カウンター・ストラトス   作:夢現図書館

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孤児院

 

 

 

「コレはコレは、ロシア国家代表の更織さん。この様な孤児院に何か御用ですか?」

 

「ええ、ロシアに帰国した時にこの孤児院の事を聞きまして……未来の後輩達の顔を見たくて来ました」

 

 楯無は孤児院の玄関口の呼び出し鈴を鳴らして孤児院を運営している職員と話をしている。冒頭の掴みは当たり障りない切り出し方の様だ。その言い出し方は、孤児院がIS操縦者の排出を狙っている事を知っている事を理解させた。

 

「成程……。ええ、構いませんよ、現国家代表がお越しになられればあの子達も励みになるでしょう。所でつかぬ事をお聞きしますが其方の男は?」

 

 其処で視線が此方に向いた。女尊男卑、女尊男卑とは聞くが露骨に声のトーンが変化している。成程、分かりやすくて結構。

 

「私のお連れです。特にお気になさらず結構です。特に彼は何かをすると言う訳ではありませんので」

 

 流石に此処で『カウンター』絡みの話題を出す訳には行かない。そもそも、カウンターか如何かの判断はミゾレにしか分からない。そう言う世界の部外者である楯無には判断できない。なので此処で離脱されては困るのだ。

 

「……分かりました。高々、男にISの素晴らしさは理解出来ないでしょうね」

 

——おーおー、一言余計だが、その面を見るのは最初で最後だし一々構ってられんしな。

 

 一先ず拒否はされなかったので嫌味の言葉は流しておく。傭兵と言う職業柄、口先だけの相手ほど可愛いものは無い。……銃撃戦やら戦車やら果ては次元艦船まで持ち出しての襲撃して来る事もザラにある。それらに比べれば御するのは容易い。

 

「ミゾレ君、如何やって見分けるの? 確かウォッチ……みたいだけど、パッと見て分かる様なモノなの?」

 

 施設の廊下を案内する職員の後に続く中、楯無は耳打ちに近い形でそう訪ねて来る。

 

「ウォッチと一言に言っても統一性は無い。懐中時計の場合もあれば腕時計の場合もある。……中には全く違う形状もあり得る」

 

「他に判別方法は?」

 

「……すまん。その辺は管理局しか分からん。他、となると……実際にCRFを使わないと何とも」

 

「着きましたよ、更織代表」

 

 見た目で分かる様なモノでは無いと話が区切れた所で先導する職員に孤児院の施設内に併設された訓練場へと案内された。

 

「皆、ちょっと集まりなさい‼︎」

 

 職員が声をあげて訓練場に散らばる孤児院が世話をしている子供達を集めた。IS操縦者の養成を視野に入れている為に全員、女の子だった。

 

——……殆ど10歳か其処らの年齢ばかりじゃねぇか。……幼少期から訓練させると言うのは賛否両論はあるが……。

 

 と言うか戦わざるを得ないと言う意見の方が強い。それが孤児なら尚更……侵食による戦禍が絶えず生きる為には抗い戦うしか道は無いと自ずと理解するからだ。

 

『ミゾレさん。その距離から誰がカウンターか分かりますか?』

 

 ミゾレが壁に持たれながら事の経緯を見守る。一先ず、先ずは孤児達を中心に該当者が居ないか観察に徹する。居ないなら居ないで構わない。

 

「本日、唐突だけど我がロシアの国家代表である更織さんがお越しになったわ。其処で今日までの貴方達の訓練の成果を見て貰い改善点などを提示して頂くから、日頃の訓練の成果を見せてあげなさい」

 

 その後、楯無が見ている中で孤児院の子供達によるIS訓練の実習が行われた。機体の乗り降りや実際に動かす様子が見せられる。楯無も楯無で何が行けなかったのか一人一人に教えて行く。そして、最後……。淡い金髪で自身の体躯よりも巨大なクマのぬいぐるみを引き摺っている小さな女の子……。

 

「クーリェ、貴方の専用機である『スヴェントヴィト』を展開しなさい」

 

「……ッ‼︎」

 

「国家代表も暇じゃ無いのよ⁉︎ 早く展開しなさい‼︎」

 

 職員の叱責が飛ぶも、クーリェは嫌そうな顔をして熊のぬいぐるみの後ろに隠れる。専用機持ちと言うのは所謂エリート……とは聞くが。

 

『……あの子、凄く怯えてて嫌がっている様に見えますね』

 

「ああ……そうだな」

 

 コレまでの子供達は直向きに向き合っていた、が……目の前で怒られて怯えている小さな少女は雰囲気や様子は正に正反対だ。

 

「う、うう……」

 

 クーリェは嫌々ながらも起動させた。小さな少女に似つかわしく無い黒く巨大な機体。だが、起動するだけが精一杯だったらしく直ぐに解除してしまった。

 

—— 一瞬だけ見えた。間違いない……ウォッチだ。

 

