午前中の視聴覚室での初の授業は特にこれと言ったトラブルは起こらなかった。何故なら、ミゾレは徹夜明けであった所為か其の儘、授業中に爆睡していたからである。
本来なら千冬がそんな蛮行を許す筈は無かったのだが既に右腕を折られた手前、左腕も折られる訳にもいかない、大人しくしてくれるならば放っておく。と言うかコイツにISの授業なんて無駄な気がしてきたと言う理由が重なったので放置一択と言う判断がされて其の儘、爆睡出来たのである。
そして時刻は昼休みの時間帯。
この時刻となれば生徒各位は昼食を取る為に学園のカフェテリアや食堂へと向かう。中には自炊して居る者も居る。そんな中、ミゾレはと言うと。
——何故、俺は此処に居るのやら。
「ねぇ〜ねぇ〜、ミゾッチは何を頼むの〜?」
大食堂にミゾレは居た。何故かのほほんさんに連れられて此処まで引き摺られて来た。
いや、異世界の世界故に金の心配はあるが朝方、学園長から千冬経由で生活費は支給されていた。無駄遣いするなよとは言われて居たが傭兵がら金の使い方には慎重になる為、その心配は薄い。
——そう言や水以外、大して口にしてねぇな。
「1番安いので構わん。余り味に関しては興味は無いからな」
艦船の資材代に回したいと言う本音が見え隠れしている。無論、コレだけで足りるとは思っては居ない。何処かでバイトなり何なり仕事を取って来ようか、或いは適当な破落戸連中をシメて有金を強奪するか、策は幾らでもある。
「えー、美味しいのを食べよーよ」
「…………と、言われてもな。小食なんだよ」
かく言うのほほんさんはよく分からない料理を注文した(定価1,600円と言う割と高い)。ミゾレは適当に1番安い奴を頼んだ。
「うへぇ〜。男の人って沢山食べるんじゃ無いの〜?」
「人によると言わせて貰おう。一緒にされると当人にとって迷惑なだけだ」
頼んだ昼食をトレーで持って窓際の席が空いて居たので其処に座る。
「本音〜‼︎ あ、此処に居たんだ」
「お隣、宜しいでしょうか?」
「あ〜、さややんにかぐらん〜‼︎」
その後、2人の女子生徒が同じ様に昼食を持ってのほほんさんを探して居たのか見つけて窓際の席に現れる。見るからに友人関係を築いている様だ。
「良いよ良いよ〜。ミゾッチも良いよね〜?」
「ん、まぁ。別に構いはしねぇけどよ……」
窓際の環状のソファに並んで座る。其々が注文した料理を載せたトレーが机の上に並ぶ。女子が3人で野郎が1人と言う光景は男子としては中々、刺激が強い。
「君って何気に凄いよね。あの織斑先生の前で堂々と寝て居られるなんて……普通ならあの出席簿で叩き起こされて居ると言うのに」
「反撃を恐れたのかも知れませんわね。あの世界最強と言われた織斑先生が攻撃する事を躊躇うなんて……」
「えへへ〜。ミゾッチは凄いね〜」
褒められて居るのか単に呆れられて居るの分からない。が本人達はそのつもりなのだろう。
「褒めて居るのかどうかは知らんがそもそもお前達は誰だ?」
「あはは……朝の時は自己紹介してなかったしね。私は夜竹 さやか。で、此方が」
「初めまして四十院 神楽です」
本音の友人と思わしき女子生徒は自己紹介をした。さやかに至っては朝方に声を掛けて来たが自己紹介出来ず終いだった。
「…………」
——何処ぞの連合を組んでいる武家貴族見たいなお嬢さんだ……。彼処の党首は苦手なんだよなぁ……。
「あの……私に何か付いて居るのでしょうか?」
「いや、似た様な雰囲気の知人を思い出しただけだ」
「神楽は旧華族の出身なんだけど……ミゾレ君は意外とそう言う人達と付き合いがあるの?」
「家が古いだけですわよ。今となっては大した役目はありませんわ」
