「簪が『カウンター』に覚醒した」
その言葉に楯無は彼は何を言って居るのか全く分からなかった。と言うか理解出来なかった。
「え?」
そして1番、情報が少ない真耶に至っては言葉の意味と本来の意味が釣り合わず理解出来なさは数段上だろう。
「言葉通りの意味だ。よもや、たった1回の侵食現象に遭遇してだけで覚醒するとは全く持って思っても居なかった」
それはミゾレからしても完全なる想定外の案件。寧ろ最も可能性が低かったであろう事象であった。頭の整理を終えた楯無が口を開く。
「え、えっと……それは、つまり簪ちゃんが、貴方と同じ……カウンター能力者になったって、事?」
「そうなる。カウンターと一口に言っても能力の個人差はかなり激しい。CRFの出力が低い者も居れば高い者も現れる。お前さんらで言うIS適性値のランク分けと同じ認識で構わない」
「更識さんの妹さんがカウンター能力者に……コレは予期せぬ事態ですね……」
学園長もその事実を前に興味深く聞いて居た。対するミゾレの表情は明るくは無い。
そもカウンターと言う存在自体、未知の領域なのだ。目の前のミゾレもカウンターなのだが、自分の話を殆どしてくれない為に知らない事が多過ぎる。
「え、えっとカウンター能力者に覚醒? と言うのは何か不味い事なんですか?」
其処で真耶がミゾレに質問を投げ掛ける。この世界の者で未知の領域に達したと言う歴史的快挙に近いしその領域を知る者も居る。理解できる状態なのだが、ミゾレは難しい顔を崩さない。
「ああ、マズい。此方の世界では管理局なり何なりで難民区域の連中ならば成り上がる大きな一歩となるから、幾らでも如何にかなる。が、この世界で覚醒したと言う状況が問題なんだよ」
「状況、ですか?」
「更識会長。昨日の昼、言ったよな? 時間が無く焦っている、と」
「え、ええ……その時が来れば全力で殺しに来いって言って居たわよね? それが何か……?」
「それは、重要な部分を端折っての説明だ。俺は多少、猶予は出来たがな。で、その状況はカウンターとして覚醒した簪にも当てはまる事になる。つまり、俺の代わりに簪がその状況となる。寧ろ、簪の方がその危険性が高まっている」
「えっと、それはつまり……
「正解だ」
「「⁉︎」」
楯無の言葉に学園長と真耶は目を見開き驚いた。
「学園長、すみません。遅くなり……何だコレは?」
「………………」
「おっと、タイミング良い所に当事者が来たな。手間が省ける」
その時、当事者である簪を連れた千冬が学園長室に入って来た。そして本人が見た光景は神妙な空気となっている学園長室。明らかに朗らかでは無い空気を瞬時に悟った。
「ミゾレ。お前な……説明役を私に委ねるな、私よりもお前の方が理解して居るだろうが……‼︎」
「細かい事は気にするなよ。俺は教える役に向いてねぇから、其処は教師に任せるのが1番だろ?」
その返答に千冬は只々、呆れるしか無かった。カウンターや自分の外観的、説明を千冬に丸投げするとは……?
「……ミゾレ。貴方の事、聞いた……貴方は、別の世界から、来た……と」
「その通りだ。早急に帰還を目指したい所とも、聞いたろう?」
「……うん。そして、貴方は面倒臭い性格、だとも」
——面倒臭い、ね。俺で面倒ならば、他のカウンター……あの紅茶爆弾やら、堅物少佐やら、天然複製娘やらの方がもっと面倒臭ぇぞ。
「そいつはどうも、と言っておくさ。さてと、役者が揃った所で、
「理由、だと? 学園長、私が来る前に何か話をして居たのですか? 途中で割り込んだので話が読めませんが」
「ミゾレ君に第六アリーナの使用権限を譲渡した事と、更識 簪さんがカウンターに覚醒した事と……最悪の場合、更識 簪さんを殺さなくてはならなくなる、と言う所までですかね。最後の方は理由はまだ聞いて居ません。ミゾレ君、その理由を話してくれますよね?」
「ああ、本来ならばカウンターの概念に関して説明する必要は無かったが、簪と言う当事者が現れた以上、話しておく必要がある。此方の世界なら知らない奴が悪いで済まされるが、今回の事情は個人的にも、な。
こう言う話はわざわざ説明してくれる方が珍しいモノだ。大半の若造はその現実を知らぬうちに早々にくたばる。一回しか説明しねぇからな」
ミゾレとしては此方の世界の事など、この世界にとって絵空事でしか無い為に深く説明する理由は無かった。しかし、この世界に侵食体が現れた。そしてその翌日にカウンターに覚醒する者が現れた。もはや、この世界で『ゲーム』が始まるのは時間の問題。
「さて、そもそもカウンターとは何ぞや?」
「「「…………」」」
いきなりの質問。答えようとすれば幾つか候補が上がる。
「……超人?」
「或いは異能力者か?」
楯無と千冬がそう答える。
「他にも超能力者など、俺の本来住む世界では俺達の様な連中は色々な名称の呼び名がつけられる」
ミゾレは入り口付近に立ったままの千冬達と窓際の学園長席近くに座って居る楯無達の間を歩きながらそう続ける。
「では、何故……俺達は『カウンター』と呼ばれるのか?」
「……私がお前から聞いた話の内容から加味すれば侵食体に対抗するCounter……つまり反撃する者、か?」
千冬は自身が知る情報からその様に推測する。が、
「不正解」
「その理由は簪。お前さんは既に知って居る筈だ」
「……ウォッチ? この懐中時計の事?」
簪はミゾレがウォッチと呼ぶ古めかしい懐中時計を取り出して見せる。楯無や千冬から見ても簪が持つには不釣り合いにも見える骨董物を見て居た。
「そうだ。そのウォッチはある数値を常に計測する為の計測器だ。見た目だけで、古い時計だと勘違いする愚図の馬鹿は多いがな」
「反撃では無く、計測の方のカウンター、と言う訳か……」
「その通りだ。まぁ、反撃、反抗する方の意味でもある意味、間違いでは無いが」
そして話を進める。
「裏世界や侵食地帯の侵食汚染に抵抗、怪力を発揮、エネルギーの放出……何であれ、現実世界に干渉する力を使えば、その分、そのウォッチが示す数値が減少していく。逆にエタニウムと呼ばれる鉱石のエネルギーをウォッチにチャージをすれば数値は増加する」
「…………」
「ウォッチが測定しているのは現実改変能力Counter Reality Force……通称CRFと呼ばれる力だ。
思えば、お前さんが昨日、侵食地帯に居ても侵食症候群に侵されなかったのはその時、既にカウンターとして覚醒していた。お前さんのCRFが侵食汚染に抵抗して居た事に他ならない。そして、コレがカウンターがカウンターと呼ばれる所以だ」
「昨日の時点で、私はカウンターになって居た、なんて……全く気づかなかった……」
——無自覚のまま覚醒するケースもままある。その時、能力を暴走させる事故が発生するケースもあるが、運良く起こらなかったか。
「さて、此処でクイズを出してやろう。そのウォッチの数値が0になった時、何が起こる?」
ミゾレの出したクイズの答えは?
-
侵食体になる
-
死亡する
-
エタニウムになる
-
(ーwー)ワカンナインニー