ヒーローなんてモノは陸なモノじゃない。
敵が居なければ唯の犯罪者だからだ。
——何て事の無い1日だった。何時もと変わらない1日の筈だった。
『非常に残念な事なのだが、君の専用機の製作は無期限凍結となった』
——ううん、違うの。あの時から私の時計の針は停まってしまった。実際は日数は経ては居るんだけど、心の針は錆び付いたかの様に動かなくなった。
『君も知って居ると思うのだろうが例の男性操縦者の専用機を我が倉持技研が製作する事となったのだ。その為に人手が其方に割かれる事となり君の専用機の製作計画は白紙となった。この事に関して子供の君には分からないだろうが申し訳無いと思って居る。すまなかった』
——今でも覚えて居る。形だけの謝罪。本当は罪悪感なんてモノ、ちっぽけも持ち合わせて居ない事くらい分かっている。私の様に何十人も居る有りふれた代表候補生よりも世界で唯1人の男性操縦者の方が大事なんだろう。
脳裏に浮かび上がる過去に起きた1つの現実。
——専用機が無い代表候補生。誰にも頼れない、姉は自分で作ったと聞いた……。なら、私も自分で作らなきゃ……見向きもされない。
故に使われる予定だったISコアを貰い受け自分で組み上げる事を選んだ。だが、その作業は難航を極めている。本来ならば複数人で並行して進める作業。それら全て1人で進めると言うのは余りにも過酷。時間は幾らあっても足りない。
——……早く組み立てなきゃ。だから寝る時間も午後の授業も捨てて作業に没頭していた、なのに。
『グゴォォォォォォァァァァ‼︎‼︎』
自分の専用機を組み上げる為に使用して居たアリーナに併設されていた第四整備室。飲み物を買って一息を入れた後に戻って来た矢先に見た事も無い怪物が整備室内に現れて居た。
「……ッ‼︎」
無機物と有機物が合わさったかの様な奇怪な姿。四肢の構造からか四足歩行の獣の様にも見えた。だが、余りにも大きく前脚に潰されたら終わりだと思わせるには充分な威圧感があった。最初に感じたのは恐怖と敵意。想像だにしない光景を目の当たりにして腰が抜けた様に後ろに転んだ。
——に、逃げなきゃ‼︎ なのに、足が動かない……‼︎
ISがあるからこそ、女尊男卑となった。だが、実際はどうだろうか? 強くなった気で居るだけなのだろうか。
異形の怪物の前脚が振り上げられる。逃げようにも恐怖で脚が竦んで座りながら後退るしか無い。あの一撃を受ければ想像だにしたくない。
——ああ、そうなんだ。私、此処で……。
『死ぬんだ』と諦めたその瞬間。鈍い音と唸る悲鳴が響いた。目を見開きその要因に反射的に向けた。
「あ……」
——アレは……私の専用機に搭載する予定の『夢現』……?