——旧華族のお嬢様、ねぇ。そもそも旧華族って何だ? まぁ、純和風の家系かその辺なんだろう。
そんな2人が加わって平穏な空気の中、昼食の時間が進んで行く。当初としては壁を作って誰とも関わり合う事なく艦船を修理してとっととこの世界から退散する予定だったのだが……どうやら狂い始めて修正が効かない状態になった。この状態で突っ撥ねるのは気が引けて来た。
——……少なくともこの3人からは悪意は感じない。この学園は見方によっては戦闘員を養成する側面があるのは見え見えなのだが、如何にも彼女達は戦闘員に向いて居る様には見えないな。
余りにも普通……いや、普遍的な人間に見える為にとても自分達とは別世界の住人だと痛感させられる。
「ねぇねぇ、ミゾッチは何故、苗字が無いの?」
食事も半ばになった頃、のほほんさんは唐突にそんな事を聞いて来た。
「あ、それ、私も気になって居たんだ。如何してなの?」
「何か事情があるのですか?」
「特に理由は無い。事情も何も初めからファミリーネームは無かった、それだけの話さ」
——その辺は語る訳には行かない。刺激が強過ぎるからな……曲解させるには良い方法が思い付かない。
予想外な所からの疑問をぶつけられてミゾレは咄嗟にその話題を躱す。その話題は必然的に此方の世界に繋がるからである。千冬からも自分の世界の事の話題は避けろと言われて居る。何処に目と耳があるか分からないからだ。少なくとも3人には悪意は感じないが口がどれ程、緩いか想像が付かない。
「はいは〜い‼︎ 新聞部でーす‼︎ 噂の突然、編入して来たと言う2人目の男子君の取材に来ました‼︎」
その時、溌剌な声が食堂に響き渡る。新聞部と名乗って居る眼鏡を掛けた女子生徒が遠目に見える。
——新聞部か、マスゴミの卵とは言うが……面倒な人間が現れたな……‼︎ あの手の連中はシツコイと言うのが相場と言う。大概、陸な真似をしない……現状だと殊更、面倒な真似をしてくれそうだ。
「あちゃあ、かおるんだ……‼︎ ある事ない事捏造する悪癖があるっておじょー様が言ってた」
「立派なマスゴミだな。あの手の連中はゴシップを作るだけ作って開き直る無責任な連中だ」
ミゾレからすれば厄介者であると認識。
「滅茶苦茶嫌悪しているね……何か過去にあったの?」
「一言で言えば……目障りだな。如何にか秘密裏に始末出来ねぇモノか……」
——……放置は危険だな。ああ言う軽々しい口は早々にこの世から退場して貰わないと面倒極まりない。
「……容赦がありませんわね」
「かぐらん、さややん。片付けお願い出来ないかな〜? ミゾッチ、こっちからなら見つからずに行けるよ」
「ん?あ、ああ……‼︎」
「え、ちょっと本音⁉︎」
「あらあら……」
のほほんさんに連れられる形で食堂に現れた新聞部の女子生徒から見つからない様に食堂を出た。
「……柱と遮蔽物の配置の都合上と言う訳か。上手く撒けた様だな」
騒がしい食堂を後にして周りに生徒が居ない場所に移動した。と言うよりものほほんさんに連れられて来ただけなのだが。
「うん〜。流石に、あんな場所で殺害沙汰は止めてよね〜? 隠蔽する方も大変だって言うよ〜」
「…………成程、その雰囲気は化粧か? やはり唯の人間じゃあないな?」
——警戒心を抱かせない愛嬌のある姿。大半の連中は騙せるだろうな。
「てひひ、バレた?」
「そうだな……。暗殺者に近いな。接近して来た理由は何だ?」
「じゃあ、答えを教えてあげるから付いて来て〜」
そう言い袖を揺らしながら軽快な足取りで歩き出して行った。
「やれやれ……マシな方向に事は運びそうに無いな」