「此処か……?」
モネカのナビゲートに従い侵食現象が発生して居ると思わしき場所に到達した。その眼前に広がって居るのは何かのスタジアムだと思わしき外観の建物だ。
「コレはまた、随分と自己主張の激しい建物だな。食堂にあった珍妙なオブジェクトと良い勝負だ」
——残念ながら芸術は俺には正直な所、イマイチ良く分からん。そう言うのは絵心とか言うモノを持って居る奴に頼んだ。
『衛星の映像から推察するにISを用いた競技試合を行う為の諸設備を整えたアリーナと思われます。その一部区域が侵食現象の発生により侵食地帯と化して居ます』
「……屋内戦は久し振りだな。仕方あるまい。……CREも心許ないのは事実。長居して居る余裕は無い。内部構造はどうなって居るか分からんが迷ってやる必要もない。モネカ、最短経路の検索、速やかに突破して侵食要因たる侵食コアを破壊する」
『命令受付完了。該当建物の地図データの解析完了。最短経路のルート構築完了。ミゾレさんの視覚神経に干渉し幻覚形成開始』
モネカからの音声と共に視界に道標の様に煙の筋が浮かび上がっていく。勿論、現実として浮かび上がって居る訳では無い。
人の脳と言うのは時たま、誤認識して本来存在し得ないモノを視覚する事がある。例えば寝起きにあり得ないモノが視界に映る事がある、それは幻覚と呼ばれて居る。コレはその幻覚を一時的に意図的に起こして居る。
「良し、突入する」
『敵性反応、複数確認。小型の第一種侵食体と思われます。現在のコンディションは大変不調と判断。充分に注意して下さい』
「ああ、分かっている」
モネカのナビゲートに従い侵食地帯へと足を踏み入れる。侵食現象と言えど知覚の為の感覚神経は然程、作用しない。だからこそ、無自覚のまま足を踏み入れてしまう者も居てしまう。
——予想よりも崩れて居ないな。まだ初期段階だからか、此処の建物が俺の予想以上に想定した事態の対策の為に強固な造りになって居るのかも知れないな。エタニウム技術が無いにも関わらず見事だ。コレなら、即座に飛び込める。
『敵性反応、接近間近。この先は整備関連の設備がある様です』
「何でも構わん。だが、整備関連の部屋か。推測するにISとやらの整備の為の施設だろうな。となれば、多少なりとも武器があるだろ」
——不幸中の幸いか。まぁ、無断借用にはなるが状況が状況なのでな、其処は我慢して貰おう。デルタセブンやブリドウェンをハシゴして良かったと今更ながら感謝しかねぇな。いつでも使い慣れた武器が使えるとは限らない。多少なりとも色々な使い方を知っておくのは有利に働くからな。少なくとも紅茶爆弾、テメーは許さん。
『左右開閉式の扉の様です。侵食により機能は停止している様です』
侵食現象は機械類も侵食し機能不全、暴走に追い込む事は広く知られている。オール電化の施設だと侵食対策しなければ簡単に機能不全に追い込まれる。
「知った事かッ‼︎」
その扉を思いっきり蹴り付けて無理やり粉砕してその扉の片側を蹴り飛ばす。ひしゃげた形で飛来した扉は部屋の中へと飛び甲高い音と潰れる悲鳴を上げながら落下した。
『グルル……』
「よぉ、こんな場所に観光に来ても土産屋は無ぇぞ?」
第四整備室と書かれた部屋。その部屋は整備室と言うにはそれなりに広く大小様々な設備が揃っており船渠並の設備と言える。最も何に使うのか分からないモノも多いが。
その内部には赤と黒の配色で形成された大型犬程度の大きさの鋭角的な造形の生物、ミゾレが侵食体と呼ばれる存在は多数、跋扈して居た。
——予想よりも数が多いな……。変異体は見られないな。レベル1ならやはり、雑魚ばかりだな。
