カウンター・ストラトス   作:夢現図書館

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異邦人

 

 

 

 

『緊急警報。艦体損傷が80%を超過しました。各種機能が75%ダウン。継戦及び航行は危険です。また、主砲損傷により砲撃不可です』

 

『緊急警報。量子トンネルの維持限界にまで残り3分です。内部滞在中の人員、及び艦体は直ちに退去して下さい。量子トンネルが崩壊すると内部滞在中の人員、及び艦体は永久に虚数空間外に排出されます』

 

 艦橋に響き渡る緊急事態を告げる人工音声による警告。アラートと共に緊急事態を示す赤いランプが艦橋内に明滅している。

 

「…………そうだな。虚数空間に放り出されれば2度と表世界には愚か裏世界にも戻れはしないだろう。機体損傷大破レベル甚大、継戦は愚か次元航海も危うい一か八かの賭けだ……その賭けの上乗せの量子トンネルも残り3分以内で抜け切れるか」

 

 表示される被害が甚大である数値が示された空間ウィンドウを見ているのはたった1人。いいや、他の人員は誰1人として存在していない。たった1人だけしか乗って居ない。

 酷い傷を負った10代後半と思わしき少年だ。頭から流れた血糊は赤い警告ランプに照らされて痛々しく映える。だが、本人は正気を保っている。

 

『緊急警報。量子トンネル内に侵食波反応を感知。第四種侵食体と推測‼︎ その他第二種侵食体複数がアンカレッジに向けて高速接近中‼︎ 現行艦体状態での継戦は危険です。直ちに現在座標から離脱を推奨します‼︎』

 

「やれやれ。潰し漏れが徒党を組んで追ってきたか。よっぽど据えかねたか。低速状態で迎え撃つは自殺行為だな。流石に、腹一杯だぁな」

 

 機体損傷が著しく航行速度も従来の速度より遥かに低速な上に態勢安定もままならない。その癖、侵食体の軍勢のオマケ付き。

 

「…………」

 

——全く。賭け事は個人的には余り好きでは無いんだが、師匠の悪癖が移ったか?

 

「エタニウムドライブのエネルギーチャージ量は?」

 

『現在、エネルギー量は水準と比較し現在23%の状態』

 

 ぶっちゃけこの時点でギリギリなレベル。後、1回が限界だろう。

 

「……残存エネルギーを必要量以外、全てエタニウムドライブに回せ。緊急ダイブを試みる。……座標は適当で構わない」

 

 艦橋、艦長席に座る人物は自殺行為に等しい選択を選んだ。無論、リスクは承知の上であった。と言うか他に手が思いつかないと言うのが現実でもあった。そもそも座標の計算抜きのランダムダイブなんて真似は本当に自殺に等しい真似である。それこそ地面の中やら溶岩の中に飛び出す恐れもありそうなれば即死だからだ。

 

『警告。エタニウムドライブの座標が大きく外れる可能性。及び高位侵食体と遭遇する可能性。そして機体損傷度からドライブ時、耐久限度を超過し機体が耐え切れない可能性が極めて高くなります』

 

「此の儘では虚数空間に放り出されてズタズタになるか今現在、熱烈な勢いでストーキングして来る高位侵食体共に潰されるかの2択だ。なら、賭けに出て地面に激突する方が何倍もマシだ。それに勝負や作戦に失敗しても、賭けに負けは無いってな‼︎」

 

『……命令受付完了。残存エネルギーをエタニウムドライブのチャージに移行。エタニウムドライブ、実行』

 

 艦橋其の物が地震の様に大きく揺れた。それこそ大型艦船の主砲をモロに浴びた様な衝撃がこの艦体自体を襲う。

 

——コイツはマジでヤバいな。裏世界中で更に別の裏世界にダイブと言う真似なんて流石に余程の大バカじゃないとしねぇだろうな。いや、居たな……此処に。

 

 数分、数十分か分からない激しい揺れ。船酔いしそうな目が回る様な震動が収まる。

 

『エタニウムドライブ完了。当該時点の座標は不明です。侵食波反応は観測されません』

 

 その人工音声と共にダイブが成功したと確信を持った。一先ず賭けに勝った、と言える。

 

「……取り敢えず突破は出来たか。さて、座標は適当だったからな。それに艦体自体が酷いダメージな上にエタニウムも乏しくなった」

 

 しかし、当面の問題は山積みであった。素直に表世界に浮上と行きたかったが周辺は次元の乱れが激しくままならなかったと言う事情もあった。裏世界での長時間の滞在は非常に危険でたり、其の儘侵食体の仲間入りも現実の視野に入ってくる。

 

『アンカレッジ。航海不可能の状態です。不時着を推奨します』

 

「ああ、頼む。しかし、コレは随分と綺麗な光景だな」

 

 艦橋から見える外の風景。適当な座標でダイブした。自身の知る裏世界の光景とは似ても似つかない光景が広がって居た。青い海、澄み切った蒼穹。遠くには街が広がっているのが見えた。

 

——視力が3.0なのが幸いしたな。明らかに遺跡群じゃない現行の都市だ。然も裏世界で海を見る羽目になるとは、いいや、此処は本当に裏世界なのか? もしや、適当な座標と指示したがよもや、運良く表世界に戻って来れたのかも知れないな。

 

『報告。眼下に島を確認。大陸付近と連絡橋を介してアクセス可能と思われます』

 

「街のど真ん中に不時着すると面倒極まり無い。島付近の人気のない場所か砂浜付近に不時着だな……」

 

『命令受付完了。眼下に最寄りの島に不時着する為、降下します。尚、エネルギー量が枯渇寸前の為に艦底部が接触する恐れがあります。衝撃に注意して下さい』

 

「第四種侵食体の攻撃を喰らうよりは遥かに可愛い衝撃だろう?」

 

