「生憎だけど、そう言う荒事過ぎる真似が必要な程、この学園の属する国じゃ早々お目に掛かれないわよ。と言うか、この国に民間軍事企業なんて閑古鳥が無く程に需要が無いわ。敢えて言うなら民間警備会社だし、日本の警察組織は優秀だから態々、傭兵を雇うなんて真似はしないわよ。そんな事態になったのなら日本政府所属の国家代表候補生辺りが出張るから、無名の傭兵なんかお呼びに掛からないわよ」
「なん…………だと…………⁉︎」
「いや、其処まで驚愕するの⁉︎」
心底、愕然とするミゾレ。本人としては予想だにしないカルチャーショックを受けた様である。
「……見た目とは裏腹になんて過酷な世界なんだ。この世界の10代連中はどうやって金を稼いでいるんだ……⁉︎ 」
思わず頭を抱えるミゾレ。その光景に楯無は呆れた。10代で働くのが当然みたいな思考回路は流石にエグいと思ってしまった。
「私から見れば貴方の居る世界の方がよっぽど過酷だと言わざるを得ないわよ……‼︎ 戦わなきゃ生き残れないなんて、どんな紛争世界よ」
「しかし、弱ったな……。需要が無い以上、金を稼ぐ方法が限られて来るな。或いは反社会組織を潰して資産を強奪するか……」
「いや、堂々と犯罪組織を潰して色々、強奪する行為も普通に犯罪になるわ。傷害罪とか強盗殺人とかそう言う理由で、犯罪者相手でも無罪放免にはならないわよ?」
「ば、馬鹿な……ッ⁉︎」
「いや、だからどうして其処まで驚愕するのよ。貴方の世界ってどれだけ無法地帯が多いの⁉︎」
「大都市郊外は無法地帯が犇いているさ。警察機関でも対処し切れない領域が多い。故に傭兵に応援要請が入る事も多い」
——大きな企業や組織の傘下地域以外や侵食災害問わない災害地区は犯罪の温床だ。
「表面上の平和と言うのも考えモノだな。俺達からすれば商売上がったりな光景だ。特に、俺の場合は即急に必要なのに、此処で躓くとはなぁ」
「心底残念そうに死の商人染みた発言は止めて頂戴。何その戦争なり紛争が起きなきゃ困る見たいな言い分は。全く笑えないわよ」
「……そうやって利益を上げて生きて居るんだから仕方なかろう。此方は日常も既に侵食されて居るんだ。日々、争い事は絶えない……人間同士でもな」
「…………」
表面上と雖も平和に居る者達と争いが絶えない世界に身を置く者の価値観は違う。
「……となると、如何するべきか。此の儘、立ち往生する訳には行かないのも心情だ」
「どれだけの規模が必要なの? 修理するにしても鋼材と言ったモノが必要とは言うけれど、どれだけ必要?」
「そうだな……。艦船の破損率は9割位に達している。朝方に掛けて修理出来た場所を差し引いてもまだ8割がた鋼材等が足りずに手付かずの状態だ。単純な質量で言えば最低でも30tクラスか……。無論、単純な計算であって正確な数値じゃねぇし、他にも必要なモノも多々ある」
「まぁ、その辺は分からなくは無いけれど。ISの機体だって製造するのに2、3億は掛かるし専用機クラスともなれば5億はくだらないわ」
——マジか。昨日、ISとやらを2、3個スクラップにしたな。それは惜しい事をした。
「……埋蔵金なり古代の隠し財産を見つけるにしてもそんな時間は無いな……」
「……古代遺跡の無断での発掘は盗掘扱いになるから止めて」
「う、嘘だろ……⁉︎」
「もう、いい加減にツッコまないわよ」
「アレもダメ。コレもダメ……。この世界の文明はどう言う理屈で金を稼いで居るんだ?」
「其方の世界には常在戦場、専業傭兵、戦争上等見たいな連中しか居ないの⁉︎ 文民達に今すぐ謝って来なさいよ⁉︎」
「謝れ、ね。お前さんは俺達の世界を知らないから言える言葉だ。だが、俺達から言わせれば『そんな生活もあっただろうな』と言う過去形の認識だよ」
「…………平和とは程遠い、見たいな言い方ね」