『グルルァァァァ‼︎』
小型の侵食体の1匹が咆哮を上げるとその周りに居た侵食体が一斉に飛び掛かって来る。
「ふん……」
対するミゾレは単純な攻撃で応対した。即ち。
殴る、蹴る。
力任せにぶん殴る。手の甲で打ち払う。顎下を蹴り上げる。それは喧嘩の様であり原初の戦いのやり方だ。誰もが知る雑多な戦い方。
最前列で飛び掛かって来た侵食体を打ち払う形で殴り払って後列から飛び掛かって来た侵食体も巻き添えで薙ぎ払う。此方の余裕が無い為、弱いジャブ程度なので数匹は起き上がって馬鹿の1つ覚えの様に再び起き上がり飛び掛かって来る。そして、殴り、蹴り、叩き潰す。
「コレで全部では無いだろうな、しかし予想よりも弱かったな。状況柄、助かるが」
『誕生したてで尚且つ、小型の第一種侵食体なら一般の銃火器やそれこそ拳銃でも充分対処可能です。それに腕力なら小隊長並みのミゾレさんなら素手でも簡単に粉砕出来ます』
——素手で対処出来る程に弱くて何よりだ。さてと、残骸からエタニウム原石を回収するか。本来なら精製プラントを用いて使い物になる様に精製するが、生憎と俺のウォッチは悪食だから原石でも其の儘、チャージに使える。悪いな、小型で純度の低い屑砕のエタニウムを食わせてしまってな、今はコレで我慢してくれ。
仕留めた侵食体の残骸からエタニウムの原石を掻き集める。小型と言えど数はそれなりに居た。集めたエタニウムの細片も満足とは言わないが無いよりはマシな量と言える。
「よもや1匹、エタニウム結晶持ちが居たとはな。ともあれ、取り敢えず首の皮は1枚、繋がったか……」
数値を確認した所、多少なりとも数値が増えた。だが、まだまだ油断は出来ない域だ。
『ミゾレさん。CSFレベルが上昇中。2.1に達しました‼︎』
「……斥候を潰されてキレたか? だが、今の状態で第二種侵食体と相対するのはちょっとキツいな……」
——この勢いでレベル3に上がられたら万全ならば兎も角、この状態で相対するのは自殺行為だ。師匠からも『葬列の無い葬式だな』と皮肉られるな。
「……
『死にますよ?』
「冗談だ」
『グゴォォォォォォァァァァ‼︎‼︎』
その時、大気を震わせる咆哮が整備室内に響き渡る。獣の様に轟く咆哮は聞き覚えのある獣声だ。
「言って居る側から出て来やがったな。放置はして居られんな」
咆哮は仕切りの裏から聞こえて来た。道沿いに回り込むと其処には四足歩行の機械の様な頭部と鋭角的なフォルムの獣染みた侵食体、第二種侵食体が金属室の床に前脚を食い込ませて唸り声を上げて居た。
——悠長にして居られる余裕は無さそうだ。
侵食体と共に見えたのは腰が抜けたのか地面に後ろに転んで座り込む眼鏡を掛けた1人の女子生徒が視界に映って居た。明らかに見た事も無い存在を目の当たりにして恐怖と動揺の感情が表情に浮かび上がって見えた。
『あの距離は危険です‼︎』
「……チィ‼︎ 如何して何時もこう言う時に面倒な事が起こるのかな⁉︎」
——この距離じゃ間に合わねぇ‼︎ 目の前で死なれちゃ目覚めが悪いっての‼︎ ええい、何か手は無ぇか? 何でも良い‼︎
「……あるじゃねぇか」
視界の隅に映ったのは長柄の武器の一種である薙刀の形状した武器。機械式の造形を持った薙刀は見慣れないがこの際、どうでも良い。
それがある作り掛けと思わしき機械鎧、ISの隣に固定具に立て掛けられる形で置かれて居た。
その薙刀を見たミゾレは口の端を吊り上げ笑みを浮かべた。
——普通なら税金で取られる所だが、釣りが来るな。それに多少なりともエタニウムはチャージした、ほんの少しだが無茶は出来るな。