異形の怪物の横顔から薙刀の刃が深々と突き刺さって居た。何故?如何して? その疑問が浮かぶがその次に視界の隅から有り得ない速度で見た事も無い服装をした男子が現れて薙刀の柄を掴み横凪に振るった。
突き刺さった怪物はまるでサッカーボールの様に放物線を描いて放り投げられ整備室の床に亀裂を入れながら転がった。空中で振るい薙刀を手に持って自身の前に着地した。
「……あ、あ……‼︎」
——だ、誰……? 此処に、男性⁉︎
情報が追いつかない。色々な事が目の前で次々と起きて居る。見た事も無い怪物が現れ、知らない人が自身の造った武装を手に取って相対して居る。分からない、分からない。
「……邪魔だから、退いて居ろ。守りながら戦う余裕は無ぇ。さっさと逃げろ」
背中を向けて手にした薙刀を肩に当てながら男性は僅かに視線を此方に向けた後に再び向き直る。投げ飛ばされた怪物も体勢を立て直して起き上がって前進して来る。
「う、うん…………‼︎」
そう答えるとフラつきながらも立ち上がりその場から逃げる様に後方へと引き退がった。何の力も無い自分では邪魔になるのは分かっていた。
「……さて、さっさと片付けるか」
——ッ⁉︎
そう告げた直後、整備室の床が爆ぜかね無い勢いで急加速。生身でそんな動き方が出来るなんてあり得ない。一息に間合いを詰めた男性が薙刀を振るうと怪物の顎らしき箇所の一部を抉り飛ばす。
怪物は負けじと前脚を振り上げ叩き付けるも薙刀を反らし受ける衝撃を受け流し反対側から刃を滑り込ませて一撃を見舞う。
『ゴゥオオォオォ……‼︎』
怪物は連続で喰らうのを避けたのか後方に跳び仕切り壁を粉砕して向こう側に着陸した後、咆哮を上げた。その咆哮に呼応して地面から次々と似た様な小型の怪物が次々と湧いて来る。
「……やっぱ、そうなるか。雑魚と言えど、鬱陶しいのに変わりは無い」
男性はそう猛り大振りに薙刀を振るう、その刃風は暴風の様に湧いて出て来た小型の怪物達を薙ぎ払い粉砕して行く。その大振り故に後から怪物が前脚を振り被り叩き付ける。それを紙一重で躱し薙刀の刃を突き立てる接近戦を演じて居る。
「…………ッ‼︎」
その応酬の中で怪物の砲口の様な頭が振り回すと同時にその口から赤白いエネルギーが凝縮された砲弾が吐き出されて壁やら天井を破壊して行く。
「キャアアア‼︎⁉︎」
当たり所が悪かったのか自分のすぐ近くに崩れ落ちた天井の残骸が降って来る。巻き込まれれば怪我じゃ済まなくなる。
「テメェ、逃げろっつったろうがッ‼︎ お前にはまだ脚があんだろうがッ‼︎」
整備室が崩落して行く。飛ぶは怒号と乱戦の音。獣達の嘶き、怪物の怒号。爪と刃が火花を散らす、そして無限かと思う程に湧いて来る小型の怪物の群。1人で、あの見た事も無い怪物の軍勢を相手に大立ち回りは無茶にも見える。
「…………‼︎」
——あ、私の……打鉄二式……‼︎
交戦して居る場所は徐々に移動して居る。その方角は元々、『夢現』が架けられて居た場所。そして、少女が組み立て中のIS、打鉄二式がハンガーで架けられて居る場所であった。
男性本人にそんな事情は知らないだろう。怪物に加えて後方から襲ってくる小型の怪物の相手に手一杯。此の儘で戦闘の余波で破壊されかねない。そうなればまた一からやり直しとなるだろう。
「……チッ。流石に本調子では無いギリギリの状態で突っ込んだからか、梃子摺る……‼︎ 流石にこうも雑魚どもが何度も湧かれるのは面倒だな……慣れん武器でコイツの相手で手一杯だと言うのに」
——事情は分からないけど、あの人はそう長くは持たないみたい……‼︎
丸腰の状態であの怪物が軍勢で襲って来たら想像だにしたく無い。かと言って此の儘では、状況は悪化するしか無い。彼を見捨てて逃げるか? いや、そんな真似をして良いのか? この学園に男性が居るのは知って居たが少なくとも彼じゃない。じゃあ、誰なのか分からない。
——……やるしか無い。