「覚悟の上、って奴さ。ふむ……さて、如何したモノか。思い付く限りの正規な手段で即座に金を稼ぐ手段が使えないとなると、マズいな」
——既にモネカから警告を喰らって居る。本来なら其方に割く計算だったんだが……この1日で把握した。恐らく何の利益も無い戦闘に巻き込まれかねない予感がする。
「……そんなに急がないとダメなの?」
「まぁな。最低でも艦船自体を修理せねばならんしな……脅すつもりは全く無いが、早くしねぇと
——数値が0になれば、そうなる。
「⁉︎」
楯無はミゾレのその言葉に驚愕の表情を浮かべる。何故、ミゾレが自分達を鏖殺する理由が出て来るのだろうか。
「……それは、どう言う意味?」
「お前さんから見て『カウンター』としての俺はどう見えた? 何でも構わん」
「そうね。織斑先生相手に腕を圧し折ったり、伝聞だけど素手でISを砕いたり……色々、無茶苦茶ね。身体能力の向上とか特殊能力もあるとは聞いたけど。身体能力の向上は著しいと思う……特殊能力に関しては見た事は無いけれど……」
「成程……そう言う認識か。ただ、悠長に構えて居られる時間は無いと言う事だけは教えておく。ただ、その時が来れば」
「……その時は?」
「全身全霊、全力、死物狂いで最後の最後、完全に俺の存在を撃滅するつもりで掛かって来い。でなければ、お前ら全員、無惨な死体となる」
「待ちなさい、如何してそんな話になるの⁉︎」
「……言っただろう。悠長に構えて居られる余裕が無くなったと。正規の方法で纏まった金を用意する手段が無くなったんだ。お前さんや織斑教諭は俺の事を冷静だとは言うが、今の俺はかなり
——時間は留まってくれない。永遠に。
「……話せないの?その理由」
「自分達の世界の都合に赤の他人を巻き込んで良い気分で居られると思う程に自分勝手な性格か?」
「…………深い事情があるのね。貴方は情報を小出しにしているわ。まるで関わらせたくない見たいな言い方。確かに織斑先生からも異世界と言う私達から見て未知の概念は興味の対象……秘匿して然るべき。それでも貴方は話したがらない……」
「まぁな。本来ならお互い知らない間に別れられたら最も良かった」
「分かったわ。その修理の案件、私に預からせてくれない? その理由、ちゃんと教えて貰うから」
「……お前さんに何の利益がある? 言った筈だ、此方の世界でも億単位の金額は馬鹿にならない金額の筈だ」
「ふふん、お姉さんを甘く見ちゃダメよ? 良いから、私に任せなさい。貴方のやり方はある意味、正攻法って訳だけど……ちょっとダーディーな方法って奴を見せてあげるわ。1日くらい猶予はある? 具体的に明日の朝まで」
「……何をする気かは知らんが。取り敢えず、俺はもう帰る。今出来る修理はせねばならんからな」
ミゾレが生徒会室から退室した後、楯無はある連絡を行った。
「……案件絡み、溜まって居たでしょう? 泳がせるのはもう良いわ。纏めて片付けちゃうわよ。何、バレなきゃ犯罪じゃないし死人に口無し、完全犯罪ってね。ちょっと急ぎなのよ。無茶させるけどね」
——彼の私達を皆殺しにしかねない事情……アレは嘘でも冗談でも無く本気だった。何が彼を焦らせて居るのか話してくれなかったけど、彼は『最低でも艦船は修理』とは言って居た。その最低条件さえクリア出来れば彼の事情は多少なりとも打破出来ると言う事ね。
楯無自身、彼に興味がある。カウンターである事も、彼らと対峙する侵食体の事も、そして彼らが裏世界と呼ぶ世界の事も。その生き証人の話をもっと聞きたいのだ。
唯の出会いでは無い。類稀な出会いだと思う。
何れ別れの時は来るかも知れないが、その時までは仲良くありたいと願うばかりだ。
——恩を着せるつもりは無いけれど……多少は振り回させて貰うわよ?