「…………え?」
その呟きが後方から聞こえた。
逐一、気にしては居られない。逃げろと言ったのに逃げなかった理由はもう今更、聞く気は無い。死にたいなら勝手に死んでいろ。態々、死にに来る馬鹿もそれなりには多いからだ。
——フン……。今更ながらCRFの管理能力の欠如の危険性を思い知らされたわ。このザマではエディー隊のCRF大喰らいのオルカに講釈を垂れる事は出来んな。
ミサイルポッドに薙刀をブッ刺して殴り付けた衝撃を起爆剤代わりに至近距離で侵食体を纏めて爆砕すると言う無茶な真似。小型の第一種侵食体にミサイルを打ち込むのは些かコスト的にも不釣り合いだが、他に手は無かったので大目に見る事にした。
『グォォォ………‼︎‼︎ ォォォォォ……‼︎』
至近距離で大量の爆破を受けた第二種侵食体は断末魔の様な唸り声を上げつつ痙攣しながらも振り絞りながら前脚で再び立ち上がろうとするも前のめりに倒れ伏した。
「……ったく、無様なモンだ」
そう告げた矢先に手に持っていた薙刀の方へ見やる。ミサイルポッドを突き刺していた刃は至近距離での爆砕により粉砕され跡形も無く消え去って居た。そして自分自身も右腕付近は派手な火傷を負って居た。
『第二種侵食体、完全に消滅を確認‼︎ 侵食コアであった為に侵食現象も解消されました』
断末魔を上げた侵食体はその残骸を残して完全に沈黙した。その後に残るは多数の侵食体の残骸。雑魚ばかりであっても数も募れば馬鹿にならない量となるだろう。
「そうか……。屑砕のエタニウムと雖もコレだけの量もあれば一先ず、心配は無くなるか」
——税金取られないだけ有難いと思っておくか。第二種と言えど独り占め出来る点ならばまぁ、悪くはない。
ミゾレは無限湧きして来た小型の残骸からエタニウム原石を回収しウォッチにチャージした後、第二種侵食体の残骸の所に集めて積んでおく。
最終結果的にもCRFの数値は十全とは行かないが一先ず危険域を上回る程度には回復する事が出来た。幾つかは中規模程度の純度のエタニウム原石があったのが要因だった。この数値ならば無茶しなければモネカは心配にならない程度の量と言えるだろう。
「しかし……この残骸、どうすっかね」
『従来通りならばカウンターサイドに放置なり管理局が処理するのですが、この世界に管理局の概念はありませんからね……』
「あ、あの……」
「ああ、そうだった。其方の問題も忘れていた」
其処で後方から声を掛けられる。戦闘中では余裕が無かったが此処には同席して居る者が居たのだった。危険が去ったので、話は出来る。
「…………」
癖毛のある水色の長い髪。赤い双眸に眼鏡を掛けた内気な雰囲気が醸し出す少女。何処かの誰かの面影を思い起こさせる。
「……え、えと」
「あー……言いたい事はあるだろうが、取り敢えず済まんかった。流石に状況柄とは言え……お前さんの作られ掛けのISの装備をダメにしちまった。この薙刀も多分、お前さんのだろ? 隣にあったからな……」
「う、うん……‼︎」
彼女は否定しなかった。結果的に主兵装の2つを使い潰してしまったのだ。楯無から聞いたがISを造るのに2、3億は下らないと聞いて居る。頭の痛い話ではある。
——……流石に侵食変異の兆候は外観の初期症状は見れない、か。だが、生身で侵食地帯で滞在したんだ。低レベルと雖もその弊害は確実に現れる。
そして、ミゾレが懸念する心配は侵食症候群と呼ばれる症状である。この世界は裏世界の概念とは無縁の世界。その症候群の存在は未知である。
「でも……未完成なのに全壊される、よりは……マシだと……思う。それより、アレは……あの、怪物達は……?」
そして聞かれるであろう質問。
楯無や千冬にも『無関係』だと言う事で仄めかす形程度に留め、詳細は一切語らなかった。
「……お前さんが知るには、早過ぎる」
——知った所で如何すると言うのだろうか? 仮に戦う手段が確立されたとしても……1人で出来る事はタカが知れて居る。
「如何して……⁉︎」
「………………済まん。序でに言うならばこの事は他言は無用で頼みたい。お前さんの身を守る為でもあるからな」
「…………話せない、の?」
「当事者だからこそ、話したくないモノなんて幾らでも出て来る。聞けば何でも答えてくれるなんて幻想は無為だ」
——俺とてどう説明するべきか悩み所だ。しかし、起きてしまった以上……針は止められない。
「………………」
納得しろだなんて綺麗事を言うつもりは無い。理解は出来ても納得出来ない事なんて現実には無数と溢れて来る。1人で如何にか出来る問題では無いのだ。
「……名前、教えて」
「そうだな……。それ位はな……ミゾレ、だ」
「……簪」
ミゾレは自分の名前を告げると当事者の少女は自分の名前を教えた。簪、と。それがフルネームか偽名かは知らないが呼び名がソレならばそれで構わない。識別できれば如何でも良い世界に生きて居るからだ。
「……あと、助けてくれて、ありがとう……。死ぬ、かと……思った、から」
「結果的に、お前さんのISを壊しちまったみたいなモンだがな」
「……生きて居る。から……壊れたのが、ミサイルポッドと薙刀だけで済んだ、まだ大丈夫……多分」
「……そうか」
この件はお互い突っ込むのは止めた。
壊れた、死にかけた。
しかし、死ねば終わり。
生きて居るからまだ取り返しは付く。そう、割り切れたのだ。
「簪とやら、怪我は無くとも病院に行くと良い。この件の事は話さん方が良い。精神病院行きが関の山だろうからな」
——其処で発覚するだろうが、仕方あるまい。
「……う、うん。貴方は?」
「嬉しくも無いサービス残業タイムだよ。ほら、さっさと行くと良い」
「…………うん」
簪が出払ったのを見送ったミゾレ。彼女に直面する現実を教えなかったのはかなり酷い真似だと自覚しているが、絶望の時間は短い方が良いと考えたからだ。
「さてと……直面したく無かった現実が目の当たりになってしまったな。敢えて避けていたが、やむを得ないだろうな」
——伝えない選択肢は余計に窮地に追い込む羽目になるかも知れないな。今回限りとは思えない。侵食とはそう言うモノだからな。
眼前に積み上げられた侵食体の残骸の山を見てミゾレは目を伏せて考え込む。もはや、隠し通すのは不可能な状態だった。
本来ならば無関係であって欲しかったのだが、如何にも運命と言うのは残酷な現実を見せるのが本当に好きらしい。
「モネカ。織斑教諭と更識会長の携帯端末の番号を探ってくれ。そして、此処に呼んで欲しい。こうなった以上、説明する他に無いからな」
『分かりました。他に伝える事は?』
「人払いも序でに頼みたい。この光景は他言出来んからな……俺達の世界とかならば兎も角」