 大地をカチ割り街を粉砕する連中の攻撃を真正面から喰らうか紐なしバンジーを敢行するか……。何方を選べと問われれば間違いなく後者を選ぶと少年は確信する。

 

——さて、少なくともグラウンド・ワンは見えないから地方都市か何かか? ともあれ、今後の見通しを再認識しないとな。やれやれ、先輩の眦がまた鋭くなりそうだ。

 

 艦長席から飛び降りて艦橋から見える光景を見る為に前方へと移動して見下ろす。腕から血が滴るが気にしない。もう、慣れた。慣れたくは無かったが、慣れたのは仕方ない。

 

「……さて、コレからどうすっかな。エタニウムも乏しいから再離陸も難しいな。適当なゴロツキやら否認可のタスクフォースカンパニーをぶっ潰して有りったけのエタニウムを強奪するか……。それ以前に、修理しなければ話にならんな。程度にもよるが……それは自力で如何にかなるとして……」

 

 少年はさらっと物騒な事を呟く。エタニウムの問題もあるが、それよりも艦体其の物の修理が急務とも言える。脳裏に警棒を振り回すチビ工務員の顔が浮かんだ。

 

「……こんな無様な姿。少佐殿から戦闘評価Cを通り越してFを付けられて大量の指摘を叩きつけられても文句は言えまい」

 

——そーいや、中将殿は息災だろうか。いや、普通に現役で居そうだな……。大佐殿や顧問からは大笑いされそうだ。

 

 そして、不意にある人物達の顔が脳裏に過ぎる。そんなモノ憂いに更けていた時、地面に艦底が接触した際の衝撃が艦体全体に伝わった事で現実に引き戻される。

 

『アンカレッジ。辛うじて不時着しました。周囲に侵食体及び敵対的な存在は確認されません』

 

「……だが、時間が経てば発覚するのは目に見えて居る。……大亀裂。グランド・ワンの管理失敗による発生したアレ(・・)は余程の距離が無ければ見える筈だろう。それに、無茶の重ね掛けによるランダムダイブ。可能性が無い訳ではない」

 

『裏世界を介しての別次元の世界に辿り着いたケース』

 

「そうだ。並行世界とも言う……女パイセンの存在を目の当たりにしたらその線もあり得る。『もしかしたら?』と言う俺自身の常識の埒外の光景が広がって居ても不思議では無くなった。エタニウムが無い世界……も、充分あり得る」

 

『え、ええ⁉︎ そ、そんなの考えられません‼︎』

 

 その時、人工音声は先程までの無機質さの声音と打って変わった人間味の強い声音に変貌を遂げた。

 

「……旧管理局の時代生まれならばさもありなん、か。ま、現実は今も進行している。そう言う世界もあるかも知れないと言う事だ。あったらあったでそれもまた現実さ。さて、何はともあれ、この状況下で知人に連絡つきそうな面子と遭遇出来れば御の字だが……その期待は薄そうだ」

 

『周辺地域スキャン完了。……該当地域と内臓地図データの一致率0.0085%……と言うよりも、コレ数十年以上前の地形図ですよっ⁉︎』

 

「大浄化戦争で滅茶苦茶良い打撃をアチコチで食らいまくって絶賛復興中……と言いたいが殆ど手が回って居ないのが現況だからなぁ……。コレで、少なくとも俺達の居る世界では無い可能性が高くなった訳だ」

 

——そうなると色々な意味で面倒な事になった訳なのだが……。

 

「取り敢えず、状況把握が先決。モネカ、アンカレッジはステルスモードに移行して無事なドローンを全て開放し艦体修理を可能な範囲で行ってくれ」

 

『命令受付完了。アンカレッジはステルスモードに移行。搭載されたドローンを全て修理モードに移行して作業開始します』

 

「……さて、異邦人を受け入れられる度量がある知的生命体が居るかどうか……其処が最大の懸念材料だな……。乱闘沙汰は避けたい所だが、其処は相手の出方次第。ゲーム(・・・)は始まってねぇのにくたばれねぇからな」

 

『だ、大丈夫です。モネカも一緒ですから‼︎』

 

「……ああ、そうだな」

 

——少なくとも侵食波は感知されて居ないが……極めて低い確率で地図上には無くてエタニウム関連とは無縁の地域の可能性も無くは無い。先進国はエタニウム技術が進歩して居るが後進国とかは情報途絶状態だ。旧管理局の地形図資料も散見レベル……モネカが分からない可能性もある。取り敢えず、目で見て把握するのが1番手っ取り早い。

 

 少年は艦橋から出て、艦体から地上に飛び降りた。こうして自然が多い場所に来るのは非常に久し振りに感じる。

 

「……コレより未確認地域の探索を開始する」

 

『はい。モネカもサポートしますっ。ッ‼︎ 3時方向より飛行物体‼︎ 高速接近中‼︎』

 

「やれやれ……随分とお早い歓迎じゃねぇか。戦闘機か?それとも爆撃機か?或いは、飛行兵力の侵食体……は無ぇな。侵食波は感知出来ねぇ……じゃあ、何だ?」

 

『えっと、人間ですッ‼︎』

 

「……何だ、そんな事か。次元跳躍しやがる配達員やら位相転換するカウンターとかも居るんだ。空飛ぶ人間が居ても不思議じゃねぇだろ」

 

『えっと、見た事の無い装備で来ます‼︎ 注意して下さい‼︎』

 

「成程。如何やら、既存の認識とは違うか……それは用心しないとな」

 

 人工音声からの警告を聞き、少年は高速で接近して来ると言う飛行物体を肉眼で視認すべくその方角へ視線を向けた。その先には確かに此方に接近して来る物体が見えた。

 

 

 

 

 

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