唐突に始まった懇談会。然し乍ら、相手は此方の事情を知る人間。
その時、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「さて、生徒各位は自分の教室に戻った事だし……盗み聞きされる心配は無いわ。そうでなくても生徒会室は防音処理を施してあるから二重の意味で心配は要らないわ。あ、虚ちゃんは其の儘、教室に戻る様に伝えておくわ」
「……そう考えて居るんならそれで構わん」
——此方は此方で警戒するだけだからだ。クラックマニアのコレクターと言う性質の悪い不法侵入者(挙句に社員採用されやがった)と言う前例があったからな。
「……さてと、昨日よりは踏み込んだ話にしましょうか。貴方の様子からすれば此方の情報は昨日の内に漁られていたみたいね。手が早くて感心しちゃうわ」
「観念的ならば幾らでも調べようがあるからな」
「……本当、冷静かつ行動力もある。ウチに欲しいくらいよ」
「……生憎、ウチの会社はダブルワークは認められて居ないんでね。残念だな」
「会社? そう言えば昨日は言っていなかったけど、何かしらの組織に属しているの?」
——その辺は端折って居たな……。まぁ、彼女ならば問題無いだろう。
「まぁな。コレでも管理局公認のB級カウンターだ。まぁ、簡単に言えばタスクフォースカンパニーと言う区分の対侵食戦を想定した民間軍事企業だな。大半のカウンターはタスクフォースカンパニーに属するかフリーで活動するか……まぁ、その能力を活かす為にもほぼ傭兵稼業だな」
「……民間軍事企業、ね。1つ気になったのだけど……10代の子達でカウンターならどうなるの?」
「……詳細理由は割愛するが、少なくとも大半は10代の時点で侵食体相手にドンパチやらかしているよ。ウチのタスクフォースカンパニーも10代のカウンターは何人かは居るな。割合的に言えば10代が1番多いかもな」
——他の組織も10代後半の連中も多い事、多い事。主要メンバーが全員、10代ってオチも見受けられるし。
「……労働基準法とかはどうなって居るのよ?」
「もうとっくの昔に潰えたからな、そんな法律。此方の世界では例え幼い子供でも自分の身は自分で守らなければならないと言う現実を早々に理解するんだよ。少なくとも俺が見て来た連中は大半がそうだった」
——アンダーグラウンドは最もたる光景だ。破落戸連中が多い中で10代の子供が生き残るには強かさを身に付けねばならない。まぁ、それでも死ぬ奴は死ぬがな。
「世も末ね、そんな光景……。それが当たり前なのね」
「まぁな。義務教育の概念さえも崩壊気味だ。学校なんか通った事が無いって奴も結構、居る。俺も学校なんて通った事が無かったからな。学校での勉学よりも社会勉強の方が先の奴が多いし傭兵して後から学校に入学ってパターンも多々ある。俺もその予定だったんだよ」
「そう……其処でも大暴れしている光景が目に浮かぶわ」
「と言っても編入予定先はカウンター養成学校だけどな。カウンターなら中途入学は奨励されているからな」
「……何と言うか戦闘民族ばかり通ってそうね、その学校」
「……お前さんが俺をどう言う目で見て居るか理解したよ」
——人をバケモノ見たいな目で見るんじゃねぇ。まぁ、一般人から見ればカウンターなんてヤバい連中って認識かも知れねぇけどよ。
「さて、個人的にはそんなくだらない話をする為に呼んだのか?」
「私としては貴方の世界には興味があったのだけど、知れば知る程……物騒な世界だと思って来たわ」
「否定しねぇよ。街を歩けば銃火器を持ったフル装備の傭兵やら女子高生は愚か小学生が当たり前の様に闊歩して居るんだ。此処の連中から見たら卒倒モンだろうよ。何時、その銃口が自分達に向けられるか分からないからな」
カウンターでは無い人間から見てカウンターはどの様に映るのだろうか? 幼少の子供なら兎も角、10代後半となり力を持った者が相手なら……?
「……言っておくけど、此方の世界。特に日本じゃ街中で銃火器は持ち歩けないわよ。銃刀法違反になるから」
「難儀な世界だな……。さてと、そろそろ此方が直面して居る目的に関連した話をしようじゃ無いか」
「やん。せっかちね。生き急ぐと陸な事にならないわよ?」
「早急に解決するとは思って居ない。が、悠長に構えて居られる余裕も無い。本音を言えば、この学校で過ごす時間も無為だと思って居る」
「……その理由は?」
「すまんが、それは言えない。言う訳には行かない」
——……俺が原因で『ゲーム』が始まって堪るか。
ミゾレはその理由は告げなかった。可能性が無い訳では無い。だが、あるとすればそれはこの世界の者達が乗り越えなければならない。しかし、それは限りなく低く絶望的なまでの差がある。
「……それは何故かしら?」
「…………………可能性があるから、だ。それ以上は言わない」
苦し紛れにギリギリだと譲歩出来る範囲内に留めて答えた。好奇心は猫を殺すが、コレは絶望を叩き付ける理由となる。
「そう……。それで、貴方の……元の世界に戻る為の目的の進捗は如何なのかしら?」
楯無としては交流は持ちたい。しかし、彼には帰る理由があり別れの時は必ず訪れる。引き留める理由は無い訳では無いが、本人はその目的が最優先事項。帰還を急ぐ理由に関しては答えてくれなかったが余程、重要な内容なのだろう。
「……圧倒的に資材が足りない。緊急時に応急修理を行う為の資材も積んでは居たんだが……それらが侵食体との交戦時に派手な打撃を喰らって使い物にならない。よって、調達する必要がある」
「……要するに艦船を修理する為の鋼材が足りないと言う訳ね」
「ああ。よって金になる仕事を紹介してくれ」
「は?」
ミゾレの唐突な仕事の斡旋を依頼して来て思わず間の抜けた声が出てしまった。
「何故、そんな話になるの?」
「可笑しい訳じゃないだろ? 修理するには鋼材が居る。鋼材が欲しいのだが金が無い。ならば金を稼いで購入する必要がある。金が無ければ仕事で稼ぐ。何の難しい事ではない簡単な話じゃないか? 何もタダで寄越せとは言わんよ。対価が欲しければ相応の働きをしなけりゃな」
ミゾレは当たり前の事だと言った。
「ま、まぁ基本的にこの世界の大半の国は資本主義だしそれは理解出来るけど……」
「個人的には海賊を潰して来いとか、犯罪者集団をブチのめせとか、一層の事、テロ組織を滅亡させろとか、そう言う荒っぽい仕事が良い。適当に殲滅して連中の所持して居るであろう武器も弾薬も所持して居る金もセットで手に入るし報酬金の水増しも期待出来るし治安も保たれるからWin-Winだ」
「あー……民間軍事企業の社員だから思考回路が傭兵って訳なのね……」
楯無は頭を抱えた。行動から10代とはかけ離れているのは理解して居たがいざ、傭兵だと言われると反応に困る。と言うか同年代で『仕事が欲しい』と言い出すのは奇妙に見えてしまう。
「生憎だけど、そう言う荒事過ぎる真似が必要な程、この学園の属する国じゃ早々お目に掛かれないわよ。と言うか、この国に民間軍事企業なんて閑古鳥が無く程に需要が無いわ。敢えて言うなら民間警備会社だし、日本の警察組織は優秀だから態々、傭兵を雇うなんて真似はしないわよ。そんな事態になったのなら日本政府所属の国家代表候補生辺りが出張るから、無名の傭兵なんかお呼びに掛からないわよ」
「なん…………だと…………⁉︎」
「いや、其処まで驚愕するの⁉︎」