予定を変更しCRF観測装置の修理に取り掛かるミゾレ達。残っている予備の鋼材等で修理してみた。
「元の形は然程、分からんが一先ず断線していたコードや穴が空いた箇所等を取り替えてはみたがどうだ?」
『材料が足りないので応急処置程度の修理にはなりますが……ある程度、絞り込む事が出来そうです。えーと……』
モネカが観測装置のデータを解析し、ミゾレ達の前に空間投影ウィンドウを展開する。其処に映し出されたのはこの世界のミラー図法での世界地図。その上部(北半球)の大型の大陸付近に赤い円が描かれた。
『この付近に反応が見られました。まだ大まかな座標の特定は出来ませんが……大凡はこの辺りです』
この世界の地理関係は此方側の地理とは違う可能性が高い。何せ、此方では侵食地帯やら管理局の支配を拒んだ地域やらで国境云々が出鱈目と化している。他にも大浄化戦争の傷跡が残る地域もあるし、復興は無理だと判断して放置されてしまった地域もある。
「ロシア北部、ね。確かその辺は……」
「ん?知ってんのか?」
「コレでも私はロシアの国家代表よ。この赤い円状の地域にはIS操縦者の育成を兼ねた孤児院があった筈……。それ以外は豪雪地帯で、民家も少ない。あるとすればその孤児院の可能性が高いと言えるわね」
「成程。アテがあるのは僥倖だな、最初に其処を当たれば良いって訳だな」
「ミゾレ、一応言っておくが異世界から来たからパスポートの類が無いだろ。お前の世界ではどうなっているかは知らんが……此方の世界ではパスポートが無ければ入国出来ん。如何やって行くつもりだ?」
「織斑先生。それは此方が何とかしておきます。人1人分のパスポートを偽造するくらい更織家に掛かれば造作もありません。勿論、他言無用でお願いします」
「別に普通に乗り込めば良いだろ」
「頼むから国境付近で暴れるのは止めてちょうだい。大騒ぎってレベルじゃなくなるから」
「そーかよ。しっかし、北の国ねぇ……」
「えっと、何か気になる事でも……?」
「いや、此方の世界の話だ。同じとは限らんしな」
——北方合意体……。アレな連中しか居ないんだよな。祖国愛とやらは理解出来ないんだがな……。
「取り敢えず今日の所はこの辺で良いでしょう。モネカさんの観測したカウンターの人も気になるけど、準備が必要になるから今すぐには無理。日を改めましょう」
その後、現状でやれる事は余り無かった為にお開きとなった。
その数日後、宣言通り楯無はミゾレの偽造パスポートを用意してロシアへ向かう準備が整ったとして早朝に再びこの第六アリーナへと現れた。
「やっほー、ミゾレ君、待たせたわね。早速で悪いけど、今直ぐにロシアへ向かうわよ」
「ああ、問題ない。モネカが言うには反応のある場所は移動は無かった。つまり、少なくとも同じ地域付近に滞在していると思われる」
「だとすると、やはりその孤児院に居る可能性が高いわね」
「だが、見つかったとして如何する? この世界の住人だから俺が言える事はほぼ無いが……」
「状況によるわ。場合によっては貴方の個人的な意見を聞くかも知れない」
「……ん、まぁ、分かった。俺が出来る事ならな。コレでも傭兵だからタカが知れているぞ」
——しかし、孤児院……、か。他人事だとは言えんがな。此方の世界も侵食災害が大きい理由だが他諸々の理由で孤児になった奴なんてごまんと居る。つーか、順風満帆なカウンターなんて本当に数える程しか居ねぇ。10代なら顕著で俺が知っているカウンターなんて殆ど両親の類を早い内に亡くしている。
「それでも助かるわ。さ、雑談している暇も無いしさっさと行きましょう。……こう言う想像を超える現象は大抵、反対の事も起こり得るのだから」
「……否定はしないねぇ。変化ってのは副作用が付き物だからな」
その日、日本で有数の国際空港、成田国際空港からロシア行きの便に乗りモスクワのドモジェドヴォ空港に到着。観光する余裕は無いので其の儘、反応のある地域の最寄りの駅まで鉄道で3時間掛けて移動。件の孤児院はIS操縦者の育成を兼ねている事もあり、周囲には民家等は少ない。
其処から先はバスの類も走っていない為にほぼ歩きである。幸い初夏故に気温の方は然程心配はしなくて良さそうだ。
「バスの類も無いって事は相当、辺鄙な所に建てたんだな」
「ISは機密性の塊だもの。その操縦者も例外じゃないわ。……其処は国によって対応が異なるけれど」
「或いは非道徳性があり、世間の目から欺きたいから……と言う線もあるのか?」
閑散とした道路の脇を歩きながら目的地へと向かって歩いて行く。道路を走る車の類は見られない。余程の田舎の地域なのかも知れない。
「こんな辺鄙な場所なら、政府やら行政の目も届き難いだろう。孤児を食い物にして金稼ぎする連中なんて幾らでも現れるさ。孤児を守ろうとする連中はそう多くないし、政府とて余裕がある訳でもない」
——管理局とて神でも何でも無い。難民地区やら犯罪の温床と化したドロップアウトの吹き溜まりなんて其処ら中にある。
「……耳の痛い話だわ」
「ま、本当に何も無ければそれで良いんだけどな。モネカ、反応に変化は?」
『反応に変化はありません。依然として動きは無いようです。やはりその孤児院が1番の候補になりますね』
「そうか……。やはり孤児院の職員か或いは孤児がカウンターとして覚醒したと考えるのが現時点では自然だろうな」
「……うーん、職員か孤児かの何方かで説得のしようが変わって来るのよねぇ……。カウンターと言ってもその能力を使わなければエタニウムを摂取せずとも人並みには生きられるのでしょ?」
「通説ではな。それでも此方の世界ではエタニウム需要が色んな箇所で起こっているから、諸事情で非戦闘員扱いのカウンターでも入手機会はあるし、少量と言えど摂取はする。そもそもその孤児院はIS操縦者の育成を兼ねている以上、想定よりも早死にはするだろうな」
「…………」
そんなやり取りを続けて歩く事、2時間。すっかり昼間の時間帯を過ぎてしまった頃合の時、辺境に佇む建物の一群が見えて来た。他に民家らしき物は見当たらない。恐らくアレか件の孤児院のようだ。
「アレか?」
「恐らくは、ね。此処は私に任せて貰うわね。この国の国家代表、IS操縦者の養成施設を兼ねているのだから無碍にはしない筈よ」
「なら、任せる」