和は『加賀』での事を五十子に話す。話を聞いた五十子は笑みを浮かべた。
「フフ、嶋野ちゃんらしいなぁ……それに束ちゃんと智里ちゃんも油断出来ないなぁ……(ボソッ」
「借りを返されたようなものだがな」
前半は聞き取れた将和だが後半は聞き取れなかった。それはさておき、五十子は立ち上がる。
「なら三好長官、私にも勇気を分けてほしいかな」
「ん……?」
そう言って五十子は将和の唇にキスをする。一瞬の事であり将和は唖然としてしまい、やった本人は気付けば顔を真っ赤にしていた。
「……そ、それじゃ!!」
そう言って五十子は一目散に将和の部屋を後にするのであり残されたのは将和一人だった。
「……えっ?」
いや信じられない表情しながら此方を見ても困るんだが……。そんな将和をさておき、翌日には将和は副官の嶋野と共に一式陸攻に乗って東京に向かうのである。
「……………………」
(……何か空気が寒いんだけど……)
機上になった将和と嶋野を『大和』から五十子と宇垣らが見送るのだが五十子の隣にいた宇垣はそう思うのであった。
それはさておき、将和と嶋野は厚木に到着すると待っていた宮様と車で帝都に向かいそのまま陸軍省に向かう。
「やぁ三好大将。ミッドウェー作戦の事は聞きました、空母撃滅おめでとうございます」
「いやいや、まだ大破した3隻がいますので油断はなりませんがね」
将和と嶋野を出迎えたのは帝政葦原中津国の総理大臣の南条秀樹陸軍大将だった。応接室に通され促されて二人はソファに座る。
「それで……今回の来訪は?」
「ヴィンランドからの返答はありましたか?」
「……無かったね。むしろ黙殺されていたよ」
でしょうなぁと将和はそう言って出されたお茶を啜る。世界や国が変わってもお茶の味は変わらなかった。
「ならば大陸との和平ですな。和平を以て余剰兵力は満州と南方に出すべきでしょうな」
「だが大陸は和平に応じると思うかね?」
「別に応じる必要はありません」
「何?」
将和の言葉に南条は視線を向ける。
「応じなくても大陸からは引き揚げた方が良い……そういう事です」
「フム……やはり泥沼だからかね?」
「それが一番ですな……後はルーシに備えるため」
「ウム、関東軍もチハ改を提供されて躍起に機甲師団の編成をしている」
「生産は急いでいますが工業力にも限界はあります」
「……つくづくそう思うよ」
南条は深い溜め息を吐いた。現状で、今の葦原は日本の九州地方の工業力に頼っているばかりである。現時点で九州地方の点在する各工場では24時間態勢で発動機や航空機、戦車等を生産していたが、それよりも多くを生産していたのが工作機械である。葦原にも工作機械はあるがどれもこれも年数が古すぎるモノばかりであり磨り減っているのが現状であった。
宮様や九州地方に残っていた官僚達(岸に吉田、池田達)が何とか交渉や協力により葦原にも多くの工作機械が導入されつつあったが正直まだまだなのは言うまでもない。
「宜しい、大陸についてはその方向で持っていこう」
「分かりました」
南条との会談は穏やかに終了し後は帰るだけだったが南条はコッソリと嶋野を呼び出した。
「しかし、君が大臣の椅子を降りると言い出した時は驚いたが……まさか三好大将の副官になっているとは思わなんだ」
「これも天命と言うものでしょう」
「成る程、天命ね……ならば君をそこまで動かしたのも天命かね?」
「それもありますわ。ですが一番は……」
「一番は?」
「……あの方に惚れた……そういう事ですわ」
「……クハハハ。成る程、君からそういう言葉が出るとは思わなかったよ」
南条は嶋野の言葉に大笑いするがその表情は親が子を見守る表情だった。
「可能な限り、君は元より日本に協力する。これは決定事項だから安心したまえ。強硬派はワシが何とか抑え込む」
「頼りにしていますわ」
それではと嶋野は頭を下げて部屋を出るのである。
「あの嶋野がなぁ……世の中、何が起きるか分からないもんだ」
そう呟く南条だった。そして8月1日、葦原は大陸に対して順次的撤退を宣言し奥地まで進出していた陸軍は海岸線付近まで撤退し大陸政府と和平交渉を行おうとしたが大陸政府は交渉を拒絶した。しかし、葦原はそれも想定済であり大陸政府には「1943年8月までに海岸線付近からも撤退を完了させる」と通告するに留めるのであった。そしてヴィンランド合衆国との和平交渉であるがヴィンランド合衆国の大統領ローズンベルトは和平交渉を明確に拒絶し代わりに降伏要求である『ワシントン宣言』を声明を出す程であった。
これにより葦原と日本はまだまだ戦争が続く事が明確にハッキリとしたのであった。
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