他人任せは嫌だ。自分は1人だった……。今は知らない人に守られている。それが酷く惨めに思えたのだ。全部、全部全部、1人でやって来た。なのに、此処で心の拠り所である執念である打鉄二式を失えば、自分は何処に向かえば良いのか。
「……ッ‼︎」
薙ぎ払われる小型の怪物が壁や地面に叩き付けられて転がり、未知のエネルギーの砲弾が乱射され瓦礫が散乱し、中心部で男性と怪物達の乱闘が巻き起こっている。
「ハァ……ハァ……‼︎」
そんな中、少女は飛来して来る怪物の残骸や砲弾を辛うじて躱して避けながら回り込み未完成の打鉄二式の元に到達する。
「まだ未完成なんだけど……‼︎」
動く事は愚か、大半の機能が未完成で正しくガワだけの状態。それでも1つだけ手動により起動出来る武装はある。ただ、問題があった。
——八連装ミサイルポッド『山嵐』……。
強力かつ高性能爆薬を搭載した小型ミサイル。完成した時、マルチロックオンシステムで対象に自動追尾して爆砕……と言う装備である。
自分がこの未完成の打鉄二式を起動させて加勢したとしても初期移行も何も無い、途中で瓦解してしまうのがオチだ。出来る事は何も、無い。何も出来ない。
「嫌だ……‼︎」
此処で何もせずに見て居るだけで全てを失うなんて真似はしたくなかった。
死にたく無い、ああ、死にたく無い。
惨めな気分になる。きっと、彼から見れば余計な面倒を起こしただけなのかも知れない。
「ッ‼︎」
その時、小型の怪物が少女の近くの壁に激突して絶命して居た。
「何してやがるッ‼︎ テメェをお守りしている余裕は無ぇからさっさと、どっかに逃げろって言っただろうが‼︎」
交戦していた男性が怪物の頭部の頭突きに近い振り上げを薙刀で受け流しつつ後方に跳躍して少女の近くに着地して早々にそう怒鳴る。
「ご、ごめんなさい……‼︎ ごめんなさい……‼︎」
流石に怒られて少女は恐怖からか萎縮してただ平謝りするしか無かった。目の前の怪物も怖いが隣に立って居る男性の方がもっと怖かったからだ。
「……ああ、分かっている。流石に此処まで梃子摺るとは思ってなかった。不慣れな武器とは言えどCRF抜きで応戦すると此処まで苦戦するとは……」
耳に手を当てている。誰かと話している様だ。後半は何を言っているのか全く分からない。
「おい、平謝りして居る暇は無いぞ」
「……ッ‼︎」
そう言われて顔を上げる。後方には壁と打鉄二式。ならば前方180の範囲にしか視界は無くその前方には多数の小型の怪物達が犇いていた。
例の怪物は未だ健在で小型は扇状に展開している。鶴翼と呼ばれる陣形に似て居る。
「……ふ、増えてる……‼︎」
「……ったく、キリが無ぇな。時間無いから手短に言うが後ろのISはお前さんのか?」
「う、うん……。まだ、未完成……。壊されたら……」
「そんな詳細は知らん。何か使えるモンは無いか?此の儘だとジリ貧になるぞ」
途中で切られた。まぁ、確かに自分の事情なぞ彼に取っては余り重要では無いのだろう。
「えっと……多連装の小型のミサイルを……搭載したポッド……」
「ミサイルか。悪くない。で、すぐに撃てるか? 何、適当に撃てば良い」
「えっと、発射プログラムがまだ……」
敵の眼前で呑気に話して居る余裕など有りはしない。取り巻きの小型の怪物達が一斉に群がって来るも男性が手に持っていた夢現で薙ぎ払い寄せ付けない。だが、事態は好転しない。それは男性も自分も分かりきっていた。
「チッ……‼︎ そのミサイルってのはどれだ⁉︎」
「えっと、翼の……」
「今は緊急時だから言いたい事は色々後でな。ちょいと本体、借りるぞ‼︎」
少女が指示した場所に薙刀の刃を突き刺し打鉄二式の本体からミサイルポッドを強引に引き剥がす。長柄を使って居るとは言え腕力だけで重量級のミサイルポッドを無理矢理引き剥がすと言う行為には唖然とする他に無い。
「吹き飛べ、ゴミ共ッ‼︎」
そして、彼女の眼前で爆轟が轟き渡った。