『良く見えましたね』

 

——展開の時、量子変換した際にな。大方、服の中に隠してたか、其処に現れたんだろうな。孤児院じゃ懐中時計なんてモノ、与える理由はねぇし。

 

「ちょっと⁉︎ ちゃんとやりなさい‼︎ 国家代表が見ているのよ⁉︎ 貴方は数少ないIS適性がSランク……将来有望だから専用機が与えられていると言うのに、この為体じゃ話にならないのよ‼︎」

 

 クーリェのその行動(恐らく本人なりの抵抗)を見て職員は般若の様な形相を浮かべながら叱責しつつ近付いていく。ありゃ、マズイ。

 

「其処までにしておけよ」

 

 見かねたミゾレが口を開いて割り込んだ。流石に小さな子供を糾弾する大人と言う構図は見ていて大人気ない。相手に非が無ければ尚更だ。

 

「何よ⁉︎ 男の分際で口を挟むんじゃないわよ⁉︎」

 

「いーや、断る。部外者から見ても無理強いしている様にしか見えねーよ。そんな事も分からんのか、大人の分際で」

 

「その部外者が私達の問題に首突っ込むんじゃないわよ⁉︎ 国家代表‼︎ 貴方、正気だったんですか⁉︎ こんな男を連れて来るなんて‼︎」

 

「いいえ、私も彼と同意見です(さっき、モネカさんから、あの子がカウンターだと極小の音声で通達された、なら此処で引き抜くにかぎるわ。後の事は後で考えましょう)」

 

 職員は楯無に同意を求めるも突っぱねられた。

 

「なっ⁉︎ あの子はロシアで唯一のIS適性Sランクなんですよ⁉︎ 今のうちにキッチリ育成すれば未来の代表候補生、いえ国家代表も夢じゃありません‼︎」

 

「つまり、現国家代表の私は用済みかしらね?」

 

「いえ、そんなつもりで言った訳じゃ⁉︎」

 

『ッ⁉︎ ミゾレさん、楯無さん‼︎ 孤児院を中心に高濃度の侵食波を観測しました‼︎ まもなくCSF第三段階、レベル3に達します‼︎』

 

——このタイミングで、だと⁉︎ ちぃ、相変わらず嫌なタイミングで割り込んで来やがるな‼︎ あの連中は‼︎

 

「な、何が起こっていると言うの⁉︎」

 

 広域通信だった所為かこの場にいる面々にその音声が聞こえた。

 

「チィ、楯無ィ‼︎ 今直ぐ其処のチミっ子共を連れて建物から離れろ‼︎ 第三段階、CSF3.環境下だと、お前を含む生身の人間は持って5分と考えろ‼︎ それ以上は死ぬと思え‼︎」

 

「わ、分かったわ‼︎ 皆、良く聞いて‼︎」

 

 侵食現象に関しては楯無は完全なる初見の状況。ましてやカウンターでも無ければエタニウムシールドと言う道具も無い。ISのシールドバリアがどれほど有効かも分からない。ましてや、幼い子供達が多数居ると言う状況、此処は素直にミゾレの指示に従った。

 

『侵食波のシグネチャータイプは……タイプ:ビースト‼︎』

 

「来るぞ、急げ‼︎」

 

 楯無を引率に子供達の避難を急がせる。湧いてきたら逃げる事も難しくなる。

 

『局地的に現実崩壊現象が発生‼︎ 崩壊点を経由し、第三種侵食体がカウンターサイドから現実世界に浮上します‼︎』

 

 その言葉の直後、訓練場が蝕まれたかの様に朽ちたり融けたりとじわじわと壊れていく。

 

「な、何が何が起こってぐぶぃあ⁉︎」

 

「其処か‼︎ チミっこ、悪い‼︎」

 

「ッ‼︎」

 

 ミゾレは側で状況が飲み込めず混乱していたクーリェの首根っこを掴み後方へと跳躍。未だに混乱する職員の足元が真っ暗に染まり其処から突き上げるかの様な形で巨大で異形の体躯をした四足歩行……。その背中には多数のスナイパーライフルの様な砲塔が複数備わっている。IS学園に現れた個体が幼体ならば此方は成体のビーストであった。

 

「ったく、互いに見飽きた顔だな?」

 

——変種でも狂暴個体でもなくて何より。

 

 出現時の突き上げを喰らった職員は天井にまで吹き飛び天井に激突し、重力に従い落下し鈍い音を立てて激突、その後はピクリとも動かなくなった。

 

『第一種侵食体、バイター及びスカージ多数‼︎ ミゾレさんのCRFは危険域を脱しましたが、依然として油断は許されない状況‼︎ 呉々も注意して下さい‼︎』

 

「分かっている‼︎」

 

——さて、このクーリェは見るからに戦いに向いてねぇ。状況はよろしくねぇが、やるしか無ぇな。

 

 

 

 





 
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